機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第3話 Ⅹ 跳ねまわるもの

光を感じて意識が目覚める。体を動かそうとするがピクリとも動かない。

 

周囲を確認しようと視覚に意識を向けると360°全方位が同時に見える。その感覚に気持ち悪さを覚えいったん視覚を切る。視覚を閉じたまま情報を整理する。

 

うん、、、確実に石になっている

 

自分の視点からでも今の自分の姿形が確認できた。あの男の言うとおりになっている。そこは問題ない。

 

しかしながら自分がただの石? になっていることには受け入れがたいものを感じる。

 

一握りくらいの結晶。色は透き通るような深い赤色。正八面体を少し上下に伸ばしたような形で角はなめらか。われながら美しい形をしている。でも石だ。

 

体は作れるそうだが今は何もない。普通ならかなりの衝撃を受けそうだ。事故で目覚めたら両手足を失っていた。そんな感覚か?

 

しかしなぜか俺は落ち着いていた。意識を自分に向けるとなにが可能なのかおぼろげながら理解できるのだ。この石に秘められた力は状況を打開するには十分なものであると判断する。

 

俺は意識を集中して体から力を放出する。それは紐状となって地面に浸透していく。

 

体に取り込むようなイメージで伸ばした触手を土ごと引っ張ろうとするとその部分の地面がえぐれるようになくなった。

 

この体? には亜空間のようなものがさながら胃袋のように備わっていて、消失した土が亜空間に収まっていることが感覚でわかった。

 

同じ方法で土を集めていく。十分な量が集まると今度は自分の周りに土を放出する。放出しながら土に血管や神経をイメージしながら糸状にした力を()り込んでいくとやがて土でできた人型が完成した。

 

仰向けに寝ている状態である。凹凸のない全身のっぺらぼうといった風貌だが顔にあたる部分の中心に俺の本体となる結晶が埋め込まれている。

 

視野を確保すると土に埋まった部分は視界がなくなり半球状に世界が見える。まだまだ情報過多(じょうほうかた)だが全方位視界より処理がしやすくなった。

 

今度は体に力を入れてみる。糸状に伸ばした力のラインからさらに土に力を浸透させるような感覚で腕や指を曲げてみる。

 

しばらく動作をたしかめると以前の肉体と近い感覚で動かせることがわかった。腰をひねり仰向けからうつ伏せ上になると腕を支えに立ち上がる。

 

ようやっと落ち着いて周辺を確認するとそこは光が差し込む森の中だった。

 

そういえばあの男からこの世界がどんな世界なのか全く聞いていなかったことに今更ながら気づいた。人間が住んでいるのか未開の惑星のような世界なのか現時点ではわからない。

 

人が住んでいるとして空想にあるゴーレムとか妖怪泥田坊(ようかいどろたぼう)とか言ったような今の形状ではコミュニケーションなんてとれるはずがない。声を発することもできないしな。

 

とりあえずは情報を集めつつ材料を集めつつ肉体? の構築をしていかなければならない。まずは探索をはじめよう。

 

適当に歩き続けていると視界の端に白みがかった茶色いものが動いているのが見えたので木の幹に隠れつつ近づいてみる。

 

木々の間、少し開けた草地になっている場所に一匹のウサギが草を食べている。ウサギがいるってことは生態系は地球と変わらないのか?

 

もっと近くで様子をうかがおうと近づいてみる。するとそいつは気配に気づいたのかこちらに目を向ける。

 

音は立てていないはず。この体は呼吸を必要としない。体温もない。匂いもこの森の土の匂いしかしないはずだ。どうやって気づいたのか考えていると。ウサギはこちらに鋭い視線を向けてきた。

 

眉間にしわが寄り明らかに友好的な雰囲気ではない。前世の知識ではウサギは草食の弱い生き物というイメージがあった。しかし、どうやらこのウサギはやる気らしい。

 

逃げないの? とのんきに考えていたらいきなりウサギは地面を蹴ってこちらに飛んできた。かなりの跳躍力だ。蹴られた地面は土をまき散らしえぐれる。

 

ウサギとの距離は10メートルほどで間に木が何本もあったが、その木の幹を蹴りながらジグザグに方向を変え向かってくる。

 

速い、、、

 

何の迷いもなく顔の中心にある結晶、俺のコアめがけて飛んでくる。回避は間に合わないと判断して両腕を肘を曲げて前に出しガードを試みる。

 

ウサギは左の前腕部に頭から突撃し、その衝撃で軌道が()れて左後方に流れていく。

 

こちらは逆に右側に半回転しながら突き飛ばされる。地面に転ばされるとすぐにウサギと衝突した左腕を確認する。

 

左腕は衝撃により腕から先がなくなっていた。あわてて亜空間から残りの土をだして修復する。

 

ウサギはすでに体制を立て直していてこちらの隙をうかがっている。

 

ウサギの方に目? を向けながら広い視野であたりを確認すると嵐でも来ていたのか地面には折れた枝が無数に散らばっていた。

 

そのなかからなるべく丈夫そうなものを探す。果たして一歩分の距離にそれを見つける。

 

目を付けた枝と逆の方向に一瞬体を振りフェイントをかける。ウサギはそれにつられ一瞬出遅れたが素早い跳躍で距離を詰めてくる。

 

枝をつかんだ瞬間にはウサギは目の前にいてコアめがけて噛みつこうと口を開け頭を振りかざしている。尻餅をつく形でなんとか枝をウサギの口とコアの間に差し込んだ。

 

齧歯類特有のノミのような牙は枝をたやすく噛みちぎる。

 

なっ、うそだろ!

 

スローモーションのようにその瞬間を見ていた俺は絶望を感じていた。

 

だが、俺のコアの能力はどんな状況でも冷徹に演算を続けているらしい。枝をかみ砕く瞬間、ウサギの牙がかすかな光を放っていたことに気づいた。

 

中程をかみ砕かれて短くなった枝を1本ずつ両手に持ち振り回す。ウサギの胴に当たりひるんだ隙に足蹴りをかまして距離をとらせる。

 

すぐさま立ち上がって先ほどの観察で得た(ひらめ)きを試すことにする。

 

結晶体が光り出すのをイメージしながら力を内部にとどめたまま増幅させようとする。コアは思い通りエネルギーで満たされ輝きを増していく。

 

次はコアから伸びている光の糸へさらに大きな力を流す。糸は血管のように太くなり血流のように力が循環し出す。そこから体を構成する土に力を送り込む。

 

のっぺりとした土の体はより人体を思わせるシャープな形状となり筋肉のような凹凸が現れる。土はより堅さが増していく。

 

さらに指先から手に持っている棒に力を流し込む。土に力を流すより大きな抵抗を感じたが先端まで力を()わせることができた。

 

興奮状態のウサギはこちらの変化を気にすることなく飛びかかってくる。地面が()ぜ恐ろしい速度で向かってくる。

 

今度はコアではなく首元に噛みつこうとしてくるが左手の棒でガードする。

 

ウサギの発達した前歯は木の皮を破り中程まで食い込むが今度はかみ切られることはなかった。前歯が木に食い込み一瞬宙づりになったウサギはそこで異変に気づいたようだがもう遅い。

 

俺はその隙を見逃すことなく右手の棒の先端を心臓があると思われる胸の部分に全力で突き入れる。

 

皮を破り骨を砕き肉を裂く感触が伝わってくるとウサギの命が尽きるのを感じた。

 

俺は勝利を確信したが急にコアから放出していた力が消失していく。土の体は先端から崩れ落ちていく。土がすべて崩れると俺のコアが崩れた土の上に落ちる。

 

再び体を形成しようとするが何の反応もない。

 

、、、まじかよ

 

ウサギのほかに危険な生物がいるかもしれない。血のにおいにつられて肉食の生物が来たらしゃれにならない。俺はあせりを感じつつも考察を巡らせる。

 

状況から考えてガス欠のようなものだろう。しかし、どこからエネルギーを持ってくるんだ? 生物なら食事、燃料車なら給油、EVなら充電。口やら給油口やらはない。俺はどうすればいい?

 

落ち着いて考える。ヒントはさっき俺やウサギが使っていた光にあると思う。ウサギを取り込めばエネルギーの回復ができそうだが今はピクリとも動けない。

 

何かないか視界を巡らせる。

 

あれ? いつの間にか全方位視界になれている。まあ、いまはそれどころじゃない。

 

よく目を凝らせて見てみると、そもそも地面や草木、空間もうっすらと光っている。

 

目の感度を意識して上げてみると視界が真っ白になった。実際に目で見ているわけじゃないから目が痛くなることはないが何も見えないので感度を下げる。

 

どうやらこの世界はこの光で満ちているらしい。

 

呼吸をするイメージでなんとか空気中の光を取り込もうとするとコアの中のエネルギーがわずかに増えているのがわかった。

 

注意深く観察するとコア自体も微々たるものだがエネルギーを生み出していて外から取り込むと回復が早くなるようだ。

 

回復を待つ間、周辺を観察しているとウサギの死体が目についた。光の感度を上げてみるとひときわ光が強い場所がある。木の棒を突き刺した奥の方だ。

 

あれを取り込めばかなり回復できそうだ。俺はわずかばかり回復した力を使い、崩《くず》れた体の一部を取り込んでアメーバ状の体を形成する。

 

ゆっくりとウサギの死体に這い寄っていく。

 

刺さった棒を抜こうとするが抜けない。仕方なく毛皮の上から最短経路で光の触手を侵入させていく。力の(かたまり)に到達すると触手の先端に堅い感触があった。宝石のような表面がなめらかな塊がある。

 

それを包み込むように()わせ一気に引っこ抜くと亜空間に入れることに成功した。亜空間の中で石を分析する。

 

石は赤色をしていて平べったい楕円形をしている。あの光のエネルギーが固まってできているらしい。

 

それと分析中に気がついたのだがこの空間に入れたものを俺は分解したり組み合わせたりできるらしい。取り込んだ土を使用するときも無意識に有機物を減らし鉱物比率を高めて使用していた。体の強度を上げるためだろう。

 

まだ慣れていないせいだろうか。自分自身のことだというのに不明な部分が多いな。なるべく早く把握(はあく)しておきたい。

 

取り込んだ石を分解してエネルギーを取り出せるようだ。そうとわかれば分析もそこそこに早速と分解する。

 

亜空間の中から結晶体にエネルギーが流れ込む。ある程度回復したので土を回収して体を元の状態に戻す。

 

ウサギの死体を亜空間に回収してその場をそそくさと後にする。もちろん周囲への警戒は忘れない。

 

異世界デビュー戦は散々なものになったな。いろいろと自身について調べなければならない。

 

あの男はあくまで使いこなせれば希望を叶える力があると言っただけで強さを保証したわけではないと今更ながらに気づく。慎重にならなければあっというまに死ぬかもしれないという現実にめまいがしそうだ。

 

だいぶ離れた場所に来たので周辺を索敵(さくてき)して安全を確かめる。戦闘を振り返り、問題点を探し出すことにする。

 

一番気になったのが戦闘直後のエネルギー切れだ。エネルギーの自然回復度合いを測ると使い切った後は回復速度が極端に落ちるようだ。エネルギー切れは起こさないようにしなければならない。

 

この体は痛みを感じない。呼吸が苦しくなることもない。体の操作はジャックスの試合で機体を動かすことに似ているが状態の把握はもとの自分の肉体のようにはいかない。自分の状態を的確に知ることができなければ気がつかぬうちに危機的状況に陥ってしまうだろう。

 

そこでエネルギー残量を図るために数値化することにした。

 

数値化するには基準が必要だ。メートルは光の速さが、キログラムはキログラム原器が、秒はセシウム周波数が基準だ。このよくわからないエネルギーは何を基準にするのが適当か?

 

俺はひとまずウサギのエネルギー量を参考にすることにした。分解したときの分析結果からウサギの最大エネルギー量をとりあえず100とした。1にしないのは減少幅を考慮してのことだ。

 

そうすると俺の今のエネルギー量は

 

現在値/最大値 292/326

 

となる。

 

単位はまだつけないでおこう。この世界に人がいたらすでに単位をつけているかもしれない。

 

次にこのエネルギーの使用量と回復量について考察しよう。戦闘データからみるに出力を大きくすれば当然使用量は増える。戦闘の最後に使いすぎたからバッテリー切れを起こしたのだ。効率よく使用することが重要だ。

 

土の体を維持しているだけで微妙に消費している。動かすと減りが少し速くなる。じっと動かないで空気からの吸収に集中してようやく十分な回復量を得られる。

 

土とは別の素材で体を作成するなどいろいろ試してみなければならない。体の体積をしぼって見るのも一つの手か。

 

回復量については増やす方法がわからない。必死に空気から取り込もうとしても増えた感触はない。ウサギの石みたいなものをストックしてエネルギー残量がやばくなったら回復に使うぐらいしか現状手がないか。

 

というかあの石とかエネルギーとかにいい加減名前をつけないと思考しにくいな。ウサギの死体を調べていろいろ名称を決めていこう。

 

ウサギの死体を分析すると石があった場所は心臓の近くでそこから全身に力が通る回路のような痕跡があった。それだけでなく神経や血管も経路として働いていたようだ。

 

当然だが地球のウサギにそんなものはない。この個体が特別なのか、こいつしか知らないから判断はつかない。しかし、ファンタジーゲームなんかに登場する魔物という表現がしっくりくる。

 

お金を落とす代わりに魔石を落とすタイプ。あの石は魔石と呼ぼう。

 

、、、魔石があるのが魔物なら俺もひょっとすると魔物になるのか? あまり考えないようにしよう。

 

魔石と名付けたのでそこに内包する力を魔力と呼ぼうか。次にウサギの死体を分解して歯や骨をカルシウム、毛や爪をケラチンといった具合に素材にしていく。これを体の素材にしていこう。

 

ロボットを作るなら金属素材が欲しいのだが鉱脈を発見して採掘するのか。難易度が高いな。

 

この世界に人間がいると仮定して、人間と取引するにしてもこの世界の人間に偽装しなければならないな。偽装方法もさぐる必要があるか。

 

やることは山積みだが一つ一つ課題をクリアして結果を積み上げていくことは嫌いじゃない。早速、探索の続きを始めよう。

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