機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第216話 護衛依頼 x 完了

それまでは整備された道を進むだけだったがここから先は道なんて無い。

 

それでも四人は研究員だけあってこういう事には手慣れていた。問題なく調査を進めていった。リカルドを中心に魔導具や魔術を駆使して植物の分布や動物の生息数なんかのデータを調べ上げていく。

 

リカルドはここの研究室に来てまだ三年目だそうで一番勤続年数が少ないが調査の中心になっている。調査系の魔術に精通していてこれまでにいろいろな研究室を渡り歩いていると言う。

 

プロの調査員と言った感じだろうか?

 

他のメンバーにも指導を行う立場のようでランツや他のメンバーも頻繁にリカルドに指示を求めたり相談を持ちかけたりしている。非常に人当たりが良く、常に丁寧な口調で解りやすく親切に教えているといった印象をうける。好感の持てる人物だ。セルマ先生に似ているかも知れない。

 

髪型も後ろ髪を長く伸ばして束ねているところとかが一緒だ。あくまで似ていると思ったから共通点を無理にひねり出していると言うことも考えられるのだが…。

 

俺は一番後ろをついていきながらぼうっと四人の作業を眺めている…ように見えるだろうな、端(はた)から見れば。実際はそんなことなくて、ちゃんと周囲を警戒しているんだがどうにも気が緩んできてしょうがない。

 

表層だから俺が警戒するような魔物はいない。そればかりか、きちんと間引きがされているようでオオカミなんかの肉食をする魔物の気配がしない。魔境に脅威を感じないのであれば人を警戒するべきではあるんだろう。

 

ウィリアム教授を殺した犯人とかを気にしたいところだ。しかし、すでに広範囲を索敵術を駆使して浚(さら)ってしまっている。ここら辺一帯には俺達以外に人はいなかった。

 

本気で索敵をかけたら四人に何事かといった目で見られたりもしたな…

 

ジュジュはどうしているだろうか? 暇すぎて寝てないかな? まあ、寝ていたとしても魔物や第三者が来たらすぐに察知して起きるだろう。感覚器官はデフォルトで人間より優れている。

 

心配は要らないか…

 

特に何事も起きることなく午前の調査を終えると、休憩がてら昼食を取ることになった。それぞれが持参してきたものを思い思いに食べていく。だいたいがサンドイッチだな。パンの形状は様々だが。

 

俺もホテルに頼んで作ってもらったサンドイッチを持ってきている。ジュジュの分はルシウスに渡してあるので同じように休憩を取っているなら今頃食べていることだろう。

 

調査中は無駄に会話をすることがなかったが、食事中は会話の花が咲く。主にランツとヘイワーズが会話の中心になっていた。朝のようなことがあったが二人の仲はいいようだ。二人ともまだ二十代でここに同じようなタイミングでやってきたらしい。今年で五年目だそうだ。

 

「なあ、なんで今朝遅れたんだよ? 」

 

ランツが今朝のことを蒸し返す。そう言うことを気軽に言えるのは二人の仲なんだろう。遅刻に対してキツく当たったのはむしろヘイワーズをかばうためのことだったのかも知れない。

 

「…西門が閉まってたんだよ。いつもだったら空いてるはずなんだけどな 」

「おまえまだあそこの道を使っているのか…危険だからやめとけって言っただろ 」

「考えすぎだよ。せいぜい兎が出るぐらいじゃないか 」

「あんまし甘く見ない方がいいって… 」

 

…どうやらランツは魔物がかなり苦手みたいだな。魔境に入ってから魔力に結構な乱れがある。今の会話からいって弱い魔物にも相当な警戒をしているようだ。

 

過去に何かあったのかな? まあ、魔物が得意な一般人もそうそういないんだろうけど…

 

「それではそろそろ調査を再開しましょう 」

 

十分に休憩を取るとリカルドの呼びかけで調査を再開する。午前中と同じように何事もなく淡々と作業は続いていった。このまま何事もなく終わりそうだと思えてくる。

 

時刻は二時を回ったところだろうか? 俺の索敵網に何かがひっかかってくる。

 

…それ程強くはないが…数が多いな

 

七…いや、八か

 

移動速度、移動パターン、数から言ってオオカミ系の魔物だろうな。まっすぐにこちらに向かってきている。どうやったか知らないが相手はこちらの位置をしっかりと把握しているようだ。

 

状況的に言って仕組まれている可能性が高いのだが断定は出来ないな。こちらに向かってきているがこの周辺に魔物を引きつけるようなものは存在しない。

 

強いて挙げるとすれば、俺だ…

 

まあ、今は考えてもしょうがない。まずは四人の安全を確保だ。

 

「リカルド…ちょっといいか 」

 

俺は小声でリカルドを呼び出して少し離れた場所に行き状況を伝える。いきなり全員に言うとパニックになりそうな気がする。特にランツが…。

 

「魔物の群れがこちらに接近してきている。この人数でまとまって逃げたとしても追いつかれるだろう。ここで迎え撃とうと思うがなにか案はあるか? 」

「! ……ありません。お任せします 」

「では、皆を集めてこのことを知らせてくれ。俺が伝えるより良いだろう。魔物の強さはたいしたことない。固まってじっとしていれば俺が何とかする 」

「わかりました。皆に伝えます 」

 

リカルドが他の三人を呼び集めて状況を説明すると三人は驚いて緊張を顔ににじませるがとりあえずパニックは避けられたようだ。リカルドの指示に従って四人は一カ所に固まってじっとしている。

 

心配していたランツはやはり内心相当ビビっているようだ。魔力はこれ以上ないほどに乱れている。心臓はバクバクだろう。そして、意外にも一番ガタイの良いスオムが結構ビビっている。小柄で気弱そうなヘイワーズが結構落ち着いているのも意外だ。人は見かけによらないものだ。

 

護衛する体勢を整えて相手の到着を待っていると視認出来る距離まで接近してきた。こちらを囲もうとするかのように横に広がり、足並みを揃え一列に迫ってくる。

 

その真ん中に群れのボスなのかちょっと強い個体がいた。他のオオカミが灰白色の毛並みをしているのに対して真っ黒い毛並みをしている。レガル・ゼファのようだが地域差とかあるんだろうか?

 

まだ成熟していないのか中級下位の中でも弱い部類だろう。他は下級中位から上位程度か…。

 

ここら辺に現れるものとしてはどうにも不自然に強力なように感じられる。怪しいと思うとますます怪しく感じる。

 

疑心暗鬼を生ずというやつか…

 

冷静になって考えてみると微妙なラインだ。このぐらいは現れてもおかしくないとも言える。しかし、このタイミングで現れるのは作為的だとも言える。

 

「うああっ! 」

 

俺が迎撃態勢を取りながら考えていると突然、後ろから悲鳴が鳴り響く。ランツだ。

 

迫り来るオオカミたちの圧力に耐えきれなかったのだろう。パニックを起こして逃げ出してしまう。ヘイワーズが慌てて腕を掴んで止めようとするがそれを振り払って駆けていく。しかも、ヘイワーズもそれを追いかけていってしまう。

 

なにやってんの!?

 

オオカミたちは既に近くまでやって来ている。さらに群れの端を走っていた二匹がランツ達を追いかけるように先行して前に出てきた。

 

―シュッ…

「ギャウッ! 」

 

そいつらに向かって魔鉄手裏剣を投げると命中して突き刺さり動きを止めることに成功する。残りの六匹は俺達を逃がさないように周りを囲んできていた。ちょうど円を描くような形だ。

 

手裏剣を刺してやった二匹は遅れて囲みの中に加わる。これであの二人の安全は確保出来ただろう。他に脅威となるような魔物はいなさそうだからひとまずは安心だ。

 

ただ、いつまでもほっといていいというわけでもない。ここを片付けたら探しに行かないとな…。

 

チラッと二人が逃げた方向を見ると、ヘイワーズの背中は見えたがランツはまったく見えなくなっていた。思ったよりだいぶ速い。

 

なんであんなに速いんだよ…

探すのが大変だな…

 

俺達を囲むオオカミの群れを見ながらさらに考える。残りの二人を守るためにもさっさと全滅させておきたいのだが果たしてそれをしてしまっていいんだろうか?

 

この襲撃が何者か…おそらくウィリアム教授を殺した犯人の意図によるものならばここで殺さずに調べたほうが何か発見出来るかも知れない。

 

従魔とかではなさそうだけど…

 

殺してしまっても調べられそうではあるがどうなんだろうな? それもあくまで可能性の話でしかない。

 

考えることが多い…

 

今は俺を警戒して迂闊に襲いかかってこないが、それも時間の問題だな。威嚇をめっちゃしているのになんの反応もない俺に奇異の視線を向けているだけか?

 

「レインさん…? 」

 

動かない俺を不審に思ったのかリカルドが後ろから声をかけてくる。

 

時間切れ、か…

 

ああ~もうっ! しかたがねぇ…

“月影(げつえい)”―柔曲揺舞刃(じゅうきょくようぶじん)

 

―……ピシィッ……―

 

薄くて長い、リボンのような刃を作り出して一瞬の内にすべてのオオカミの首筋を切った。周囲に鮮血が舞う。

 

黒狼だけまだ息があった。手首を返すと刃が踊り、切っ先が口の中から侵入し脳に突き刺さる。

 

“月影”を元に戻すと同時にオオカミたちは地面に倒れ伏していった。

 

殺っ ちゃっ たぁ…

 

リカルドとスオムは何が起きたかわからないようだ。倒れたオオカミたちをキョロキョロと見回して戸惑っている。

 

そんな彼らを尻目に手裏剣を回収すると黒狼に近づいていく。

 

ちょっと遺体を調べておこうか…

 

「ハッ… レインさんっ! ランツ君達を探さないと! 」

「そうだな… 」

 

調べるのは無理か…

 

リカルド達には俺が護衛に付く理由を話していない。たまたまルシウスが有名な狩人が知り合ったから依頼した程度のことしか知らされていないはずだ。変に不安がらせるのも良くないという配慮だな。

 

俺から真実を伝えるのも良くないし引き下がるしかないだろう。もともと護衛することしか依頼されていない。

 

そこまでする必要はないか…

 

「…では探しに行くとしよう 」

 

今度は俺が先頭に立って二人を探しに行く。歩いて進んでいると後ろから声がかかった。

 

「レインさん… もっと急いではどうでしょうか? 早く合流しなければ危ういと思うのですが… 」

「大丈夫だ。ヘイワーズについては何処にいるかわかっている。周囲にも危険は無さそうだ。ランツを見失ってうろうろしているな… 」

「そっ、そこまでわかるのですか? 」

 

結構驚いているな。これが上級狩人の力だ。

 

「ランツの方はわからないがあれだけの速度で走れるなら危険はないだろう。案外学院に戻っているかもしれん 」

 

ランツも門の鍵を持っていたはずだ…なくても頑張れば塀を越えられるかも知れない。大丈夫だろう。

 

リカルドは納得したのかそれ以上何も言わずに付いてきた。スオムは寡黙なタイプなのか休憩から長いこと口を開いていない。

 

まるで石みたいだな、ははっ…

 

しばらく歩いているとヘイワーズがこちらに気付ける距離まで接近したらしい。向こうからこちらに走ってきた。

 

少し経つとお互いに視認出来る距離になる。ほっとした表情で手を振りながら小走りに駆けてくる様子は小動物みたいな雰囲気を感じた。

 

年上にそういう感想は失礼かも知れないが…

 

「はぁ~良かった…レインさんと合流出来て良かったです! 」

 

ほっとした様子でそう漏らすヘイワーズだった。彼はランツを見失った後も行きそうな場所を探していたらしい。やはり仲がいいんだろうな。自分が危険にさらされるのはわかっていただろうに…

 

「ランツは前に魔物に襲われて大怪我をしたことがあるそうなんです。だいぶ克服したそうなんですけど小さな魔物でも苦手で…さっきのオオカミぐらいだとちょっと耐えられなかったみたいですね 」

 

それ早く言ってよ…

 

それを事前に聞いていれば対処が…いや、どうかな? ロープでぐるぐる巻きに縛って地面に転がしておけば良かった。だが、知っていたとしてそんな事したかな? 出来なかっただろうな…。

 

確証のない段階で人を拘束するのは抵抗がある。

 

それにしてもあの逃げ足の速さは魔力変異なんじゃないだろうか? 魔物に襲われたトラウマで速く走れるように変異したとか…あり得ない話ではないな。

 

「とりあえずは門に行ってみよう。そこにいる気がする 」

「そこまで逃げますか? いくらランツでも途中で冷静になるかと思いますけど… 」

「あの逃げ足ならそのまま突っ切ってもおかしくないだろう。門にいなければルシウス班に向かっているかも知れない 」

 

結構な時間をかけて門に戻ると果たしてランツはそこにいた。こちらが近づいていってもランツにはほっとしたような感じも嬉しいと言った感じもなく、ばつが悪そうにうつむいているだけだった。

 

ちょっと気まずいよな…

 

「ランツ君、無事でしたか 」

「リカルドさん…すいませんでした 」

「無事ならいいんですよ。調査はまたやればいいですから。魔物はレインさんに倒して頂きましたし来週にでも行うことにしましょう 」

「はい…レインさん、ありがとうございました 」

「俺は仕事をしただけだ…だが、受け取っておこう 」

 

この日の調査は終わりにしてルシウス班の帰還を待つ。門に着いたときにはすでに調査終了時刻になっていて一時間もしないうちにルシウスは戻ってくる。

 

「ルシウス先生、そちらは何もなかったようですね 」

「うむ…そちらでは何かあったようであるな 」

「はい、実は… 」

 

リカルドが調査中に起きたことをルシウスに説明すると一瞬険しい顔を作った後、ほっとした表情を浮かべる。みんなが無事だったことに満足な笑顔を作ると俺の方に来て感謝を伝えてきた。

 

「レイン殿、良くやってくれた。皆が無事だったのは其方(そなた)のお陰だ。感謝する 」

「そうだな… 」

 

俺としては少々不満が残る結果だった。護衛なんてはじめてだし、専門でもないからまあ、こんなものと言えばこんなものなのかも知れない。

 

オオカミを調べたかったが、ちょっと無理そうだし調べたところでなにも出なさそうな気がしてきた。

 

ただの偶然という可能性が一番高いか…

 

考えすぎるのも良くないのでやめておこう。

 

この日は門を閉じて解散となる。他のメンバーを見送ってからルシウスに仕事の完了を伝えてホテルに帰ろうとした。するとルシウスから呼び止められる。

 

「レイン殿、今晩の予定は空いているだろうか? 」

「空いているがなんだろうか? 」

「依頼を完遂させてくれた礼も込めて食事に招きたいのだがいかがかな? ファムもレイン殿に会いたがっている 」

「そう言われては断れないな、まあ、断るつもりもないが…ありがたくお呼ばれされることにしよう 」

「そうか、では準備をしておこう 」

 

そのまま一旦別れると俺とジュジュは一旦ホテルに戻り清発をして身ぎれいにする。ちょうど良い時間になるまでジュジュにブラッシングをかけてやった。

 

やはり今日の仕事は退屈だったらしくて少々ご機嫌斜めだ。機嫌を取るためにもここは念入りにやっておく。

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