機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第263話 捜査官 X オリバー

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(ふむ、不用意には飛び込んでこないか… )

 

そのまま近づいて来るのであれば、既に仕掛けてある混凝土術で串刺しにしてやろうと思っていた。だが、それを見抜いたのか、相手は直前で止まる。

 

そのことから相当な手練れだと判断する。

 

簡単な相手ではないとわかると、始末するよりも、追い払うことを優先することにした。相手が攻撃を仕掛け、刃が自分に届く直前を狙って仕掛けると決める。

 

だがその為にも、相手から攻撃させる必要がある。今はにらみ合いをしているだけだ。互いに動かない。

 

このまま待ち続けるには、オリバーにとって不利に働いている要素があった。

 

レインの存在だ。

 

今は動きを止めている。しかし、いつ動き出すのか、どのような動きをしていくのか見当がつかない。

 

悠長に睨み合っている時間が惜しい。そこで、オリバーは挑発をしかけてみることにした。

 

舌戦が始まる。

 

「君たちは一体誰なのかね? 何の用なのかな? 私はただ、ここで自分の研究をしているだけなんだがね? 」

 

とりあえず、一般人が普通に抱くような疑問から入ってみることにした。お互いに敵であることを理解した上でだ。こちらに余裕があると示しておきたい。

 

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(何が狙いだ…… )

 

この期に及んで、話しかけてくることに意味が有るとは思えない。何かしらあると考えられた。

 

しかし、膠着した状況の中、話に乗ったところで何がどうなるわけでもない。

 

ダンはつきあってみることにした。

 

話しぶりからするに、こちらを挑発したいように感じる。だが、逆に挑発し返してやろうと思い至った。

 

「俺達は帝国騎士団だ。お前を逮捕しに来た。大人しく投降するなら、命だけは助けてやる 」

 

命のところを強調して言う。死ぬことを想起させることで、生への執着を呼び覚まし、精神を揺さぶってやろうとした。

 

実際には、ここで殺すつもりだが、はったりをかます。

 

「命? クッ、ハッ、ハハハハハッ! 」

 

だが、オリバーにダンの言葉を聞くつもりはないようだ。

 

「何がおかしい 」

「自分のやりたいことが出来ないならそれは死んでいるのと変わらんよ。そんな命に一体、何の価値があるというのだね? 」

「死ぬことは恐くねえってか… だが、実際に死を前にしてもそんな口がきけるのか… 試してみてやろうか? 」

 

ダンはオリバーを鋭い目線で睨み付けると、魔力に殺気を乗せて叩きつける。普通の人間ならば、縮み上がるどころか気絶をしかねない本気の殺意だ。

 

しかし、オリバーは平然とその場に立っていた。魔力には微塵(みじん)もゆらぎがみられない。

 

「果たしてそれがオマエたちに出来るかな? 」

 

正面から言葉を返すオリバーの姿が、ダンにもリエラにも大きく見えた。

 

決して気圧されたわけではない。二人とも帝国の影の仕事に携わっている。人を殺す訓練すら積んできた。ただの研究者であるオリバーに、気迫で劣る要素は何一つない。

 

だが、百年以上も自分の実力をもって縦(ほしいまま)に研究し続けてきた。その自負がオリバーという存在を支えている。これからも好きなように研究していかんとする意思が、溢(あふ)れんばかりの生命力となってほとばしっていた。

 

オリバーから感じる魔力を通し、二人にそれが圧(の)し掛かってくる。

 

非戦闘員だと思っていた。ただの研究者でしかないと。

 

しかし…

 

想像していたよりも手強い…

 

認識を改めると更に魔力を高める。相打ちになる覚悟で攻めると決断した。

 

二人の内どちらかが生き残ればいい。いや、全滅したとしても、オリバーを殺せるなら問題ない。後に残してきた部下達が処理を行うはずだ。

 

そんなことを考える。

 

二人に呼応するかのように、オリバーも魔力に戦う意思を込めていく。

 

無言の空間に緊張が高まる。

 

そして、二人は同時に踏み出そうと足に力をこめた。その瞬間、オリバーは予想もしない行動に出る。

 

くるりと二人に背を向けて、すたすたと歩き出したのだ。

 

 

 

(…逃がすかっ! )

 

一瞬の間が空いたのち、二人は遠ざかる背中に向かって飛びかかる。

 

それを待ち構えていたかのように壁、床、天井が変化していった。

 

混凝土(コンクリート)がグニャリと変形し、幾本もの棘が生えてくる。四方からオリバーの姿を覆い隠すように伸びてきて、その鋭い先端をリエラに向けた。

 

防御は間に合わない。棘の隙間を縫って空術による攻撃を試みた。仕留めることは出来ないだろう。だが、最後に一撃でも食らわせてやろうという気になった。

 

伸ばした剣の切っ先から魔術を放とうとした瞬間、リエラは横から衝撃を受けて壁に叩きつけられる。

 

視線の先には棘により串刺しになったダンの姿が見えた。

 

#

追跡者を撒くことに成功したオリバーはいざというときのために用意しておいた避難用の隠し部屋に向かっていく。

 

そこで、ゆっくり計画を練り直そうと考えていた。

 

その道中、先ほどの戦闘について思い返す。

 

(まさか、あれで仕留め損なうとは… )

 

自分の講じた策が見事に嵌まり、これ以上ない絶妙な攻撃を放ったと思った。やる前は、運が良ければ一人は殺せる程度にしか考えていなかった。ところが、予想以上の出来栄えに、殺せるという確信に至っていた。

 

しかし、実際には違った。

 

どう防いだのかわからないが、確実に殺したと言えるだけの手応えを得られていない。

 

戦闘経験の浅い自分には殺し損ねたと感じられただけで、実際は死んでいるのかも知れないが、そう考えるのは甘さであると切り捨てる。

 

魔術で探っても瀕死なのか死んでいるのかを判別することは出来ていない。

 

(まあ、撒(ま)くことは出来た。今はそれで良しとしよう )

 

レインの反応も動き出している。ここからすぐ上の階層まで来てしまっていた。最短距離を走れば一、二分で来られてもおかしくない。

 

先を急ぐ。

 

(それにしても帝国騎士団か… おそらくは本当のことだろう。騎士団の中でも闇に属する人間… 一筋縄でいかない相手なわけだ )

 

相手への評価を一段引き上げた。だが、まともに戦ったところで自分には勝てないだろうとも考える。

 

今の段階では邪魔な存在ではあるが、致命的な事態を引き起こすことはないという評価に留まった。

 

オリバーの意識はあくまでレインに向いている。

 

隠し部屋に続く壁に到着すると、何もない壁に右手を当てる。すると、壁がグニャリと歪んで、体は呑み込まれるように沈んでいった。

 

やがて、体が完全に壁に吸い込まれて見えなくなる。そこには、先ほどと何一つ変わらない混凝土(コンクリート)の壁があるだけだった。

 

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施設内を探索していると、微かな振動を床から感じた。微妙に空気まで振動しているようだ。

 

そして、強力な魔術を使用した時に生じる魔力の膨張も、わずかながら知覚することが出来た。何かしらの戦闘があったようだ。

 

この魔力の感じには覚えがある。ジュジュの使える最大の魔術、荷電粒子咆だ。間違いない。

 

どうやら、待ちきれなくなって移動したらしい……

 

…早くないか?

 

まだ二十分も経っていないように思えるんだけど…

 

しかも、あの魔術を使用したって事は戦いも終わりの方だろう。

 

実質的には十分ぐらいしか待ってないんじゃないかな…

 

早くないか?

 

まあ、予測していなかったわけじゃない。

 

ジュジュが負けるとは思っていないが、あれを使ったなら激しい戦闘だったのだろう。

 

ちょっと心配だ… 探してみるか…

 

壁に手を当てると、コンクリートに魔力を流していく。鹿から得た石魔術の応用でなんとか出来ている。

 

コアの補助も使用してぐんぐんと伸ばしていく。そして、大体の位置は把握することができた。そこに行くまでの経路も大体わかった。

 

直線距離ではそこまで離れていないが、回り道をしなければならない。

 

探索もそこそこにして足早に進んでいく。それでも索敵は十分に行い、不測の事態に備える。扉があれば、開ける時にその先を念入りに探らなければならない。

 

手間がかかるな…

 

コンクリの壁で塞がれたところを破壊して通り抜けていく。想像していたよりも時間をかけて戦いの現場までやってきた。

 

最後の壁をぶん殴って壊すと、広めの部屋に出る。

 

そこには、大きな魔物の死体が転がっていた。大きさはケルベロスよりも小さいが形はより歪なものだ。

 

顔が半分ぐらい溶けてしまっているがライオンと山羊の頭が左右に付いている。少し離れた場所には蛇の死体が独立して転がっていた。途中が切れてなくなっているところを見るに繋がっていたらしい。

 

へぇ、キメラじゃん……

 

ケルベロスと言い、こちらの世界のセンスもやはり地球と似たものがあるんだろう。

 

なにかしら合理的な理由があるのかな?

 

まあ、それはいいか…

 

死体は前方から綺麗に背骨をえぐり取られて、後ろまで抜けている。荷電粒子咆をまともに食らったらしいな。

 

なかなかの強敵だったみたいだが、流石にあれは防ぎきれなかったか…

ジュジュの性格を考えると、不意打ちに近いやり方で受けただろうしな…

 

床にばら撒かれている煙玉の粉からも、その推測の正しさをうかがわせる。

 

少し唐辛子のにおいがするな… あれも使ったのか…

 

コイツにとっては相手が悪かったようだ。同情したわけでもないが、手を合わせるぐらいはしておこう…。

 

それにしても、俺とは別の場所に送られたということだな。そして、俺と同じように化け物みたいな魔物が待ち受けていたと…。

 

やはり、何者かが意図的に動かしていたということで間違いなさそうだ。

 

理力を扱う事が出来る可能性がある。俺の知る限りだとリオンぐらいしか思い浮かばないが、当然他にもいるんだろう。しかし、そう多くはないはずだ。

 

ケルベロスもこのキメラも人工的に造られたような感じがする。施設の規模から組織的な動きを感じる。なんにせよ、優秀な研究者が絡んでいるのは間違いない。

 

目的はなんなんだろう?

 

ただ単純に、自分の考えた最強の魔物を造りたいって事なのかも知れないが、果たしてそれに留まるのか…

 

その魔物を使って何をするのかが問題だ。まさか良い事ってわけじゃないだろう。偏見でもなく悪よりのことだと思うのが自然だ。

 

事態が、俺の想定していない大きな事になっていると確信する。

 

これは徹底的にやるしかない…

 

とりあえずは、ジュジュ達と合流したいところだ。既に別のルートでどこかに行ってしまっている。俺が壊した壁とは別のところが壊されていて、隠された通路が暴かれていた。

 

タイミングが悪かった。

 

もっと早く来ていればここで合流出来たのだが…

 

まだ遠くには行っていないはずだ。探すことにしよう。

 

ジュジュ達の居場所を探すため、再びコンクリートに魔力を流していく。足の裏から魔力を放出する。

 

その時だった…

 

…ん?

 

なんだか阻害されているような感覚がある。すぐに魔力をひっこめた。別の人間の魔力が既に床に流されているようだ。

 

これはどういうことだろう?

 

少し考えて思いつく。

 

これ…索敵術だ…

 

 

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