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(反応が消えた… )
これは相手が探査術を停止させたと言うことだ。こちらも直ぐに妨害を解く。
(追跡をやめたと言うことか? いや、そんなはずはないな… )
相手の位置を知りたいところだが、探査術を使えばこちらの位置を知られてしまう。空術でも同じ事が出来るのは、先ほど経験済みだ。
(なるほど… お互いに見えない状態でやり合おうということか… )
それが相手に心理的な圧力をかけることになる、と考えているのだろう。確かに、自分を殺そうと追いかけて来ている相手がどこにいるのかわからない状況では、普通の人間からしてみれば、恐怖を感じるどころではない。
ましてや、相手が怪物級と言っても過言でないほどの実力者ならばなおさらだ。
しかし、オリバーもまた普通の人間ではない。そして、ここはオリバーにとって本拠地に当たる場所だ。自分の手で作り上げて隅々まで熟知している。まだ、切り札もあるのだ。
決して分の悪い勝負ではない。
そんなことを考えながら通路を慎重に進んでいく。曲がり角に差し掛かかると、角から先をのぞき込んで確認し、安全を確保することも忘れない。
魔力感覚だけでは足元を掬われると考えてのことだ。最大限の警戒を払う。決して油断などできる状況ではなかった。
(あそこまで行くことが出来れば…… ぬっ! )
突如として妙な感覚に襲われる。誰かに見られていると思った。
(これは、空術… しかし… )
レインから放たれているものではない。それ故に注意が向かなかった。
(いつからだ? )
帝国騎士の二人が追ってきている。どこまで迫ってきているかが
可能な限り速く移動する。安全策は二の次…
そう決断して駆け出そうとすると、後方から気配を感じる。どうやら、直ぐそこまで接近されていたようだ。
「オリバー・ステインッ! 」
名前を呼ぶ叫び声が聞こえた。オリバーが走り出す魔力を感じ、向こうも走っている。圏内に捉えられているのは明白だった。
逃走と追跡が始まる。
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(別視点)
「まだ、生きてるみたいね… 」
「ああ… なんとかな… 」
オリバーの魔術によって全身を串刺しにされているダンであったが、口がきける程度には防ぐことが出来ていた。
鉄術を使うことが出来たのが幸いした。魔鉄製の装甲を強化したことで、頭、首、心臓と言った、急所への攻撃は遮断することが出来きていた。
体に密着する伸縮性のある布地は鋼線が編み込まれ、それによっても貫通を防いでいた。防ぎきれずに何カ所かは貫通し、鋭い棘が突き出して血液をにじませていたが、そこは末端に当たる部分だ。
命に別状はない…と言っても回復しなければオリバーを追うどころではないのだが。
「じっとしていろ… 」
「ぐっ… 」
リエラが空術で突き刺さった棘を一気に切断すると、衝撃でダンはうめき声を上げる。
支えを失って倒れるところを空気の層で包み込み、ゆっくりと床に横たえた。それから治療を開始する。
この場合、棘は刺さったままにして、回復術で傷を修復しながら抜いていくのが最も出血を抑える方法となる。
リエラもダンもそう判断した。
ダンはゆっくりと回復術を使用していく。
リエラは背中から小さな鞄を下ろし、中からアルミと樹脂で出来た容器を取り出した。
栓を開けて飲み口を差し出すと、ダンはそれを咥えて中身を吸い出し飲み込んでいく。蛋白質や糖分など様々な栄養素が入っていた。出血した分を補わなければならない。
達人ともなれば流れた血をそのまま回収することも出来るがダンやリエラの水準ではそこまでのことは出来なかった。地道に回復していくしかない。
糧食を飲み干すと、リエラも治癒術で回復の補助にまわる。
やがて、盛り上がった傷口から棘が抜け始め、床に落下し乾いた音を立てていく。抜けた場所には、ぽっかりと空いた赤黒い穴が痛々しく見えるが、そこからの出血はない。
それも時間の経過と共に塞がり、五分ほどで消えた。
傷が癒えると、ようやく落ち着いた時間が流れる。二人は休息を取ることにした。今のままでは十分に動けない。
リエラはダンに助けられた。だが、リエラの口からダンに礼が述べられることはない。ダンの方からも礼を求めることはない。
ダンがリエラを助けたのは任務の遂行上、それが最善だと考えたからだ。決して感情からの行動ではない。一人ではオリバーに勝てる見込みがなかった。
自分の魔術なら死なない自信があり、リエラを突き飛ばせる位置にいた。だから実行した。それだけだ。
互いにそのことを理解しているから、特に言及する必要はない。頭の中にあるのは目的を完遂することだけだった。
しかし、このままでは難しいように思える。
お互いに黙ったまま、これからどうするべきかを考えていく。
一度引き返して増援を呼ぶべきだと思うが、オリバーに時間を与えることは危険だと本能的に感じていた。あの人物には何をしでかすか解からない怖さがある。
状況はあまり良くないと理解している。そんな中、二人にはひとつ気になることがあった。
「どうして私達を殺さなかったのかしらね? あの状況なら可能だったと思うけれど… 」
「ああ… 俺もそれが気になっていた 」
あの時、オリバーの狙いは自分たちを殺すことになかった。だからこそ攻撃を食らったとも言えるのだが、結果的に二人とも生き残っている。
「なにか理由があるのだと思うけれど… 」
「……時間がなかったと考えるのが普通か… 俺達の相手をしている時間が惜しかったってことだ 」
「そうね… 問題は時間がない理由… それが分かれば、何か打開策が見つけられそうなんだけど… 」
「知る
「でも、付け入る隙がないわけでもないってことね 」
「そうだな 」
方針が決まり、二人はオリバーを探して移動を開始する。
リエラは再び空術を用いて探索を試みる。同じ手が通用するとは考えていないが、やらないよりはましであると考えたからだ。
なるべく広い範囲に広げながら、当てもなく
すると、意外なことに、あっさりと反応を拾い上げることになった。探し始めてから
「ヤツだ… 」
「なにっ… 」
動きを止めると、リエラは魔術に集中して状況把握に努める。相手に気付かれないように細心の注意を払う。
ダンはそれを静かに見守った。
「動いている… 妙な動きだ… 誰かから逃げているのか? こちらに注意を向けている素振りはないな 」
ダンにも伝わるように、口に出して状況を伝えていく。そして、これからどう行動するのか最終的な結論を出す。
「良くわからないが好機かも知れない、途中でヤツに気付かれるだろうがなんとか接近してみる。そこからが勝負だ 」
リエラの感覚を頼りにしてオリバーの元へと進む。
やはりオリバーは今、何か別のことに集中しているらしいと改めて認識する。どこか追い詰められているような気配もあった。
ならばと大胆に進むことにした。
足音や気配を抑えるよりも速さを優先する。ある程度接近出来れば、そこから力技で追いつけると考えた。足の速さなら戦闘の素人であるオリバーに負けるとは思えない。
オリバーが気にしている何かが気にならないでもなかったが、それは意図的に意識の中から外すことにした。
結果として、自分たちを危険にさらすことになるかも知れない。それでも、この機会を逃すわけにはいかない。
走り出して迷路の様な通路を右や左に曲がる。適当に進んでいるようにも見えるが確実にオリバーの元へ辿り着ける最短経路を選んでいる。
(あと少し… )
もう、声が届く距離にまで来ているだろう。そんな時、オリバーが探査術で捕捉されていることに気付いた。
(気付いたかっ… だが遅い )
こちらから逃げる素振りを見せるオリバーの後を追っていく。
「オリバー・ステインッ! 」
名前を呼んで絶対に逃がさないという意思を伝える。声は確かに届いたはずだ。
距離は徐々に縮まっていく。推測通りリエラ達の方が速かった。
やがて、直線が続く通路に出ると、逃げるオリバーの背中が見える。
あと少しで攻撃圏内に入る。獲物を追い込む肉食獣の高揚を感じながら、じりじりと詰めていく。
しかし、視野の中に妙なものが入り込む。オリバーの後ろ姿の向こう、通路の先に人がいる。オリバーに集中していて気付くのが遅れた。相手が魔力を消していたことも影響している。
新たな敵かと思った。高揚は冷めて危機感が警鐘を鳴らす。焦点を合わせると、その姿がはっきりと見える。
従魔を連れた人物…
(レインか… )
従魔の上に誰かが乗っているのが気になったが、それよりも、何故こんな所にいるのかが重要だ。敵ではないと思いたい。おそらくはそうなんだろう。だが確証はない。
現状、敵でも味方でもない中立と考えねばならない。
目の前では、先を走るオリバーがレインを前にして減速をしていく。
リエラもダンも速度を落として状況の変化に備える。
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(……レインッ! )
宿敵を目の前にして、オリバーの心境はどす黒い怒りに飲まれそうになる。怖じ気づきそうになる心を奮い立たせるためだった。
しかし、後ろからは帝国騎士二人が追ってきている。やはり仕留め切れていなかった。
冷静になって最善の選択をしなければ、計画の実行どころか自分の命が危うい。
心を切り替え、状況を
これまで、レインと騎士達は連携して動いてはいなかった。この距離に来ている今も、協力し合う様な素振りは見せない。どちらかと言えば、困惑している様にも感じる。
(指示系統が異なるのか? )
双方とも帝国が関わっていることに間違いないはずだが、必ずしも味方同士というわけでもなさそうだ。
(そこに付け入る隙がある )
いささか余裕を取り戻すと、緊張を保ったまま戦いに適した状態に心境を調整する。
減速していくと、その場を動かないレイン達の前に距離を開けて止まった。
正面からレインを見据える。どこか微笑んでいるようにも見える表情だった。
少し遅れて騎士達が追いついてくる。オリバーから距離を開けて停止した。
立場の異なる三者が一堂に会した瞬間だった。
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あれ…? こっちに来るぞ
お互いに気配を殺して追跡する状況から一変し、今度は相手が魔力を高めてこちらに迫ってきた。
何があったか知らないが、気味が悪いぐらいの豹変ぶりだ。
追い詰められておかしくなったんじゃないだろうか?
自爆特攻でも仕掛けてくる気なのかも知れない…
気持ちが悪いな…
《ジュジュ… 一旦引くぞ 》
引き返していく。なるべく戦いやすいところで接触したい。
「どうして戻るのさ… 」
「相手から仕掛けてくる気らしい… こっちに来ている。戦いやすい場所で待ち受けるぞ 」
「そっ、そうなんだ…大丈夫? 」
敵が来ると聞いてニルスはびびったようだ。まあ、無理もない。
「あのオオカミより強くはないだろう。ジュジュもいるし戦闘面で問題はない… 」
「そっか… 」
「それよりも、どんなヤツが来るのかが問題だな。人間のはずなんだが、魔物と混じった人間が来ても不思議じゃないな… 」
自分で言っていて確かにあり得るなと妙に納得してしまった。
「うぇ… 」
何を想像したのかニルスは嫌そうな顔を作る。
…どんなのを想像したんだろう? ホントにな
広めの通路に出たのでここで待つことにした。通路の奥まで見渡せる絶好の場所だ。
ちょうど良いことに気配は奥の方から迫ってきている。どんなヤツなのかじっくりと観察することが出来るだろう。
ん? 一つじゃないな…気配が三つか……仲間と合流したんだろうか? それならば自爆特攻じゃないのか…勝算があるから攻勢に転じたと…?
自問自答しながら見ていると、誰かがこちらに走ってくるのが見えた。普通の形をした人間だ。
良かった… グロテスクなものは見なくて済みそう…
しかし、どこか見覚がある…
誰だったか………ああっ! オリバー教授だっ! アッシェバーンで会ったっ!
湯治……な訳ないよな
その後ろから、誰かが追いかけるように後ろに続く。全身を黒ずくめにして、顔までマスクで覆っている。怪しい風体だが、これまた見覚えがあった。
いつしか見た警察特殊部隊の恰好に酷似している。警察なんだろう。
警察に追われるオリバー教授……
………………
…………
……
そう言うことだよな…
どういうことなのか、全てがわかったわけじゃあない。だが、オリバーがこの施設を作った人間の一人であることは間違いないようだ。
賢者の称号を持つぐらいだから魔術は得意なんだろう。関わっていたとして納得だ。
少なからずショックを受けていると、七、八メートルぐらい開けて俺の正面に立つように動きを止める。
何を考えているんだろうな?
少し遅れてオリバーの後ろに、これまた七、八メートルほど開けて警官達が止まる。
こちらはこちらで、この状況をどう見ているんだろうな?
なんとも言えない微妙な空気が流れていた。