機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第262話 接触、捜査官 x オリバー

四つ手熊の死を確認すると、二人はまず、お互いの状態を確認し合った。

 

「大丈夫か? 」

「ああ、おかげさまで直撃は避けられた。行動に支障はない 」

「そうか… だがそれなりに消耗している。切り札まで使わされた。コイツと同等以上の敵が残っているならきついだろう 」

「そうだな… もし、いたなら戦闘は避けることにするか。魔物の殲滅が目的じゃない。先に進むことを優先しよう 」

 

少しだけ息をつき、先へ進んでいく。これまで以上に慎重に索敵をしながら進まざるを得なかった。

 

「待てっ… 魔物がいる 」

 

熊が守っていた区域を出て直ぐのところに、リエラは新たな魔物を発見した。しかし、不思議と敵対的な魔力は感じられない。

 

大した脅威にならないと判断し、そのまま進んでいくと、通路の真ん中にそれを発見する。

 

背中から蝶の羽を生やした芋虫のような魔物だった。魔物と言うにはとても小さい。握りこぶし程度の大きさだ。接近しても、何をするでもなくじっとしている。

 

扱いには困ったが、妙な能力を持っていたら厄介だと考えた。とりあえず、小刀を離れたところから投げてみる。すると、その一撃で絶命したようで生命の気配は消える。

 

死んでも、特に何も起こらなかったため、そのまま通り過ぎた。二人は何だったのだろうと訝(いぶか)しんだが、通り過ぎると気持ちをすぐに切り替え先に進む。

 

その魔物はオリバーが連絡用に置いていた魔物だった。もしも、熊を突破された場合、連絡をするよう命じていたならば、有効に活用することが出来ていただろう。しかし、無駄に命を散らすことになってしまった。

 

二人はそれ以降も慎重に進んでいったのだが、魔物の気配を感じることなく順調に進んでいく。

 

すると、施設の中枢に到着したらしく、それまで一本道があるだけだったのが、階段がある吹き抜けのような場所に辿り着いた。

 

階段を上った先には扉があり閉まっていた。慎重に開けていくと、扉の先には明るく照らし出された通路がある。事前に魔力で確認した通り、魔物も人もいない。

 

通路のところどころには部屋に繋がっているであろう扉が見える。

 

近くにある扉を開けて中を確認すると所狭しと棚が並んでいるのが見えた。どうやら、物資を保管しておくための部屋であるようだ。

 

今は役割を終えているのか、どの棚もスカスカになっている。残っていた物資を調べると食料品だった。ここに来る前に遭遇した魔物達に与えるための物なのかも知れない。

 

もっとも、施設の規模を考えると人間の数も相応にいたと考えられる。魔物だけでなく人間用もあるはずだが、そう言った調査は今の二人がやるべきことでもない。

 

この辺りの部屋はすべて倉庫であると見切りを付ける。入り口からリエラの空術で人が隠れていないかを確認するに留め、この区域をさっさと抜けていく。

 

調査を進めていくと、また階段を見つけて上る。そんな時だった。二つ上の階層にある扉がわずかに開いていることをリエラの空術が捉える。そのことについて話し合うことにした。

 

「二階先の扉が開いている。人が通った痕跡だと考えられるがどうする? 」

「二人だけで探すには広すぎだな… そこに行ってみよう。何かの手がかりになるかもしれねぇ 」

 

手短な遣り取りの結果、階層を飛ばして探索する事になる。

 

わずかに開いている扉まで来ると、リエラは階段から扉越しに気配を探っていく。周囲には誰もいないようだが、何となしに空気の中に異質なものを感じた。

 

はっきりと言葉に出来るようなものではない。だが、リエラの感は何かがあると囁いている。

 

「気をつけろ。何かがあるかもしれない… 」

 

ダンに注意を促すと、扉をゆっくりと開けて中に入っていく。

 

リエラは自分の勘を頼りに進むことに決めた。途中にある扉を無視して真っ直ぐに進んでいく。

 

「……! 待て 」

 

しばらく進んでいくと自分の感覚に何か引っかかるものがあった。ダンを静止させて自身も立ち止まる。

 

意識を集中させて、より注意深く探っていく。微かな物音すらしない、静かな時間が流れる。

 

やがて、納得したのか静寂を破るように口を開いた。

 

「人がいる 」

 

ダンがその言葉にこくりと頷(うなず)き返すと追跡が始まる。

 

気配を特定したとき、対象に動きはなかったが、追跡を開始してしばらくすると動き始めた。

 

動くことでむしろ、より気配がはっきりとわかる。

 

周囲の警戒をダンに任せて動きを追っていくと、対象はこちらから逃げるような動きを取っているのが見て取れた。

 

「相手もこちらの位置がわかっているようだ… 速度を上げるぞ 」

 

ダンからの返事を待つことなく小走りになって追跡していく。

 

#

追跡者から遠ざかるように施設内を移動する。

 

しかし、追跡者との距離は開いていかない。途中で何度か魔術を使用して壁を通り抜けたりもしたのだが、その都度的確に方向を変えて来る。

 

(何かしらの方法でこちらの位置を把握している… おそらく魔術…だが、これほどの距離で… しかも混凝土(コンクリート)で遮蔽された場所だぞ )

 

オリバーは相手の魔術の正体に心当たりがなかった。

 

自分と同じく混凝土に魔力を流しているのかとも考えて探りを入れてみたが違うようだ。混凝土にはオリバーの魔力しか流れていない。

 

そうこうしている内に追跡者は速度を上げてきた。オリバーも負けじと速度を上げる。

 

不意に天井に張り巡らせた換気管が目に映る。

 

(まさか、空術か… )

 

オリバーも空術は使える、さほど得意ではないが。しかし、探りを入れても相手の魔力を空気から感じ取れない。

 

誤魔化すことは技術的に可能ではあるが、この状況でそれを行えるのは上手すぎる。

 

そのため確信が持てないでいた。

 

(やるだけやってみるか… )

 

空気に魔力を流し込んでいき妨害を試みる。

 

#

「むっ、気付かれたようだ 」

 

空術による索敵を妨害されたようで、突然、捉えていた相手の位置がぼやけてしまう。思わず声に出してしまうが、それでも足を止めることなく追っていく。

 

「追跡は大丈夫か? 」

「何とかなりそうだ。方角は十分にわかる 」

 

正確な位置はわからなくなった。しかし、妨害を受けている範囲が相手のいる範囲を教えてくれる。その中に必ず相手はいるはずだ。

 

対象と繋がる最短の経路は導き出せなくなったが、その分を勘と移動速度で補うことは出来る。

 

更に速度を上げて追跡が始まった。

 

#

索敵を妨害し始めてからも追跡者はオリバーを追ってくる。

 

妨害する前と後を比べてみると、多少、追跡の精度は落ちたような気がする。しかし、動きを早めたようで、速度そのものは変化していない。いや、むしろわずかだが上がっている。

 

そのため、相手が空術を使用しているのか、妨害が有効なのか確証が持てないでいた。

 

(空術なのか? 空術じゃないのか? どっちなんだ? )

 

逃げながらも思考を巡らせていく。

 

打開策が見いだせないまま逃走と追跡は続き、とうとう迷宮部分から出ることになる。侵入された時に、相手を攪乱するように作っていたが、目的を果たせなかった。

 

追跡者は後ろから追ってきている。そして、それ以外にも問題はある。

 

レインがいる位置も、徐々にオリバーの元に近づきつつあった。今はまだ別の階層にいるのだが、遭遇するのは時間の問題であるように思われた。

 

もしも、レインの位置を把握することをやめ、空術の妨害に集中していれば、追っ手をまくことも出来ただろう。しかし、それはオリバーには難しい判断だった。

 

オリバーは考える。

 

このまま追跡者を撒くことなく、逃げ続ければ逃げ続けるほどに挟み撃ちになる可能性は高まる。

 

ならば追跡者をここで始末するか、それが出来なくても足止めをして距離を取り、一旦、身を隠す選択を取った方がいいだろう。

 

始末することが最善だが、戦闘が長引いた時が問題だ。レインが戦いを嗅ぎつけて、真っ直ぐにこちらへと向かってくる可能性もある。時間的猶予はそこまでない。

 

考えをまとめると、戦いやすく逃げやすい場所に移動し、そこで追跡者を待つことにした。相手次第で如何様(いかよう)にも出来る体勢を整える。

 

自らが作り出した混凝土(コンクリート)へ魔力を流し、魔術を構築していく。完成すると、あとは追跡者を待つだけだ。

 

それでも、直接対峙してから見極めなければ判断しようがないと覚悟を決めた。

 

#

「………相手の動きが止まった 」

「相手はこちらに気付いているんだろう? 罠か? 」

「わからない… わからないが、他に人間や魔物の気配はない。単純にこちらと戦うことにしたようだが… 」

「まあ、行くしかないようだな… 時間をかけるほどに、何かを用意されるかもしれん。こちらを警戒させて時間稼ぎするのが目的ってこともある 」

「ああ… いこう… 」

 

今まで人間とは遭遇しなかった。今追いかけている相手が、ここにいる唯一の人間であるのかも知れない。そう考えると、絶対に逃すわけにはいかなかった。

 

多少の危険性は織り込んで進んでいく。

 

すると、少し広めで、真っ直ぐに伸びる通路に繋がった。ここを折れたその先に対象はいる。

 

ゆっくり通路に出ると、離れた先で一人の人物がこちらを出迎えるかのように立っていた。

 

その姿に覚えがある。

 

捜査資料の中に写真があったことを思い出した。容疑者としては上がっていなかったように思う。意外な人物と言えばその通りだろう。だが、納得がいく人物でもあった。

 

(オリバー・ステイン… )

 

アッシェバーン中央大学に勤める教授、とても優秀な人間なのだろう、賢者と称されるほどに。

 

アッシェバーンとフルカヴントにこれ程の地下施設を建造出来たのも、猿の魔物の軍勢を用意出来たのも、合成して繋ぎ合わせたような魔物を作り出したのも、この人物なら出来ても不思議ではなかった。

 

もっとも、流石に一人では無理な話だ。どこかに協力者がいるはずだ。そして、すべてを主導的に行ったとも思えなかった。

 

何とか生きたまま捕縛したいところだ。聞きたいことは山ほどある。しかし、それが出来るほど甘い相手にも思えなかった。

 

全容は見えないが、感じられる魔力の一端から察するに、オリバーの魔力は膨大なものだ。比較すれば、こちらとは子供と大人ほどの開きがある。

 

いくら戦闘経験で分があるとしても、殺すつもりでやらなければやられるのはこちらになるだろう。

 

警戒しながらも、ゆっくりと近づきつつ意思を固める。

 

相手の方が魔術の有効射程距離は長いはずだ。既に間合いの中にいると自覚して、最大限の注意を払いながら進む。

 

しかし、特に攻撃を仕掛けてくるでもなく、オリバーは佇(たたず)んでこちらをただ見ているだけだった。

 

やがて、何事もなく自分たちの間合いに入るとそこで足を止める。これ以上踏み込めば、相手から攻撃が来る。経験から理解した。相手の微妙な魔力の動きや、体の緊張具合からそれが伝わってくる。

 

 

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