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レインと別れてからジュジュは全力で都市の外縁部を駆けている。
戦闘の鼓動が近づくのと興奮が抑えられなくなってくる。しかし、レインが近くにいないこと、レイン以外の人間と合わせて戦わなければならないことに思い至り冷静さを取り戻していく。
ガエルと連携して戦ったことを思い出し、自分なりにどうすればいいかを考えた結果だ。海狩人達と一緒に戦った経験も生きている。
いよいよ戦場が視界に捉えられるようになってきたとき、ふと魔物の気配を細い路地の方向から感じた。走るのをやめると一旦立ち止まり様子をうかがう。
どうやら街の方にも魔物が侵入してきているようだと理解し、細い路地に駆けていく。
目の前に魔物が現れると飛びかかり爪の一撃で屠る。
細い路地を縫うように駆け回り次々と倒しながら戦場に向かっていく。途中で遭遇した二匹を左右の爪で同時に始末すると、それを追っていた数名の警官の上を飛び越えて躱し、そのまま走り去っていく。
警官達はそれを驚愕の表情で見送ってその場に固まってしまう。数瞬の後、我に返ると再び侵入した魔物を追いかけて路地の闇の中を走って行った。
やがて、路地から大通りに出ると主戦場の様子が確認出来るようになる。
団長級の四体をリエラとダン、騎士と警官の部隊でそれぞれ抑えていた。
防衛線の外側にはまだまだ無数の兵士級がいて防衛線に攻撃を仕掛けている。その中には隊長級もちらほらと混じっている。
ジュジュは隊長級の姿を見てすぐに気が付いた。魔境の中で遭遇し、レインと一緒に倒した魔物だ。唐辛子玉を喰らった苦々しい記憶が蘇る。
静かな怒りを燃やし魔力を高めていく。
それに気付いた警官や市民の何人かはギョッとして振り返る。すわ新手かと勘違いしそうになったが、首輪や魔力の雰囲気から従魔だとはわかった。ホッとして防衛に戻るが二度見せざるを得ない。
そんな防衛線に向かいダッと駆けていくと地面を蹴って飛び越えていき戦場のただ中に躍り出る。
着地する前に空中で舞うように身を捻ると、空術で刃を形成して防衛線に取り付いている兵隊級達に仕掛けていった。
前足の爪一本一本から空刃が伸ばされ、左右で合計八本の刃が閃く。防衛線に群がる魔物十数匹が一息に切り刻まれて転がる。行きがけの駄賃とばかりに倒していった。
着地すると戦場を縦横無尽に駆け巡り飛び回る。自在に空刃を操り、敵を次々と刻む。
そしていよいよ隊長級に狙いを定めると四本の空刃をまとめて一本にして振るった。
ジュジュの速さに翻弄され棒立ちのまま首を切りつけられる。一撃で両断されて首が舞った。
別の個体に狙いを定め同じように首を切断して屠ると、再び八本の空刃を操って小型の魔物達を切り刻んでいく。中にはまだ動けるものもいたが、ジュジュは気にすることなく戦場を飛び回り、
「今だっ! 続けっ! 」
それを見て部隊長は今が攻め時だと判断し号令をかけた。
ジュジュが仕留めきれなかった魔物へ防衛線を開いて突撃してきた警官や市民がとどめを刺していき反転攻勢を仕掛けていく。
かき回されて隊列が乱れた魔物側に人間の攻勢を止める術はない。次々と倒されていきその数を減らされていった。
完全に人間側が優勢になり魔物の数も減ってきた頃になると、ジュジュは未だに猛威を振るっている団長級に狙いを定めていく。
気配を消しながらどの個体を狙うか品定めをしていると警察の精鋭部隊が相手にしているものが一番生きがいいと見抜いた。
隠蔽を行いながら魔力を高めていき、最大の攻撃を叩き込むべくその時機を静かに見計らう。
瞳は暗闇の中で街明かりを反射して怪しく光っていた。
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(このままだと先を越されちまうな… )
団長級の攻撃を捌きながらもアロッゾは戦場全体の状況を把握していた。あの強力な従魔の乱入により戦況が好転したこともわかっている。部隊長が少しずつ戦力を南側に送り出したことも。
流れはこちらに来ている。
そして、あの従魔が今度は今戦っている大物に狙いを定めたと確信している。強力な攻撃を不意打ちで叩き込んで仕留める気だろう。
おそらくそれは成功すると見積もられた。仕留めきれなくとも切っ掛けにはなる。
味方とは言え、後からやってこられて先を越されるのはアロッゾの矜持が許さなかった。
(一番手は俺達だ… )
決心すると、これからたたみ掛けることを魔力波で部下達に伝える。
団長級が大振りの振り降ろしを地面に叩きつけるとその上から水撃を叩き込んで更に深く地面にめり込ませた。
(今だ… )
一瞬できた隙に、隊長の意図をくみ取った二人の騎士は左右から同時に水撃で鎧の留め金を狙う。
肉体に攻撃を加えつつも、少しずつ鎧にも攻撃を仕掛けて強度を低下させていた。それが最後の一撃により破壊される。
胸部から腹部までを覆っていた鎧が外れて地面に落下していく。
その瞬間、アロッゾは肋骨の隙間から心臓目がけて剣先を突き入れた。更に、押し込んでいくように水撃を打ち込み心臓を破壊する。
肉体は力を失う。数々の攻撃に耐えて立ち続けていた巨体は地に沈み血だまりをつくる。
騎士の矜持を見せ、狙い通り一番に敵を仕留めることとなった。
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ジュジュはじっくりとその時を待っていた。
獲物が警官隊に意識を向けていて、こちらに気付いていないことはわかっている。問題は警官達がこちらに気付いているかわからないことだ。
気付いていないものと想定して警官隊と動きを合わせなければならないと考える。
攻撃の呼吸が被らないようにしなければならない。ジュジュがこれから行う攻撃は下手をすると他人を巻き込むことになる。
じっくりと両者の動きを観察して攻防の型を把握し、予想出来るところまで掴んでいく。
十分に流れは把握出来た。すると、足腰をバネのようにしならせて低い姿勢を保つように構える。猫が獲物に飛びかかる前の構えだ。
魔物が手に持った巨大な剣を振りかぶると警官達は距離を取るために後ろに跳ぶ構えを取る。振り回しに合わせて跳び、薙ぎ払いを躱すと魔物と警官隊の間に隙間ができた。
その隙間にねじ込むように瞬間を合わせて飛び出す。一息に団長級の背中から首筋に取り付いた。
魔物がそれに気付いたときには、既にジュジュの牙は首筋に深々と突き刺さっていた。そこから極限まで練り上げられた雷術が体内に流し込まれる。
首筋を食いつかれた痛みがくるよりも先に電流で全身を焼かれていった。筋肉が硬直して動けなくなる。魔力で対抗しようにも既に魔力経路を狂わされていて為す術がない。
ジュジュは用意していた雷術をすべて出し切ると相手の背中を蹴って離れる。警官隊の上を飛び越えて着地すると入れ替わるように二人の警官が前に飛び出していく。
魔物は電撃で硬直したそのままの姿勢で地面に背中から倒れた。まだ息はあったが警官達が体を飛び越え留目を刺しに行く。首目がけて落下していくと左右から斬撃を合わせて叩き下ろした。
容赦のない追い打ちにあえなく首を完全に両断される。
ジュジュの協力もあってようやく倒すことができた。一息つけるようになった警察の精鋭部隊だったが、残りの二体と南部の様子が気になる。再び気を引き締めていく。
そんな警官達を尻目に、ジュジュは横たわる巨体の上に飛び乗ると背筋を伸ばして胸を張り、フンスと鼻を鳴らした。
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リエラとダンは目の前の魔物と戦いつつも戦況は把握していた。他の二体が倒されたことを知って危機感を覚える。
後れを取っていることで焦りを覚えたのではない。この事件を仕組んだ何者かがこの程度で幕引きを許すようには思えなかったからだ。
そろそろ何かを仕掛けてきてもおかしくない。そして、その何かはこれまでのものと比較にならないような脅威であると確信している。
それが現れるまでに何としても目の前の魔物を始末しておく必要があった。
(使いたくなかったがアレを使うとするか… )
リエラは決断すると手に握る剣に魔力を流していく。それは剣に組み込まれている隠された力を解放する魔術、それを発動させるための前段階だ。
魔術を発動させると刀身の根元、柄と接合する部分から少し上に行った場所が開いていき中から魔石が顔を覗かせる。
これには持ち主の魔術に反応して同一の魔術を並列発動させて威力を増幅させる機能が備わっている。帝国が開発した魔導武具と呼ばれる代物だ。
魔術を発動させると刀身へと超高圧に圧縮された空気を纏わり付かせる。魔物の首筋に向かって剣を振るい、斬撃が当たる直前に魔術を解放させた。
空気を噴出させて剣速を一気に加速させると魔力で創造された空気の刃は高速で動き物体を削りながら肉体内部に押し込められていく。
リエラが完全に剣を振り抜くと首は切断され頭部が宙を舞った。
時を同じくしてダンもまた自分に
剣を鞘に仕舞うと右の手甲に魔力を流していく。すると前腕部が開いていき中から魔石が現れた。
準備が整い得意の鉄魔術を発動して同期させる。仕込まれた魔石が同じ魔術を並列発動させていく。これで威力を倍近く出せる。
「おらぁっ! 」
その莫大な魔力で以て身に纏う鎧を正面から殴りつけ一瞬の内に魔力を浸透させた。鉄術がその効果を現すと鎧は粉々に砕けて胸部が露わになった。
同時に部下の二人が左右から襲いかかる。完全にダンの動きと同期していた。突き出された切っ先は魔物の防御の隙を縫い深々と突き刺さる。
地面に倒れる衝撃を利用して更に深く剣先を差し込んでいき心臓まで達すると、留目に魔力を流し込んで絶命させる。
これで四体いた団長級はすべて倒れることになった。
だが、リエラとダンの表情は優れない。
魔導武具は何度も連発することができない。連発すると魔石に刻まれた情報が消失して使用不能になってしまう。それを防ぐために制限装置が組み込まれている。
この後に来る脅威のためにも温存しておきたかったが、使わざるを得なかった。魔導武具もまだ研究段階で欠点もある。次に使用可能になるまでどれほどの時間をおかなければならないのか不明だった。
少なくとも一日置けば再使用可能になるが、この戦闘中に可能になるかは未知数だ。
団長級と戦っていた猛者達は皆、開いている門の先から肌が粟立つような圧を感じている。何かが来ると、予感ではなく肌で感じている。
小型の魔物もほとんど殲滅した今となっても場を支配している空気は張り詰めたような緊張を含んでいた。強敵を倒したことで沸き返っていた防衛線を守る人々も徐々に不穏な空気を感じ取ってその口を閉ざしていく。
防衛線を静寂が支配していく。誰もが開かれる門に視線を注いでいた。
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ジュジュが兵隊級や隊長級を蹴散らして数を減らしている頃、警察は門の制御室を奪還すべく部隊を編成して突撃していく。
まだ残っている小型の魔物が壁に設置された制御室への入り口に向かう部隊の行く手を遮る。
飛びかかって来る魔物を切り伏せながら進み、入り口にたどり着くと数人が入り口を守るために残り、中を進んでいく。
通路は狭く戦いともなると人一人が通るのがやっとだ。隊の中でも一番の強者を先頭に進んでいく。
内部にも無数の魔物がいたが一匹一匹を着実に倒す。その中にはより小型な偵察型のものもいた。小柄な体を活かしてこちらの狙いを攪乱してくるが動きを良く見て切りをつけ倒していく。
そうして制御室までやってくると扉は開いていて外から倒れている門番達が確認出来た。安否を確認しておきたいところだったが先に門を閉める操作をしなくてはならない。
真っ先に制御レバーに取り付くと手前に引いて閉じる操作を行った。
しかし、門は上げられたままピクリとも動かない。別の隊員が調べたところ電線が切断され機能しないようになっていた。構造や配線まで調べられていて的確に破壊されている。
そこまで用意周到に準備がされていたことに戦慄を覚えた。
何とか修繕出来ないかと工学をかじったことのある隊員が試行錯誤を試みる。
その間、残りの隊員は門番達の救助に移るが、警報装置を作動させたと思わしき門番は亡くなっていた。
やるせない気持ちになるが表に出さないようにして淡々と作業を行っていく。治癒術の心得が有るものが外傷を治し、臓器の修復を行うと意識を取り戻す。
食料を与えて自分で回復術をかけられるようになると立って歩けるぐらいにはなった。遺体は後で回収するとして一部の隊員を残して負傷者を連れて撤収しようとする。そんな矢先のことだった。
突然、門の外側から敵意をもった強大な魔力の高まりを感じた。場所はだいぶ近い。引くことも忘れて制御室の窓から外をのぞき込む。
魔力を抑え、息を押し殺して気配の先を凝視する。これから起きるであろう最悪な出来事に、心臓は早鐘を打ってきかない。
―ズンッ…
地の底から突き上げてくるような地響きを感じた瞬間、門から外に伸びる道路が爆発する。飛び散った土瀝青の破片や土砂が窓に容赦なく打ち付けられ視界を奪われた。
見えなくとも感じられる存在感から、大きな生き物が地面を割って這い出してきたことが創造される。
やがて土煙が納まってくるとその姿を視覚で捉えられる様になってくる。未だにはっきりとしない視界の中それは岩山のように見えた。
自身で開けた穴から完全に這い出すと、それはゆっくりと前へ進みだす。
踏み出される一歩ごとに大地を揺らすような衝撃が生まれる。閉じられることのない門を悠々とくぐり都市へと侵入していく。
制御室にいた誰もが、ただそれを見送るより他なかった。