機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第265話 追跡

部屋の中は大型の魔物の死体が所狭しと並べられていた。大半は切断されていて、半分ほどになっているものがほとんどだ。

 

どの個体も、結構な強さを備えている。最低でも、中級上位ぐらいの魔物だろう。腐らないため常温で置かれている。

 

いくつか調べてみると、どれもが魔石を抜かれている。ほとんど綺麗に残っている死体もあったが、魔石だけは無い。

 

魔石だけ売ったなんて事はないだろう。魔石が欠かせない素材ってことだ。

 

「レイン… これは一体何なんだよ… 」

「ここにある死体を繋ぎ合わせて、別の魔物として蘇生させていたんだ。ニルスが見たあのオオカミは、そうやって造られたものだったらしい 」

「そんなことが出来るの? 」

「見たものが真実だ。ニルスも見ただろう? 双頭のオオカミに、ジュジュが倒した奇妙な魔物とか… さっき見た標本もある。資料にも書かれていたな 」

「……それでも信じられないよ 」

「そうだな…… 俺にもどういう手段を取れば、そんなことが出来るのかわからない。ただ、合成された魔物はまだまだいるかも知れない。調べ上げてすべてを潰しておく必要がある 」

「そうだね… 」

 

ここで行われている実験の目的…それは、自分自身の考える最強の魔物を作り出すことにあるんだろう。今はそう確信できる。

 

研究者はいつだって浪漫を追い求めるものだ。男なら最強を求めるこころをどこかに秘めているものだ。

 

……女かも知れないが

 

…ん? あれ?

 

いろいろ考えていたら、頭の片隅にひっかかるものを感じた。なんだか、重要なことを忘れているような気がするのだが、それが出てこない感じ。

 

気になるな…

 

しかし、今は先に進むのが先決だな。後で思い出すだろう。思い出さなかったならそれでいい。そんな事は、たいした事ではないはずだ。

 

それよりも、これからどうするかだな…

 

「ニルス… 今からここを作った人間に会いに行くんだが、どうする? 」

「どうするって… 行くに決まってんだろ。文句の一つも言ってやらないと気が済まない 」

 

そう言うと思ったよ… しかし聞きたいのはそう言うことじゃない

 

「危険な人物だろうな… これまで以上に、危険な化け物が待ち構えているだろう… それでも行くのか? 」

「…ああ 」

「俺やジュジュでも守り切れないかも知れないぞ? 」

「……自分の身は自分で守るさ… ペコと一緒ならどうにか出来る。今までもそうやって来たんだ 」

「自分の身は自分で…その通りだ。なら、もしも、俺かジュジュが危険になった時、お前は見捨てて逃げることが出来るんだな? 」

「うっ…そっ、それは… 」

「今は結論を出さなくてもいい…だが考えておいてくれ 」

「うん…」

「そしてもう一つ大事なことがある 」

「ま、まだあるの? 」

「これから戦う相手は人間だ。俺はそいつを殺すことになるかも知れない。それを見る覚悟はあるか? 」

 

これは俺自身に対する自問自答なんだろう…

 

相手は凄腕の魔術師だ。捕縛する事なんて出来ない。それはリカルドの時でも経験した。殺すか逃がすかの二択になってしまう。

 

後顧の憂いを取り除くには殺すしかない。だが、俺にそれが選べるんだろうか?

 

黙りこくるニルスに言葉を紡(つむ)ぐ。なるべく本心を伝えていこう。

 

「俺は人を殺したことがない。だから、今回それが出来るのかわからない。ただ、どう転ぶにせよ、面白いことにはならないだろう。それだけはわかる。ニルスもそれは了承してくれ 」

「…わかったよ 」

 

ニルスはニルスなりに考えてくれるだろう。俺は俺で考えないとな…。

 

……はぁ…人間相手は本当に厄介だ

 

「それじゃあ、ヤツのところにいくとするか 」

「ヤツのところって… 居場所がわかるの? 」

「ああ、俺達は今、ヤツの魔術で居場所を把握されている。監視されていると言ってもいいな… 」

「えっ! どこっ!? 」

 

驚いて周囲を見回すが何も発見できない。ペコもつられて辺りを見回している。理解は出来てないんだろうけど。なんだか微笑ましいな。

 

「床だ、床に魔力を通して位置を割り出しているんだ。音声までは拾えないから普通にしゃべって大丈夫だ 」

 

ニルスはそれを聞いて、押さえていた口から手を離した。ペコも同じ動きをする。なんだか微笑ましいな。

 

「ヤツの魔術を逆に辿(たど)っていって、居場所を突き止めてやろうという寸法だ。途中で敵と遭遇するかも知れないし、急に走り出すかも知れない。ジュジュの背中に乗っておいてくれ 」

「うん、わかったよ 」

 

準備が整うとヤツの魔力を感知し、分析しながら進んでいく。

 

部屋を出てからしばらく進んでいると、ニルスから疑問の声が上がった。

 

「なんだか、同じところをうろうろしてない? さっきも道を引き返したよね? 」

 

気付いたか… 感がいいな

 

「良くわかったな…わざと遠回りしている 」

「どうして? 」

「最短距離を進んでいたら、相手に逆探知されていることがわかってしまうからな。いつかバレることは確実だろうが、なるべくそれを遅らせたい

 相手に気付かれてから、一気に速度を上げて追いかけるつもりだ。可能な限り接近しておきたい 」

「へぇ~、そうなんだ。なんだか凄いね 」

「まあ、相手の出方次第なところはあるけどな。居場所を知られていることが伝わったとしても、安全に自信があるなら動かないだろう。武闘派なら、自分から攻めに来ることもある

 大量の魔物を嗾(けしか)けてくる可能性もあるんだ。こちらが追い詰めているというわけでもない。気を引き締めていくぞ 」

「う、うん… 」

 

ニルスとのやり取りを終えた後も、ゆっくりとだが、着実に接近していく。

 

直線距離で半分ぐらいの距離まで来たかな?

 

そろそろ、怪しまれてもおかしくないような気がする。

 

相手の魔力から、心理状態がわかるといいんだが、そこまでは難しい。そんなことを考えながら、分析をしていた時だった。

 

んん? この魔力には覚えがあるような……

 

コアの記録と照合してみても、一致するものはなかった。しかし、どうやら魔石や脳の感覚から、引っかかりを覚えているらしい。

 

勘みたいなものかな…大雑把な魔力感覚の方が鋭敏に働くんだろうか?

 

まあ、流石に外れそうな気がするが…

 

#

避難室の中で侵入者達の動きを静かに見守る。

 

レイン達は徐々に接近してきているが、施設内を探索しているだけのようだ。

 

帝国騎士の二人は相変わらず、先ほど戦っていた場所から動こうとしていない。

 

どうやら死んでいなかったようだ。おそらく、傷を癒やすために、その場に留まっているのだろう。死んでいるならば、死体は放っておいてこちらを探すはず。

 

このまま時間を潰し、エストルとの約束の時間になった時、完成体を町に向けて嗾(けしか)ける。ここに来ている侵入者達も戦わざるを得ないだろう。

 

一人残らず死ぬ。それで、自分がここにいたことを知る者はいなくなる。捜査は大幅に遅れることになるはずだ。

 

その間に亡命でもしようと考える。

 

本当ならば、大学教授として平穏無事な生活を送りたかったが、顔を曝(さら)した以上、それは無理筋のように思う。騎士の二人が死んだとして、それを確認するのは難しい。自分にわからないように情報を残している可能性もある。

 

こんな事になるならば、正体を隠す覆面でも用意しておけば良かったとも思う。だが、後の祭りだ。

 

改めて、状況の確認を行い、今後の方針を決定すると、索敵に集中する。

 

暗闇の中で目を瞑(つぶ)り、魔力の流れだけを感じるように感覚を閉じていく。

時間だけが過ぎる静寂の中で、オリバーはふとレイン達の動きに違和感を覚えた。

 

(動きが正確すぎる……? )

 

着実にこちらへ接近してきている。しかし、それだけでは不自然なことと言えない。途中にある部屋を調べたり道を間違えて引き返したりもしている。

 

だが、一見不規則に見えるその動きに、なんとなく規則性があるように感じる。

 

一度疑い出すと、よりはっきりと物事が見えてくるものだ。

 

詳細に動きを追っていくと、わざとらしさのようなものを発見するに至る。

 

そろそろ間違えようか… とか、ここら辺で道を曲がっておこう… と言った、作為的な選択が入っていると確信した。

 

(まずい… コイツは私を辿(たど)っている… コイツは私の魔術を捉えているっ! )

 

#

もうちょっと接近してから走り出すか…

 

何かしらを仕掛けてくるかと思ったが、今のところ何も起きてはいない。魔物とかもいないようだ。特に気配なんかはしない。

 

何かしたら存在がバレるとか考えているんだろうか?

だとしたら、このまま大人しく接近させてくれるかも……

 

…いやっ、ダメか!

 

相手の魔力が突然に消失した。

 

こっちが逆探知している事に気付いたみたいだな。

 

「走るぞっ! 」

 

ニルスにもわかるように叫ぶと、可能な限り全力で走っていく。

 

一つ下の階に降りれば、ヤツのいるフロアに出る。何とか接触出来るだろう。

 

そして、もう一つ手を打ってみる。

 

走りながら床に魔力を流していく。今度は俺がヤツの位置を捉える番だ。

 

…よし、繋がった。まだ動いていないな

 

さあ、どうでてくる?

 

#

位置の把握は切った。最後にいた距離から考えるならば、正確な位置までは特定していないはず。

 

このまま、やり過ごせるかとオリバーは考えたが、次の瞬間、予想外のことが起きる。

 

(わっ、私を捉えただとっ! )

 

逆探知が出来たとて、同じ魔術が使えるとは考えていなかった。自分と遜色ない精度で探知術が使えるという事実に戦慄が走る。

 

(防がねば… )

 

直ぐに妨害を開始する。広い範囲で妨害を行った。正確な位置までは捉えられないはずだ。

 

#

…おおっ、索敵術が妨害されている…

 

どうやら気付かれてしまったようだ…

 

だが、既に同じフロアまで来ている。妨害されていても大まかな方向まではわかる。十分に接近することは出来るだろう。

 

しかし、相手はどうやら壁に囲まれた場所にいるようだ。

 

最終的には地道に探すしかないな…

 

いっそのこと壁を破壊しながら探してみようか…

 

#

(このままやり過ごせるか?)

 

できれば、この場に留まっていたいところだ。

 

だが、接近されてしまえば妨害の中心、すなわち、オリバーの居場所が割れてしまうのも時間の問題だった。

 

(移動しよう… )

 

最終的に、この場から動くことを決断する。椅子から立ち上がり壁に向かって動くと、手を当てた。

 

オリバーは壁に魔力を流しながら、この施設を建設した経緯(いきさつ)について思いを巡らせていた。

 

防衛設備を建設することはエストルの部下からの提案だった。その提案に意味を見出せなかったが、専門家の意見でもある。積極的でないまでも承諾し、協力して建設に当たった。

 

結果として、十分以上に役立っている。ここに来て、彼らの優秀さを再確認することになった。

 

(蛇の道は蛇、ということか… )

 

壁がグニャリと変形して口を開けると、そこからさっさと出ていく。元に戻さずに開けたまま去った。

 

新たな計画を練りながら移動を開始する。

 

#

……むっ、 動いている

 

相手は移動することを選んだようだ。妨害の範囲に変化がある。

 

ならば…

 

空術で位置を特定してやる。

 

……おおっ?

 

一瞬だけ正確な位置がわかったが、それも直ぐに妨害されてしまう。相手も空術を使える…それもかなりの精度でだ。

 

やるじゃないか…

 

妨害もかなり広い範囲で行われているようで、正確な位置は掴めない。現在地は、遠くはないがクリティカルな距離でもないといったところ。

 

壁を破壊して直線的に接近してみるか? いや、その場合どんな行動に出るかわからないな。

 

相手は上下の移動も出来るはず。俺も床や天井を壊せば出来なくはないが、相手の方が上手(うわて)だろう。余計にわからなくなりそうだ。

 

俺は一旦、動きを止めた。索敵をやめて魔力を抑える。

 

「どうしたの? いきなり止まって… 」

「近くまでは来た…しかし、相手もこちらを警戒しながら動いているようだ 」

「逃げてるの? 」

「意図はわからないが、距離は取りたがっている感じがする。しかし、慌てている様子もないな 」

「何か企んでいるって事かな… 」

「かも知れん… だから、ここからは気配を消していこうと思う 」

 

お互いに、見えない条件で探り合うとしようか…

 

その方が楽しいだろう?

 

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