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門の外側から轟音が聞こえてきた。土煙が都市内にまで広がってくる。
その土煙の中から圧倒的な存在感が、それに見合う足音を伴いゆっくりと近づいてくる。
やがて、壁を
煙の中から完全に抜け出すと堂々たる全容を現す。
意外なことに、その姿は人から遠いと言っていいだろう。
鎧は身に纏っていない。武器も手にしていない。それは大きさに合わせたものを用意出来なかったゆえなのかも知れない。
二本足で立つことはなく足に比べて長い両手を地面に付けて立っている。その姿は猿そのものだ。
ただし、大きい。
体を伸ばして立ち上がれば門の上端まで頭が届くだろう。今でも見上げるような巨体だ。魔力も竜種に匹敵するように思われた。
防衛線を維持している人々は、それを見て、感じ、絶望した。
逃げ出す者がいなかったのが不思議だ。あるいは現実味のなさにただ呆然と立ち尽くしているだけだったのかも知れない。
団長級と戦っていた猛者達は危機を感じていた。相手の魔力の大きさから分析して結論を出す、今の戦力では心許ないと。
時間を稼ぐことができれば打開策が生まれると信じて覚悟を決める。
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皆がこの状況に戦慄している中、唯一、平然とこの状況を見つめているものがいた。
ジュジュだ。
魂が抜けたように固まっている人々の様子を
自分ではまだ勝てないと認める。圧倒的に力の絶対量が足りていない。不意を打てたとしても致命傷を与えるに届かないと感じてはいた。
だが、自分の主であれば相手をして余りあると確信する。
主が来たなら解決するだろうと余裕の構えだ。
そして、もうじき来るだろうという予感がしていた。
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(ムカつくねぇ… )
アロッゾは心の中で悪態をつく。この期に及んでコイツが出てきたことに作為的なものを感じていた。
これまでも脅威であったが、この巨大な魔物一体でも今まで以上に脅威となるだろう。わざわざ終わりの方に出てきたことに芝居臭さがある。
(思い通りにはさせんよ )
怒りを抑えて闘志を燃やす。だが、戦力が足りないことは痛烈に感じていた。
(やはり減らしたのはまずかったか… )
南側に送った部下達のことを考え多少の後悔が頭をよぎるが、すぐに仕方がないことと割り切る。戦場では良くあることだ。すべてのことを予見するのは不可能だ。
今有るものだけでその時々の勝負に賭けていくしかない。
アロッゾは大猿に向かって剣を構えながらにじり寄っていく。その後ろに二人の部下が続き間合いを取るとそこで止まる。
その動きに合わせて各々が位置取りをしていった。
そして、その有るもの…リエラやダン、警察の精鋭たちと意識を合わせていく。
この場ではアロッゾが一番の強者だ。そして、魔物との集団戦闘に長けている。無言の内にアロッゾの指揮で動き出す合意が出来上がっていた。
呼吸を合わせていき戦闘の意識を高める。
あの従魔がまったく着いてこないことに多少の疑問があったが、気にしても仕方がないと割り切り魔力を練り上げていく。
戦いの準備が整う。
表面上は静かで穏やかに見つめ合っているようにも見えるだろう。だが、大猿とアロッゾ達の間には闘気とも言える魔力の奔流が渦巻いている。
やがて緊張が最高潮に達した。
瞬間、アロッゾを筆頭に一斉に動き出す。
まさに、そのような時だ。
後ろから高速で迫ってくる何かを感じた。
あまりにも速く、あまりにも強い。
呆気にとられて振り返る、いや、振り返ろうとした。
その動きを置き去りにして閃光が通り過ぎていく。
振り返ったとき、
速すぎて捉えきれない何かをアロッゾは背中に感じていた。
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(別視点)
騎士五人が街の中を駆けていく。
アロッゾの指示で南側に救援に向かっていた。早く到着しなければと言う焦りのような思いを抱いて全力で走る。
広い中央通りをひたすらに南へと走るその速度は車にも劣らない。
片側二車線の中央通りは歩道寄りの車線に乗り捨てられた車が駐められている。避難する際に乗り捨てられたものだった。緊急車両が通るために中央が綺麗に空けられていた。
見晴らしの良い中央を走る騎士達の目には向かうべき先が見えている。高層建築が後ろに流れ、目的地が迫る。
近づくにつれて魔物やそれと戦う人々の魔力がはっきりと感じられてくると、気配が消えていく様子もわかった。
果敢に抵抗してはいるが人々の側が劣勢であるようだ。
(保ってくれよ… )
祈りつつもこれ以上は速度を上げることが出来ない。はやる気持ちを抑えながらやっとの事で戦闘圏が見えてきた。
―戦いに入る…
気を引き締めにかかったその時……
空から光の雨が降り注ぐ光景を目撃する。
光が瞬く度に魔物の気配が消えていった。どうやら味方の攻撃であるらしいと言うことは何とか理解出来たが、このような現象は見たことがない。
一分もかからないうちに閃光が止むと戦場の五月蠅さが鎮まっていった。
「何が起きたっ!? 」
不可解な出来事に足が止まってしまう。魔物の気配が消え失せてしまったことも勢いを削いだ。
騎士達は兎に角、状況を確認しなければならないと考え、再び走り出そうとする。そこで、高層建築の上から誰かが降ってきた。
「なにっ! 」
その人物は水糸を器用に操って反対車線に着地すると同時に走る。そのまま騎士達の方、すなわち北へ向かう。
「おおいっ! 」
騎士はその人物に何が起こったのか尋ねようと手を振って声をかける。
「おおっ… 」
だが、すれ違う手前、急激に魔力が膨れ上がる。爆発的な加速で以て振り切られてしまう。
見える背中があっという間に小さくなっていった。
呆然とその姿を見送って数秒の後、ハッとなって我に返ると目的を思い出す。
「先へ進むぞっ! 」
静かになった戦場に向かって再び走りだしていった。
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―闘気術、兎脚
―ドッ!
加速して北門へ向かって急ぐ。なんとなくだが嫌な予感がする。
北が本命と見せかけて~
南が本命と見せかけて~
実は北でした~
とか考えていそう……これを計画したヤツはなッ!
しかし、先ほど騎士達になにやら声をかけられたようだが何だったんだろうな?
まあ、いいか…
ひたすらに北へ真っ直ぐ走る。
ある程度の距離まで来たときに前方に意識を集中させた。何やら不穏な空気が漂い始めているようだ。
大きめのヤツを倒して魔力はむしろ減っているはずなんだけどな…
やはりこれから何かが起こると言うことか…
予感を感じていたらすぐに現実のものになる。デカい気配がぬるっと現れた。これは相当な大物だ。
急がねば…
進んでいくと北門の様子が視認出来るようになった。門の前に馬鹿デカい猿が陣取っている。人間ぽくなっていない普通の猿といった形だ。
強く大きく育てましたって感じだな…
アイツが暴れ出したら尋常じゃない被害をもたらすだろう。さっさとケリをつけたいところだ。
幸いにして相手はこちらに気付いていない。認識の外から一気に攻撃を叩き込んでやろう。不意打ちだ。
一撃で仕留めてやるよ…
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レインは最速最強の攻撃を放つと決断する。その準備を始めていった。
―闘気術、兎脚
再び闘気術で加速する。
―自在電化術式、
空気抵抗による限界の速度まで達したところで雷術を使う。
―雷神装
電子に包まれた肉体は空気抵抗を減らして更に加速する。そこに雷術での加速を加える。
―電子加速
電離ガスがその周りを包み込むと一気に視認が難しい速度に到達する。プラス電荷の粒子を射出してその反動で加速している。荷電粒子噴射加速と表現できるだろう。
―結合術式:【空射加速・斬空加速】
荷電粒子で加速を続けながらも更なる領域を目指して空術を用意していく。
対象との距離は急速に縮まる。
残り200メートル…
そこで“絶雷”を抜き放ち…
―覇空遷移
すべてを振り切って閃光が走る。
獲物の首に向かって伸びる低気圧の回廊を進み、すれ違う瞬間―
―
白熱する刃が閃く。
刃は大猿の首に入り込み抜けていった。
そのまま門を通り抜けるとすべての術式を解除、新たに空術を発動させ減速させながら姿勢を制御する。
進行方向と逆を向いた姿勢になり、路面に両足から着地すると空術で足裏を密着させ摩擦を生み出す。
慣性により数十メートルほど脚を擦って止まった。
視界の先では頭を失った胴体が崩れ落ちるように地面に倒れ込む。
それに遅れて跳ばされた頭部が壁を飛び越え、道路に転がりレインに向かってくる。
やがて断面を下に向けて止まる。顔はレインの方を向いていた。
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―シュゥゥゥ……
体から白煙が上がっている。俺が足を擦った道路のラインからもだ。
一番煙を上げているのは“絶雷”だが…
だが、制御が上手くいったのか体や刀にもそこまで負担はない。清発をして熱を冷ますと刀を鞘に戻す。
しかしながら成功して良かった…
一発で全魔力の半分近くをかけたからな。連発出来るようなものじゃない。躱されていたら後がけっこう厳しくなっていただろう。
状況的に悪くなかったから外すとは思わなかったけどな…
不意打ちがハマったならこんなものか…
視線をこちらに合わせているヤツの頭部をみると、どことなく恨めしそうな顔に見えるのは気のせいだろうか?
俺はヤツの頭に近づくとまじまじと見つめる。
悪く思うなよ…戦いとはそう言うものだ
コイツ自身が何を思って襲いかかってきたのか知らないが覚悟はあっただろう。卑怯とは言うまい。
まあ…、一応、手は合わせておこう…