機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第270話 X ザナン・ドグル、覚醒

(まずは動きを止めるか… )

 

―大空圧殺(たいくうあっさつ)

 

ズンッと空間をまるごと揺らすような振動と共に、ザナン・ドグルを猛烈な圧力が襲う。

 

遙か上空まで魔力域を伸ばし、周辺から大気を集める。その重さで圧力を生み出し、魔力操作を加えて超高圧の域まで高めていく。竜種ですら一瞬で押し潰され、絶命することになる。それ程の圧力だ。

 

しかし、相手は尋常の魔物ではなかった。

 

ところどころ形を歪ませつつも、原型を保っている。それどころか、少しずつだが威凄流鬼(イスルギ)へと接近していく。

 

(マジかよ… )

 

にじり寄ってくるザナン・ドグルに一瞬だが気圧される。本能的に恐怖すら感じていた。それを怒りに換え、より強力な魔術を放った。

 

(死にやがれっ! )

 

殺すつもりで圧力を極限まで引き上げる。相手の体はミシミシと音を立ててひしゃげていった。動きを完全に止めることに成功する。

 

しかし、死ぬことはなかった。圧力に抗い、体構造を維持している。骨折や出血などは見られなかった。

 

それどころか、少しずつ歪んでいた部分が矯正されていく。超高圧下の環境に適応しつつあった。

 

下半身の卵形部分から触手を形成すると、威凄流鬼の元へゆっくり伸ばしていく。その場から動くことはなかったが、攻撃を仕掛けてくるまでに適応していた。

 

レインはザナン・ドグルからの攻撃に、対処に迫られる。

 

威凄流鬼の背中から伸びる巨大な二本の蛇腕は、魔術の維持に使っていて動かせない。そこで、開いている前腕にそれぞれ“雷凄一文字”と“黒天竜王”を呼び出す。二本の長刀を振るい、襲いかかる触手を切り払う。

 

触手は切った先から次々に伸びて襲ってくる。更に、触手の生成速度は徐々に速くなっていた。今は対処出来ているが、それもいつまで続くのか不安があった。相手の底が見えない。

 

このままではザナン・ドグルが大空圧殺の呪縛から逃れるかもしれない。攻撃を受けて、魔術を中断される可能性すらあった。

 

(ならば… )

 

レインは逆に、相手との距離を縮めると決断する。接近した方が、魔術の威力が高められる。

 

四本ある長い腕の範囲内には入らないよう、ギリギリを見極めて接近し、更に圧力を高めていった。

 

その甲斐あってか、触手による攻撃も動きが鈍くなり、数回切り払うと止むこととなる。

 

動きを止めることは出来ている。しかし、相手を倒すまでの道筋が見えないでいた。

 

戦いは優性に進められているはずだが、心には焦燥を抱えてそれが消えないでいた。

 

#

おかしい…

 

スペック的には、相手を凌駕(りょうが)しているとは言えないまでも、確実に上回っているはずだ。それなのに押し切れない。

 

相手からは常に、異様なプレッシャーを感じている。圧の強さもそうだが、質が違うというか気味の悪さがある。

 

外見的に異質であるのはそうなんだが、そんな次元でもないようだ。

 

しかし、何というか……

 

俺はこのプレッシャーをどこかで感じたことがある?

 

実のところ、こいつと対面してからずっと、俺の本能が警鐘を鳴らしていた。

 

この感覚を俺は知っている…

 

いつ…?

 

どこでだ…?

 

喉まで出かかっているような感覚がある。そこで詰まっているような感じだ。

 

もう一押し欲しいな…

 

コアを首元まで移動させて表面に出た。直接見て分析することで、この嫌な感覚の正体を突き止めてやろう。

 

どれどれ…

 

コアで全ての力の流れを観測していく。相手の魔石から放出される異常な魔力がはっきりと捉えられた。

 

一瞬で、度肝を抜かれる。嫌な感覚の正体を理解した。だが、それでもなお、容易には呑み込めない。

 

これは…まさか…

 

俺は手に持った刀を床に突き刺し、土に魔力を流していく。外側から圧をかけてコンクリートを粉々に砕いてやった。そのまま土術で、自身と一緒にヤツを地中深くへといざなう。

 

マズい マズい マズい……

 

真下に向かい、とにかく巨大な穴を掘っていく。俺もヤツも、ぐんぐんと地下に潜っていく。

 

クソッ、オリバーめ… やってくれたな……

 

大空圧殺を維持しながら、全力で穴を掘っていった。やがて、固い岩盤にぶち当たる。おそろしく硬い地盤だ。魔力格が半端じゃない。場の魔力も濃い。

 

ここなら大丈夫か?

 

こいつの魔石は、魔力暴発手前の状態だった。魔力暴走をしていると言うのが正しいのだろうか? このままだと確実に、とんでもない規模の爆発を起こす。

 

デカい魔石だ… ヤバいことになるのは間違いない…

 

もしも暴発を起こせば、周囲一帯が消滅する。

 

直接、魔術をぶち込んでなくて良かった… やってたら、その瞬間に終わっていたかもしれん…

 

もう、かなり深くまで潜ってきている。ここでなら暴発現象が起こったとしても、街に被害が及ぶこともない。

 

遺跡に避難しているジュジュ達は余裕で大丈夫なはず。警官の二人も余波は受けるだろうが耐えられるだろう。

 

問題は俺が耐えられるかどうかだ…

 

暴発する直前に出来るだけ距離を取る。その際には、ここを掘る時に回収した土を前に出し、威力を減衰させる。そして、レザンの魔石を盾にしてコアを守れば、俺も死ぬことはないだろう。

 

威凄流鬼は失うことになるが、もともと使い道がないものだ。それを考えれば、引き換えに安全を担保できるのは悪くない。

 

やれるだけのことはやった。

 

あとは、その瞬間を逃さないようにするだけだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にそうか?

 

なにかを見落としていないだろうか?

 

地下で暴発させれば、水脈に影響がでるかも知れない。源泉が軒並み破壊される可能性だってある。そうなれば、街が無事だったとしてもその後はどうなる?

 

徐々に衰退していくことになるだろう。それで街を守ったと言えるのか?

 

それに、果たして俺は防御したとして、無事でいられるのか?

 

今の俺ならば死ぬことはないだろう。だが、おそらく機能停止は免れない。

 

どれぐらい眠ることになるんだ…

 

一週間か二週間… いや十年とかか? 下手すると百年単位の休眠を強いられることになる…

 

その間、俺を知っている人達はどうしていくんだろう? 俺を待っていてくれるだろうか?

 

俺のことを忘れる人もいる… 俺がいない間に、死んでいく人もいる…

 

時間は無限にはない… 誰の言葉だったろうか?

 

ジュジュはその間どうやって生きていけばいい?

 

セリアとの約束もある… 十年程で帰ると言った。その約束を破ることになる…

 

ニルスからの依頼も… 狩人としての責任を果たすこともない…

 

目覚めた時、世界は一変しているかも知れない。

 

それは多分、一度死ぬと言うことに等しい…

 

そう考えたら、途端に恐ろしくなってきた…

 

不意に、家族の姿が思い浮かんだ。病院のベッドの上で昏睡状態にある俺を囲む、家族の姿が。

 

なにがやれるだけのことはやっただよ…

 

なにヌルいこと考えてたんだ、俺は…

 

責任を果たさなければならない。

 

俺自身が決め、俺自身に課した責任を…

 

俺はこいつを消滅(ころ)す。今、ここで。どんな手を使ってもだ。

 

 

 

 

 

 

《緊急プロトコルの要請を確認 》

《検証……… 》

《承認されました 》

《脅威を排除します 》

 

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