落ちた首に向かって両手を合わせて一礼する。
そんなことをしていたらジュジュが走ってこちらにやってきた。両手を広げて抱き止めてやると激しいスリスリが始まる。
されるがままにしていると今度はなめなめが始まった。ざらついた舌が肉を削がんとしてきて少し痛い。少し興奮していて力加減が出来ていないな…俺の魔力が高くなかったら大変なことになっていた。
《他の人にはやっちゃ駄目だよ 》
聞いていないみたいだ。まあ、大丈夫か…
そんなことをしていたら街から誰かが出てきてこちらに寄ってくる。着ている服からいって騎士のようだ。結構強いな。副団長クラスだろうな…
「いやぁ~、あんた強いなっ! まさかコイツを一撃なんてなぁ 」
男は興奮しているのか名乗りもせずに開口一番に俺への称賛を口に出してくる。物わかりは良いようだ。もっと言ってくれていい。
「あんた達が注意を引きつけていてくれたおかげだ。うまく不意が打てた 」
俺の方からもお返しをしておこう。事実だしな…
男は垂れ目気味で癖のある髪を長く伸ばした、少しチャラい感じの雰囲気がある騎士だった。暗くてわかりづらいが髪色は金色に近いブラウンで肌の色は浅黒い感じだ。髭を少し伸ばしてワイルドさもある。
「俺はアロッゾ・ヴァンドン。アッシェバーン境界騎士団第二部隊長を務めている。今回ばかりは正直助かった。礼を言う 」
帝国では庶民も名字を持っているのが普通だそうだがこの人はどうなんだろうな?
「俺はレインだ。流れの狩人をしている 」
「実は知っている。シェリンオルテで見かけたことがあるんだ。ギルドの食堂とかでな…すれ違っただけなんでそちらは覚えていないだろうけど 」
アロッゾの言う通り覚えていない。騎士は何人もいたしみんな同じ恰好をしているからな…記録を確認すればわかるとは思うがそこまでするようなことじゃない。
「そうだな…だが、覚えた 」
「そいつは何よりだ…ところでその従魔について聞いてもいいか? 」
アロッゾは先ほどからジュジュの方をちらちらっと見ていた。こちらに歩み寄ってきているときからだ。モフりたいのかも知れない。
「ジュジュという名前だ 」
「そうか、ジュジュって言うのか 」
「強いぞ 」
「強いのは知っているさ。大活躍だったからな…… 」
しげしげとジュジュを眺めると、不意ににんまりと笑みを浮かべる。何か含みがあるような笑みだ。
「ジュジュちゃん、ありがとうなぁ~。おかげで助かったよぉ 」
ねぎらいの言葉と共に笑みを浮かべたままパチリと片目を閉じる。
ウインクか… こちらにもあるんだな…
どういった位置づけかは知らないが、大の大人、それも騎士がやることに違和感がある。見た目だけじゃなくチャラい部分があるみたいだな、この騎士は…。
しかしながら一連の遣り取りに妙に引っかかるものを感じる。なんかねっとりしたものだ。
なんだろうか?
考えていると思いつくものが有った。
こいつ…
まさか…
ひょっとして…
ケモナーってやつじゃないか?
昔、山下から聞いたことがある。動物に対して欲情する人間のことを指すらしい。曰く、上級者向けだとか猛者だとか…。
聞いたときは信じられなかったが今ならわかる。
―こいつがケモナーだ
……いや、確定まではできないか? 確認する必要がある。
だが、正面から聞くわけにもいかないな…
しかし、もしそうであるならば危険だ。警戒するに越したことはない。
「レインはまだしばらくアッシェバーンにいるのか? 」
「……何故それを聞く?」
狙っているのか? どうなんだ?
「いや、なに。礼をさせて欲しいんだ。今はまだ街がこんなだから無理だが、混乱が納まれば一緒に飲み会でもどうかと思ってな 」
飲み会!? 酔った勢いでというやつか…
「い、いや。酒は飲めなくてな 」
「別に酒じゃなくてもいいさ。もちろん、ジュジュちゃんも一緒でいい 」
それが駄目なんだろーが!!
「復興が終わるまでにはここを立とうと思っているんだ。俺は流れの狩人だからな 」
「そうか…次は何処に行くんだ? 」
着いてくる気か!?
「と、とりあえずは東だな。次による場所はわからないが帝国にはいく 」
ホントは決まっているが教えん!
「帝国に行くのか。俺の親戚が帝国の人間なんだ。いい国だぞ、行ってみるといい。それじゃあ俺は任務に戻るとしよう。まだやることがあるんでね 」
そう言うとあっさり引き下がっていく。
? ケモナーじゃないのか? どうなんだ?
と、思っていたら突然振り返りジュジュに向かってウインクをする。
「ジュジュちゃ~ん。それじゃ~ね~ 」
やはりケモナーか!?
ケモナーのアロッゾ…覚えておこう。というか一生忘れられない相手になりそうだ。
俺をここまで(精神的に)追い詰めたのはお前が初めてだよ…
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アロッゾが去ったあと俺達はホテルに戻っていった。途中で警察に呼び止められるかと思ったのだがそれどころじゃないのかスルーされた。
まだ殲滅出来たわけでもないか…残りが細い路地とかにいるかも知れない。下水道の中を確認しないといけないだろうしな。
怪我人の救助もしなければならない。医療関係者は数が少ないから警察と市民で協力して対処していく感じだろうか? しばらく街全体がバタバタしそうだ。
俺に出来ることはこれ以上なさそうだ。役割でもないだろう。
ただ、あとで警察に呼び出されて話ぐらいは聞かれるかも知れない。その間、ホテルで大人しくしているとしよう。
ホテルに到着すると特に混乱もなく営業をしているようだった。この区画はアッシェバーンの西側にあって北からも南からも離れている。
騒動の影響は少ないか…
介入して早々にケリをつけなかったら無事に泊まれていたか怪しいものだな。そこそこ上手くやれたと自画自賛しておこう。
部屋に戻って夕食を取ることにする。ルームサービスはやっているようなので良くわからない料理名から適当に頼む。
料理が運ばれてくるとテーブルの上に並べて早速食べることにする。サラダとか肉と野菜を調味料に絡めて炒めたものとか、豚の角切りと長ネギが浮いているスープとかだ。そこに、もう一皿スープのような深い器が並ぶ。
汁物が被ってしまったのか? ジャンルは外してあったと思ったのだが…
スープよりやや浅くて広い器に白濁したような濃厚なスープが注がれている。粘度が若干高めのようで運んだ時に少しもったりとした動きをしていた。
スープの上には白髪ネギのようなものが中心に盛られ、緑色の葉野菜を茹でたものやみじん切りにされた香草が散らされている。味をつけて炒めた挽肉も見える。
どこかで嗅いだことがあるようなにおいだな…
初めて見るようでいてどこか懐かしさを感じる。
これは……まさかっ!
フォークを手に取ってスープの中を探ってみるとそれは、いた。
麺……まさしく、麺!
幅広で少し厚みがあって縮れた、細長い形状をした麺だ。黄色っぽい色をした小麦製の麺だと思う。ラーメンの麺と言うよりかパスタと言った感じだ。
スープの香りにはとんこつのような香りが混ざっている様に思う。麺料理だと認識を改めるとより細かく識別出来るようになった。スプーンで掬って一口飲んでみるとポタージュのような濃厚な味にうっすらとんこつスープの味を感じる。
スープパスタととんこつラーメンを足したような料理だ…
思いがけない出会いに感じ入っているとジュジュの視線を感じた。
《・・・・・・》
なんだが心配そうに俺を見ている。ジュジュの目には何かトラブルでも起こったように見えてしまったようだ。それほど俺は緊張していたのかも知れない。
《大丈夫だよ… 食べようか… 》
食事が始まるとジュジュは先ほどのことは忘れたようにむしゃむしゃと食べていく。俺はそれを見てから例のスープパスタのような料理に取りかかる。
どのように食べるのが正解かわからないがスプーンとフォークを使うことに決める。箸があったら箸を選択したかも知れないが生憎とここには無い。
フォークで巻き取り口に入れて噛みしめると幅広の麺がもちもちした噛み応えと、ぺなぺなと口の中で踊って口蓋や舌を叩く感触が楽しい。
粘性の高いスープは麺に良く
すべてを飲み込むと麺の小麦の味とスープの風味が一体となって鼻に抜けていく。
これは… ラーメンを食べている感覚が強いな…
麺を啜りたい欲求が高まるがこの形の麺では啜るのに適していない。多分、音を立てて食べることはこちらでは推奨されないだろう。替わりにスプーンで掬って味わうように飲む。
《・・・・・》
ジュジュが食べたそうにしていたので深めの小皿に分けてやる。ジュジュも気に入ったようで良かった。
食べ終わるといつものトレーニングを行い、その後はジュジュの装備について考える。あの猿の魔物が鎧を着ていたり武器や道具を使っていたことに触発された形だ。
以前にも考えたことはあったがなんだかんだでやらないでいた。地力を上げることが一番だし下手にあれこれ持つと本来の力が出せなくなる恐れがある。
とりあえず首輪を改造してみるか…
首輪とウエポンラックを一体にしてそこに煙玉や唐辛子玉を収納出来るようにした。ジュジュの得意な空術を使用してそこからミサイルのように飛ばして敵にぶつける運用方法を考えている。
ラックの扉はバネ機構で通常は閉じられているがそこも空術で開いてから飛ばす構造になっている。
亜空間でサクッと作ってしまうとジュジュの首に着けて感触を確かめつつ微調整をして完成させる。
結構気に入ってくれたようだな。鏡の前で角度を変えながら姿を念入りに確認している。この間喰らった唐辛子玉を、今度は自分が敵に喰らわせてやれることを楽しみにしているだけかも知れないが…。
次は使用感を確かめてみよう
ゴム玉を綿で包んで布で覆った疑似弾を作成する。最初はそれを詰めて練習させてみることにした。
《こんな感じて使うんだ 》
《・・・・・》
念話で説明すると直ぐに使い方を理解したようでまずはウエポンラックを開け閉めして動作の感覚を確かめている。
それに納得したのか次は扉の解放から発射までをワンアクションで行う。パカッと開いた瞬間、一発だけシュッと音を立てて前方に真っ直ぐ飛んでいき部屋の壁に当たる。玉はぼすっと音を立てて床に落下した。
手加減はしてくれているようだな…
本気でやったら部屋が揺れるぐらいの衝撃になっただろう。気が使える仔に育ったようで何よりだ。ジュジュの成長を実感して感慨にふける。
そんな主をよそに次々と発射していく。一発ずつ発射して速度の調整をやってみたり、カーブさせたりジグザクに動かしたり軌道の調整をやってみたりしている。
最後の玉になると自在に操ってコントロールを楽しんでいた。
床に落ちた玉を俺が空術を使ってラックに一遍に戻してやるとそれを気に入ったんだろうか? 一度に全弾発射してはそれを一気に元に戻すことを繰り返していく。
繰り返す度に高度で複雑な軌道になってきている。いい感じに仕上がってきているな… 今日中に熟練の域に達するかもしれない。いずれはホーミング機能を組み込んだ魔術にまで発展することだろう。
ジュジュの訓練は寝る直前まで続いた。