突然、魔物の討伐を振られることになった。
意味が良くわからないな…どうしてそうなるのだろう?
その魔物のことはよく知らないがセリアさんならおそらくひとりで討伐可能であろう。周囲の皆さんは多分そう思っている。
なぜならセリアさんを見る目は信頼のまなざしだった。誰もがその強さを疑っていないと思う。
突然ふって湧いた提案に意外そうな顔してセリアさんと俺を交互に見ているものが若干名。それ以外は話しについて行けてない感じ。
俺もそうだが…
現状セリアさんに倒せないなら俺にも倒せないだろう。無駄な提案のように思える。だが、とりあえず出来るだけ詳しく聞いておきたい。怪しまれない範囲にはなるが…。
俺は言葉を選びながら質問する。
「報酬はどれほどだ? 」
討伐できないとは言わない。強気で行こう。金に困っていることを全面的にアピールする。
「先ほどの魔石、あれをギルドに正規の価格で卸すよりも高額になるのは保証しよう 」
こちらの貨幣価値がわからないと見積もられているな。実際その通り。話が早い。
「自分で討伐しないのはなぜだ? あなたの実力なら難しくないとみるが 」
セリアさんは少し返答に迷ったのか間を開けて考えるそぶりを見せる。そして口を開く。
「人材を探しているんだ…強い人材を。レインの実力を見せて欲しい 」
…本音で話すがすべてを話すつもりはない、と言ったところか。だがもう少し深掘りしてみたい。
「力を見せて十分な強さを証明したなら…その後はどうなる? 」
「それはその後で教えよう。今はまだ教えられない 」
あくまで秘密か…
「力を示すだけでいいか? その後の提案に対して拒否することは可能か? 」
「もちろんだ。なんならこの提案も拒否してくれてかまわない 」
…さて、どうすべきか? なんとなく断りづらいな…
注目を集めているし、期待を込めた目でこちらを見てくる人もいる。実力をある程度示しておくのは悪いことではない気がしてきた。その方が今後の仕事につながる可能性が高いのではないだろうか?
もろもろを考慮した結果、俺は提案を受けることにした。
「わかった。討伐任務を受けよう。今からひとりで討伐に向かえばいいのか? 」
「結構豪胆だな。私ももちろんついて行くぞ。そして、道案内にこのケイルもついて行くことになる。出発は明日の早朝。夜明け頃にギルドに来てくれれば問題ない 」
他の人間も来るのか…
そうすると亜空間殺法は使えない。それだけじゃなくていろいろな制約がでてくるな…
しょうがない…状況にあわせて策をひねり出していくとしよう。
ん? いや、ちょっと待てよ。明日か…明日まで過ごす金がない。まあ、野宿でもかまわないが…
…ちょっと聞いてみるか。
「報酬の前払いは可能か? 明日まで過ごす金がない 」
「ああ、そうだったな。今日の分は私が出そう。ついてくるといい 」
いきなり部活のような乗りになった。運動部だとなんかありそうだが
アザスッ!とか言えばいいのか?
なんて考えていたら置いて行かれそうになった。慌てて後をついて行く。
それからギルドからほど近い一軒の店に入る。
飯でもおごってくれるのかと思ったがそれ以上だった。狩猟ギルド御用達の店に連れて行かれると狩猟で使う道具を選ぶことになった。
「まあ、遠慮せずに選ぶといい 」
「いや、そう言われてもな…どういう基準で何を選べばいい? 」
「ふむ。そうだったな。お前は狩人ではなかったな。では私が選んでやろう 」
そう言うとセリアは勝手にひとりで選び出していく。
「今回の討伐はおそらく明日中に終わるはずだ。背嚢はそれほど大きくなくていいが今後を考えると大きいものを買っておいた方がいい 」
「俺が狩人になることを前提で決めてないか? 」
「ならないのか? なっておいた方がいいぞ。とくにお前のような身寄りのない人間はな。全くの自由というわけではないが他の仕事より自由でいられるぞ 」
ちょっと見透かされているような物言いがしゃくに
「どうすれば狩人になれる? 」
「この国の王都に行けばいつでも研修や試験を受けられる施設があるからそこに行くといい。私もそろそろ帰らねばならないから王都までついて行ってやろう 」
なんとなく誘導されている気がする。だが悪意というものは感じない。悪い人間ではなさそうだし腹芸を好むタイプでもない気がする。
完全に気を許すのは危険かもしれないがある程度は信じてもいいかもしれない。決しておごってもらえるからではないと思いたい。
「背嚢と簡易
結構な量の買い物だ。決して安くない品々のように見えるが合計でいくらぐらいになるのだろう? 大きめの硬化を複数枚トレーに乗せて支払っている。
貨幣価値がわからないな。後で聞いておこう。
支払いが終わると道具を詰め込んだ大きめの背嚢をこちらに渡してきた。
「これで明日からの討伐任務ぐらいなら大丈夫だろう 」
「ありがとう。感謝する 」
こちらの礼儀作法がわからないので、受け取りながら軽くお辞儀をしておく。
通じるかな?
「この後は夕食を取りながら明日のことについての話をしよう。食べたいものはあるか? 」
感謝が伝わったかわからないがまあ良しとしよう。
「こちらの料理はわからない。そちらに任せてもいいか? 」
「肉料理とか魚料理とかいった
◇
セリアに連れられて大通りに来た。
窓には透明なガラスがはめ込まれていて外がはっきりと見えた。大通りの店は結構こういう店が多い。
店内の照明はガス灯を使用しているようだ。ネズミの時は暗くても平気だったため気にしていなかったが大通りにはガス灯の街灯が設置されている。
店内の照明は料理の色合いなんかを客に見せるために必要だが街灯は何のためにつけているのだろうな? その気になれば魔力視を用いて暗闇の中でも見ることはできるのだが。
まあ、全員が十分な使い手とは言えないか…
キョロキョロと店内を見回してあれこれ考えていると店員に窓際の席に案内された。セリアと向かい合って座る。
店員からメニューを渡されるが結構読めない
「どんな料理か見当がつかないな。セリアと同じものを頼む 」
「そうか。では今回は魚料理にしよう。酒は飲むのか? 」
酒か。前世では未成年だったから飲んだことはない。こちらではどのような法律が適用されるのだろうか? というかそもそも魔石が影響して酔わないのではないかと言う疑問が出てきた。
いや、酒という分類がある以上は酔うのか? そこら辺を聞いてみたいが当たり前のことをなぜ聞くのかと言われそうだ。とにかく前世基準で行くことにしよう。
「酒はやめておこう。俺のいたところでは二十歳未満は飲んではいけない決まりがあった 」
「……ちょっと待ってくれ。君は今いくつなんだ? 」
ちょっと驚いたように年齢を問いただしてくる。ひょっとするとなにかマズいことを言ってしまっただろうか。
「……十七歳だ 」
しょうがないので正直に答える。
「そんなに若かったのか…その年齢でそれだけの魔力を持っているのは驚くべきことだ。よほどの修羅場をくぐってきたのか良い師に恵まれたのか… 」
何を想像しているかは知らないが正解にたどり着くことはないだろう。どうやら普通じゃない回答をしてしまったようだ。
年齢に関することか…
俺はスライムの魔石に刻み込んだ人間としてのデータを改めて解析してみる。なんとなくだがわかることがあった。
どうやらこの世界の人間は地球の人間よりかなり長生きをするようだ。成長速度が異なるのだろうか?
良くわからないがこちらの人間の標準的な生活環を把握しなければならないようだ。いつかもっと大きなぽかをやらかしてしまうだろう。
この場をどう乗り切るか…
「まあ故郷ではいろいろあったんだ。あまり詮索しないでくれると助かる 」
「ああ、そうだな。すまない。酒が飲めないなら果実水にするか。適当に頼んでおこう 」
彼女は店員を呼ぶとメニュー表を指さしながら注文を完了させた。注文が終わると料理が運ばれてくるまで必然と会話をすることになる。
ここでどれだけ情報を集められるのか…
「この国では何歳から酒を飲むことが許されるんだ? 」
とりあえずは流れに沿った会話をしよう。
「自在に酔いを覚ますことが出来る年齢になってからだな。だいたい8歳前後になるだろうな 」
「そうか。故郷とはだいぶ違うな… 」
違うどころじゃないな。ある程度予想はしていたが…
「そちらの故郷の話を少し聞いてもいいか? 」
「……少しぐらいならかまわない 」
本当に少しにしてほしいところだ。じゃないと困る。
「まず国の名前を聞いていいか? 」
「……ジパングという国だった 」
「だった? 」
「もうなくなっているだろうな 」
海上交通が発達していてその国を探そうってなったら困るからな。すでに無いと言うことにしておこう。あまり深く質問されても困るしな。聞きづらい感じを出しておこう。
「そうか。レインはその国でも身分は高い方だったのか? 言いづらいなら言わなくてもいいが… 」
「王族に連なるもの。とだけ言っておこうか 」
前世の知識をうっかりと言ってしまうことを考えるとなるべくいろいろな知識を持っていても不自然でない身分の方がいいだろう。
それに今俺が身につけている服はこちらの一般人が着ている服よりも生地が数段いいように見える。これでただの一般人です、では無理があるように思える。
「なるほどな。言えないことも多いだろうな 」
「いろいろ察してくれると助かる 」
「ではそれ以外のことを聞こう。この店のことをどう思う? さきほどから照明や窓に興味があるようだが… 」
「かなり文明の水準が高いように思う。照明は燃える気体を燃料にしているのだろう。燃料の流通が気になるところだ
このガラス製の窓も気になる。これだけ大きく薄く平らに成形できるとは思わなかった。それぞれ安くはないようだが 」
「ほう…よく見ているな。私は詳しくはないが王都ではかなり一般的になってきているそうだ
こういった技術の開発は帝国が進んでいる。最近は我が国も負けてはいないが追いつくのは難しいというのが現状だな 」
帝国…また気になる単語が出てきたな。国について少し聞いておくか。
「この国の名前はなんて言うんだ? 」
「この国はレイゼルト王国という名前だ。由来については聞くか? 長くなるが… 」
「いや、長くなるならいい。先ほど帝国と言ったが帝国についてもう少し詳しく聞いていいか? 」
「レインは技術に興味がありそうだな… 」
やはりわかるか…隠してはいないが。
「帝国は正式にはリューネゼンティア帝国という。世界で最も歴史のある国とも言われている。旧文明の遺産を最も多く所持している国だ。それゆえに科学技術が最も進んでいる
この国から東に行ったところ、この中央大陸の中心辺りに位置する大国だ。軽く説明するとこのようなものか 」
旧文明…また、気になるワードだ。
「旧文明について聞かせてもらってもいいか? 」
「これも私はそれほど詳しくないのだが、かつては高度な科学技術を用いてこの星すべてを統一していた文明が栄えていたらしい。空飛ぶ船なんかを使って海を渡ることもできたと聞く。今、全世界で言語が通じるのはその文明の影響だな 」
言語に違いがなかったのか…
道理で
「ほかにもいろいろ聞いていいか? 」
「料理が来たようだ。まずは食べることにしよう 」
ウエイターが料理を運んでくる。
テーブルに並べられたのはパンにサラダにスープ、そしてメインの魚料理。
まずはサラダに手をつける。ドレッシングはレモンのような柑橘類の果汁と塩こしょうを使ったシンプルなもの。生野菜はみずみずしくシャキシャキした歯ごたえだ。
パンを少しちぎって口に運ぶ。柔らかくしっかりとしていて小麦の香ばしい味がする。スープは薄味だがしっかりと
メインの魚料理はイワシをオリーブオイルで煮てタマネギなどの香味野菜を加えたトマトソースを絡めたような料理だった。
魚が新鮮なのか臭みはほとんどなく素材の味がしっかりと感じられた。前世の食事と比べても
セリアには多分わかったと思うが何も言ってこなかった。