機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第230話 奇異なる魔物 x 追跡

ジュジュの案内で慎重にそちらの方向に接近していくと俺の索敵にも捉えられるようになる。

 

ん~? 確かになんか変な気配がするな…

 

群れを作っているようだが動き方がずいぶんと特徴的だ。オオカミのように連携を取っているが、速度はそれよりもだいぶ遅い。

 

オオカミ以外でこんな連携をとる生き物は知らない。良くわからなさに不気味なものを感じるが、どうやら当たりを引いたようで自分の考えが当たったことに、してやったような爽快さがある。

 

いや、まだ確定はしていないか…

 

何か他の魔物を発見したようで群れの動きが変化する。その動きをを追っていくと進行方向に別の群れが出現する。どうやら群れを分割して挟み撃ちにしたらしい

 

人間のようなやり方だな…

 

距離が縮まるにつれてはっきりとしてくる気配にも、人間に似ている部分を感じる。だが、人間と判断するには異なる部分が大きい。こんな時間に集団で狩りをする人間がいるとも思えないしな。

 

昼間ならともかく、暗闇の中で人間が集団行動をするのはこの世界でもハードルが高い。魔境の中だしな。訓練次第かも知れないが、余程の事情があるか変態集団ぐらいなものだろう。

 

どんなヤツらか顔を拝んでやろう

 

慎重に接近していくとギリギリ視界におさめられる距離までやってくる。連中は獲物を仕留めたようで今は動きを止めていた。

 

暗視強化と魔力視を駆使して視覚で捉えつつ詳細を知るために更に接近していく。

 

えっ? 人間!? 変態か!

 

…と思いつつも頭でそれを否定する。見えたのは二足歩行をしているようなシルエットだ。一瞬、人間かと思ったがよくよく見てみると関節の動きが異なる。

 

類人猿が動いているところを見たのならこんな動きをするんじゃないだろうか?

 

猿系の魔物なのか?

 

推測を立てつつ、もっと近づこうとしたその時、その集団は一斉にこちらを向いた。

 

気付かれた!?

 

次の瞬間にはもうヤツらは脱兎のごとく逃げ出している。俺は嫌な予感がして空気中に魔力域を広げていく。

 

ちっ、やはり…

 

離れた場所の木の上に見張り役と思われる個体がいた。木々を伝って枝から枝へと集団とは別の方向に逃げていく。

 

こいつだけじゃなくいろいろな場所に配置されている気がする。連携能力が半端じゃないな。本当に魔物なのか疑わしくなるほどだ。

 

とりあえず集団の方を追いかけると決める。仕留めた獲物を運んでいるためか移動はあまり速くなかった。

 

じりじりと追いついていくがある程度までで距離を保っておく。

 

このまま住処まで案内してもらえる可能性を考えてのことだ。途中で伏兵に妨害されることも考えられるしそこまで速度を上げられないということもある。一匹一匹はたいしたことなさそうだが油断は禁物だ。

 

しかし、こいつらの知能の高さを考えると素直に案内してくれるとは思えないところもある。現にまっすぐなルートを通っているわけじゃないようだ。

 

もう中層付近まで来ているが、狩人達の警戒範囲に引っかからないようにルートを選んでいる節があった。慌てて逃げているように見せかけていて、ずいぶんと余裕がある。

 

これは無駄足になるか…

 

この森のことを熟知していた。魔境のことを知っているのみならず人間の事情までだ。なかなかに厄介な連中であることは間違いない。

 

もう見切りをつけて狩ることにしようか。一匹でも仕留められればギルドに提出する証拠にはなる。

 

深追いを避けて確実に仕留めることにしよう…

 

……むっ?

 

ジュジュを先行させて仕掛けようと思った矢先、今度は後ろから大きめの気配が接近してくる。

 

今追いかけているヤツらと似たような気配だが、敵意が感じられない。何となくそこに不気味なものを感じる。

 

どうするか?

 

迷っていると後ろからの気配がだいぶ接近してきてしまった。前方のヤツらはほっといて後ろからのヤツに対処することにしよう。こいつには俺の警戒心に引っかかる何かを感じる。

 

俺達は動きを止めると振り返って、そいつの到着を待ち構えることにした。その間にも団体さんの気配は後ろから遠ざかっていくがしかたがない。前に集中する。

 

こちらが止まったのに合わせて相手もゆっくりとした動きになる。歩くような速度まで落ちると、やがてこちらから見えない位置で止まる。

 

どうする気だ? そう思ったときだ。

 

「オーイッ! 」

 

人間のような呼びかけをしてきた。相手は魔物であると判ってはいるのだが、心のどこかに人間なのではという疑問が湧いてくる。

 

「オーイッ! 」

 

揺らいでいるときに、さらに呼びかけてきた。

 

自分の感覚が揺さぶられるような気がしてなんとも言えない不快さがこみ上げてくる。そんな俺にジュジュから念話が飛んできた。

 

《・・・・・・》

 

どうやらジュジュの方が相手の正体について確信があるようだ。人間は惑わすことが出来ても従魔の感覚は誤魔化せない。

 

「タスケテクレッ! 」

 

今度はより高度な、言葉のようなものを放ってくる。だが、ジュジュのサポートがある俺にはむしろ逆効果だ。より魔物感が強まる。

 

ポーチから発光筒を取り出すと数本だけ撒いて戦う場を整えていく。

 

相手に向かって明確に敵意を放ってやると観念したのか、おもむろにこちらに歩み寄ってくる。正面から真っ直ぐ近づいてくるその態度に警戒を一段階上げると、暗闇の中に光る二つの玉が浮かび上がった。

 

相手の目が光を反射しているのだろう。猫のような眼球構造をしているのかもしれない。それで暗闇の中でも動けると言うことか。

 

やがて俺が用意した灯りの中にその全容を表す。

 

一言で形容するなら毛むくじゃらの大きな猿だ。身の丈二メートルほどでがっしりした体格。猿とは思えないほど真っ直ぐに伸びた背筋に体重を支えて柱のように並び立つ二本の足を持つ。

 

しかし、一番の特徴はそこではない。

 

体の所々を、金属とおぼしきプレートで覆っている。それは革のベルトで固定されているようだ。つまり人間のように鎧を身につけている。そして、右手には剣を持つ。

 

行方不明になった狩人から奪った物だろうか? それにしてはピッタリと体格に合っているような気がするが…

 

シルエットだけを見れば完全に人間のそれだ。方針は決まったはずなのに、どことなく躊躇(ちゅうちょ)が生まれてしまう。それもあってか生理的な嫌悪感がする。

 

…なんだろうな?

 

そのことに関してどこか引っかかりがある。

 

なにか…

 

ええと…

 

う~ん…

 

ああっ…そう、だ…

 

―俺と同じだ

 

この世界に来て最初にあの三人組と出会ったとき、そして狩人達に囲まれたとき、俺の姿は…

 

こんな気持ちだったんだろうか? あの時の俺と対峙した者達は…

 

ちょっと申し訳なくなるな…

 

踏ん切りをつけるために「この魔物野郎ぉ! 人間様の真似をしてんじゃねぇよっ! 」って罵倒してやろうかと思っていたが口にしなくて良かった。

 

完全なブーメランだよ…

 

やはり汚い言葉を使うのは良くない…

 

傷つけてしまう…俺を…

 

争いの種にもなるんだろう。戦いは罵り合いから始まるんだ…

 

まあ、こいつを狩るのは確定なんだけどな。つまり殺すってことだ。

 

《・・・・》

 

葛藤していたらジュジュから心配の声がかけられた。

 

いかんな、集中しなければ…

 

俺が心の迷宮探索をしている間に、お互いの距離は五メートルぐらいになっていた。

 

こいつの得意な距離なのか? それともこれ自体が挑発なのか? 相手の能力が判らないうちからここまで来るのは悪手だ。

 

まあ、いいだろう…やってやろうじゃねぇか!

 

俺は魔力をぶち上げると威嚇を放つ。速攻でケリをつけるつもりだった。

 

それに対して相手は…

 

 

 

 

 

 

 

逃げた!

 

こちらが威嚇を放った瞬間、回れ右してダッと全力疾走で駆けていく。

 

「クソがッ! 逃げるんじゃねぇっ! 」

 

思わず罵倒が出た。言い放ちながら後を追っていく。

 

あれだけ自信満々で接近してきたのはブラフ… 戦う気に見せかけてこちらの虚を衝いてくるとはなかなかの策士だ。始めから戦う気なんてなかったのだろう。

 

仲間を逃がすため、こちらの注意を引いてから自分もとんずらこく算段だったか…。

魔物とは言え天晴れだ。英雄的行動に感心するよ…

 

でも逃がさん!

 

全力で追いかけていくと距離は詰まっていく。こちらの方が速い。人間のような骨格だから素早く走るのには向いていないんだろう。普通の魔物だったらこうはいかない。

 

それで駆け足勝負を挑んでくるのはどうなんだ?

 

ある程度の距離になるとジュジュが先行して仕掛けにいく。あっという間に追いついて攻撃を試みる。狙いは足…転ばせて動きを止めるつもりだ。

 

だが、攻撃を仕掛ける直前、ヤツの後方に煙のようなものが発生した。ジュジュは後ろに仰け反って下がり、動きが止まってしまう。なんか嫌なにおいを嗅いだようで鼻をフンフンと鳴らしている。

 

何だ?

 

現場を通り過ぎる瞬間、刺激的な臭いがして粘膜がひりつくような熱さを帯びてくる。

 

… 唐辛子だと!!

 

魔物が道具を使った事実に衝撃が走る。頭をハンマーで殴られたようなそんな感覚だ。武器や防具を使うことからあり得ないことではないようにも思うが、実際に使うところを見るまで想像すらしていなかった。

 

これも狩人から奪った物だろうか? それにしてはずいぶんと使い方に慣れているようだしその効果も熟知しているようだが…

 

まるで訓練でも受けていたかのような印象を受ける。どこかで誰かが用意したんじゃないだろうか? 俺もジュジュが使えるような道具を開発して持たせてやろうかな?

 

物語に出てくる忍犬のようなものがイメージされる。いや、忍犬じゃなくて忍猫か… 脳裏に思い浮かべたその姿になんだがワクワクする。

 

……ハッ いかんな… 今は戦闘中だった

 

それはそうとして魔物が道具を使ってくるのは厄介だ。何をしてくるのかわからないのは怖い。魔術もそうだが、それとはまた違ったやりづらさがあるだろう。

 

迂闊に接近するとまずいか…

 

特に臭い玉とか使われたら最悪だ。あれはなかなか落ちないというしな…

 

調子を取り戻したジュジュが追いついてくると、しばらくは様子見をする。つかず離れず一定の距離を保って後に着いていく。このまま何処まで行くのか観察してもいいし途中で逃走を諦めるなら、そこで今度こそ戦うとしよう。

 

《・・・・》

 

ジュジュは殺る気満々だな。さっきの攻撃で相当おかんむりらしい。

 

 

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