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―バガッ……!
壁を殴りつけて破壊すると、開いた穴から中へ入っていく。
これで三枚目か…
あいつが待っている場所まで、あと少しと言ったところだ。ここらで少し、着いた後のことについて話し合っておこう。事前の確認は大事だ。
「これから向かう先にいるのはオリバーだけじゃないな… おそらく例の化け物がいる 」
「強いのか? 」
「相当強いな… そしてデカい… 見たら腰を抜かすかも知れないな… 本当に。覚悟はしておいてくれ 」
「そんなにかっ…… 」
「ああ… 間違いない、あんた達はそいつの相手はしなくていい… 俺が相手をする… 」
警官にも話を振っていく。役割分担を事前にしておけば、スムーズに対応できるだろう。実際、どうなるか分からないが、やらないよりましだ。
「いいのか? 」
「魔物を狩るのが俺の仕事だ… そちらの仕事はオリバーをどうにかする事だろう? それは任せる 」
「ああ、そうだな…恩に着る 」
「別にかまわないさ。それぞれの仕事をするだけだ 」
任せたからなっ! 絶対だぞっ!
だがしかし、念を押したところで、ちょっと難しいかもしれんね…
最後の扉が見える。その向こうから、やばい気配がビンビンに伝わってきていた。
きついな… これは
《ジュジュ… 》
《部屋の中には入らなくていい 》
《合図をしたらニルスを乗せて遺跡まで退避 》
ジュジュにもあらかじめ指示を出しておく。ここから先は、まさに死地と言った様相になるだろう。
扉の目の前に来ると、一旦立ち止まる。
―フゥ~…
深呼吸をして右足に魔力を込めると扉に向かってケリをかます。足の裏で踏みつけるような、いわゆる喧嘩キックだ。
派手に騒音を立て、蝶番を引きちぎられた扉がコンクリの床を跳ねていった。
「待たせたな… 」
視線の先にはオリバーが、にこやかな表情で待ち構えていた。こちらを歓迎する様に両手を広げ、出迎えの挨拶をしてくる。
「待っていたぞ“黒迅雷”… しかし待った甲斐はあった 」
黒迅雷って俺のことか? いつの間にそんな二つ名が…
いや、そんな場合じゃないな…
オリバーの後ろには巨大で、まさしく怪物と呼ぶべき異形が鎮座し、こちらを
床の上には卵形の灰色の物体がある。その上部からは、人間のものとも竜のものともいえない骨格をした上半身が飛び出していた。長めの腕が四本生えていて人間の手のようにそれぞれ五本の指を持つ。
頭は角のない竜のようなシルエットを残しつつも、兜のような甲殻に覆われていて、昆虫のような雰囲気もある。全体的に灰色の皮に覆われ、のっぺりとした印象だ。
床から頭頂部まで二十メートル以上あった。
対面してみて改めて思う。
でけぇ…
体の大きさもさることながら、感じられる魔力の大きさも半端じゃない。ただ立っているだけで、押し潰されそうな感覚におちいる。
警官組も随分と気圧されていた。放心一歩手前ぐらいだ。
こいつはマズいな…
そんな俺達を前にして、オリバーは勝ち誇ったように告げる。
「素晴らしいものだろう? ザナン・ドグルという名前だ。死ぬ前に名前ぐらいは知っておくのもいいだろうと思ってね… 私からの
「随分と余裕そうだな… そいつがお前の自信作って事か… 」
「その通りだ。このザナン・ドグルを今からフルカヴントに向けて放つ。街は壊滅することになるだろう。無駄だと思うが、せいぜい止めてみることだ 」
何だと…
予想はしていた、だが、そこまでするのか…
「ふざけるなっ! そんなことをして何になるっ? 目的を言えっ! 」
オリバーの発言に警官の男が激高して叫ぶ。気圧されていた状態から立ち直ってくれたようだな。
「私自身の目的は既に完成している。これから起きることは私にとって大した意味が無い…
あれにとっても、もしかしたら大した意味など無いのだろう… 壊したいから壊す… そんなところか… 」
独り言のように話すその瞳に、俺達は写っていないようだった。自分の世界に入り込んでいるように見える。
本当に興味が無いんだな…
「貴様っ! あれとは何のことだっ! 」
「おしゃべりはここまでだ。レイン君、君の死をこの目で確認出来ないのが残念だが、しかたがない… 私はもう行くよ…
始めろっ! ザナン・ドグルッ! 」
ぬぅっ……
合図と共に巨体が動き出し、空間を震わせるほどの叫び声を上げた。魂が縮み上がるような魔力の奔流だ。
怪物の横、部屋の壁には通路が開いている。オリバーはこの場に背を向けてそこから悠然と去って行った。その背中は、未練を断ち切るためのものか、最初から未練など無いのか?
だが逃がさんよ、警官が…
「あんた達はオリバーを追えっ! 」
おまわりさんっ、あいつですっ!
「だっ、だが… 」
「あのデカブツの相手は俺だ、狩人だからな… 警察は警察の仕事をやるんだろ? やれよっ! 」
アッシェバーンの農場で会った時のことを、そのままお返ししてやる。
いや、そこまで言ってたかな?
まあいいか、役目でしょ
「ああ、恩に着る 」
「死ぬなよ 」
警官達がオリバーを追って通路に向かっていく。意外なことに、怪物は妨害を仕掛けてくることはなかった。二人を素通りさせる。援護しようかと思っていたが、肩透かしだ。
俺すらも無視して天井に爪を立てると、コンクリート壁を砕き、引き剥がしていく。大きな破片が音を立てて床に打ち付けられた。
街に向かうことしか眼中にないってか…
なら、今のうちにニルスと話しておく。
「ニルス、ペコ。お前達は今からジュジュが安全な場所まで送っていく 」
「レインはどうするの? 」
「あいつを倒す 」
「ええっ! 無理だよっ! 一緒に逃げようよ 」
ちょっと錯乱しているな、無理もない
「ニルス、あの依頼を受けることに決めた…確か三十万エスクだったな 」
「こんな時に何だよ 」
「街への脅威を排除するのがニルスの依頼だろう? お前が出して、俺が受けた。だから今から俺があいつを倒す 」
「勝てるの!? 」
「当然だ、だから心配するな。それより、依頼主が死んだら誰が依頼料を払う? 死ぬんじゃないぞ? 」
「うっ、うん。わかったよ 」
「それでいい。後は俺に任せておけ 」
俺は拳を握りこんで親指を立てて見せる。
上手くいくさ…
「こっ、こんな時に何やってんだよっ! 」
あれ? これはやっちゃだめなヤツだったか…
締まらんね…
「冗談だ… 」
《ジュジュ、頼む 》
指令を出すと、指示通りに迷い無く駆けていった。
その背中を見送ってから、ヤツの方に振り返る。
上半身の部分は、既に天井を突き破って見えなくなっていた。今なら一方的に攻撃出来そうだが、攻撃を食らえば流石に反撃が来るだろう。
まあ、やってみるか…
―電熱雷刃術式、
とりあえず、威力の出る魔術を叩き込むと決めて用意しておく。そのまま空歩を使い、多段ジャンプを行って高度を出す。最後に、相手の表面を掠めるような軌道で横っ飛びに跳ぶ。
狙うのは卵状になっている下半身だ。
―白輝焦煌閃
白い光を放つ刃は深々と根元まで入り込み、横一文字に切り裂いていく。そのまま抵抗もなく反対側から抜けた。ヤツの体に大きく切れ込みが入る。しかし…
手応えがない…
切った端から直ぐに再生が始まり、あっという間に傷口は塞がっていく。
ヤツは傷を塞ぎながら、卵の表面のあちこちを棘上に隆起させる。完全に再生する瞬間、そこから触手状に棘を伸ばしてきた。
不規則な軌道を描き、何本もの触手が襲いかかる。その動きを読んでギリギリで躱しつつ、まだ、白熱状態にある刀で切りつけて切断してやった。
触手は切断された先を残したままにして本体に戻っていき、何事もなかったようにのっぺりとした表面をさらす。
攻撃に対して機械的に反応したような感じだ。俺にかまうことなく、本体は一貫して地上に向かっている。
切り落としてやった触手分の体積は減っているはず。しかし、空気中から物質を取り込んで魔力合成し簡単に補えるのだろう。効いているようには見えない。
やはり相当な魔力量を秘めているようだ。
速度は上がっていきもう下半身も天井の先に消えつつある。土術を使い始めたようだな。
やはり学習していくか…
このままでは、とてもじゃないが勝てそうにない。相手を物量で上回らなければ、倒しきるのは難しいだろう。
加えて、こいつが街へ向かうのを阻止しなければならない。
動きを抑えながら削っていくのが最善…
ならば…
《
こいつを使う…
一瞬で、異形の巨大な鬼武者が出現する。
目線が高い。久しぶりに威凄流鬼になってみて慣れない部分がある。これを使う場面が来るとは思っていなかった。
調整をしつつ、レザンから受け継いだ魔力回路に魔力を流していく。
ザナン・ドグルの後を追うように、空気中へ支配を広げる。同時に、自分を中心として広範囲に施設内の空気も制御下におく。
兎に角、大量の空気を抱え込む。ヤツを押さえ込むための超大規模魔術を構築していくためだ。
だが、これだけでは足りない…
やがて、ヤツが地表まで到達する。地面を突き抜ける瞬間を狙い、一気に遙か上空まで魔力域を伸ばした。これで準備が整う。
引きずり下ろしてやる…
ザナン・ドグルが地面に開けた穴から這い出ようとしていた。その背中へと上空からダウンバーストを吹き下ろす。
―神風下ろし
完全に不意打ちが決まった。ヤツの気配がどんどん落ちてきている。
四本の腕を穴の壁に突っ張らせて抵抗していた。魔力で土を固めて抵抗力を増やしているようだ。だが、土壁ごと風で削り取って抵抗を許さない。
下からも低気圧を作り出して吸引し、穴の底へ引きずり込んでいく。
威凄流鬼の周囲には竜巻のように空気が渦巻いていた。吸引力の変わらない掃除機みたいだ。
そろそろ来るか…
土砂やコンクリート片と一緒にヤツが腹ばいになって落下してきた。分厚いコンクリ製の床に思いきりたたきつけてやると、轟音と振動、衝撃波を撒き散らしながら、床が放射状に割れていく。
このまま押し潰してやろうかと気圧を上げる。だが…
……ぬっ!?
やはり簡単には勝たせてくれないようだ。長い腕を床や壁に突っ張らせて起き上がろうとしてくる。
こちらも出力を上げるが、相手の方が強かった。徐々に体勢を立て直し、終には真っ直ぐに立ち上がる。目ではっきりと威凄流鬼の姿を捉えた。
視線が交錯する。
俺を排除しなければ、目的の遂行は出来ない…そう判断したようだ。敵意をこちらに向ける。
ここからが本番だな… さあ、やろうか