《レバンデール第二騎士団長ですね 》
そうか… 何でそんなことを知っているんだ?
《詳しいことは本人に聞いてみてください 》
答えないか… だがまあいい…
秘密主義は今に始まったことじゃない。
少女は明らかに、こちらへ向かってきている。このまま進めばぶつかるな…というところで、互いに示し合わせたかのように止まる。
距離は二メートルほど。敵意があるわけでもないからこんなものだろう。
左右に大きく前髪を分けて、おでこを出したスタイル。つり上がり気味で先が鋭く尖った眉。同じく、目尻がつり上がる大きな瞳は勝ち気そうな性格に見える。
オッドアイと言うやつか…
瞳の色が左右で異なっている。右が青紫色で左が赤紫色だ。この世界でも珍しい瞳の色は、魔力変異の結果なんだろう。
口元には不敵な笑みを浮かべ、自信がにじみ出ているような印象だ。騎士団長というならば然もありなんと言うべき何だろうが、中学生ぐらいに見えるから子供が背伸びをしているような微笑ましさを感じてしまう。
そう思うのは失礼なんだろうか…
《失礼ですね 》
……そうですね、気をつけます。
「失礼を承知でたずねるが、貴殿がレイン殿だろうか? 」
貴殿? これまた古風な…
「そうだが… あなたは? 」
「申し遅れたな… 私はエイリス・ソル・レバンデールと言う者だ。領主、エルムビント・ソル・レバンデールが娘にして、レバンデール第二騎士団長を務める。以後、
これまた古風な名乗りだな…
《レバンデール家は六百年程前から続く旧家です。帝国も地理的に近く、歴史の重みを大切にしているのでしょう 》
「了解した。早速で悪いが何用だろうか? 」
あまりいい予感はしないな…
「私も長々と話をするつもりはない。単刀直入に言うと、レイン殿の力をお貸し願いたい 」
依頼…といえば依頼だな…
「ギルドに依頼はなかったようだが… 」
「まだ実害は出ていないのだ。領民に不安を与えないためにも出来れば騎士団の内で納めておきたい 」
ふむ… そう言うことか…
であれば、かなり大変な相手であると言うことだな。ここに来て大事に巻き込まれるとはね… つくづくツイていない…いや、ツイてる?
「むっ… 何か都合が悪いだろうか? 」
俺が自分の巡り合わせに思いを馳せていたら、エイリスは渋っていると捉えたようだ。
別に嫌はないが、情報は欲しい。
「いや… 受ける気でいるが、もう少し詳しく聞かせてくれ。どのような相手だろうか? 」
「我々も、そこまで掴めているわけではないが…端的に言うと黒い竜だ 」
んんぅ? 黒い… 竜… どこかで聞いたような話だな…
《マスターが想像している個体である確率は三%未満です 》
わかっているよ…
アイツがこっちに来ているはずがない。俺が道を教えて見送ったんだしな。こちらは正反対の位置にある。
しかし、違うと思っていても、もし、そうだったらどうしようって気持ちになるものだ。頭の中で連想が始まってしまったらどうにも止まらなくなる。
確認しておかないと収まりそうもない。
「わかった。相手にとって不足はない。引き受けよう 」
「そうかっ、流石レイン殿だ。報酬や細かな段取りについては、後で話すことにしよう 」
「そうか… 俺達はいまから昼食を取りに行く。その後でかまわないか? 」
「うむっ、そうしてくれ。任務は明日から開始の予定だ。今日中に、騎士団本部に来てくれればいい。レイン殿の都合のいい時でかまわない 」
「なるべく早く行くようにはしよう 」
「では、私は戻ることにしよう。待っているぞ 」
そう言い残して
リーンやリオンと同じなのかも知れない。オリバーの時もそんなことを思ったな… 。騎士なんかの戦闘職に就いているのは珍しいようにも思うが、俺が知らないだけか…
それにしても、獲物がはっきりしているのは、旅に出てから初めてのような気がする。今回は大きな波乱もなくいけそうだ。
門を潜り街に入るとレストランを目指す。エンジュがオススメする店だ。従魔も大丈夫らしい。毎度思うのだが、どこから情報を得てくるんだろう?
店に到着して中に入ると、店員さんに案内されて席に着く。なかなか活況のようだ。席の大部分は埋まっている。
どれどれ… どんなメニューがあるのかな?
《この店のオススメはハンバーグです 》
へぇ… ハンバーグがあるのか… それにしよう
注文を済ませて料理を待つ。どれぐらいの大きさなのか分からなかったが、ジュジュには足りないだろうと思って沢山注文してみた。
俺の分に二皿、ジュジュには三皿だ。それぞれ、ソースの味が異なる。そして、ミンチ肉の種類と混ぜる割合が異なる。
《もともとは、あまり質の良くない肉や切れ端をミンチにして混ぜ合わせ、臭み消しの香辛料を加えた料理だったそうです 》
そう聞くと、あまり美味そうじゃないな…
《現在では、良い肉を選んで混ぜ合わせるものに変わってきています。肉の種類による味や食感の違いを考慮し、混ぜる比率を変化させたり香辛料を工夫するなどして、味の個性を出すのが今の主流です 》
なるほど、そうなのか。それはなかなか楽しみだな
待っていると皿が運ばれてくる。とりあえず一皿ずつだ。冷めるのを危惧したのかも知れない。
テーブルの上に置かれた皿は、地球でも見たことがあるものだった。熱々に熱された鉄皿が、木製プレートの上に乗せられている。鉄皿の上で厚い楕円形の肉塊がジュウジュウと音を立てていた。
肉汁の焼ける芳ばしく甘い香りが鼻の奥を直撃してくる。
最初にジュジュの分を、手ごろな食べやすいサイズに切り分けてやる。そこについてきたソースを、器からぶちまけるように万遍なくかけていく。
《食べていいよ 》
ジュジュが食べ始めてから自分の皿に向かう。
最初に来たのは、イノシシと鹿とウサギを合い挽きにしたジビエハンバーグだった。
ソースは刻みタマネギの入ったバーベキューソースといった感じだ。結構サッパリとした味だ。
ハンバーグを少し切ってから、ソースに潜らせて口に運んでいく。噛みしめると適度な弾力を返してくる。溢れてくる肉汁はイノシシのものだろうか? 豚系の甘味を感じる。
同時に、野趣溢れる独特の味を感じる。ともすれば、臭みとも取られかねない特徴的な香りを伴うものだったが、共存する香辛料のおかげで気にならない。
むしろ、個性的な風味と旨味に感じられる。これはこれで悪くない。と言うか、忘れた頃に思い出して、また食べたくなるようなそんな味だ。唯一無二の独自性がある。
次に来たものは牛肉百%のハンバーグだ。牛は育てるのが大変なのか値が張る。しかし、肉のうまさは頭一つ抜けたものがある。肉を食べるときの純粋なうまさはやはりこちらの方が上だ。
シンプルに美味い…
香辛料も最低限しか使われていない。塩だけで十分にイケる。そこにグレービーソースの旨味と酸味が加わると清涼感が出て、いくらでも食えそうだ。
ジュジュもこれには大満足であるらしい。あっという間に、残り二皿を平らげてしまった。
デザートメニューもあったので、二種類頼んでみた。プリンともう一つ、実体がいまいち掴めない、チーズを使ったお菓子のようだ。
テーブルに並べられると、二つは外見的にはよく似たものだった。丸い深さのある容器が、そのもので満たされている。
まずは、よく知らない方から食べてみるか…
エンジュに聞いても答えなかった。自分の舌で確かめろ、食えばわかると言うことなんだろう。
スプーンを刺してみると、ふわりと柔らかい感触が伝わってくる。プリンより柔らかい。泡のような感じがある。
口の中に入れると、舌の上でほどけるようだ。そして、チーズの濃厚な風味が鼻を抜け、舌を包み込む。
どことなく、食べたことがあるような気がした。ティラミスとレアチーズケーキを合わせたような… そんな味だ。下にはカスタードと、クッキーのようなざくざくとした食感のものが層になっている。
ハシェットと言う名前なのか… 帝国では流行っているのかな? そこまで距離はないし、伝わって来ていても不思議ではない。
デザートを食べ終わると、食休みも兼ねてギートを注文してまったりと過ごす。
エイリスは何時でもいいみたいに言っていたが、昼時は
店内はもう、だいぶ席が空き始めている頃だった。俺以外には二、三組しか客はいない。
そんな時、新たな客が一人、店の戸を開けて入ってくる。異質な空気を纏った人物だ。思わず視線がそちらを向いてしまう。
赤と黒を基調としたドレスを纏った少女…フルカヴントで、すれ違った女性で間違いないだろう。
あの時とは異なり、日傘は折りたたまれている。顔はよく見えた。
長いまつげに縁取られた緑色の大きな瞳が特徴的だ。髪の色に良く映える。顔立ちも整っていて美少女と言っていい。だが、どこか近寄りがたい雰囲気がある。
じろじろ見るのも良くない…
人目を引く恰好をしているのだから、自然と目がそちらに行ってしまう。しかし、本人の意図はそうではないかも知れない。
俺は目線を戻し、ギートに集中する。店員も他の客達も気にしている様子はない。
少女は店員に案内されることなく、スタスタと店内を移動する。俺の隣を通り過ぎて後ろの席に座った。背中合わせになる真後ろの位置だった。
他にも、空いている席はいくらでもある。わざわざ、そこを選んだような気がするのは、俺の自意識過剰なんだろうか?
なんとなく背中を意識してしまう。
彼女は店員を呼ぶと紅茶を頼んだ。鈴が鳴るようなころころとした声だった。
紅茶が運ばれてきて啜り出すと、俺の方もギートを啜る。やがて、状況に馴れてきたのか気にならなくなってきた。
落ち着いてギートの芳ばしい香りと苦みを味わっていたその時…
…え?
突如として真っ白な空間に立っていた。白昼夢でも見ているのかと思ったが、意識も感覚もはっきりしている。どこか、光の人と会った時のような感じもあった。
これはコアで見ている情報のようなものか… となるとこの少女は本物だな…
目の前には、先ほどのゴスロリ少女が立っている。存在を認めると、どこかしらが繋がったような感覚を得られた。
「俺はレインだ… 今は流れの狩人をやっている 」
「わたしはメルゥアンメリー・レーネ… レーネって読んでねぇ。エストルの仲間って言った方が伝わるかしらぁ? 」