(まずは動きを止めるか… )
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ズンッと空間をまるごと揺らすような振動と共に、ザナン・ドグルを猛烈な圧力が襲う。
遙か上空まで魔力域を伸ばし、周辺から大気を集める。その重さで圧力を生み出し、魔力操作を加えて超高圧の域まで高めていく。竜種ですら一瞬で押し潰され、絶命することになる。それ程の圧力だ。
しかし、相手は尋常の魔物ではなかった。
ところどころ形を歪ませつつも、原型を保っている。それどころか、少しずつだが
(マジかよ… )
にじり寄ってくるザナン・ドグルに一瞬だが気圧される。本能的に恐怖すら感じていた。それを怒りに換え、より強力な魔術を放った。
(死にやがれっ! )
殺すつもりで圧力を極限まで引き上げる。相手の体はミシミシと音を立ててひしゃげていった。動きを完全に止めることに成功する。
しかし、死ぬことはなかった。圧力に抗い、体構造を維持している。骨折や出血などは見られなかった。
それどころか、少しずつ歪んでいた部分が矯正されていく。超高圧下の環境に適応しつつあった。
下半身の卵形部分から触手を形成すると、威凄流鬼の元へゆっくり伸ばしていく。その場から動くことはなかったが、攻撃を仕掛けてくるまでに適応していた。
レインはザナン・ドグルからの攻撃に、対処に迫られる。
威凄流鬼の背中から伸びる巨大な二本の蛇腕は、魔術の維持に使っていて動かせない。そこで、開いている前腕にそれぞれ“雷凄一文字”と“黒天竜王”を呼び出す。二本の長刀を振るい、襲いかかる触手を切り払う。
触手は切った先から次々に伸びて襲ってくる。更に、触手の生成速度は徐々に速くなっていた。今は対処出来ているが、それもいつまで続くのか不安があった。相手の底が見えない。
このままではザナン・ドグルが大空圧殺の呪縛から逃れるかもしれない。攻撃を受けて、魔術を中断される可能性すらあった。
(ならば… )
レインは逆に、相手との距離を縮めると決断する。接近した方が、魔術の威力が高められる。
四本ある長い腕の範囲内には入らないよう、ギリギリを見極めて接近し、更に圧力を高めていった。
その甲斐あってか、触手による攻撃も動きが鈍くなり、数回切り払うと止むこととなる。
動きを止めることは出来ている。しかし、相手を倒すまでの道筋が見えないでいた。
戦いは優性に進められているはずだが、心には焦燥を抱えてそれが消えないでいた。
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おかしい…
スペック的には、相手を
相手からは常に、異様なプレッシャーを感じている。圧の強さもそうだが、質が違うというか気味の悪さがある。
外見的に異質であるのはそうなんだが、そんな次元でもないようだ。
しかし、何というか……
俺はこのプレッシャーをどこかで感じたことがある?
実のところ、こいつと対面してからずっと、俺の本能が警鐘を鳴らしていた。
この感覚を俺は知っている…
いつ…?
どこでだ…?
喉まで出かかっているような感覚がある。そこで詰まっているような感じだ。
もう一押し欲しいな…
コアを首元まで移動させて表面に出た。直接見て分析することで、この嫌な感覚の正体を突き止めてやろう。
どれどれ…
コアで全ての力の流れを観測していく。相手の魔石から放出される異常な魔力がはっきりと捉えられた。
一瞬で、度肝を抜かれる。嫌な感覚の正体を理解した。だが、それでもなお、容易には呑み込めない。
これは…まさか…
俺は手に持った刀を床に突き刺し、土に魔力を流していく。外側から圧をかけてコンクリートを粉々に砕いてやった。そのまま土術で、自身と一緒にヤツを地中深くへといざなう。
マズい マズい マズい……
真下に向かい、とにかく巨大な穴を掘っていく。俺もヤツも、ぐんぐんと地下に潜っていく。
クソッ、オリバーめ… やってくれたな……
大空圧殺を維持しながら、全力で穴を掘っていった。やがて、固い岩盤にぶち当たる。おそろしく硬い地盤だ。魔力格が半端じゃない。場の魔力も濃い。
ここなら大丈夫か?
こいつの魔石は、魔力暴発手前の状態だった。魔力暴走をしていると言うのが正しいのだろうか? このままだと確実に、とんでもない規模の爆発を起こす。
デカい魔石だ… ヤバいことになるのは間違いない…
もしも暴発を起こせば、周囲一帯が消滅する。
直接、魔術をぶち込んでなくて良かった… やってたら、その瞬間に終わっていたかもしれん…
もう、かなり深くまで潜ってきている。ここでなら暴発現象が起こったとしても、街に被害が及ぶこともない。
遺跡に避難しているジュジュ達は余裕で大丈夫なはず。警官の二人も余波は受けるだろうが耐えられるだろう。
問題は俺が耐えられるかどうかだ…
暴発する直前に出来るだけ距離を取る。その際には、ここを掘る時に回収した土を前に出し、威力を減衰させる。そして、レザンの魔石を盾にしてコアを守れば、俺も死ぬことはないだろう。
威凄流鬼は失うことになるが、もともと使い道がないものだ。それを考えれば、引き換えに安全を担保できるのは悪くない。
やれるだけのことはやった。
あとは、その瞬間を逃さないようにするだけだ…
本当にそうか?
なにかを見落としていないだろうか?
地下で暴発させれば、水脈に影響がでるかも知れない。源泉が軒並み破壊される可能性だってある。そうなれば、街が無事だったとしてもその後はどうなる?
徐々に衰退していくことになるだろう。それで街を守ったと言えるのか?
それに、果たして俺は防御したとして、無事でいられるのか?
今の俺ならば死ぬことはないだろう。だが、おそらく機能停止は免れない。
どれぐらい眠ることになるんだ…
一週間か二週間… いや十年とかか? 下手すると百年単位の休眠を強いられることになる…
その間、俺を知っている人達はどうしていくんだろう? 俺を待っていてくれるだろうか?
俺のことを忘れる人もいる… 俺がいない間に、死んでいく人もいる…
時間は無限にはない… 誰の言葉だったろうか?
ジュジュはその間どうやって生きていけばいい?
セリアとの約束もある… 十年程で帰ると言った。その約束を破ることになる…
ニルスからの依頼も… 狩人としての責任を果たすこともない…
目覚めた時、世界は一変しているかも知れない。
それは多分、一度死ぬと言うことに等しい…
そう考えたら、途端に恐ろしくなってきた…
不意に、家族の姿が思い浮かんだ。病院のベッドの上で昏睡状態にある俺を囲む、家族の姿が。
なにがやれるだけのことはやっただよ…
なにヌルいこと考えてたんだ、俺は…
責任を果たさなければならない。
俺自身が決め、俺自身に課した責任を…
俺はこいつを
《緊急プロトコルの要請を確認 》
《検証……… 》
《承認されました 》
《脅威を排除します 》