機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第43話 近接戦闘訓練

その日の夕食にはセリアは同席しなかった。

 

どこに行っているのか聞いてみるとどうやら自らが率いる騎士団の訓練で忙しいらしい。なんでも王都の騎士団は10師団に分かれていてそれぞれ持ち回りで各地を回って魔物の討伐や警備にあたっているらしい。

 

近々(ちかぢか)遠征に行くという話なので訓練に集中したいのだろうか。そのまま遠征に出発するのでしばらくこの家には戻ってこないらしい。

 

忙しそうだな。まあ、俺は俺できっちりとやるべきことをやるとしよう。日課のトレーニングを行い眠りに就いた。

 

翌日は昨日より少し遅めに家を出ると地下軌道に乗って狩猟ギルドに向かう。言われたとおりに武器を持って行く。

 

武器を携帯したまま公道を歩き公共交通機関に乗るのは気が引けていた。だが、別に他の通行人や乗客は気にした様子を見せない。

 

魔物なんかがいる世界は防衛意識が高いらしい。武装することが普通なのか。慣れてくると堂々と刀を()いて歩くようになった。文化の違いは面白くもあるが怖くもあるな。

 

ギルドに到着すると昨日も訪れた訓練場に足を運ぶ。結構早めに来てしまった。とりあえず昨日やった隠密歩行(おんみつほこう)のおさらいをしてみる。魔石が記憶しているからかな? 一度覚えると再現は難しくない。ここから更に上達させるのは難しいのだが。

 

しばらく練習しているとオードさんがやってくる。

 

「おう。早いな 」

 

俺は礼をしておはようございますと言おうとしてそれを押し留める。こちらのスタイルに極力合わせよう。無言で軽く会釈をして挨拶(あいさつ)とする。

 

「昨日言ったとおり武器を持ってきているな。最近は王都中心部じゃああまり武器を持たなくなってきたが昔はみんな何かしら武器を持っていたもんだ 」

 

「オードは今何歳なんだ?」

 

こちらの年齢事情や時間の感覚が気になったので聞いてみる。

 

「今年で143歳になるな 」

 

やはりこちらの人間は長寿のようだ。となると昔って言うのは本当にかなり昔のことになりそうだな。

 

「それじゃあ訓練を始めようか。今日やるのは武装の使い方だ。具体的に言うと身につけているものにどうやって魔力を流すのかってことと装備の選び方だな 」

 

装備についてか。森で会った狩人(かりゅうど)達は皆それぞれ異なった武装をしていたな。そこら辺は気になるところだな。

 

「まずは武器を手に取って魔力を流してみてくれ 」

 

そう言われて俺は(さや)から刀を抜き魔力を込める。

 

「ほう。うまいもんだな。かなり長いこと使い込んだと見える 」

 

いや、そんなに長くは使っていないんだけど。でもそれを否定したら何でそうなったって聞かれるだろうな。ここはお茶を(にご)すのがいいか?

 

「あー、まあ、そうだな 」

 

適当に応える。大丈夫か、これ。

 

「魔力を通しやすいものとか通しにくいものとかいろいろあるが自分の魔力を普段から通しているものほどその魔力になじんで(あつか)いやすくなってくる 」

 

良かった。大丈夫みたいだ。

 

「武器なんかは狩りに使う前に十分に()らしておく必要がある。昨日も言ったかもしれんが事前の準備は重要だ。自分より格上の相手でもいい武器があれば対等に渡り合えるがそれも使いこなせてこそだ 」

 

説明をいったん区切って俺の刀に視線を落とす。数秒じっと見た後、笑顔を作って再び口を開く。

 

「そのぐらい十分にならしてあるなら武器は大丈夫だな 」

 

武器は、と言うことは防具はどうなんだろう。

 

「次は防具の話だがこれがなかなか難しい。普段着ている服なら魔力を通しやすくはある。だが防御の魔力を通す機会はあまりない。狩りの最中でも攻撃をわざと受けることは無いからな。

 

すべての攻撃を()けられるなら防具は必要ないとも言えるが、(しつ)のいい防具をしっかり()らしたなら防御だけでなく攻撃にも使える。まあ、質のいい防具は値段も高いし馴らすのも大変だからな。あえて防具を着けないことを選択することもある 」

 

「防具なしで大丈夫なのか? 」

 

「結局、自分の体が一番魔力を通しやすい。制御もしやすいしな。魔力を高めて攻撃を受ける部位に集中すれば十分に耐えられる。獣人なんかは種族的に肉体の魔力制御に長けているからな。あえて防具を着けないどころか動きにくいからってんで服すら着ないやつもいる 」

 

それを聞いてサリューのことを思い出す。だいぶ露出していたな。お腹だしてたし。あれでも(ひか)えめな方なのかね。

 

「とはいえ魔境も深層ともなれば何も防具を身につけないでいるってわけにもいかない。体だけに魔力を通すのと質のいい魔鉄製の防具にも魔力を通して防御するのとでは全く条件が違うからな。

 

人間の皮膚と魔物の皮膚では魔物の方が強い。それぞれの魔力が大きくなるほどその差は顕著(けんちょ)になってくる。結局、人間はいろいろな道具を使いこなして魔物と対峙(たいじ)するしかないってことだ 」

 

なるほどな。上に行くにはいろいろと知って、考えて準備しなければならないと言うことか。しかしこの内容は初心者向けではない気がするな。初心者ではそもそも防具とかなかなか買い(そろ)えられないだろう。深層とか言っているし。俺ならそこに行けると踏んでいるのか? だいぶこちらの能力を買ってもらっているようだ。

 

「次は靴について解説しておこうか 」

 

オードさんはそう言いながら俺の脚甲と一体となった靴を見る。

 

「昨日練習した隠密歩行なんかを行うには靴を通して地面に魔力を浸透させないとならないわけだが普通に歩いたり走ったりするときも地面に魔力を通して摩擦を制御したりしているよな? 」

 

「そうだな 」

 

「そうやって毎日魔力を何度も通すわけだから靴が魔力に馴れるのはそう難しいことじゃない。正確には靴と言うより靴底だが。靴底の素材によっては確かに魔力をほどんど通さないものもあるが、そういう素材は普通は使われないからあまり気にしなくていい 」

 

「では何を気にしたらいいんだ? 」

 

「地面によっては魔力を通しにくい場合がある。石畳の路面とかな。岩人(いわびと)なんかは石に魔力を通しやすいから平気だが徒人(ただびと)の俺たちはそうはいかない。靴底の材質を石の上でも滑らないものにするとか工夫が必要になってくる」

 

「なるほど。狩り場によって靴底の構造にも工夫の余地があると言うことか 」

 

「そうだ。靴底に金属の(びょう)を仕込んだり鉤状(かぎじょう)の突起を付けたり、吸盤状にしたりヤスリ状にしたりな。環境によっては雪の降る場所だとソリを着けたりもすることがある。自分の狩り場の一画に特殊な砂を撒いて狩りを行う狩人もいる。環境の方を自分の有利になるように変えるのも有効な手段になり得る 」

 

「そうなのか。そんなことまでしている狩人もいるんだな。罠を使う狩人はいないのか?」

 

「罠か。複数人で狩りを行う場合罠に追い込んで利用することもある。その場合ひとりは罠についていて必要に応じて魔力を流さないといけないがな。ひとりで罠を使う場合は相手の移動習慣を徹底的に調べ上げて通り道に仕掛けて近くで待ち(かま)えておくとかだな 」

 

「罠にかかった獲物を後日仕留めに行くとかはないのか? 」

 

「等級の高い魔鉄製の罠とかだったら魔力を通さなくてもある程度は持ってくれるだろう。だが時間をかければ抜け出すことは可能だろうな。周りの土や木なんかの罠の土台の部分をどうにかされて抜け出される可能性が高いな

 

そうでなくても最悪自分の足なんかを切断して抜けることも出来る。あとで再生すれば一応はなんとかなるしな。まあ、そこまでの丈夫な罠は作るのにいくらかかるかわからんがな 」

 

どうやら罠を使うのはあまり現実的でないということか。俺の場合ひとりだし一カ所にずっと張り付いているのも面倒だな。狩人は俺が人間として金を稼ぐ手段であり目的は別にある。あまりそこに集中しすぎるのもな。罠を使うのは向いていないようだ。

 

「じゃあ、そろそろ次に行こうか 」

 

そういうとオードさんは修練場の壁にある扉を開けて中から棒状のものがたくさん入っている(かご)を持ってくる。籠を地面に置くとそのなかから一本の木剣を取り出してこちらに差し出してくる。俺は刀を鞘にしまうとそれを手に持つ。

 

「その剣に魔力を通してみろ 」

 

言われたとおりに魔力を通そうとする。それなりの抵抗を感じるがそこまで苦労すると言うほどではない。(つか)から先までしっかりと魔力を通す。

 

「そこまでできるか。木は結構魔力を通しにくいものなんだがな 」

 

一番最初に使った武器が木だったからな。それなりに経験はあるつもりだ。だがあのときより魔力を通しやすい気がする。木の材質にも()るのだろうか?

 

「ここで長いこと使われている木剣だから人間の魔力に対して順化が進んでいるってのはある。でも普通そこまであっさりと通せるものじゃない。森人なら木に対する適性があるんだがな 」

 

「モリビトっていうのはどういう種属なんだ?」

 

「森人は耳の先がとがっているのが特徴だ。森の中で小さめの集落を作って暮らしているから森人って呼ばれている。生まれつき植物に干渉する魔術に長けていて木に魔力を流すのが得意な種族だな 」

 

山下が言っていたエルフってやつか? もう少し深く聞いてみるか。

 

「その種族は耳が横に長かったりするのか? 」

 

「いや? 耳は別に長くないな。多少横にでていないともいえなくはないが。なにか気になることでもあるのか? 」

 

「気になるというか、昔聞いたことがあったものに似ているかと思ったが違ったようだ。とくに気にすべきことではなかったようだ 」

 

山下が聞いたら残念がるかな? まあ、どうでもいいが。

 

「そうか。あまり森から出ない生活をしているから滅多に会うことはないだろうな」

 

しかし森の中か、、、森?

 

「森の中と言うと魔境の中ってことか? 人間が暮らせる場所とは思えないが 」

 

「魔境にもいろいろあるしな。なんでも木に干渉する魔術、草木魔術だったか、それを使って高い木の上に集落を作って暮らしているんだとか。緑小人と一緒に暮らしていることもあるらしいな。俺の知っていることはこのくらいだな 」

 

「そうか。ありがとう 」

 

それにしても木に干渉する魔術か。植物ホルモンに影響を与えたりするのかもしれないな。あの緑の少年が使う魔術と相性が良さそうだな。

 

「それじゃあ、本題に入るか。ここにいろいろな材質の武器があるから今手に持っている木剣も含めて一通り使ってみてくれ 」

 

改めて手に持った木剣に魔力を通して適当に振ってみる。たいして時間はかけずに木剣を籠にしまって次の獲物を手に取る。

 

青っぽい色をした剣だ。金属のような質感。これは青銅製か。魔力を通してみると思いのほか通しにくかったが木剣ほどじゃないな。

 

他にも鉄剣や槍などを使ってみる。槍はどれも柄の部分が木で出来ていて穂先が黒曜石や金属などバリエーションに富んだものだった。途中で材質が変わる方が先まで魔力が通しにくい気がする。素材の組み合わせや構造にも因るのかもしれない。

 

すべて試し終わるとオードさんが布を巻いた棒を二本持ってくる。

 

そのうちの一本を渡される。棒は長さ60センチメートルぐらいで柄の部分には布は巻かれていない。布の中には綿が入っていてあたってもダメージが入りにくくなっている。どうやらこれを使って模擬戦を行うようだ。

 

「それじゃ今から俺とお前で戦うとしよう。対人戦はあまりやったことがないってことが書いてあったからな。みっちりと訓練するとしよう 」

 

思わず一応あると口から出かかるが飲み込む。あれは単にボコられただけだったな。というか対人戦って人と戦うことがあるのか?

 

「魔物以外にも人と戦うことはあるのか? 」

 

「全くないとは言わないがほぼ無いと言っていいだろう。たまに狩人同士のいざこざはあると思うが昔に比べれば無いみたいなものだ 」

 

はははって笑っているがこちらはあまり笑えないな。こちらの表情を見て何を思ったか急に真顔になって語る。

 

「まあ、喧嘩のやり方を覚えておいて損はない。人間同士の戦いでも魔物を相手にした戦いに十分(じゅうぶん)生かすことは出来る。とにかくやってみることだ。魔力を十分に込めればこんなのでも結構痛いぞ。気を引き締めてやれよ! 」

 

言葉が終わると同時に上段から斬りかかってきた。手に持った棒に魔力を通そうとするがなかなかに通しにくいな。棒を水平にして相手の攻撃を受け止めるが思ったより魔力消費が大きい。

 

棒同士があたる瞬間、ばんっと乾いた音が訓練場に鳴り響く。たしかにまともに食らったら痛そうだ。俺も横薙(よこな)ぎに腹を狙うが軽く受け止められる。

 

お互いにまだまだ全力じゃない。しばらく打ち合っているとだんだんとコツがわかってくる。魔力を通すことに馴れ、制御がうまくなっていくと当たる瞬間、当たる部位に魔力を集中することが出来るようになってくる。

 

こちらがうまくなってくると向こうもどんどん速度を上げてくる。込める魔力も強くしているな。剣筋もこちらの意図を外してくるような厳しいものになってくる。

 

相手の目線や筋肉の動き、魔力の動き。それらを注意しつつどこに攻撃が来るのか判断して受けていく。

 

あっ、外した

 

バンッと乾いた音がなり大腿部(だいたいぶ)に痛みが走る。結構痛いな。剣による攻防に集中しすぎて体の防御がおろそかになる。なるほど、これはいい訓練になるな。

 

今度はこちらの番だ。お返しとばかりにフェイントも混ぜて攻撃すると結構あっさりと防がれる。

 

攻撃に集中すると防御がおろそかになる。また、相手の攻撃を食らう。しかし、今度は魔力防御をある程度成功させた。

 

どれぐらい続けただろうか。お互い球のような汗が額に浮き出ている。若干息が乱れ始めているが剣筋に乱れはなくむしろ調子が上がっているぐらいだ。

 

お互い何発かに一発は攻撃を当てている。その際に体の攻撃を食らう部位にしっかりと魔力を込めてダメージを無効化している。

 

「このぐらいでいいだろう 」

 

途中でオードさんの方から止められる。肩で息をして降参と言ったポーズを取る。

 

「参ったな。流石に現役を引いてから時間が経ちすぎた。年を食ったのもあるが回復が追いつかねぇや 」

 

そう言いながら俺から訓練棒を回収する。年を食ったと言うが数分で息も汗も収まっているようだ。まだまだやれそうな気がする。こっちもまだまだやれるが体の熱が収まってくると汗が気になってくるな。清発してすっきりしたくなる。

 

「それにしてもずいぶん上達が早いな。たいした経験は無いって話だったがなにかやっていたのか? 基礎力があるのを感じたぞ 」

 

やっていたと言ったらジャックスだな。あれも基本は人型同士の戦いだから格闘技の研究なんかはトップランカーでは普通だったりする。それを伝えることはできないが。

 

「いや。特に何もやってはいないな 」

 

さらっと嘘をつく。

 

「そうか。やはり才能があるってことか 」

 

オードさんは何かに納得したようにうなずいている。期待がどんどん(ふく)らんでいるようで心苦しいな。その期待の根拠は言えない前世の事と言えない今の事、つまり俺が普通の人間じゃないってことが大半だ。

 

困ったね

 

 

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