機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第273話 X エストル②

#

ダメージが通っていない。そこに驚きはなかった。それよりも、別のことが気にかかる。

 

剣を交えてみて、速さと重さもさることながら、魔力を分解してくるような感覚が気にかかった。剣と剣がぶつかり合う時、その衝撃が手に伝わってくる。意図して魔力圧を上げてなければ、刀がへし折られていただろう。

 

これは…

 

(アルゴルと同じ… あの剣にアルゴルの特性が付加されているってことなのか? )

 

剣が特別なのか、少年の持つ力なのかは判らないが、厄介なことには変わらない。レインの背筋を、改めて冷たいものが走る。

 

距離が開いて数拍の間、互いに無言で睨み合う時間が流れた。しかし、緊張を高めるレインに対し、エストルは余裕そうな態度のままだ。

 

再び、エストルから静寂を破るように言葉が投げかけられる。

 

「思ったよりやるようだね… でも怖くはないな。戦いを舐めているんじゃないの? もっと真剣にやりなよ… 殺すつもりじゃないと殺せないよ? しっかりと中まで抉(えぐ)るつもりでやらないとさぁ 」

 

(うるせーよっ… )

 

内心でエストルに対し、反発の声をあげる。たが、理性では一理あるとも捉えていた。

 

認めたくはないがこいつは強い。それ以上に冷徹だ。半端な攻撃では太刀打ち出来ない。相手の命をまったく省(かえり)みない無垢なる殺意…そこに基づいた攻撃でなければ、戦いにならないと理解していた。

 

ただ、頭では理解していても心がついていかない。

 

それをエストルに見透かされ、苛立ちはするが、どこか安心する部分もあった。自分は自分であると思える。

 

しかし状況は、それとは関係なく進んでいく。

 

「まあ、いい… 君の事情なんて僕の知ったことじゃあないね。準備運動はあれでおしまいだ。これからは本気でいくよ 」

 

そう宣言すると両手で剣を構えた。言葉通りエストルから吹きだしてくるような圧を感じる。レインの眼には見えないが、剣を中心にして、何かが渦巻いているようだ。

 

(これは… アイツと同じ… )

 

前にアルゴルと対峙した時に放ってきた攻撃と類似性がある。再生不能にする攻撃が来ると見積もった。

 

(喰らえばまずい… )

 

精神を研ぎ澄ませて攻撃に備える。すべて避けきるつもりで相手の動きに注視する。同時に、万一に備えて“絶雷”に可能な限り魔力を流していった。

 

これで受けることは出来ると思う。だが、心許ない。体捌きが重要になると考え、その為の魔術を用意していく。

 

準備を整え、レインは相手の攻撃を待つことにした。未だ有効な攻撃が思いつかない。

 

それを理解しているのか、エストルは唐突に正面から仕掛けていった。真っ直ぐレインの前に飛び込むと、大振りに横薙ぎの一閃を放つ。

 

鋭く速い一撃だが隙が大きい。相手が防御や反撃に出ることはないと看破している。場を支配しているのは自分であると主張しているかのようだ。

 

レインが後ろに跳んで躱すと、エストルも跳躍して前に出る。避けようのない空中で袈裟懸けの一撃がレインを襲う。

 

だが、エストルの一撃は空を切る。レインは転水と空歩を駆使し、回転しながら空を蹴って躱していた。地面に降り立つと、そのままの軌道で飛んでいくエストルを見送る。

 

魔術はやはり使えないとレインは見抜いたが、それでも安心はできなかった。

 

攻撃を躱されたエストルは、空中で器用に、くるりと向きを変える。飛びながらレインを見据えていた。

 

木の幹に着地して蹴りつけると、その衝撃で木は大きくしなり、レインに向かって弾丸のように跳躍していく。

 

勢いを乗せた上段からの振り降ろしが襲いかかる。

 

それを横に跳んで躱すと、剣は地面に突き刺さり、大きく減速した。つんのめるようにして、縦にくるりと回転し、剣を抜きながら着地する。その瞬間、地面を蹴ってレインの後を追った。

 

魔術を駆使するレインの洗練された動きに対して、エストルの動きは大雑把で直線的だ。それでも、恐るべき身体能力でレインの動きに追従していく。

 

森の中を跳ね回りながら、エストルはレインの後を追い、斬撃を放っていく。その目にはレインの姿しか映っていない。エストルが剣を振るう度、森の木々は切り倒されていった。

 

大雑把に振られる剣は相手に掠りもしない。しかし、少しずつだが確実に、レインへと届きつつあった。エストルの剣さばきが徐々に洗練されてきている。大振りの攻撃はなりをひそめていった。

 

手首を柔らかく使い、読みにくい曲線を描く軌道へと変化する。小さくまとまった斬撃は、次の攻撃に移るまでの間隔を狭め、確実にレインを追い詰めていく。

 

服を掠めて切り裂いた。

 

(チッ… 上手くなってやがる )

 

危機を感じ、仕切り直そうと大きく跳躍し距離を取る。

 

後を追って、エストルも大きく跳ぶ。木の幹に着地して留まるレインへと、剣を振るった。両断しようと、下から掬い上げるような逆袈裟切りを放つ。

 

大振りの斬撃は木を両断する。だが、そこにレインはいない。斬撃を躱し、後ろに回り込んでいた。エストルから距離を置くため、地面を駆け抜けていく。

 

(さて、どうするか? )

 

逃げながら対策を考えていると、背後から、大きな物体が高速で迫る気配を感じた。だがそれは、エストルではない。上に跳んで躱すとそれは、先ほどエストルが両断した木だった。

 

(なっ… )

 

恐るべき膂力(りょりょく)で投げつけられている。これにはレインも驚愕を禁じ得ない。跳躍して避けたレインに向かって今度はエストル本人が一直線に迫る。

 

剣を突き出して刺し貫こうと、今までとは比較にならない速度で跳んできた。これこそが、エストルの本気の動きだった。

 

剣先が当たる直前、転水で体を回転させて軸をずらしつつ、相手の剣の腹に刀を押し当てる。弾かれるようにして躱し、回転しながら地面に足から着地して回転を止める。

 

―爆破術式、

 

直ぐさま地面を蹴って後ろに跳ぶと、遅れてその場所にエストルが跳んできた。その目はエストルの動きを捉えていた。動きを予想し、撹乱するための魔術を用意する。

 

追撃を仕掛けようと相手が踏み込んだ瞬間、魔術を発動させる。

 

―炎槽爆壁(えんそうばくへき)

 

炎の壁がレインの姿を隠しつつ、爆風で体を飛ばして距離を開けていく。さらには、エストルをその場に釘付けにする。

 

はずだった…

 

魔術が発動するよりも早く、エストルは何もない空間に向け、剣を一閃していた。斬撃が魔力の繋がりを断ち切って魔術を無効化させたのだ。

 

間髪入れずにレインに向かって跳躍する。

 

爆風を当てにしていたレインは次の行動が遅れた。エストルの接近を許してしまう。

 

返す刀でエストルは再び横薙ぎの一閃を放つ。何気ない一撃だが、レインにとって、それは厳しいものになった。

 

反射的に刀で受け止めようとして前に出す。だが、不穏なものを感じた。同時に空射加速で体を弾き飛ばし、回避に移る。

 

しかし、咄嗟に発動した魔術は半端なものだった。刀を引き戻すのが遅れ、エストルの剣と交差する。

 

―ヒュカッ…

 

さしたる抵抗も出来ずに“絶雷”は根元から切断された。盛大に切り飛ばされることもなく、椿の花のように静かに落ちる。

 

あまりにもあっさりと刀を折られ、レインは驚愕を禁じ得なかった。

 

それでも戦いは続いている。再度、仕切り直しをするために、加速魔術で距離を取ろうとした。

 

「させないよ 」

 

だが、それを許すエストルではない。レインが動く前に、本気の速度で接近する。そして、無慈悲に剣を振るった。

 

「右腕はもらったよ 」

 

人を斬ることに何のためらいもない正確な斬撃は、狙い通りレインの右腕に吸い込まれると、何も残さずに通り過ぎていく。

 

一瞬遅れて、斬られた右腕が地面に落ちて転がった。

 

エストルはレインから距離をとった。苦しむ様、困惑する様、憎悪する様、恐怖する様…、それらをよく観察するためだ。

 

今までに、何度も同じ事をしている。これから起きることをエストルは熟知していた。

 

#

「チッ… クソ… 」

 

腕を切断された瞬間、妙な気分の悪さに襲われる。

 

単に腕を切られたからじゃない。切断された痛みは殆どない。出血も最小限で済んでいる。

 

だが、全身に悪寒が走るような苦しさがあった。大切なものが抜け落ちたような喪失感に襲われる。魂が砕かれるとはこういう事を言うんだろうか?

 

脂汗が全身から吹き出てくる。

 

これが… 魂喰(アルゴル)…

 

左腕からワイヤーを伸ばして右腕を引き寄せると、それを掴んで切断面に押しつける。繋ぎ合わせるため、急ぎ回復術を実行していった。

 

だが、一向に接合されていかない。魔力の流れが傷口の手前で止まってしまっている。

 

「そんなことをしても無駄だよ 」

 

俺の様子を遠巻きにして、ニヤニヤと観察しながら、小馬鹿にしたような調子で言葉を投げかけてくる。

 

こいつっ…

 

しかし、悔しいがピンチであることは確かだ…

 

「このままだと一生片腕だねぇ 」

「クソがぁぁぁぁっ! 」

「アッハハハハッ、いまどんな気持ちかな? ああ、言わなくてもいいよ、わかるからっ 」

「このっ… 野郎っ… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんてなぁ~…

 

―コア・アシスト

 

コアに保存されていた俺のデータを、ちょうど欠けた分だけ複製して魔石にぶち込んでやる。いまの疲弊したコアでもそのぐらいは出来る。あとは魔石側が勝手に修繕してくれる。

 

「悔しいだろうねぇ~ 恐いだろうねぇ~ 」

 

今はせいぜい調子に乗っていろよっ… クソガキ…

 

情報の修復は完了した。気付かれないように腕を繋げていく。ゆっくりと丹念にだ。同時に魔術も用意する。

 

―結合術式、【空射加速・斬空加速】

 

「でも安心しなよ… 残りの腕も両足も、同じように切ってやるよ。つりあいが取れるようにするからさぁ。そのあとは、細かく切り刻んで形を整えてあげるよ。なぁに、お礼なんかいらないよ? 僕は優しいから… 」

 

その通りに、あのまま来られたら結構ヤバかった。コイツの思い通りの展開になっただろう。だが、もう遅い。準備は整った。

 

油断しすぎだよ… このマヌケが!

 

「ちゃんと形の整った人形になったらゆっくりとお話をしようか…

―覇空遷移

素直に話が出来… 」

 

至近距離で目と目が合う。俺は見せつけるように右腕に魔力を流し込んだ。相手の眼が驚愕で見開かれていく。

 

驚きに惚けている顔面に向かい、込めれるだけ魔力を込めた拳を…

 

―叩きつける!

「オルゥアァァァッ!!! 」

―ゴッッッ!

 

裂帛(れっぱく)の気合いと共に放ち、めり込ませた拳を振り抜いた。

 

高速で回転しながら飛んでいき、地面を数回バウンドすると木の幹にぶち当たって止まる。衝撃と共に木の葉が落ちてきた。

 

十数メートルは吹っ飛ばしてやったな…

とりあえず、やられた分は返した…

 

ぶん殴った拳に、確かな手応えがある。

 

暴力はいけない… 報復はいけない… 憎しみは連鎖を産む… それはそれで一つの真理だろう。

 

だが、こうも思う。

 

ムカつくヤツを思いきり殴ったならスッキリする。それも一つの真理だと…

 

俺は今、最高の笑顔で笑っていることだろう。

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