トライクに乗って高速道路を進む。
エルテシア王国とロメリス王国は、なだらかな平地で繋がっていて、ひたすらに代わり映えの無い平地と森林が見えるだけだ。
途中でいくつか町や村を通ることはあるが、そこは無視して過ぎ去る。
やがて、大きな河川が視界のむこうに見えてきた。川幅が相当に広い。ベルヌ川という川だそうで、これがエルテシアとロメリスの国境にあたる。
河口部には両国に跨がる大きな都市があった。ベルローヌと言うそうで、ジャンクションで道を変えれば高速から直接行くことが出来るが、今回は寄らずに通り過ぎる。
大きな街は何か面倒事がありそうだからな…
巻き込まれたら、結構時間がかかりそうだ。興味が無くはないが、なるべく寄り道はせずに進んで、適当な小さめの街に泊まることにする。
ベルヌ川を越え、ずっと東に進んでいった。日が傾いてきたところでそろそろ、泊まるところを決めようかと思う。
《二十キロ先に手頃な街があります。人口は三万人ほど。レバンデールという名前です 》
じゃあそこにするか…
あまり小さい街だと、従魔と一緒に泊まれるホテルが無いかも知れないからな…。
最低限ギルドがあるところがいい。
高速を降りて街に到着するとホテルを探して部屋を確保する。多少心配はあったが普通にあった。流石は魔物使いギルドだ。
いつものように従魔も一緒に食べれるような店に行って夕食を取ると、その日はそのまま寝ることにする。
亜空間の中で、やっておきたいことがあった。肉体を眠りに就かせて作業を開始する。
あんな無茶をしたせいで、コアの機能にだいぶ制限がかかっている。それも、今では多少回復してきている。そろそろレインメーカーの修復をしておきたいところだ。
エンジュ… 今の最大魔力量はどんなものだ?
《ウサギ指数で 137,293 です 》
だいぶ下がったな…
これだったら、人間の姿の方が強いまである。放っておけば徐々に回復するだろうけど、この状態でキツいヤツとは戦いたくない。
俺も強くなっている。困るような状況には、
となると、魔力に頼らない強化方法が必要だな…
まずは、基本構造を修繕するところから始めよう。四肢は砕けているし、フレームには無数の細かなヒビが入っている。それどころか、全体的に分子どうしの結合が
いや、物質が消失している箇所まであるだと…? 魔鉄から普通の鉄に戻っている部分もあるな… あの光の影響か?
魔力暴走状態にあった魔石を内包する魔力ごと消滅させるような光だ。ヤバいモノであるのは間違いないだろう。
あの光について、現状、たいして解ることは無いか…
《はい、情報を閲覧するには権限が足りません 》
エンジュもそう言っている…て、言うか権限てなんだよ… 触れるのが恐いな…
まあ、いい… 今はレインメーカーのことだ
こうなっては一から作り直す方が早い。一度分解し素材に戻してから、再び構築していく。
完成品のデータがあるから時間はかからない。3Dプリンターの処理待ちをするように徐々に形になっていく様を眺める。
基本構造が出来上がると、次は外部装甲の製造に入る。これについては設計から練り直さなければならない。
膨大な魔力に頼らずに、以前と同等か、それ以上の性能を引き出すにはどうすればいいのか? 答えは既にある。
魔力がダメなら理力を使えばいいじゃない…
そう言ったのはマリー・アントワネットだったか…?
《違います 》
…ツッコミありがとう
《どういたしまして 》
なんかやりにくいな… 時間が立てば慣れるか…
現状のコアの性能では、模造理力石は作れない。だが、既に作ってあるモノを利用すればいい。フォース・ビットをばらし、そこから流用していくとしよう。
装甲の各所に理力石を埋め込んで装甲の強化と運動性能の向上を計る。ただし、理力は使用中に回復出来ない。回復するには、亜空間に仕舞い込む必要があるし時間もかかる。
消費を抑えるためにも、バーニアを使用して動くことが重要だ。
全身のいたる場所に、以前より大型のバーニアを配置していく。背中には特に大きなものを設置しておく。
武装には、理力を用いたレーザーが第一候補に上げられる。しかし、それだと理力の消費が大きい。発射した分が、そのまま消費になってしまう。
そこで、光子をブレード状に形成して切り裂く方法を考える。これならばブレードを形成する時に消費するだけだ。維持するだけならたいして消費しなくて済む。
それでも、物体を切りつけた時は消費が激しくなるが、単発で放出するよりずっと効率はいい。
全身にブレードの展開装置を取り付けて、どこからでも攻撃出来るようにする。これで、改修型レインメーカーの完成だ。
最高出力で戦うなら一分も持たないかも知れないが、その範囲内で倒せば問題はない。
とは言え、可動時間を伸ばす施策はやっておくべきだろう。代替案として威凄流鬼を残しておく必要もあるか…。
そこまで追い詰められたなら、あれでも使うしかない。威凄流鬼の修復と魔核への魔力補充は、裏で徐々に進めていくことにしよう。
だがやはり、レザンの魔核を遊ばせておくのはもったいない気がする。レインメーカーの拡張武装に使えないか考えておくとしよう。
何が起こってどんな状況になるか、わかったものじゃない。取れる選択肢は多い方がいい。
とりあえずはこんなものか。一度にあれこれやると、今の状態では負担が大きい。意識を閉じるとしよう。
《おやすみなさいませ 》
おやすみ…
◇
翌朝はジュジュに起こされる。ご飯の催促だ。なので直ぐに朝食を取ることにする。
亜空間から適当に、サンドイッチやヨーグルトなどを出して軽く済ませた。ホテルの食堂は使えないし、ルームサービスも面倒だ。
身支度を整えると狩猟ギルドに出向いて話を聞いてみる。討伐依頼なんかは出ていなかった。これと言って大きな問題は起きていないようだ。
平穏無事で過ごせそうだ…
この領地には、これと言った魔境が存在していないらしい。もう何十年も、大きなトラブルは起きていないという。
深層まであるような魔境もあるにはあるが、街からはだいぶ離れているそうだ。
俺やジュジュを満足させるような獲物は望めそうもないな…
平和なのはいいことだが、そうなるとジュジュが運動不足になってしまう。遊びの虫がうずき出したら止まらなくなりそうだがどうやって抑えようか?
もう何日も、本格的な遊びはしていない。そろそろなんとかしてやりたいところだが…
「この街の近くに、人が来なくて暴れても大丈夫な場所はないだろうか? 」
ギルドに相談すれば解決はしそうな気がする。なので聞いてみた。
「人が行かない場所はありますが… 暴れる?」
「従魔の訓練をするために魔力を思いきり解放出来る場所が欲しい。魔物の動態に影響するかもしれない。狩り場から遠い場所がいいんだが 」
「ああ、それでしたらいくつか候補があります。少々お待ちください 」
そう言って職員は席を外すと、周辺の地図を持ってすぐに戻ってきた。机の上に広げて指差しながら説明をしてくれる。
「こことここがオススメですね… 街の周囲に狩り場はありませんし壁の近くなら魔物に対する牽制にもなります 」
「そうか… ありがとう。早速行ってみることにしよう 」
場所を決めると、ギルドを離れて街の外に向かう。門を出てしばらく歩いていくとそうかからずに目的地に到着する。
街の外壁と森に囲まれた結構広い平地になっている場所だ。人の気配もないし、市民が森に入っていることもなさそうだ。ここなら十分に力を出すことが出来るだろう。
流石に本気は無理だが…
《ジュジュ、雷と土は禁止で 》
いくつかルールを決めていつもやっている追いかけっこを始めていく。今回は空術縛りでやっていくことにした。雷術は危険な感じがするし土術は外壁に負荷を与える可能性がある。
《いくよ… 》
宣言をしてから空歩を使って空中を跳ね回っていく。ジュジュも同じようにして跳ねていく。
最初は跳ねる感触を楽しみながら、ふざけ半分でゆるゆるとやる。体が温まってくると、徐々に動きは真剣味を帯びてきた。直線的な素早い動きで空中を飛び交い、ジュジュが俺の後を追いかける。
白熱し過ぎる前にジュジュに追いつかせて、第一ラウンドを終えた。
おててでギュッと抱きしめられる。ジュジュはにおいをくんかくんかと嗅いできた。スリスリもされる。
ずっとこうしていたいところだが、まだ始まったばかりだ。途中で我慢して引き剥がすと第二ラウンドを開始する。
空歩に加え、屈折率を操る幻視魔術も使っていく。視覚に頼らずに魔力の流れを追っていくことが重要だ。
最初は虚像の方に引きつけられていたが、だんだんと本体を捉えられるようになってくる。
それならば…
気配を抑えてわかりづらくしてやる。更に虚像の数を増やして視覚を惑わす。
これならどうする?
何回か惑わされて虚像に飛びかかる。しかし、このままではダメだと考えたのか一度立ち止まり魔力を練り上げていく。
何を仕掛けて来るのか…
ワクワクして見ていると、突如としてつむじ風が巻き起こる。場を全て巻き込むような規模の大きい魔術だ。俺の空気制御を乱して虚像をすべて消してしまった。
気配を探る練習にはならないが、これはこれで大したものだ。自分も使える魔術だから弱点をすぐに看破出来たと言うことだ。それに加え、この規模の術式を簡単に発動出来ている。
ジュジュの成長を実感しつつ、後ろから抱きつきタックルを喰らい地面に押し倒される。
そこから軽いプロレスが始まった。しばらくじゃれ合ってみる。俺自身がデカい猫になったような錯覚を覚えたが、なかなかどうして悪くない。はっきり言って楽しい。
……ハッ、これがケモナーの目覚め?
そう考えると途端に恐くなった。誰かに見られたら魔物に襲われているように見えなくもないし自重しておくことにしよう。我慢だ。
ジュジュのもうやめちゃうの? って感じの視線と、残念そうな表情が痛い。
「もっと上げていくぞ 」
清発で土を払いつつ宣言をする。しっかりと仕切り直しをしなければ、次に進めそうもない。
その後は、お互いに軽く加速魔術を使って追い掛け合い、空弾を放っての遠距離戦、支配した空域を使っての押し合いなんかをする。
そろそろ昼時か…
ちょうど区切りが付いたところで、いい時間になったのでお開きにする。清発をしっかりと行い、身ぎれいにしたところで、レストランへいこうと外壁沿いに門へと歩いていく。
そうして、歩き始めて間もなくのことだ。前方から誰かがこちらへ歩いてくる。外壁の湾曲から姿を現した。
普通、人が来ない場所だ。俺達が目的のようにも思えるが…
騎士服を着ているようだが背は高くない。長い真っ直ぐな金髪を自然に垂らした髪型をしている。骨格の感じからいっても女性だろう。
正直に言うと、中学生ぐらいに見える。騎士服を着ているのが違和感を
誰だろう?