機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第33話 見送り

大通りに出て、店が密集するエリアに向かう。

 

露天はもうだいぶ店じまいをしていた。少し寂しくなった通りを散策しているとパン屋を見つける。そういえば昼食を食べ損ねていた。空腹を抑えることは出来るができるだけ情報を集めたいので積極的に買い物をすることにした。

 

買うついでにいろいろと聞き出そうという魂胆(こんたん)だ。ちゃんとした客を無下(むげ)には出来まい。

 

パン屋に入ると数種類のパンを備え付けのトングでトレーに乗せて会計に行く。会計時にパンについて説明を聞いてみた。ついでにちょっと世間話をする。異国人という立場を前面に押し出してこの国の常識なんかを尋ねる。衣料品店の場所も聞いた。

 

衣料品店に行き旅人や狩人が着ているような服をいくつか見繕(みつくろ)ってもらい、一番しっくりきたものを購入する。

 

ほかにも食材を売っている店や日用雑貨の店、本屋なんかもあった。本屋を見つけたのは僥倖(ぎょうこう)だった。印刷技術があるのはわかっていたがこんな辺鄙(へんぴ)な場所の人口の少ない町にあるとは思っていなかった。

 

ただ、本はこの国では希少な部類に入るのだろう。値段はかなり高い。百科辞典と地理書を手に入れたかったがどちらも10万超えか。まだ安定して稼ぐ手段がないため安易に手を出しづらい。

 

悩んだあげく挿絵のたくさん入った百科事典を買うことにした。15万エスク。かなりの痛手だが後悔はない。本の装丁は革で出来ているしっかりした物だ。この一冊だけでネズミで頑張った二か月分の情報を(はる)かに凌駕(りょうが)する情報を手に入れたことになる。

 

あの苦労は何だったんだろうな。まあ、あれがあったから今の俺があるとも言えるが。

 

金を手に入れられたおかげもあるか。セリアさんのおかげだな。買った辞書を背嚢に仕舞う振りをして亜空間に入れて情報を吸い出していく。これでわからないことはだいぶ減らせるだろう。

 

夕食時になったのであらかじめ聞いておいたレストランに入る。

 

こぢんまりした店で接客は最小限。空いている席ならどれでもいいと言われ奥側のカウンター席に陣取る。店内を見渡すと夕食にはまだ早いのか他の客はまばらだ。テーブルの上のメニューを手に取り隅々(すみずみ)まで目を通す。辞典を買ったおかげで結構わかるようになっている。

 

パンにサラダにスープ、そしてメインにウサギの肉を試してみる。この世界では魔物の肉を食べるのは普通のことらしい。前世ではジビエ料理にあたるのだろうがそれよりも一般的だ。

 

狩るのが難しい魔物は一部の愛好家が高値で買い取ったりするようで一般には出回らない。魔力の含有が多いから腐りにくく、ベテラン狩人も長期の狩りでは重宝(ちょうほう)しているようだ。

 

今回のウサギ料理は香草と小麦粉をまぶして揚げ焼きにしたような調理方法だった。外側がカリッとして中がふわっとしたような食感。塩気と香草の風味があいまってパンが進む。そういえば前世ではウサギなんて食べたことなかったな。付け合わせの野菜は名前がわからないがしゃくしゃくとした歯ごたえでかみ砕くのが楽しい。

 

食のレベルが全体的に高いな。まだ二回目の食事だがそう思ってしまう。これも旧文明の影響なのか。

 

食事が終わると宿に戻り寝る準備を行う。ああ、そうだ。寝る前に魔力順化を試みよう。魔石から魔力を引き出して体の隅々まで行き渡らせる。蓋を閉じるように外にあふれようとする魔力を押しとどめる。さらに魔石から魔力を引き出し圧を高めそれを漏れないようさらなる圧力で留める。限界までそれを強めていく。

 

全身に痛みが走る。骨が折れるんじゃないかってぐらいミシミシときしみをあげる。筋肉がちぎれるような感覚がある。実際には手足を見ても何も起こっていないように見えるが何かが起こっているのだろう。

 

しかたない。痛覚を遮断しよう。痛みがあると気を抜いたらすぐにやめてしまいそうになる。痛覚を切って続けられるようにしよう。危険かもしれないが最悪、肉体を亜空間に戻して修復する手もある。そうすれば最初からやり直しになるかもしれないがいいデータが取れるだろう。

 

この日は1時間ほどでやめておいた。明日の予定に響くかもしれないからな。そもそも何をするのか聞いてないし。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

次の日、朝の鐘とともに起床をして身支度を整える。昨日買った服か自作の着物か、どちらを着るか迷ったが着物にしておいた。異国人ムーブが必要になるときがまだまだ来るかもしれない。

 

とりあえず朝食を食べに行こう。ホテルのカウンターで鍵を預けもう一泊することを伝え、料金を払う。

 

そういえばこの世界だとネット予約も電話予約もないだろうから当日に部屋を取るしかないのか。何かを原因としてこの町に人が大勢集まらない限りは部屋が取れないことにはならなそうだな。

 

電話回線を引いて一儲けするプランもありだな。王都に行って電話がなかったら一考の余地があるかもしれない。心に留めておこう。

 

ホテルを出て朝食をやっている店を探し、ぶらぶら歩いていると噴水が真ん中にある円形の広場に出る。ネズミのときは人が多すぎて避けていた場所だがここが一番屋台なんかが集まるようだ。

 

今回は人間としてきた。金も持っている。情報収集がてら買い物をしよう。野菜や果物が売っている店でトマトや柑橘系と思われる果物や桃みたいなそのまま食べられそうなものを購入する。非常食として亜空間に入れておこう。食べ物を売っている屋台があったので朝食を買う。

 

クレープのようなパンのような薄くて丸い生地に肉や野菜を二つ折りにして挟んだ物を紙に包んで渡された。

 

耐水紙、、、。いや、耐油紙ってやつか。中の肉は甘辛いソースのようなもので味付けされていたが、ソースが紙を貫通することはなかった。こういった技術もあるのか。甘辛さの中に少しピリッとした味わいがある。何かスパイスのようなものを使用しているのか? 目が覚めるような味は意外に朝食に合っているのかもしれない。

 

朝食を食べ終わるとホテルに戻り肉体の魔力順化を少し行う。昼にはセリアさんの言う用事とやらがあるので限界まで圧を高めることはしなかった。昼の鐘が鳴るであろう少し前に狩猟ギルドに向けて移動する。

 

ホテルでは彼女に会わなかったな。先にギルドにいて待たせるのかそれともこちらが先について待つのか。どっちでもいいか。

 

腕時計のようなものはなさそうだ。機械時計は町の時計塔に一つあるが個人で所有しているのはおそらく一部の富裕層だけだろう。時間に関してはこちらは結構アバウトだ。おおらかと言っていい。とやかくは言われまい。そして、とやかく言うまい。心を無にして歩く。

 

ギルドに到着して中に入る。セリアさんはいなかった。椅子を借りて少し待つと扉が開いてお目当ての人物が入ってくる。相変わらず離れた場所からでもわかる存在感だ。だが慣れてくると事前にわかるので安心する部分もあるな。すぐに声をかけて来る。

 

「おお、いるな。すぐに向かうからついてきてくれ 」

 

相変わらずどこへ行くのか教えてくれない。後をついて行くと見覚えがある道が続いていく。

 

この方向はひょっとしてあの場所か、、、

 

黙々と二人で歩いて行くと想像通りの場所にたどり着く。火葬場だ。よく知っている。大きな煙突が特徴の外観。内部もある程度知っている。

 

行方がわからないものが1人いると言っていたな。亡くなったのだろう。

 

中に入るとそこにはギルドの関係者と思われるメンツがそろっていた。そのなかにケイルや受付嬢がいた。サリューはいなかった。基本的にギルド職員か討伐任務に関係したものだけなのだろうか? 生前親しかったものは参加すると思うのだが。

 

「解体中にイーギス・アーガスの腹の中から遺体が発見されたんだ。遺体といっても骨と魔石、それにギルドの会員証だけだったが 」

 

ここに来てセリアさんが詳しいことを教えてくれる。遺体は火葬にして遺灰はこの町の墓地に安置される。魔石は遺族がいれば遺族の元に変換されるそうだ。そのためにギルドは組合員の家族の情報をあらかじめ聞いておくそうだ。

 

俺のような場合どうするのかと思ったが、身寄りのない人間や家族との縁が切れている場合はギルドが魔石を預かるそうだ。任意で記載するため登録時に書かない人も少なくはないということらしい。

 

「発見が遅れれば遺体はおろか魔石もなくなってしまうからな。組合員証だけ何年か後に見つかるなんてこともよくある。お前が早く倒してくれたおかげだな 」

 

別にセリアさんが倒した方が早かったと思うが言わないでおく。俺が戦って倒したのは事実だ。そこにもしもは無い。それになんとなくだが悪い気はしない。戦いに何らかの意味を見いだすのは必要なことなのかもしれない。

 

「仕事だからな。当然だ 」

 

照れくさくなってそんな言葉しか出てこなかった。もっとうまい言葉があったかもしれないが難しいものだ。

 

そうこうしているうちにどうやら火葬が始まるようだ。棺桶(かんおけ)を炉の中に入れて蓋をする。その場にいる全員が無言で炉の扉を見つめる。煙突から煙が立ち上ると幾人(いくにん)かはそれを見上げる。

 

俺も煙が立ち上る様を見つめる。なんとなくそこから目が離せなくなった。

 

やがて炉の扉が開けられ中から灰を掻き出す。それを何か文字が書かれた白い壺に入れて蓋をして封をする。安置所に場所を移動して遺灰が入った壺を棚に収める。これで葬儀は終了らしい。

 

実に簡潔な葬儀だった。終始静寂が保たれ(おごそ)かな雰囲気だった。参列者で悲しんでいるものはいないようだ。泣いているものはいなかった。生前言葉を交わしたものがいたと思うが狩人は基本的には群れることはしないらしい。

 

大物を狩るときや初心者のときに臨時のパーティを組むことはあるらしいが通常は単独での狩りだ。それほど親しいものはいなかったのかもしれない。

 

ギルドの職員は見送る覚悟を、狩人は自分が見送られる覚悟を新たにする。そういう意味を込めた儀式なのかもしれない。死を悲しまない。死者を哀れまない。生を全うしたことに敬意を。そういうことかな。

 

いい葬式だった。なぜかそう思えた。

 

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