オオカミたちはこちらが動かないとみるやそのまま真っ直ぐ向かってきた。牙をむき噛みつこうとしてくる。単純な行動だ。
こちらをただのウサギと見て油断しているな。
狼の牙が届く直前、俺は魔力を後ろ足に込めて後ろに跳んだ。
空中でバック転をして木の幹に着地して再び跳ぶ。木々を
オオカミたちは勢いを殺しきれずこちらに遅れる。
その隙に俺は亜空間から砂を取り出して魔力を込め砂球を二つ作り出す。込める魔力を増大させて堅く圧縮…オオカミがこちらを向くタイミングに合わせ射出した。
十分な重さと堅さ、勢いのある砂の固まりがオオカミの顔面に直撃する。
砂弾は顔面にめり込むと同時に崩壊して砂に戻った。目や口に入り込み視界を奪う。
ここでたたみかける…
―
魔法と亜空間の
更に穴の中に水と土を入れていく。深さは人間の身長ほどある。泥に足を取られて多少は時間を稼げるだろう。その間にもう一匹を倒したいところだ。
もう砂を落としたのかしっかりとこちらを見ている。ただのウサギじゃないって理解しただろう。ここからが本当の勝負だ。
俺と対峙しているオオカミは魔力を高めていた。魔法を使う気のようだ。
使われる前に飛び込もうかと思ったが遅かった。オオカミの魔力は高まったまま安定している。準備万端なのだろう。
お互い出方をうかがって動けずにいるが不利なのは俺の方だ。時間を置くほどもう一匹が穴から抜け出してくる可能性が高まる。
その前にこちらから仕掛けよう…
俺は前に出るとみせかけて後ろに跳ぶ。オオカミはそれにつられて魔法を使った。
指向性のある音の衝撃波とでも言うべきだろうか? 見えない圧が迫って来る。見えなくても魔力感覚で分かった。
とっさに目の前に砂の壁を作り出す。急増品の壁は音波を防ぎきれずにバラバラに分解されていく。それでも多少の
全身に魔力を込めて衝撃に耐える。耳がキーンと鳴る。減衰していなければ鼓膜が破られていた。
耳を治したいところだがオオカミはすでに動き出している。こちらに噛みつこうと口を開けて迫っていた。もう一匹も魔法を利用して穴から脱出したようだ。
ここで目の前の一匹にある程度ダメージを与えたい。
俺は水の球を両前足で抱えるように作り出し迫ってくるオオカミの口に水球をはめ込む。
―弾水球!
ゴムボールのように弾力を持った水球はオオカミのかみつきを受け止め口を塞ぐ。さらに水球に魔力を込め硬化させる。
これで口を閉じることも開けることも出来なくなった。オオカミは水球を口から離そうともがく。
それを狙っていた俺は首の振りに合わせて線を繋げている水球を回転させる。体勢を崩してオオカミを地面に転ばせた。足に込める魔力がおろそかになっていれば体重差があっても十分にいなせる。
すかさず魔力を込めた歯でオオカミの喉に食らいついた。かなり深く食い込ませる。生暖かい血が
追い打ちをかけて留目を刺したい。だが、もう一匹がすぐそこに迫っている。深追いを避けて距離を取った。
傷を負わせたヤツは回復魔法で治療をはじめる。その間にもう一匹を倒せればいいんだが…。
ウサギの肉体ではやはり決め手に欠ける…魔法の威力を底上げしたい。
俺はウサギの魔石とコアをつないでいる魔力触手を減らして直接手や足に通していく。さっき土魔法と亜空間を併用するときに一瞬試してみたが常時発動は初めてだ。
ウサギの体のコントロールをある程度ウサギ自身に任せることになるだろう。未知の部分もあるが試す価値はある。
変更をしている間に無傷のオオカミは魔法を使う準備ができあがったようだ。手加減など要らぬとばかりに思い切り音響魔法を放ってくる。
だが、それはもう見たヤツだ。すでに足の裏から地面に魔力を流している。
―
俺の前の土が盛り上がり壁を作る。十分に魔力が乗った壁は衝撃波を難なく受け止める。
驚いただろ?
魔法の威力が急に跳ね上がったことに相手は
―
土隆壁を作っている魔力をそのまま転用してオオカミの足下の土が盛り上がっていく。
土壁が崩れ、地面から円錐状の土の槍が飛び出て腹部に突き刺さる。
普通なら致命傷になりえた。だが、刺さっている途中で狼が腹に魔力を込めて防御したこともあり想定よりダメージは少ない。
それでも内臓が傷ついては動きが鈍らざるを得まい。
魔力を込めて土の触手を作り亜空間から取り出した“雷閃”を先端に取りつける。それを相手の心臓部めがけて放ち、狙い通りに突き刺した。
手ごたえありだ…
一匹を仕留めることはできた。
だが、その間にもう一匹がこちらに魔法を放ってきていた。すでに傷の治療を終えたようだ。それでも仲間を救うことはできなかったが…。
横に跳んで衝撃波を避けようとしたが躱しきれずに右後ろ足に衝撃波を食らった。魔力防御が間に合わずに毛皮が裂け血が噴き出し、骨が何カ所か折れている。
俺の方も仕留めることを優先した結果、代償を少々支払うことになっていた。
くそっ…いてぇ…
痛覚を遮断し痛みを抑える。治療はウサギの魔石に任せてコアにより体の周りを球状に土で覆って防御に徹した。
オオカミは再び衝撃波を放ってくるが貫通させない。今度は噛みついてくるが接触部の魔力を上げ対抗する。足が治るまで耐えてやる。
ここでちょっと思いついた。火魔法を使ってみよう。
だが今は土のドームを形成しているせいでメタンを空気中から集められない。亜空間でどうにか出来ないか考える。
いけるか?
土に含まれる有機物を分解してメタンを生成する。ドーム内をメタンで満たしつつ地面に穴を掘って避難する。
横穴を掘ってそこで待機…
メタンに魔力を行き渡らせて爆発を小規模かつ高威力になるように酸素濃度や魔力分布を調節していく。
そして、爆破!
地面の下まで地響きのような衝撃が走った。すこし気分が悪くなる。
穴の底で聞き耳を立てて地上の様子をうかがう。どうやら動いているものはなさそうだ。慎重に周辺を警戒しながら地面から顔を出す。
もう一匹の狼は頭が吹き飛んで絶命していた。“雷閃”と二匹の狼の遺体を亜空間に回収する。
ふう…どうにかなった
辺りを改めて見回すと戦いの後がかなり目立った。
最初に開けた穴やガス爆発であいたくぼみなどを人間に見られたら強力な魔物が現れたかと山狩りでもされそうだ。なるべく早くこの場を後にしたいが一応きれいにしておこう。
戦闘跡を消して森の奥に向けて立ち去る。
しばらく進んだ後、巣穴を掘ってそこでウサギの体を休めた。十分に休めた後、コアのみの状態に戻ってからオオカミの魔石を解析していく。
魔力についてはこんな感じ。
現在魔力/最大魔力 306/652
現在魔力/最大魔力 279/673
結構魔力が高い気がする。ちょっと前に出会った新米狩人だと無理だろう。この辺にしては強すぎる気がする。もっと奥から流れてきたのだろうか?
まあ、それはいい…魔法の解析をしよう…
オオカミの使用していた魔法はどうやら媒質中を伝わる振動に魔力を乗せる魔法のようだ。指向性の振動とともに魔力を伝播させる。そうやって魔力の発散・減衰を抑えて有効射程距離を伸ばしているらしい。
もっともあまり精度は良くない。有効なのはせいぜい10メートルぐらいだろう。近距離ほど威力は高く、距離が伸びるにつれて威力は低くなる。
だが音速の攻撃はなかなか躱しにくい。使い方と状況次第で相当有効な武器になるはずだ。
コアの魔力を確認してみる。
現在魔力/最大魔力 7492/14112
最大魔力は少し上がったか…
現在の魔力はだいぶ減っているな。ウサギの体を通すことで効率が悪くなっている部分があるのかもしれない。体の中にパスを維持するのも結構消費につながっているようだ。
まあ、今は最大魔力の容量と回復スピードの上昇によりなんとかなっている。人間の肉体ならまた違った課題が出てくるだろうが後での話だ。
今日はもう意識を切って明日に備えよう。
◇
オオカミとの戦闘からさらに三日たった。素材はもう十分に集まっている。
そろそろ町に戻ろう…
そう考えていた矢先に大きめの魔力波動を感じた。
…どうするか
距離はそう遠くない。集中して音やにおい、魔力などを探っていくとどうやら戦闘を行っているらしいとわかった。
あまり首をつっこむのもよろしくないとは思うが気になる点もある。新米の狩人が不相応な魔物に襲われていないか心配になったのだ。
今の自分の立ち位置を考えると人間側よりも魔物側にいるのだろう。しかし、人間側に寄った行動を取っていかなければ後々の行動に響くようなきがした。
それに人間が戦っているならその戦いぶりを観察したい。今後、人間として行動するなら他人と一緒に戦うことが出てくるかもしれない。
いろいろと理由をつけて現場に向かっていく。こちらの魔力に気づかれないように慎重に移動する。だが、近づくにつれて激しい魔力の動きが感じられた。これならよっぽどのことがないとこちらには気づかないなと確信する。
少し急ぐか…
俺は結構な魔力を込めて木々の間を飛び跳ねていく。
最初はウサギの脳と魔石に運動のすべてを任せることに不安を覚えたが、なれてみるとこちらの方が性能を十全に発揮できているように感じる。
急いだおかげで、すぐに現場に到着できた。
現場は森の木々が途切れ中央に川が流れている平地。一際大きな魔力に目をやると目線の先には一頭の熊がいた。
あの熊を思い出して一瞬、脳裏を嫌な記憶がかすめるが、よく見ると今度のヤツは二回りほど小さい。特徴的な赤い毛がなく全体的に普通の熊といった見た目だ。
今の俺なら大した相手ではないな…
だが、流石は熊。やはりフィジカルは強い。魔力で身体強化を行い動き回るだけで十分に脅威になり得る。
対する人間は四人で囲み距離を取りつつ応戦していた。的を絞らせないように常に動き回り四方から投石などで牽制を行う。
しっかりと連携が取れているが状況は人間側が不利だろう。四人ともそこまで強くない。新米は十分に卒業したがまだまだ駆け出しといったところか。前に遭遇した六人より二段は劣る。
少し離れてところで一人、血まみれで倒れていた。まだ息はあるようだ。そのそばに、野営地にしていたのかテントやかまどなんかがある。
休憩中を襲われたのか?
こちらは森の中から
そうはいってもどうしたものかな?
なるべく位置を特定されたくない。魔法を飛ばすのはだめだ。飛んできた方向から位置がばれてしまう。
もっともここから熊のいる位置まで15メートルぐらいある。十分に威力を保ったまま飛ばせる魔法は持ち合わせていない。
最近手に入れた音響魔法なら十分に届くかもしれないがまだ一度も使用したことがない。周辺で動き回る人間に当てずに熊だけに当てるのは困難だろう。直線軌道でしか放つことが出来ないし…。
幸いにして地面は土で覆われているので土魔法なら熊の足下から攻撃できそうだ。
地面に接触する四つ足から魔力を浸透させていく。深い位置までいったら熊の方向に伸ばしていって熊の直下の位置から上に向かわせる。
ここまでやれば気づかれないだろう。魔力消費はかなりのものだが今の魔力容量なら問題なくいける。
そうこうしているうちに狩人のひとりが熊のターゲットにされた。熊が突進しようと身構えた瞬間、魔法を発動…熊の足の裏が地面に張り付きわずかにバランスを崩す。タイミングを
足の裏に違和感を覚えた熊はその場で足踏みのような挙動をするがすでに魔法は解いている。こちらには気づいていないよな? 念のために魔力のパスは地面から地中に引っ込めておいた。
自分を取り囲んでいる4人に敵意のまなざしを向け威嚇する。どうやら周りにいる人間が何かをしたと考えているようだ。ばれてはいないらしい。
その後も熊が攻撃に転じようとするたびに4本の足のどれかを地面とくっつけて行動を阻害する。
前足を邪魔する方が効率よく止められるようだな。何回かやるとコツがつかめてきた。
しかし、徐々に熊は周囲の人間以外も気にし始める。周辺にも視線を巡らせるようになった。
ばれてきたか? この方法にも限界を感じ始める。
そろそろ人間たちにも頑張ってほしいところ…
だが、四人は決定的な隙を作っても熊を本気で攻撃しようとはしない。このまま何もしなければ確実に熊に各個撃破されると思うのだが。
何か狙いがあるのか? ……ひょっとして時間を稼いでいるのだろうか?
何かを待っているような気がしないでもない。それにしても限界は近そうだ。
いっそのこと人間体に憑依して全裸のまま熊を倒してしまうか? お礼に服をもらったり町を案内してもらうというのはどうだろう。
どうして森の中で全裸でいたのか根掘り葉掘り聞かれるだろうか? いや、当然聞かれるだろう。
それはマズい……んん?
考えていたら、突然、膨大な魔力がものすごいスピードで接近してくるのを感じた。
プレッシャーだと……なにが起こっている?