俺達の位置は魔術で把握されていたということになる。遺跡の中にいた時は別の方式だったはずだが、今のようにコンクリート製の施設にいる時は魔術で監視されていたんだろう。
確実に何者かがここにいる。今までは推測だったが確証を得られた。
この施設を作り出した人物だろう。壁で通路を塞いだのもコイツに違いない。相当に手練れの魔術師だ。
となるとジュジュ達と会わせるのはまずいか… ここはヤツのフィールド… 常に敵が使う武器の中にいるようなものだ。
こいつらのような魔物やコンクリートのフィールド以外にも、何か用意しているかも知れない。どんな手を使ってくるか分かったものじゃない。
ジュジュ達の場所も気になるが、まずは相手の居場所を把握しておきたい。
俺は神経を研ぎ澄ませると、相手の魔力を分析する。コアの力も使っていく。
結構遠くにいる感じがするな… 移動をしている? 動きが変だな…何かから逃げているのか?
良くわからんが、今のところ、当該の人物と鉢合わせする危険はなさそうだ。落ち着いてジュジュの後を追っていこう。
その場から移動し、壁に手を当てて魔力を流していく。壁にまでは魔力を流していないようだ。こちらは普通にやれている。
ん~、どこだろうな…
おっ、いたいた…
位置的には、ここより下の階層にいるらしい。距離はそこまで離れていない。周辺に魔物の反応はなし。
人間もいないな…
ここには既に一人しか残っていないのかも知れない。魔物もそれほど数はいないのだろう。
状況を把握するとジュジュ達の元へ向かう。
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「なんでそんなに機嫌が悪いのさ? 」
ニルス達を背中に乗せて、ジュジュは通路を進んでいく。しかし、何やらジュジュの機嫌は悪いようで、ニルスは心配になり声をかけた。
だが、ジュジュはそれに答えようとしない。
キメラを倒したのち、仮眠を取ることにして眠りについた。しかし、思いのほか疲労が溜まっていたようで、予定より長々と眠ってしまった。
なかなか帰ってこないことを心配したニルス達が、おそるおそる部屋までやってくると、寝ているジュジュを見て死んでいるものと勘違いしてしまう。
ジュジュの元まで駆け寄り大声で叫びながらゆさゆさと体を揺さぶったり、キメラの死体を見てニルスが狂乱を起こしたりもした。おかげでジュジュは目を覚ます。起こされ方が起こされ方だけに気分が良いものではなかった。
さらに、思いのほか長々と寝てしまったことや、ニルス達に心配をかけさせたことに気がつくと、なんとなくばつが悪くなったのだ。
居たたまれなくなり、空術で壁を爆砕すると、それによって度肝を抜かれたニルス達を無理矢理背中に乗せて駆け出した。
通路や階段を駆け抜けるジュジュの背中にしがみついている内に、ニルス達は落ち着きを取り戻し、ジュジュもゆっくりとした歩みで進むようになった。
そして、今に至る。しかし、ジュジュの機嫌が元に戻ったわけではない。
ニルスも原因が自分にあるような気がしてなんとなく気まずい。
そんな中、一行は怪しい扉を発見した。
《・・・・・》
《・・・・・》
ジュジュとペコに反応があったのだ。中から妙なにおいがすると絡帯で訴えかけてきた。嫌なにおいだという。
「…………それじゃあ入ってみようか 」
本音を言えばそんな部屋に入りたくなどないのだが、ここにきた発端は自分にある。すべてを自分の目で確認しなければいけないという責任を感じていた。
覚悟を決めると丸い取っ手に手を掛ける。回して押せば直ぐに開くだろう。しかし、覚悟を決めたはずなのになかなか体は動かなかった。
そこに、ジュジュから助け船が出される。
《・・・・・・・》
中には生き物の反応が全くない。危険はないということを魔術で確認したと、太鼓判を押してくる。
「うん……それじゃあいくよ 」
そのおかげもあって開ける決心がついた。ゴクリとつばを飲み込むとゆっくりと押し開けていく。
中は明かりが付いていたが薄暗い感じの部屋だった。かなり広い部屋の様だったが所狭しと棚が並んでいて狭く感じる。
棚には透明なガラス容器がいくつも並び、中は液体で満たされていた。その液体の中には、なにやら生々しく不気味な物体が浮いている。
従魔はもちろん、ニルスにもそれが何かわからなかった。
それらは、オリバーが研究のために実験体を解剖して標本にしたものだった。刺激臭のする保存液に漬けられている。細胞組織の変異具合を確認することが主な目的だった。
ニルスにとって、理解の範疇を超えている。ただただ、気味の悪いものにしか移らない。
叫び声を上げそうになった。そんな自分を何とか押さえつけ、中を調べていく。従魔達が冷静だったから、ニルスもなんとか平静を保つことが出来ていた。
ニルスには不気味なものでも、従魔にとってはただの物体でしかない。脅威になりようがないもの、意味のわからないものは興味の対象外だ。
いろいろ見ていくと、場の雰囲気に慣れてきたのか、ただの物でしかないことを理解してきたのか、調査に集中出来るようになる。
奥に進むと標本は、だんだんと巨大な物になっていく。生き物の原型を留める度合いが高くなっていき、より不気味さを増していく。
どの生き物も、頭が二つあったり、上半身と下半身がちぐはぐだったりと、生き物を繋ぎ合わせたような姿をしていた。
自分が魔境で出会った双頭のオオカミや先ほど見たキメラの死体と同様の物であることはニルスにも直ぐに理解出来た。
何が目的なのかわからないが、ニルスの目にも、これらが人工的に作り出されたものであると見て取れた。
標本を見ていると、どこか生理的な嫌悪が湧いてくる。
気持ち悪さもあって、ここでなされている行為も、これを利用して行おうとしていることも、絶対に悪いことだと断定する。
街が危ないという自分の危惧は正しかったと思う。
そして、企みをどうにかしなければ街の安全が保証されることはないという事も理解できた。
ただ、こんな事を行っている人間が恐ろしくもある。
ニルスはペコと一緒に何度も魔境に足を踏み入れていた。そんなニルスにとっても恐ろしい。
魔境で遭遇する魔物はもちろん恐ろしい存在ではあるが、そう言うものであると知っているし対処することはできる。実際に経験もあった。
しかし、人間がこれほどに恐い存在だと思ったことはなかった。もしも捕まったら、何をされるかわからない恐怖がある。
ここから逃げたい気持ちもあった。それでも、勇気を持って更に奥に進む。
すると、紙の資料が見つかった。綺麗に綴じられ棚に納められている。
その中から適当に一冊を取り出してみる。中を確認してみようと開こうとしたその時だった。
―ガチャッ…
「ッ!! 」
部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。コツコツと、平然と足音を立てて、まるで家主かのような軽い足取りだ。
心臓がバクバクと早鐘を打つ。
足音は真っ直ぐにこちらに向かっていた。まるで、居場所がわかっているかのようだ。
直ぐ近くまで来る。棚の影から姿を見せるかと思われた時、ジュジュが軽い足取りでそちらに向かう。
(……なんだ… レインか… )
その様子からレインだとわかり、ホッと胸をなで下ろした。そう言えば、ジュジュもペコも警戒まではしていなかったと思い至る。
完全に場の空気に飲まれていたことを少し恥じた。
直ぐにレインがこちらにやってきて顔を見せる。その足の周りをジュジュが纏わり付いて体を擦りつけていた。
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ようやく合流出来たって感じだ。
時間的にはそれほど経ってないんだけどな…
ジュジュは結構消耗していた。やはり、かなり強い相手だったらしい。しかし、怪我とかはないようだ。治っただけかも知れないが、五体満足ならこれからも十分戦えるだろう。
ニルス達も無事のようだな。戦闘に巻き込まれたとかはなさそうだ。
良かった良かった……
…で、済ませて良いんだろうか?
喉をゴロゴロと鳴らしながら、スリスリしてくるジュジュを引き離し、お座りさせる。
「ジュジュ… 俺は待つように言ってなかったか? 」
ゴロゴロ音が鳴り止む。
しばらくの沈黙の後、俺から目を逸らしニルス達へ視線を投げかけた。まるで、あいつらが主犯ですと主張しているかのようだ。
それを受けてニルスとペコは目を丸くする。こいつっ、裏切りやがったと言わんばかりだ。
「いっ、いや、確かに決めたけど… 」
ニルスはしどろもどろに答えようとするが焦っているのか答えにならない。
まあ、別に怒っているわけじゃない。どんな遣り取りがあったか知らないが口火を切ったのはジュジュだろうし…。
「全員無事ならそれでいい… 」
良くないのは俺の方だな…
当然予想するべき事態だった。俺が甘かっただけだ。今後、似たようなことが起きたらどうするべきだろう?
少なくとも、いつまでに戻るかは伝えるべきだったか…いや、いつって何時だ?
なかなかに難しい問題だ。すぐには解決出来ない。今後の課題としておこう。
「それよりも、ニルスの言っていたことは本当だったな 」
「え… なんのこと? 」
「頭の二つあるオオカミのことだ。実際にいたぞ 」
「ええっ! 戦ったの? 」
「ああ、戦って倒した… 苦戦したがな 」
「た、倒したんだ… あんまり苦戦したように見えないけど… 」
この部屋が暗いから、あんまり見えてないみたいだな。俺の装備は結構ボロボロになっている。肉体的にはもう治ってるからピンピンしているように見えてもおかしくはないか…。
「強かったさ、あいつは… あいつを倒しても終わりには出来ないみたいだがな 」
標本を見回しながら、資料が収められた棚の前に行く。ファイルを一冊取り出し、パラパラとめくって中身を確認した。
「そっ、そうだ… ここは一体何だと思う? ほっとくのはまずいよね? 」
「そうだな……決着は付けないといけないな…… 」
繋ぎ合わせて作り出した魔物の絵図が詳細に書かれている。解説まで書いてあってとてもわかりやすい。最後まで目を通すと棚にしまい、次のファイルを手に取りめくっていく。
ふむふむ…
一つのファイルに何十となくキメラの絵図が書かれていた。一つとして同じものはない。
少なく見積もっても、三百種類ぐらいのキメラを作り出した実績があるようだ。
随分長いことここで実験を行っていたみたいだな…
「何かわかった? 」
「肝心なところは書かれていないな…だが、何をしようとしているかは大体わかった 」
「そうなの? 」
「もう少し別の場所を調べてみよう。俺の考えが正しければ他にも見つかるはずだ 」
部屋から出て通路を進んでいくと再び扉が見える。両開きの扉で、横幅はかなり広くなっていた。部屋の中も作りや扉の外観から広くなっていることがうかがえる。
ここだろうな…
おそらく予想通りのものが見えるはず。扉を開けると、果たして予想通りの光景が広がっていた。
「……な、なんだよこれ 」
ニルスが驚愕の声を上げる。衝撃のあまり、その声は力ないものになっていた。
無理もない…