あれが狩猟ギルド本部か…
すぐに中に入ってキョロキョロと見回してみる。
この国ではよくある建築様式。木と石とレンガ、漆喰などの材料を組み合わせて作られている。空間の広さは今までで一番かな…。入り口から入るとすぐに広いホールになる構造で役所とか銀行とかの趣がある。人はまばらにしかいない。
正面のいくつかある受付にいきセリアさんに書いてもらった手紙を渡す。
「市民登録と狩猟者免許の取得にきた。紹介状があるんだがここでいいだろうか… 」
言葉遣いがちょっとぶっきらぼうすぎるか?
異国人ムーブはもう要らないような気がするが、狩人になるならこんな感じが普通なのかもしれない。今更変えにくいし…。
「確認します。少々お待ちください 」
手紙を受け取ると封筒に書かれた文字に目を通し、そのうちの
封に紋章が押してあったがそれに目をやったとき、驚いたようにわずかに目を見開いたのを俺は見逃さなかった。ランセス家の紋章とかなんだろうけど効果は抜群のようだ。
物思いにふけりながら目線をあちこちに移していると手紙を読み終わった受付が同僚のところに行って、もう一通の手紙を渡し何かを伝える。すると同僚はどこかに行ってしまった。受付が席に戻ると手続きが始まる。
「それでは先に市民登録から行いましょう。こちらの書類に記入をお願いします 」
一枚の紙を渡されてそれに記入していく。記入が終わると提出し、しばらくロビーの椅子で待つことになった。やがて呼び出しがかかると受付に行き一枚のカードをもらう。
「こちらがこの国の市民証です。納税者番号は今後様々な手続きで必要になりますので無くさないようお願いします。無くした場合は
きっちりと税金を納めるようにしよう。払わなかったらこの世界だと後が怖そうだな。セリアさんクラスの取り立て人が来るかもしれない。
「一年間この国で暮らして納税義務を全うし、犯罪歴が無ければ
「流民登録?」
「狩猟者などの一部の職業に限られますが帝国系の国々であれば自由に国境を越えて仕事が出来るようになります。納税先はそれぞれの国になります 」
この説明はセリアに帝国に行ってみたいと言ったからかな? 手紙に書いてあったのかもしれない。
「流民登録しない場合、この国の選挙権が得られます。狩人は国政に興味がない方々ばかりですが、実績を積んでいけば市民議員や貴族になれる機会もありますよ 」
…そんなことまで説明するのか
何が書いてあったんだろうな。というか君主制と思っていたけど選挙とかあるのか。貴族にもなれるってどういうことだろう? この国の仕組みが良くわからなくなってきたな。
本屋があれば一度勉強してみるのもいいかもな。お金に余裕ができてからの話だが。
さらにロビーで待つように言われて待っていると、さっき出て行った同僚の人が戻ってくる。だいぶ
名前を呼ばれて行ってみるとあの厳ついおっさんを紹介された。
「お前がレインか… 俺が指導教官になるオードだ。紹介状は読ませてもらった。ある程度事情は知っている。今日からひと月ほどの付き合いになるだろう。よろしく… 」
指導教官か。俺の先生になるらしい。ちゃんとした態度を取った方がいいのだろうか?
「レインです。よろしくお願いします 」
頭を下げながら
「そういうのはやめてくれ。狩人同士は対等であるべしってのがギルドとしての流儀でな。相手が王族だったらしっかりとかしこまった対応をすべきだと思うがな 」
王族以外ならぞんざいな対応でもいいんだろうか。貴族であるセリアさんのこともあるから今更か。相手の反応を見て変えていくしかない。
「わかった…よろしく頼む 」
◇
オードさんについて行くとギルド内にある修練場にやってきた。かなり広めの空間で、床は柔らかめの土がむき出しになっている。土はしっかりとならされていて足跡一つついていない。
先に部屋にはいったオードさんは土魔術で足跡を消しながら部屋の中心に歩いて行く。俺も同じように足跡を消しながら歩いて行った。
修練場の中程に来ると停止して俺たちは向かい合う。
「足跡を消すのは問題なく出来るようだな 」
俺が歩いた軌跡をたどるように見て評価を下していく。やはり、もう訓練は始まっているようだ。
「だが魔力の
魔力の痕跡とはなんぞや…?
疑問に思っていると指示が飛んでくる。
「魔力視を使って注意深く俺とお前の足跡を見てみろ 」
言われたとおりに見てみる。最初は良くわからなかったが魔力視を強めたり弱めたりしながらあれこれやってみるとなんとなく見えてくるものがあった。俺の足跡はうすらぼんやりと光って見えるがオードさんの足跡はなんの痕跡も見えない。
「見えたみたいだな。狩人には土に込めた魔力を回収して痕跡を消す技術が求められる。これを
俺は軽く
「了解した 」
早速、練習を行っていくがなかなか難しいな。ゆっくりやって魔力をしっかり回収しようとすると足跡が残ってしまう。素早くやろうとすると足跡も魔力痕跡も残ってしまう。
込める魔力を大きくしてみるが、足跡はつかなくても魔力痕跡が強く残る。ならばと魔力をできるだけ小さくしてみるが今度は足跡がうっすらと残ってしまった。
悪戦苦闘している俺にオードさんは講義を先に進める。
「狩りを行う際には相手よりも先に自分が相手を発見できれば有利な条件で戦うことが出来る。これができなければ狩る側から狩られる側に回ることもあり得る。狩人には必須の技術だ 」
思えば森で狩人に囲まれたときは魔力痕跡だけでなくいろいろと残してしまっていたのだろう。向こうにしてみれば俺はさぞや簡単な相手に
「力の差が大きい場合こちらを認識するとすぐに隠れる魔物もいる。ウサギなんかの草食の魔物がそういう傾向にある。ウサギ一匹狩るにしても基本的な技術は身につけた方がいい 」
そう言うとオードさんはまた歩き方を見せてくれる。今度は魔力視を注意深く
うますぎだろ…
「こういう感じか?」
見よう見まねでやってみるがうまくいかない。
「もう少し抑えてやって見せるか… 見ていてくれ 」
見かねたのか見やすいように若干精度を落としてやってくれた。なるほど、そうやっているのか。つま先から入りつま先から出る。魔力をつま先からだしつま先から戻す。それをなめらかに行う。やり方はわかったが実践はそう簡単じゃないな。
「なるほど、こうか 」
同じように出来るようにきっちりやり方をなぞろうとしながらやってみる。たしかにだいぶ改善された感触がある。
「うまいじゃないか。その調子だ 」
やはりこれでいいらしい。コツがわかってきたのでそれを方針に定めて練習していく。
「実際は俺がやって見せたほどうまく出来るなんてことはない。俺がこれだけ出来るのはここで教えている期間が長いからだ。ここの土の性質を熟知しているからここまで出来るんだ
はじめての狩り場では土の性質が異なるからな。うまくやるには慣れが必要になってくる。そこで生活している魔物は環境を熟知しているからな。総じて魔物の方が感覚器が人間より優れているのもあるが俺たちよりよほどうまく隠密行動がとれる 」
なるほど…土に対する慣れか
環境を知って適応することも重要と…
「どんな魔物でも
狩り場の生態系や環境が変わると予測がつかないことが起きるからな… 熟知している狩り場なら
決して力押しだけでは生き残れない世界ということか…
まずは基本をしっかりと身につけなければならない。この機会に目の前の厳ついおっさんから学べるだけ学んでいこう。今はとにかく隠密歩行を練習してものにすることにしよう。
◇
どれだけ練習しただろうか? 空腹を感じるようになる頃にはだいぶ上達できた。自分の足跡を魔力視で確認するがぱっと見ではわからないぐらいには薄まっている。
「ずいぶんとうまくなったな。正直この短時間でここまで上達するとは思わなかったぞ 」
「オードが教えてくれたお陰だ。感謝する 」
「お前の才能があってのものだ。手紙を読んだときは半信半疑だったが本当に優秀なんだな 」
手紙か… 何が書いてあったんだろうな。あまりに買いかぶられていたら怖いな。
「この後はどうするんだ?」
「今日はこれで終わりだ。悪いが俺もこれ以外に仕事があるんでな…明日からの訓練も午前中だけになる。何日かかるかはわからないがこの調子ならここでの訓練は終了まで一週間もかからないだろう
訓練と実習が終われば免許の交付と組合の入会手続きに進める。お前ならそう難しくないだろうがな… ま、気楽にやっていこう 」
ここにきてフレンドリーさを出してきた。講師の立場がなければこれが素なのかもしれない。
「明日からは九時半ぐらいにここにくればいい。それと自分が普段使っている武器を持ってきてくれ 」
ふと気になったことがあったので聞いてみる。
「そういえば他の受講者がいないが俺ひとりだけのためにやってくれているのか?」
「ああ~、それなんだが普段は王都周辺の村々から
「そうか。それは手間をかけるな 」
「別にいいってことよ。優秀な狩人は何人いたって足りるモンじゃない。お前さんにはこっちも期待しているんだ。お互い様ってやつだな。それに、普通、講習だけでも一か月以上かけてやるもんだ。そのためにこの施設は宿泊もできるようになってる
ギルドとしてはそこまで手間ってわけじゃない。…っと。そろそろ昼飯を食わないとな 」
「なんにせよ俺にとってはありがたいことだ。ではまた明日よろしく頼む 」
「おう。また明日な 」
修練場を後にするとギルドを出て昼食を取るためにレストランを探す。ギルドの周辺を少し歩いてみるがここら辺は飲食店はなさそうだった。
ギルドで聞いておけば良かったな…
仕方がないので朝に乗った地下軌道に乗ってみる。途中にある駅から栄えていそうな名前の駅を選びそこで降りてみる。
駅周辺はそうでもなかったが人通りが多そうな気配の方向に歩いて行くと大通りにあたった。魔力感知って便利だな。
大通りを少し歩くとオープンカフェのような店を発見する。こういう形式が流行っているのだろうか? 今までの町にも結構な頻度であった気がする。
もともとは王都で流行ったものが徐々に伝播していったと言うことだろうか…発祥は王都なのかな?
特に他の候補はないのでこの店に決める。やはりお昼時は混み合うようだ。流石人口の多い王都だ。そこそこ長い列の最後尾に並び順番を待った。
王都は忙しい町なのだろうか? 列は思いのほか速くはけていく。あまりゆっくりと食べる人はいないのかも知れない…と、思ったがやや違うようだ。
この店は前世でもあったファーストフード店のような仕組みになっていた。客は複数有るカウンターで注文して出来たものを受け取り席に運んで食べている。持ち帰りもやっていた。
半数ぐらいは持ち帰りで注文している。飲み物はどうするのだろうと思ってみていたら、注文した人が持参した容器を店員に渡している。あれに飲み物を入れてもらうらしい。プラスチックはこの世界ではまだ普及していないんだろう。
他の町ではテイクアウトはあまり見なかったように思う。王都特有の事情でもあるのか…?
俺の番が来るとカウンターの前に移動し設置されているメニューを
一番人気やおすすめはメニューの上の方に大きめに表示されていた。一応絵が描いてあってどういう感じの料理なのかはわかる。メニューの名前も実物を予想する手がかりにはなるのだが細かい食材や味付けなんかは手がかりがなさ過ぎた。
結局、一番左上に大きく書かれたメニューとコーヒーに似た飲み物であるギートを注文する。店員からここで食べるか持ち帰るかを聞かれたので、ここで食べると伝えたら会計に席料が加算された。
それなりの金額だな…だから持ち帰りの客も多いのか
王都は土地が高いのだろう。それに見合った金額を取らなければやっていけないと言うことなんだろう。推測だが納得は出来る。
それほど待つことなくトレーに並べられた料理を受け取ると、空いている席を探してそこに座った。ひとり用の席は結構あるので、この店では一人で昼食を取る人間が多いということだ。
早速食べようとトレーの上を見る。木の皮を編んだようなバスケットの上に紙が敷かれ、そこにホットドッグのように、パンに切れ込みを入れて棒状の肉を挟んだものが置かれていた。焼けた肉のいいにおいが
一緒についてきたおしぼりを使って手を拭いたら、パンを両手で持って端からかぶりつく。パンはバゲットのような表面が固めのパンであった。バゲットよりか幾分柔らかいが、それでも噛みちぎるのに少し力が要る。
一緒にかみ切った肉と一緒にパンを噛みしめると肉がほろほろと崩れていく。この肉はハンバーグのように
構成はハンバーガーと変わらない感じだな…
更に噛みしめていくとパンの皮と肉、ソースと肉汁が合わさったものとパンの柔らかい生地が混ざり合って口の中で味の一体感が増していく。
それを飲み下すとコーヒーを一口含み、口の中をリセットしてサラダを食べる。その順で食べ進めていき完食と
全部で二千エスクか…
王都の中心と言っていい立地だろう。ここら辺の物価は土地代も含めやや高いと言ったところか。納得してトレーを戻すと店を出る。
このあとは周辺を探索して本屋とか雑貨屋なんかを探しながら散策していく。そして日が暮れる前にセリアの家に戻った。