アルゴルと思しき魔物とにらみ合う。相手もこちらを警戒したのか、いきなり攻めてくることはなかった。
回復出来ない傷を与えてくるという話が本当なら厄介なこと極まりない。俺ならば最悪、亜空間修復でなんとかなると思うがジュジュはそうもいかない。先に行かせたのはそれが理由でもあった。
周りに人がいなくてよかった…
そこら辺はコイツに感謝してやってもいい。礼は何がいいだろうか? 言葉を理解するとは思えないな…言葉じゃあ足りない。
有効な攻撃をプレゼントしてやりたいところだがよく知らないから何が効くのかわからない。
ここは相手を知るところから始めないとな…
何が好きで何が嫌いかわからないとプレゼントのしようがない。アレルギーとかあるかも知れないし。
まあ、プレゼントしたいのはコイツの一番嫌いなものなんだけどなぁ
俺は意思を固めると“月影”に思いきり魔力を込めていった。今度は俺の方から仕掛けていく。
相手が動くよりも先に動いて一足飛びに接近すると振り下ろす。
―ガキィィッ!
硬質な音が空き地に響いた。斬撃は前足で防がれたが、切りつけた感触はいつものに近い。一定以上の魔力圧を保てば分解されないと言う話は本当のようだ。
相手からお返しに反対の前足での突きが放たれる。それを身を捻ってギリギリで躱すと後ろに跳んで距離を置き、左手に“守継”を抜いて同じように魔力を込めていく。
何となくアルゴルは魔術を使えないのではないかと思う。魔力を外に放出するような感覚がなかった。
とりあえず正面から打ち合いをしてみようと再び踏み込む。今度は相手も同じことを考えたのかこちらに向かってカサカサと前進してくる。
中間地点でぶつかり合い、互いの二刀を繰り出し合う剣戟が始まる。
―…ガガガガガ………
至近距離から高速で繰り出す斬撃をぶつけ合いながら押し合っていく。受け止めては受け止められる。そんな攻防をしていくと時折、後ろの足を突き出してくるがそれもまとめて弾いてやる。
動きは速いが攻撃は単調な感じで十分に
この分だと攻撃魔術はたいして効果ないな…
分析していたらアルゴルの動きが変わる。胴体の部分がわずかに膨らみ、後ろに引くような体勢を取ると次の瞬間、口から緑色の液体を吐き出してきた。
―空射加速
身を低くして躱しつつ、空術で加速して体の下をくぐり抜けると通り抜けざまに一番後ろの足に斬撃を叩きつける。
―ガコッッ…
魔力と加速の乗った刃が足を切り裂く。だが、中ほどで止まり切断までいかない。硬さで弾かれたと言うよりは斬りにくいと言ったような手応えだ。
コイツを切ろうと思ったら相当に魔力を込めないと駄目だろう。相手は魔力の効果を十全に引き出せるがこちらは下手を打つと魔力無しで戦うような状況を強いられる。
だが、素材の特性が良ければもっと楽に渡り合えるような気がする。
大質量の石材でぶん殴るとか複合素材でできた剣とかタングステン合金製の剣を使うとかかな? いずれにしても質量と体積、両方を確保する必要がありそうだ。
とりあえず今は魔力圧で対抗するしかないな…
更に魔力を上げてアルゴルに向かっていく。ヤツはどういうわけかこちらに後ろを向けたままだ。警戒をしつつもぶった切る勢いで剣を振るう。
すると、切りつける瞬間、突如として滅茶苦茶にのたうち回るような動きを始める。糸に引っ張られた操り人形のような動きだ。
初撃に斬撃を合わせてはじき返すと、今度は無茶な姿勢から突きを三連続で放ってくる。関節がゴキゴキと音を鳴らしていた。
冷静に見極めて剣でガードする。
弾かれつつ少し距離を取り、脇差しを仕舞って“月影”を両手持ちに切り替えた。
魔力を一本に集中させ大魔力で一気に切る…そう考えて相手の攻撃終わりを狙う。
剣を振りかぶる。しかし、その瞬間、アルゴルから嫌な気配が急激に膨らむ。うつろだと思っていた穴からぶわっと噴き出してくるような感じだ。
―空射加速
咄嗟に空術で後ろに身を引く。だが―
―スパッ……
一瞬遅れた“月影”に相手の斬撃が当たった。豆腐のようにあっさりと抵抗なく切断される。半ばから先の部分が地面に転がり鈍い音を立てた。
なんだ… 今のは…
十分に魔力を乗せていたはずだ。だが、あっさりと切断されてしまった。
まさか今のが…
回復出来なくなる攻撃なんだろう。 特に魔力の増大とかいった予兆無しに放ってくるのは脅威だ。今のは何となく勘で躱せたが次は上手く躱せるだろうか?
手元にある残りの“月影”を細く伸ばして折られた先を回収しつつ考える。
これは迂闊に攻められなくなった。
予想はしていたがどうにもやりづらい。おまけに普通の生き物ではしないようなトリッキーな動きをしてくる。形態的に弱そうにも思えたがそうでもなかった。
ヤツも今の一撃を躱されて警戒したのか様子見をしているようだ。お互いに睨み合う時間が流れる。
そんな時だ…
……むっ!?
都市の南側で何かが起きた。大勢の人々の魔力が乱れている。それに混じって微かに魔物の魔力も感じられた。それはどんどん数を増してきているようだ。
魔力の気配が濃くなっていく。微かに連続する爆発音のようなものが聞こえた。
どうやら目の前のコイツは時間稼ぎの役割も担っているらしい。
そういうことかよ…
―複合術式、
「何処の誰だか知らねぇが…丁重な持て成し、心底痛み入るねぇ 」
―操雷・操鉄術式、
「何かお礼をしてやらないとな 」
お返しを叩きつけてやる…ここらでお暇させてもらうとしよう。
―電光発揮… 柔鉄剛靱…
相手は何かを察知したのか弾かれたようにこちらへ飛びかかってくる。隠蔽しているはずなんだが魔力感知能力に優れているらしい。
だが…
おせぇよっ!
―
電光を纏った帯状の刃がアルゴルを真下から上に向けて貫いていく。その瞬間、かなりの抵抗を感じたが圧を増大させて押し切ってやった。だが、手応えは軽い。
致命傷ではないな…それなら…
そこから全身を絡め取るように巻き付かせた。そして、刃を引き絞る瞬間に魔力を増大させインパクトを強化する。
「ぬぅんっ! 」
―ザシュッ…
バラバラに切断してやった。ブロック状にまで切り刻んでやると破片が地面に落下して転がっていく。
「満足したか? 」
すぐに自壊を始めドロドロになり地面へと広がっていく。若干、煙が上がっているのが夜目にも捉えられた。何となく魔力崩壊現象にも似ている。
死んだと見なしていいだろう。気配は感じられなくなる。
ドロドロの中から見たことのある結晶体が顔を覗かせてきた。魔力をまったく感じさせないアルゴルの魔石だ。
手に取って亜空間に仕舞うために魔力で包み込もうとする。
しかし…
ん? 上手くいかないな…
魔石に吸収される感じがしてやりにくい。圧と量を増やして無理矢理包んでやって亜空間に引き込む。
最後まで面倒な手合いだ…
魔石の解析はしたいが、都市に侵入した魔物を駆逐しなければならない。さっさと事態を収拾させるためにも後回しだ。
北と南…どちらにするべきか…
北は警察の数が多そうだ。なんとなく強者も揃っている雰囲気がある。ジュジュも向かわせているから何とかなるだろう。
北に主力が向かっている分、南の方は手薄になっているはず。あまり強い魔物はいないようだが、その分、数は圧倒的に多い。
いくなら南だな…
大多数の魔物をなるべく早く刈り尽くす必要がある。それも状況的に言って人間と魔物が入り乱れていることだろう。人間を避けて魔物だけに攻撃を集中させなければならない。
今までに経験したことがないミッションだ。だが、
問題があるとすれば俺が保つかどうかだが…
方針を決めたなら即実行だ。周囲に人目がないことを確認して換装する。
《
頭の中に声が響く。ギヒトで使用する声質で音声が鳴るようにした。何故そうしたのかというとカッコいいからだ。テンションが上がる。
俺がいちいち口に出すと周りを気にしないといけない…そんな理由もあった。
次の瞬間には音もなく姿が変わる。もし人がいたなら暗闇の中に突然、白い全身鎧の騎士が現れたように見えただろう。
思いきり地面を蹴り空中に躍り出る。同時にバーニアを吹かして飛んでいく。こんな非常事態に夜空を気にしている人はいないはず。だが、一応人目を引かないようにしないとな…。
なるべく高度を上げてから南側へ進路を取る。水平移動に移行するとバーニアの出力を最大まで引き上げて飛行していく。魔力を極限まで抑えてロケット推進のみにすれば流れ星のように見えなくもない…と思う…。
この速度なら一分あれば到着出来る。しかし、ちょっと出遅れた感じもある。急がないとな…
アイツに引き留められた所為だ…
京都だったら「後はぶぶ漬けになりますけど… 」とか言われるそうだ。早く帰れって意味らしい。婉曲的な伝え方だ。
こちらから帰りたくなったときはなんて言うんだろう? 「ぶぶ漬け、まだですか? 」って聞くんだろうか?
そう言う話は聞いたことがないな…
そういったことを言う必要がないと仮定すると、招いた側が気を使ってこちらが帰りたそうなタイミングを見計らってくれると言うことか? 帰ってもいいですよと言う意味でぶぶ漬けを伝えてくると言うことなのかも知れない。
それだけこちらに気を使ってくれると言うことなのか?
そうだったならアイツも京都人を見習って欲しいな。
俺に都合のいいときに勝手に死にやがれと思わなくもない・・・
そんな下らないことを高速思考していると、ちょうど良い場所まで来た。
着地に適したビルの屋上を直ぐさま探し出すと自由落下をバーニアで調整して素早く、それでいて静かに降り立つ。
さて、やるか…
覚悟を決めると特殊兵装を呼び出す。
【
白い翼のような一対のウエポンラックがレインメーカーの背部に出現した。
背中から伸びる軸状の保持器に、菱形を伸ばしたような形状の小型攻撃機が無数に並んで配置されている。一つ一つが羽根の様に見えて全体として翼のように見える形状だ。
攻撃機の一つ一つには二つの小さな理力石が埋め込まれていた。一つは敵に照準を合わせて攻撃用の可視光レーザーを放つためのもの。もう一つは攻撃機を飛行させることと本体に埋め込まれた理力石と通信を行うためのものだ。
攻撃機は左右二十機ずつの合計四十機ある。これらすべてを同時に縦横無尽に飛び回らせて戦うのがコンセプトだ。
保持器から一斉に高速度で離れると宙空を舞うように飛んでいき人間と魔物を識別して照準を合わせた。
その情報はこちらも伝えられる。俺の方でも人間を避けて魔物に照準を合わせているか確認出来た。
攻撃まですべて自動で行うことも可能だが今回は戦況が入り組んでいる。相手の魔物も人間に似ているからチェックはしておいた方がいい。
すべての照準が定まると後は俺がゴーサインを出すだけだ。
作戦……開始