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威凄流鬼の首元で深紅の結晶が輝く。赤黒い光が広がっていった。それが体を覆い尽くすと、より魔力の出力が上がる。
ザナン・ドグルの体はミシミシと音を立てて歪んでいった。しかし、それにすら抗う。咆哮を上げると同時に、魔力を上昇させる。歪みの進行は止まり、徐々に元の形を取り戻しつつあった。
威凄流鬼の背中から伸びる二本の蛇腕からは白煙が立ち上る。限界を超えつつあった。限界以上の出力でもザナン・ドグルを仕留めるには至らない。
それを想定していたかのように、淡々と事態は進んでいく。
首元から結晶が離れていった。幾本もの赤黒い光の帯を、威凄流鬼との間に繋ぎながら、今なお抵抗し続けているザナン・ドルグへと接近していく。
《レインメーカー 》
もう確実に腕が届くという距離で、現れた白亜の騎士が結晶を覆い隠す。背中からは威凄流鬼と繋がる光の帯が伸びたままだ。
二体を同時に制御している。
レインメーカーは赤黒い光に覆われて輝き出す。眼や装甲の隙間からは光が吹きだしていた。
その威容に脅威を感じたのだろう。ザナン・ドグルは長大な腕に魔力を込めると振りかぶり、叩きつけてきた。
それを躱すことなく正面から受ける。光に包まれた右腕を相手の攻撃に合わせて突き出した。
巨大な腕と鋼鉄の拳が衝突する。そこから大きな衝撃が周囲に広がっていく。そう思われた。しかし…
接触した瞬間、ザナン・ドグルの腕に亀裂が入る。そこから赤い光が漏れ出していた。
瞬く間に亀裂は広がり、噴き出す光が周囲を照らす。光に包まれていった。巨大な腕は光の中で粉々に砕け散る。溶けるように消失していった。
ザナン・ドグルは逆側の腕で攻撃を仕掛ける。更に多くの魔力を込め、速度を上げて叩きつける。
それも、赤黒い光を放つ拳と接触し、同じ運命を
人造の巨大な魔物は恐怖していた。本当なら、そのような感情は存在しないはずだ。だが、圧倒的な力を前にして、封印されていた感情が目覚めていた。
何か手はないかと思考を巡らせる。しかし、有効な手立ては残されていなかった。
苦し紛れに、残る二本の腕が敵を握り潰さんと伸ばされていく。
しかし、レインメーカーに触れる直前、吹きだしてきた光によって先端から消失させられていった。
ザナン・ドグルは腕を無くし、なす術もなく、その場に縫い留められている。レインメーカーを恐怖の目で見つめるのみだ。
だが、レインメーカーも無傷というわけではない。装甲が光の負荷に耐えられずにひび割れていき崩れていった。
両腕の負荷が最も大きい。上腕から先は殆ど剥き出しの状態になっていた。それ以外の部分もひび割れていき、周縁部から徐々に欠けていく。
活動には限界がある。そのことを示しているようだった。基本構造はまだ無事だったが、いつまで持つのかわからない。
それを織り込んでいるのだろう。ザナン・ドグルに向かってゆっくりと前進する。死刑を執行する処刑人のように、淡々とした動きだ。
対して、恐怖と混乱のさなかにある人造の怪物は後退るように体をねじる。
消失した腕は徐々に再生しつつあった。いくつもの魔石を融合して生み出された巨大魔石は臨界へと近づき、より一層、魔力圧を高めていく。
更なる強さの高みへ上昇している
そんな敵を前にしても、レインメーカーは淡々と作業を進めていく。
亜空間から無数の理力攻撃機を呼び出され、円を描くように展開される。敵の力の源泉、魔石に向かって一斉に光線が放たれた。
魔石へ向かって体表から穴が開けられていく。
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意識がもうろうとする…
力に飲まれていき人格が消失していくような…そんな恐怖を感じていた。
《・・・・・・・・・》
それなのに時折、頭の中をかき乱すような情報の洪水が襲ってくる。
それがあるからこそ意識を保っていられるような気もするが、とにかく不快だ。
頭が痛ぇ…
《・・・・》
《・・・・》
《・・・・》
不意に、はっきりとした声が俺に向かって投げかけられた。何故か声だと言う確信している。
俺を呼び戻すような声だった。
それを聞くと精神が落ち着くような感じがする。頭痛が和らいでいく。
声は後ろからしているようだった。振り返ってみる。
すると、そこには俺の肉体が浮いていた。ウサギとネズミまでいる。どうやら、亜空間の中を覗いているようだ。
というか… お前達… やっぱ生きてんのかっ!
魔物の生は普通の生き物と異なるんだろうか…?
まあ、今はいい… とりあえず、意識がはっきりとしてきた。それで良しとしよう…
だが、ピンチは去っていないようだ。
《警告、警告…… 》
《Turn back now. Turn back now. 》
《불에 뛰어들다、자충수》
《自投罗网、飞蛾扑火》
《Лезть на рожон. Идти навстречу беде.》
《Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.》
俺の知らないやつから、俺の知らない言語で警鐘が鳴らされている。どれも地球に存在している言語のような気がするのだが……何故だ!?
俺の記憶にないものが、俺から出てきていることに違和感がある。というか、違和感を通り越して恐くなる。
俺は俺なのか?
いや、そんなことを考えている場合じゃない…
さっさと蹴りを付けないとマズい…
俺は自分の意識を集中してクリアにすると、ヤツの姿を凝視する。
殺意を意識して高めていく。自分の中で高まっていく熱が手で掴めそうな程に強固な存在になった。
それを目標…ザナン・ドルグの魔石目がけて一気に放出していく。
…これで終わりだ
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レインメーカーが光線の照射を停止させる。瞬間的に、攻撃機を亜空間に収納した。
ザナン・ドグルの胸の部分は抉られ、大きな穴が開いている。魔石まであと少しで届くところまで来ていた。
直ぐに傷の再生が始まり、盛り返そうとする。だが、レインメーカーがそれを許す事はない。
全身から吹きだしていた光がおさまっていく。そして、胸部の第一装甲板がゆっくりと上に開く。第二装甲板が下に向かって開くと、最後は第三装甲板が左右に開いていった。
胸部装甲が完全に開き、深紅の結晶体が再びその姿を現す。
結晶体がひときわ強く輝くと、赤黒い光が一直線に伸びていく。
太い光の束がザナン・ドグルの胸に開いた穴に吸い込まれていった。
光は進む先に存在するあらゆる物質を消滅させていく。一切の抵抗を許さず肉を削り取っていくと、直ぐに魔石へと到達した。
魔石すらも例外なく消滅させる。触れた先から内包する力ごと消滅させていった。魔力暴走状態であっても関係はない。
魔石を欠片も残さずに消滅させると、背中を貫通して土壁に突き刺さる。
そうして、光の照射がおさまった。
同時に、レインメーカーと威凄流鬼に流れ込んでいた全ての力が途切れる。
レインメーカーは落下して地面に足から衝突すると両足が砕けた。そのまま前に倒れて体が地面と接触すると、残っていた装甲は細かく砕けて四散する。負荷の大きかった両腕も千切れて飛んだ。
威凄流鬼はゆっくりと後ろに倒れていく。背中が地面と衝突して岩盤が揺れる。魔術で負荷のかかっていた蛇腕は衝撃で砕け、
静寂の中、レインメーカーと威凄流鬼、そして、ザナン・ドグルの屍が、眠るかのように横たわっていた。
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意識を取り戻すと、辺りは真っ暗だった。
どれぐらい時間が立ったのか? そもそも、一体、何をしていたんだったか?
コアの記録を
ああ、そうだった… あの化け物と戦って勝ったんだ…
時間はそれ程経っていないようだ。
せいぜい意識を失ってから数分と言ったところか…
最後の攻撃を放った瞬間、意識が飛んだ。何故あれを打ったのか…打てたのか理解らないが、あれは一体何なんだろうな?
魔石を消滅させるなんて普通じゃない…
ヤバい感じがする。二度と使いたいとは思わない。自分のことをもっとよく知らなければならないと実感する。
…いや、それより今は後始末か…
俺は今、レインメーカーになっているらしい。まずは人間に戻るとする。
《
人間に戻り、改めて状況を確認していく。真っ暗ではあるが、上を見るとわずかに光が見える。一応、光源があるなら暗視強化で見えるだろう。
視界を確保して周囲を見回すと、俺が立っている岩盤の上には、レインメーカーや威凄流鬼のパーツが散乱していた。
パーツと言うにはバラバラに砕け過ぎだが…
広範囲に散らばっている。
どうやって回収しようか? 面倒くさいな…
とりあえず、大きめのものは手で触れ、直接魔力を流して回収する。残りの物については、空術で領域を広げ、魔力を浸透させて一気に引き込んだ。
これで、物的証拠はこの場から全て消した…
俺の正体に繋がるものは無いはずだ
肉体の調子がさほど悪くないのも幸いした。ケルベロス戦後と比べれば、だいぶ回復している。こいつと戦った時も全力までは出してなかった。まあまあ余力がある。
コアの状態はすこぶる悪い。それでも何故か、亜空間は問題なく使えていた。そうでなければ、全てを残したままになっていただろう。
良かった良かった…
この場でやることもなくなったので、今後の行動を考えていく。
さて、これからどうするかな?
ジュジュ達と合流したいところだが、地下施設がどうなっているかわからない。多分、崩壊している部分が大半だろう。
中を通っていくのは面倒そうだな…
一度、地表に戻ってから探すことにする。入ってきた場所からなら、そこら辺は崩れていないだろうし、遺跡まで確実に行けるだろう。
魔境の様子も気になる。ついでに確認したい。
ザナン・ドグルが地表に現れた時間はわずかなものだったが、流石に何の影響もないってわけにはいかない。俺達の戦いは地下でやっていたわけだが、その魔力の
それなりの規模で異変が起きていても不思議じゃなかった。もしかしたら、ここの狩人達も穴に向かってきているかも知れない。
あの警官二人に任せているだけではダメだな…
俺も状況を調べて、ギルドに報告すべきか…
まあ、まずは穴を出ることにしよう。
地面を蹴って飛び上がり、土壁を蹴って登っていく。整地術だけだと強度が足りない。土術も使用して硬くすると、力強く蹴り上げて、打ち上げロケットのようにぐんぐんと上昇していった。
穴の底から上まで四、五百メートルぐらいはあっただろうか? 二十秒ぐらいで登り切って地表に到達する。
穴の直径は二十メートルぐらいあった。アイツだけじゃなく俺の使った魔術でも広がっていたようだ。
それもあったな…
やり過ぎただろうか? だがあの場合、しょうがなかったとも言える。半端な魔術ではアイツを止められなかった。
穴の回りには、根元から掘り返された木や土が混じり合って積み重なり、ちょっとした山のようになっている。噴火したあとの山、火口のような様相を呈していた。
別にこのままでいいか…
埋めた方がいいかとも思ったが、これを直すのは大変だ。出来てしまった以上、隠すのも変だし…。埋め戻した前後で、魔境の生態に影響はなさそうなので放っておくことにした。
決して面倒になっただけじゃない…
山から下りて、周辺を巡りながら気配を探っていく。
なんか… 静かだな…
空術で最大限、索敵範囲を広げてみたが、これと言ったものは引っかからない。魔物も小動物も慎重に息を潜めているように感じる。
これは… ビビっているようだな…
アイツがあまりにも強大すぎて、パニックを起こすどころか放心状態になってしまったのかも知れない。
まあ、俺のせいかもしれないが…
今のところ、問題が起きる可能性は低い。直近で問題になるとすれば、狩人達が思うように狩れなくなることだろう。
後々、それ以外の問題も起こるかも知れない。だがそれは、ここの人達で何とかしてもらおう。
何故だかマルスの顔が頭に浮かんだ。
スマンね…
一応、確認は終わった。
そろそろ、ジュジュ達のところに行くとしよう…そう思って歩き出した時だ。
何かが… 来ている?
こちらに高速で接近する気配があった。どうやら人間のようだが、断定しづらい感じもある。
こんなところで…? 狩人か…?