はやる気持ちを抑えつつ、足の裏から地中に向かって魔力を流していくと確かに何かがある。地下三メートルぐらいのところだ。
「おおっ、確かに何かあるな 」
「なんで嬉しそうなのさ… 」
ニルスのつっこみを無視しつつ神経を集中して細かく探りを入れていくと、かなり大きな箱形の物体が埋まっているとわかった。石のように硬い。きっちりした直線で出来ていて、明らかに人工物といった感じがする。
「これはなんだか怪しいな…よし、地面を掘って確かめてみよう。離れていてくれ 」
「キューッ! 」
ペコは俺のやる気に応えるように鋭く鳴く。やっちまえと言っているようだ。
絡帯がなくても伝わるのは経験がなせる技なのか…
離れたことを確認すると土術で掘り進めていく。出る土を人がいない場所に飛ばしていき、あっという間に直径二メートルほどの縦穴を目標まで通した。
穴の周辺の土を固めて、掘削作業は完了する。
上から中をのぞき込むと、白っぽい灰色の平面が露わになっていた。
まだ、結論には早い。だが、人工物なのは確定か…
下に飛び降りてみると、着地の衝撃から硬さが伝わってくる。コンクリートみたいだ。
はぁ… がっかりだよ
土の中のコンクリートが三、四百年もこんなに綺麗な状態を保っていられるわけがない。魔力格もそこまで高くはないようだし…。これはそこまで古い物ではないようだ。
「何かわかった? 」
穴をのぞき込んでいたニルスが声をかけてくる。上を見上げると視線があった。
「遺跡ではなかったようだ 」
「遺跡って? 何の話? 」
そう言えば話してなかったな。何のことかわからないか…まあ、話す気にはならないが。
それにしても、かなり深い位置にあるものだ。見上げると改めて感じる。ペコは歩きながら、こんな所まで把握していたと言うことか。しかも、人工物ってところまで気付いていたような節もある。
「ねえ、関係ないならほっといて先を進もうよ 」
「キュッ! 」
先へ行こうというニコルに対して、ペコは抗議の声を上げる。ペコにとっては例の魔物よりもこちらの方が重大なことらしい。
しかし、人工物か… 改めて考えてみると、こいつは一体何なんだろうな?
流石に発見した以上はこのまま放置ってわけにもいかないだろう。ペコもそう言っている。
「もっと詳しく調べてみよう 」
自分が作り出した土壁に手を触れると魔力を流していく。
―魔力域、展開
コンクリートに沿って広げていく。想像していたよりずっとデカい…というか長い。どうやら通路のようになっているらしい。限界まで広げてみるが終わりまで到達しなかった。
「何かわかった? 」
「相当デカくて長いぞ… これ… もしかしたら通路かもな 」
「通路? こんな所に? 」
ニルスも不思議がっているな。それは当然だ。深層の地下に通路なんて、どう考えても不自然だろう。
俺は腕に魔力を込めると思いきりコンクリ製の床を殴りつける。
―ゴッッッ…!
「うわっ! なんだよっいきなりっ… 」
響き渡る鈍い音と衝撃にニルスは驚愕と抗議の声を上げる。俺はそれを無視して手に跳ね返ってきた感触から構造を分析していく。
結果として中空構造になっていることがわかった。四角くて長いコンクリ製の大きな管…これはもう通路で間違いないだろう。
「中は空洞だ。通路だな、これは…」
「…どうするの? 」
「壊して入ってみる 」
―雷光刃
返事を待たずに“絶雷”を抜き放つとコンクリートに突き刺す。刃先が突き抜けたことを手に伝わる感触で把握すると、自分を中心にして一回転させて円形にくり抜いた。
くり抜かれた部分と一緒に落下していく。
視界は急激に暗くなった。数秒も経たないうちに足裏から衝撃が登って来た。通路の底についたとわかる。
中に光源は無く暗い。だが、自分が開けた穴から多少は光が入り、暗視強化で十分に視界は確保出来た。周囲を見回すとわかってくる事がある。
一見して光源は無いように思えたが、通路の片側から微かに光を感じる。その方向に進めば外に出るか、あるいは人がいるような施設に出くわすかも知れない。
これは放っておけないな…
俺はアッシェバーンの出来事を思い出していた。あの魔物達は、いつの間にやら作られていたコンクリート製の地下道を通って下水道に侵入し、地上に出て来ていたと聞く。
今、目の前にあるものに同じような怪しさを感じている。犯罪者は他人から見えない地下で暗躍するものなんだろう。アッシェバーンの件と関係あるのかわからないが、きな臭さは鼻をつまみたくなるほどだ。
だが、調査する前にニルスと話し合うことにする。
さっきから声をかけられているしな…
ポンと真上に飛んでコンクリートに足をかけると、二段飛びで地上に出た。
「中は予想通り通路になっていたぞ 」
「変…だよね? 」
「そうだな。こんな所にまで道を通すヤツなんて異常者の類いだろうな 」
「レインはアイツと関係があると思う? 」
「なんとも言えないが、可能性は十分にあるだろうな…まあ、中に入ればわかる 」
「中に何かあったの? 」
「何かがあったわけでもないんだが…入ってみるか? 」
俺の問いかけに少しビビったのだろうか? しばらく黙っていたニルスだったが、やがて
「……う、うん 。入ってみるよ 」
「善しっ、だったら俺が抱えて降りよう 」
「えっ、ちょ、ちょっと… 」
了解も取れたので、ニルスをお姫様だっこするように抱え、一気に下まで飛び降りる。着地する直前、潰れて破裂するエアクッションを生み出して衝撃を殺してやると、何の衝撃もなく着地することが出来た。
その場から少し移動してニルスを地面に下ろすと、今度は背中にペコを乗せたジュジュが降りてきてスタッと華麗に着地を決める。魔術は使っていない。
流石ネコ科だなと思いつつ、まだ
「目は慣れて来たか? 」
「うん… 」
「ならここの広さはわかるな? 例の魔物と比べてどうだ…通るには十分だろうか? 」
「……そうだね。ちょうどいいぐらいの高さじゃないかな? 」
天井の高さは三メートルと少しぐらいだ。道幅もそれぐらいある。体高がそれぐらいのオオカミか、体長となると…かなりデカいな。
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(別視点)
リエラとダンは一軒の民家の前に来ていた。オリバーが拠点への入り口に使用していた家だ。
ここに辿り着いたのは、役所に出向き、資料を丹念に洗った結果だった。
アッシェバーンの経験から地下に施設を作り上げていると考えた。その際、街の真下に広げるのでは温泉の水脈が邪魔になる。必然として、魔境側に通路を伸ばしていき、そこで拡張していくものと推測する。
魔境側に通路を伸ばしていくならば街の北側に入り口を設けると仮定した。まず、北側にあって所有者が狩人や騎士ではない家に絞り込んで当たってみることにした。
狩人でいるには狩猟ギルドに対して定期的に一定以上の成果を出さなければならない。その身分を維持していくのは難しい。騎士団は素性の怪しいものが入り込むのは不可能だ。
そのため、一般的な身分で登録している家を探せば良いことになる。北側においてそのような家は多くないのでだいぶ絞り込める。あとは目星を付けた家の周りで聞き込みを行い、人の出入りや近所付き合いが見られない家を探した。
そうして、この家だと結論づけたのだが、玄関を前にして直ぐに当たりだと二人は確信した。
ダンがこぼす。
「扉が鉄術で接着されているな…普通じゃないぜ 」
「ここで間違いなさそうね。開けられる? 」
「ああ 」
取っ手を掴むと魔力を流し込んでいき癒着部を解除する。かかっていた鍵は鉄を含む金属製の物だった。それを鉄術で解錠して、扉は開くようになる。
二人はためらいなく玄関を開き中へ入っていく。中に人がいないことは魔力でわかっていた。
地下への入り口を探すことが目的であるが、まずは、家の中を調べる。ここへ出入りしている人間の情報を得るためだ。
調度品が整えられ、冷蔵庫の中には食料も入っていた。見た目には生活感がある。清掃もされていて、几帳面な人間がここに住んでいるのだと思わせる。
しかし、見えてくる生活がどことなく作り物めいているように二人には感じられた。整えられた舞台のように細かな部分に人の痕跡を感じられない。
これを用意した人間は相当に用心深い人間であると判断する。
リエラが空術で家の床下を探っていくと、地下に続く扉は直ぐに発見出来た。木製の床材を工具で引き剥がし、土の地面から突き出た金属製の扉を目視で確認する。
突入する前に、二人は戦闘用の服に着替え装備を調えていった。全身を黒ずくめにして、目以外のすべてを覆う。近代的で機能的な意匠の防具をその上から身につけていき最後に武器類を装備する。
「仕掛けがないか確かめてみる 」
数分で準備を整えると、ダンが床下に降りて扉に触れ魔力を流していく。構造を把握し、調べ上げた結果をリエラに伝える。
「何も仕掛けられていない。先には階段が続いているだけだ 」
「了解。進もう… 」
ダンが扉を開けると、その言葉の通り中には階段がある。二人はためらいなく階段を降り、闇の中に入っていった。