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ダメージが通っていない。そこに驚きはなかった。それよりも、別のことが気にかかる。
剣を交えてみて、速さと重さもさることながら、魔力を分解してくるような感覚が気にかかった。剣と剣がぶつかり合う時、その衝撃が手に伝わってくる。意図して魔力圧を上げてなければ、刀がへし折られていただろう。
これは…
(アルゴルと同じ… あの剣にアルゴルの特性が付加されているってことなのか? )
剣が特別なのか、少年の持つ力なのかは判らないが、厄介なことには変わらない。レインの背筋を、改めて冷たいものが走る。
距離が開いて数拍の間、互いに無言で睨み合う時間が流れた。しかし、緊張を高めるレインに対し、エストルは余裕そうな態度のままだ。
再び、エストルから静寂を破るように言葉が投げかけられる。
「思ったよりやるようだね… でも怖くはないな。戦いを舐めているんじゃないの? もっと真剣にやりなよ… 殺すつもりじゃないと殺せないよ? しっかりと中まで
(うるせーよっ… )
内心でエストルに対し、反発の声をあげる。たが、理性では一理あるとも捉えていた。
認めたくはないがこいつは強い。それ以上に冷徹だ。半端な攻撃では太刀打ち出来ない。相手の命をまったく
ただ、頭では理解していても心がついていかない。
それをエストルに見透かされ、苛立ちはするが、どこか安心する部分もあった。自分は自分であると思える。
しかし状況は、それとは関係なく進んでいく。
「まあ、いい… 君の事情なんて僕の知ったことじゃあないね。準備運動はあれでおしまいだ。これからは本気でいくよ 」
そう宣言すると両手で剣を構えた。言葉通りエストルから吹きだしてくるような圧を感じる。レインの眼には見えないが、剣を中心にして、何かが渦巻いているようだ。
(これは… アイツと同じ… )
前にアルゴルと対峙した時に放ってきた攻撃と類似性がある。再生不能にする攻撃が来ると見積もった。
(喰らえばまずい… )
精神を研ぎ澄ませて攻撃に備える。すべて避けきるつもりで相手の動きに注視する。同時に、万一に備えて“絶雷”に可能な限り魔力を流していった。
これで受けることは出来ると思う。だが、心許ない。体捌きが重要になると考え、その為の魔術を用意していく。
準備を整え、レインは相手の攻撃を待つことにした。未だ有効な攻撃が思いつかない。
それを理解しているのか、エストルは唐突に正面から仕掛けていった。真っ直ぐレインの前に飛び込むと、大振りに横薙ぎの一閃を放つ。
鋭く速い一撃だが隙が大きい。相手が防御や反撃に出ることはないと看破している。場を支配しているのは自分であると主張しているかのようだ。
レインが後ろに跳んで躱すと、エストルも跳躍して前に出る。避けようのない空中で袈裟懸けの一撃がレインを襲う。
だが、エストルの一撃は空を切る。レインは転水と空歩を駆使し、回転しながら空を蹴って躱していた。地面に降り立つと、そのままの軌道で飛んでいくエストルを見送る。
魔術はやはり使えないとレインは見抜いたが、それでも安心はできなかった。
攻撃を躱されたエストルは、空中で器用に、くるりと向きを変える。飛びながらレインを見据えていた。
木の幹に着地して蹴りつけると、その衝撃で木は大きくしなり、レインに向かって弾丸のように跳躍していく。
勢いを乗せた上段からの振り降ろしが襲いかかる。
それを横に跳んで躱すと、剣は地面に突き刺さり、大きく減速した。つんのめるようにして、縦にくるりと回転し、剣を抜きながら着地する。その瞬間、地面を蹴ってレインの後を追った。
魔術を駆使するレインの洗練された動きに対して、エストルの動きは大雑把で直線的だ。それでも、恐るべき身体能力でレインの動きに追従していく。
森の中を跳ね回りながら、エストルはレインの後を追い、斬撃を放っていく。その目にはレインの姿しか映っていない。エストルが剣を振るう度、森の木々は切り倒されていった。
大雑把に振られる剣は相手に掠りもしない。しかし、少しずつだが確実に、レインへと届きつつあった。エストルの剣さばきが徐々に洗練されてきている。大振りの攻撃はなりをひそめていった。
手首を柔らかく使い、読みにくい曲線を描く軌道へと変化する。小さくまとまった斬撃は、次の攻撃に移るまでの間隔を狭め、確実にレインを追い詰めていく。
服を掠めて切り裂いた。
(チッ… 上手くなってやがる )
危機を感じ、仕切り直そうと大きく跳躍し距離を取る。
後を追って、エストルも大きく跳ぶ。木の幹に着地して留まるレインへと、剣を振るった。両断しようと、下から掬い上げるような逆袈裟切りを放つ。
大振りの斬撃は木を両断する。だが、そこにレインはいない。斬撃を躱し、後ろに回り込んでいた。エストルから距離を置くため、地面を駆け抜けていく。
(さて、どうするか? )
逃げながら対策を考えていると、背後から、大きな物体が高速で迫る気配を感じた。だがそれは、エストルではない。上に跳んで躱すとそれは、先ほどエストルが両断した木だった。
(なっ… )
恐るべき
剣を突き出して刺し貫こうと、今までとは比較にならない速度で跳んできた。これこそが、エストルの本気の動きだった。
剣先が当たる直前、転水で体を回転させて軸をずらしつつ、相手の剣の腹に刀を押し当てる。弾かれるようにして躱し、回転しながら地面に足から着地して回転を止める。
―爆破術式、
直ぐさま地面を蹴って後ろに跳ぶと、遅れてその場所にエストルが跳んできた。その目はエストルの動きを捉えていた。動きを予想し、撹乱するための魔術を用意する。
追撃を仕掛けようと相手が踏み込んだ瞬間、魔術を発動させる。
―
炎の壁がレインの姿を隠しつつ、爆風で体を飛ばして距離を開けていく。さらには、エストルをその場に釘付けにする。
はずだった…
魔術が発動するよりも早く、エストルは何もない空間に向け、剣を一閃していた。斬撃が魔力の繋がりを断ち切って魔術を無効化させたのだ。
間髪入れずにレインに向かって跳躍する。
爆風を当てにしていたレインは次の行動が遅れた。エストルの接近を許してしまう。
返す刀でエストルは再び横薙ぎの一閃を放つ。何気ない一撃だが、レインにとって、それは厳しいものになった。
反射的に刀で受け止めようとして前に出す。だが、不穏なものを感じた。同時に空射加速で体を弾き飛ばし、回避に移る。
しかし、咄嗟に発動した魔術は半端なものだった。刀を引き戻すのが遅れ、エストルの剣と交差する。
―ヒュカッ…
さしたる抵抗も出来ずに“絶雷”は根元から切断された。盛大に切り飛ばされることもなく、椿の花のように静かに落ちる。
あまりにもあっさりと刀を折られ、レインは驚愕を禁じ得なかった。
それでも戦いは続いている。再度、仕切り直しをするために、加速魔術で距離を取ろうとした。
「させないよ 」
だが、それを許すエストルではない。レインが動く前に、本気の速度で接近する。そして、無慈悲に剣を振るった。
「右腕はもらったよ 」
人を斬ることに何のためらいもない正確な斬撃は、狙い通りレインの右腕に吸い込まれると、何も残さずに通り過ぎていく。
一瞬遅れて、斬られた右腕が地面に落ちて転がった。
エストルはレインから距離をとった。苦しむ様、困惑する様、憎悪する様、恐怖する様…、それらをよく観察するためだ。
今までに、何度も同じ事をしている。これから起きることをエストルは熟知していた。
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「チッ… クソ… 」
腕を切断された瞬間、妙な気分の悪さに襲われる。
単に腕を切られたからじゃない。切断された痛みは殆どない。出血も最小限で済んでいる。
だが、全身に悪寒が走るような苦しさがあった。大切なものが抜け落ちたような喪失感に襲われる。魂が砕かれるとはこういう事を言うんだろうか?
脂汗が全身から吹き出てくる。
これが…
左腕からワイヤーを伸ばして右腕を引き寄せると、それを掴んで切断面に押しつける。繋ぎ合わせるため、急ぎ回復術を実行していった。
だが、一向に接合されていかない。魔力の流れが傷口の手前で止まってしまっている。
「そんなことをしても無駄だよ 」
俺の様子を遠巻きにして、ニヤニヤと観察しながら、小馬鹿にしたような調子で言葉を投げかけてくる。
こいつっ…
しかし、悔しいがピンチであることは確かだ…
「このままだと一生片腕だねぇ 」
「クソがぁぁぁぁっ! 」
「アッハハハハッ、いまどんな気持ちかな? ああ、言わなくてもいいよ、わかるからっ 」
「このっ… 野郎っ… 」
なーんてなぁ~…
―コア・アシスト
コアに保存されていた俺のデータを、ちょうど欠けた分だけ複製して魔石にぶち込んでやる。いまの疲弊したコアでもそのぐらいは出来る。あとは魔石側が勝手に修繕してくれる。
「悔しいだろうねぇ~ 恐いだろうねぇ~ 」
今はせいぜい調子に乗っていろよっ… クソガキ…
情報の修復は完了した。気付かれないように腕を繋げていく。ゆっくりと丹念にだ。同時に魔術も用意する。
―結合術式、【空射加速・斬空加速】
「でも安心しなよ… 残りの腕も両足も、同じように切ってやるよ。つりあいが取れるようにするからさぁ。そのあとは、細かく切り刻んで形を整えてあげるよ。なぁに、お礼なんかいらないよ? 僕は優しいから… 」
その通りに、あのまま来られたら結構ヤバかった。コイツの思い通りの展開になっただろう。だが、もう遅い。準備は整った。
油断しすぎだよ… このマヌケが!
「ちゃんと形の整った人形になったらゆっくりとお話をしようか…
―覇空遷移
素直に話が出来… 」
至近距離で目と目が合う。俺は見せつけるように右腕に魔力を流し込んだ。相手の眼が驚愕で見開かれていく。
驚きに惚けている顔面に向かい、込めれるだけ魔力を込めた拳を…
―叩きつける!
「オルゥアァァァッ!!! 」
―ゴッッッ!
高速で回転しながら飛んでいき、地面を数回バウンドすると木の幹にぶち当たって止まる。衝撃と共に木の葉が落ちてきた。
十数メートルは吹っ飛ばしてやったな…
とりあえず、やられた分は返した…
ぶん殴った拳に、確かな手応えがある。
暴力はいけない… 報復はいけない… 憎しみは連鎖を産む… それはそれで一つの真理だろう。
だが、こうも思う。
ムカつくヤツを思いきり殴ったならスッキリする。それも一つの真理だと…
俺は今、最高の笑顔で笑っていることだろう。