頭が二つの魔物… そう聞いて信じる者はいないだろうな。二匹いたのが重なっていて、首が二つあるように見えたとか分析するのが普通だ。
首が二つなどと言うのは生物学的なセオリーから外れている。地球ではツインヘッドスネークとかいたけど、それにしたって生存に有利というわけでもない。ましてや哺乳類ならなおのこと。
もう既にこの事で笑われたのかも知れない。だから言いにくかったんだろう。
「なるほどな。依頼というのはそいつを発見して討伐して欲しいと言うことだな 」
「信じてくれるのか? 」
「…いや、信じたわけでもない。狩人というのは基本的に自分の目で見たものしか信用しない。信用するとしてもそれは信用するに足りる根拠や関係性があってのことだ。俺とニルスの間に信頼があるわけでもない 」
「そっそれじゃあ依頼は… 」
「残念だが受けることは出来ないな 」
「ちっ……そうかよ 」
そう呟くと悔しげな表情を顔ににじませ下を向いた。期待を裏切ってしまったかな? だがそんなに悲嘆することでもない。
「今は、まだな… 」
「今は…? 」
俺の言葉に反応して顔を上げる。俺はそれに対して正面から向き合って言う。
「自分の目で見たならば信用出来ると言うことだ。確かめに行くとしようか、魔境にな。案内してくれるだろう? 」
「…あっ、あたりまえだろ! レインじゃここの魔境はわかんねーだろうからなっ! 案内は任せてくれよ 」
俺の言葉に数拍ほどぽかんとした表情を浮かべたあと飲み込めるようになったのか前向きな言動を見せてくる。花が咲いたように明るい表情を浮かべる様になった。
本当は連れて行きたくなかった。だが、そう言うと逆に意固地になって危うい行動を取るかも知れない。だから、最初から誘ってみた。
こちらの目が届く範囲に置いた方がかえって安全だろう。ニルスの誇らしげな態度を見るとそれは間違いでもなかったと思えてくる。見習いでも魔物使いと言うことなんだろう。
それに、ニルスの言う通り、俺はここの魔境について知らないことも多いからな…
「ただし、探索を始めるのは明日からだ。俺達の準備もある。それと危なくなったら俺達のことは放って置いて逃げること。いいな? 」
「逃げるなんて出来ねーよ。これでも少しはやれるんだぜ 」
「駄目だ。約束出来ないなら置いていく 」
少しだけ魔力を解放してすごんでみせる。こちらが本気であると伝えておかなければならない。
「わっ、わかったよ。危なくなったら逃げる 」
「それでいい 」
若干不安はあるが了解は得られた。たぶん無茶なことはしないだろう。ここぞという時は、ニルスの小さな相棒が率先して主人を守るはずだ。
「……そう言えばニルスの従魔はなんていう名前なんだ? 」
聞くのを忘れていた感がある。もっと早くに聞くべきだった。
「ペコって言う名前なんだ 」
「ペコか。確かにペコって感じだな。あっている名前だと思う 」
「そっちはなんて名前なんだ? 」
「ジュジュという名前だ。気軽に呼んでくれていい。一緒に戦う仲間だしな 」
「仲間か… なんかいいな 」
あまりこういったことを経験したことがないのか感じ入っているようだ。これを切っ掛けに成長してくれれば何よりだよ…。
それなりに距離が縮まったところで少し聞きにくいことでも聞いてみるか…
「ところで、ニルスは学校には通っていないのか? 今日は平日のはずだが… 」
不登校とかこっちにもあるんだろうか? 親御さんは何をしているんだろう?
「ん? 今日は祝日だぜ。知らねーの…ってそうか、レインは流れだって言ってたな 」
「祝日か、確かにこの国のことは知らないな… どうりで街に人が多いはずだ 」
狩人に休日なんてものはないからな…
あまり気にしたことがなかった。この国どころかレイゼルトの祝日すら知らない。
「今年は日の並びがいいからな。四連休になるんだ。これからもっと人は増えるよ 」
「そうか… なら早めにケリを付けないとな 」
「だねっ 」
その後、俺達は明日の予定を話し合うと一旦別れることにした。
最後にあれをやっておくか…
「ニルス、これは依頼じゃないからな、俺達は組を作ることになる 」
「組って? 」
「まあ、仲間って事だ。手を出してくれ 」
「こう? 」
俺はニルスが出してきた手を握り固い握手を交わす。そこに上からジュジュが手を乗せてくる。
ペコに目配せをしてやると直ぐに理解したようで椅子から机の上に飛び乗って小さな手を添える。
これで組が成立した。
まあ、狩人同士ではないがお互い魔物使いだからいいだろう。
「これで対等と言うことだ。自分の役割を考えて無茶な行動はするなよ? 」
「う、うん…… わかったよ 」
責任感がないわけでもないんだろう。街のために行動しようとしているし…むしろ責任感はあり過ぎるぐらいだな。だからこそ
これで少しは自制してくれればいいんだけど…
個室から出てニルスが去って行くのを見送ると再び職員を呼び出して情報収集の続きを行う。
「すまないな… 二度手間になってしまった 」
「いえ、こちらこそ申し訳ございません。面倒な対応を押しつける形になってしまったようで… 」
やはり職員にとっては迷惑な客に写っていたようだ。
まあ、当然か…
「いや、そうでもない。なかなかに面白かった 」
「…まさか依頼をお受けになられたんですか? 」
「受けてはいない。だが、一緒に探して見ることにした 」
「信じたんですか? あの子を… 」
「まんざら与太話でもない気はしている 」
ニルス一人だけだったら信じなかったかも知れないがペコもいるからな。従魔だったら人間とは異なる感覚で捉えているだろう。そのペコが否定していないなら真実である可能性は高まる。
「そうですか…止めはいたしません。しかし、まだ子供ですから。彼の安全にはレインさん、あなたが責任を持ってください 」
少し非難するような感じでこちらを見てくる。まあ、そうなるよな。
「もちろんそのつもりだ。たとえ俺が死んでもあいつは生かして返す。死ぬつもりはないが、な… 」
「そうですか… それならば… 」
百パーセントではないだろうけどある程度納得してくれたようだな。上級狩人の言葉はそこまで軽くない。
「それより聞きたいことがあるんだがいいか? 」
「はい、なんでしょうか? 」
「ここのギルドに所属している狩人達の死亡率に変化はあるだろうか? 特にここ十年ぐらいの変化を知りたい 」
「死亡率はここ三十年ぐらいこれと言った変化はないですね。直近の五年間ほどは平均と比較すればやや高めですが誤差の範囲内と言っていいでしょう 」
死亡率に変化無しか…
それならばそこまで危険が差し迫っているなんてことはないのかも知れないな。例のヤツがいると仮定して活発に人間を襲うなんていう性質はないと言うことか?
「では、魔物の取れ高に変化はないだろうか? 特に深層の方で…年ごとの変動幅が増えていたりしていないか? 」
「良くおわかりですね。十年ほど前から徐々に変動幅は増加する傾向にあります。ですが異常と言えるほどでもないです。変動する要因はいくらでもありますから 」
これも目だったことはない、か…
総合して考えると人間より魔物を好んで襲う性質がありそうな気がする。だが、単に生息域が深いだけとも考えられる。ニルスが目撃したぐらいだから偶に浅めのところに移動してくる感じだろうか?
むしろ、人を避ける傾向にあるのかも知れない。
ニルスはどこで遭遇したんだろうな?
かなり低い確率を引き当てたようにも思える。ペコの持つ能力が関係しているんだろうか? ニルスの案内無しではキツいってことか…。
巻き込むようにしたのは別の理由からだが、かえって正解だったんだろう… 多分…。
その後も職員から情報を集めていき、納得するとギルドを後にする。
明日から魔境に入ることになってジュジュの機嫌は持ち直した。楽しみが出来てワクワクしている感じだ。
《・・・・・》
しかし、興奮が過ぎている感じもある。
本番前に一暴れしたい気持ちになっているな…
このまま放置しておくのは良くない。仕方がないので暴れることが出来そうな場所を目指すことにした。川沿いの大通りに出て上流側に向かう。
川に沿って魔物が降りてきた場合に備えて建設された施設であり騎士団の詰め所にもなっている。中に人が何人も住めるぐらいの居住スペースがあると聞く。外観からしてかなりデカい。
そのまま川沿いの道を進めば、人が通れるような扉に突き当たる。そこから上流側に行けるようになっていた。基本的に騎士が使うための通路だろうが狩人ならいけるはずだ。
一般人だったら止められるだろうけど…
門を守る騎士に止められるが、身分証を提示して通過することが出来た。一応、何のために外に出るのかを聞かれたので従魔の訓練をすると伝えておいた。
特に変わった反応はなかったのでおかしな事でもないようだ。異例すぎて取るべきリアクションがわからなかったのかも知れないが…。
街の外に出るとそのまま進んでいって防護壁から距離を取る。十分に離れると川岸に降りて訓練… もとい遊びを開始する。
水のある場所だから水術を絡めた遊びをしていこう。水流の中に飛び込んで足を付けるとテニスボール大の水弾をいくつも作り出して放っていく。
ジュジュはそれに対して左右にステップを踏みながら巧みに躱していく。躱しながら俺に向かって接近していき川の中に入ると同じように水弾を放ってくる。
避けても良かったがそれだと芸がないと思い正面から受けることにする。
―水壁
俺の足元から水がせり上がって壁を作るとジュジュの水弾を吸収して無効化していく。
場所を移動しながら水弾を放ち続けてくるのでそれに合わせて壁を動かして防ぐ。するとジュジュが上流を取る位置に来る。
仕掛けてくる気だな…