機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第45話 魔術適正

次の日、講習を受けにギルドに行き修練場で待機する。待っている間も隠密歩行(おんみつほこう)の練習をしているとやがてオードさんがやってくる。

 

「あいかわらず真面目にやってんな 」

 

「おはよう。今日もよろしく頼む 」

 

「おう。今日は魔術について教えていくぜ。得意分野って聞いて入るが基礎的な知識に欠ける可能性があるとも聞いている。あまり面白くはないかもしれないが基礎からきっちりとやっていくことにするぞ 」

 

「それは願ったり叶ったりだ。こちらの子供が習うようなことからでもかまわない。簡単なことから教えてくれ 」

 

「、、、ずいぶんと殊勝(しゅしょう)な心がけだな。こちらとしてはやりやすくていいんだが調子が狂うな。狩人志望のやつらは跳ねっ返りみたいのが多いんだが、、、まあ、始めるとしようか 」

 

オードさんは頭をかきながら苦笑している。顔の厳ついおっさんが照れたように破顔(はがん)しているのは少々引くものがある。だが指摘はしない。

 

「それじゃあまずは魔術ってのは何かってところから説明していくか。魔術ってのは広い意味では魔力を使ってなにかしらの現象を起こすことを指すがこれはあまり一般的じゃない。範囲が広すぎてほとんどの物事にあてはまっちまうからだ。

 

普通、魔術って言われるのは自分の体から物質に魔力を流して制御する(すべ)のことを指し、自分の肉体から離れた場所に作用を(およ)ぼす現象を引き起こす行為だ 」

 

なるほど。一般的にはそういう認識で広まっていると言うことか。専門的にはもっと異なる捉え方もあるようだが普通はそっちは使われないようだ。結構研究はされているようだな。

 

「初日に講義した隠密歩行や身体強化、回復強化に魔力視(まりょくし)なんかも魔術には含まれないな 」

 

そうなのか。結構いろいろなことを何も考えずにとにかく魔術扱いしていたな。それ以前に魔法と言っていたが。

 

「獣人は種族特性として魔術が使えないものとして(あつか)われる。魔術が得意な獣人も例外的にいるが獣人でも(あつか)えるものは大抵魔術と認識されない。多くは体術ってくくりになるな。魔石が発達していなくて魔術を使えない魔物も身体強化や走破術、隠密歩行なんかは普通にできていると考えると理解しやすいだろう 」

 

思えばいままでに闘った魔物達もよくよくみればすべてそういった技術を使用していたのだろう。得意になってイタチと追いかけっこしていたのが恥ずかしくなってくるな。

 

徒人(ただびと)は魔術に対する適性は高い方だな。訓練次第でいろいろな系統を覚えることが可能だが一つか二つの系統を習得して磨いていくのが一般的だ。いろいろ覚えても器用貧乏になりかねないからな 」

 

それに関しては普通の人間と俺では条件が違いすぎて参考にならないな。魔石とコアの違いが大きすぎる。

 

「お前はすでにいろいろな魔術を使えるようだが基本的な練習からやってみるか。うまくいけば新たな魔術を使えるようになるかもしれん 」

 

おおっ! それは興味があるな

 

今のところ自分で習得した魔術はない。すべて魔物の魔石から魔術回路をコピーして覚えたものだ。ある意味では借り物でしかない。

 

自分で習得すれば魔術を改良するヒントになるかもしれない。なんとなく魔術を使いこなせていないような気がしているんだよな。気のせいかもしれないが。

 

オードさんと俺で修練場に机を運んできて設置する。その上にいろいろなものを並べていく。水の入った桶や金属の塊、気体が入ったボンベ、石、土、砂、ゴムのような弾力のある固まり、ガラス、木片。実に様々なものが並ぶ。ちょっとした展示のようになっている。

 

「今からそれぞれに魔力を流してもらうんだが、その前にひとつ説明しておくと魔術には分類の仕方がいくつもあるらしいんだが、最もよく知られているのが物質の状態で分類する方法だ。個体魔術、液体魔術、気体魔術の三態分類だな 」

 

物質の三態に従った分類か。ずいぶんと科学的だ。これで魔術っていうと違和感があるな。

 

「固体と液体の中間とか液体と気体の中間とか分類に困るのもあるし分類できないものもあるがとりあえず常温での状態で分類する。水魔術は液体魔術、酸素魔術は気体魔術と言った具合だ。種族的な特性もあるが徒人では気体魔術が一番習得が難しいって言われているな。人それぞれではあるがな 」

 

雷魔術とか音響魔術とかは分類が難しそうだな。気体が難しいってのはなんとなくわかる。他に比べて(とら)えどころがない感じはする。

 

「他の分類でよく言われるのが単物質魔術か複合物質魔術かの二分類だな。酸素を単体で扱う魔術なら火を強くしたり酸欠にさせたりとか出来るが制御が難しくて出力を上げにくい。空気を構成する気体の総体としてとらえて魔術の対象とすると制御が楽になって威力や瞬発力を出しやすくなるが特性のある使い方はしにくい。前者を単物質魔術、後者を複合物質魔術と言う 」

 

土魔術も複合物質魔術に当たるんだろうな。土の組成が変わっても割と変わらずに使える。それも複合の利点なのかもしれない。

 

「実際はきっちりと単物質と複合物質で分けられるとは言えないらしいが意識して魔術を使ってみるのもいいだろう。それじゃあ、やってみるとしようか。まずは得意な水からやってみるとするか 」

 

うながされて水の溜まった桶の前に進む。水に触れて魔力を流してみるとすんなりと流れる。結合力を操って水をふるふると動かしてみる。ゼリーのようにぷるぷると揺れる。攻撃で魔術を使うときとはなんか違う気がする。新鮮な感覚だ。

 

ふと思いついて五本の指先を水面に触れるようにして魔力を流し水を桶の形を保ったまま持ち上げてみる。持ち上がった水は台形を保ったままぷるぷるっと指先にぶら下がっている。でっかいカップゼリーみたいだ。

 

「ほう。うまいもんだな 」

 

オードさんも感心している。流石はスライム式水魔術と言ったところか。辞典によるとスライムではなくて水の純魔力生物(アキアトル)と言うらしいが。

 

「そこまで出来るなら熱変換も試してみないか? 」

 

「熱変換とはなんだろうか? 」

 

「まあ、まずは桶に水を戻してくれ 」

 

言われたとおりに戻すと説明が始まる。

 

「水魔術の場合、水の分子を操って性質を変化するのが基本だが魔力を使って温度を上げたり下げたりするように操作することを言う。水を細かく激しく動かすと温度が上がり、動かないように(しず)めると温度が下がるとか聞いたことがある。試してみてくれ 」

 

聞いたことがあるって言うことはオードさんは出来ないってことか。それなりに難しい技術なのかもしれない。ちょっと集中してやってみるか。桶の中に手を突っ込んで魔力を水に込めていく。言われたことをイメージしてまずは温度を上げることに挑戦してみる。

 

なかなかうまくいかないな、、、

 

水を操作しようとすると水全体が動いてしまって通常の操作のようになってしまう。ならばと動かす部分を少なくすると小さく操作するだけになってしまう。

 

ひょっとして水魔術ではなく別の魔術なんだろうか?

 

オードさんの勘違いと言うことも考えられる。電子レンジのように雷魔術で水分子を振動させてみるのはどうだろうか? とりあえずやってみると水に入れたての周りに細かな泡ができ心なしかほんのり暖かくなってきたように感じる。

 

「おおっ、 できたかっ⁉ 」

 

それを見てオードさんは驚きの声を上げる。しかし、それとは裏腹(うらはら)に俺は違和感を感じている。

 

なんか違う気がするんだよな。魔術っぽくない

 

こちらに来てから魔術は何度も見ているが全体としては複雑なことはあまりしていないように思える。雷魔術を使うなら水魔術であるとは言わないだろう。

 

「いや、これじゃないな 」

 

一応、否定しておこう。

 

だがなんとなく今のでヒントのようなものを得た気がする。水分子をイメージしたことは正解に近いんじゃないだろうか。

 

しばらく試行錯誤してようやくコツがつかめてきた。水を総体としてとらえるのではなく水分子に浸透させた魔力を動かすことに集中する。

 

すると温度が上がってきた。これぞ魔術って感じだ。雷魔術では手の周辺にある水の温度が上がっていたが、今度のは水全体の温度がむらなく上昇している。手を動かしてみるが温度差は感じられない。

 

「うまくいったようだ 」

 

「本当か! 」

 

そう言うとオードさんは桶の中に指を入れて確認してみる。ちょっとはしゃいでいるように見える。やはり結構難しい技術のようだ。体感して納得したのか口を開く。

 

「たしかに出来ているみたいだな。すごいじゃないか。次は温度を下げることに挑戦してみてくれよ 」

 

温度を上げることが出来たのだから下げることは容易だろうと思いやってみる。だが、思ったよりうまくいかない。なんでだろうな。

 

魔力を制御しようとすればするほどむしろ分子が動き出して温度が上がってしまう。いったん仕切り直しで手をお湯と化してしまった水から上げる。

 

桶の中の水をじっと見つめて考える。冷めるまで待ってみるか。冷たい水の方がうまくいくような気がする。水は比熱が大きい。熱はなかなか抜けないから結構待つかもな。魔力ならとっくに抜けているんだろうけどな。

 

そこで気づいた。水の物理的な温度はあまり関係ない。重要なのは魔力だ。

 

俺は再び水の中に手を入れると魔力を込める。込められるだけ込めてみるが水はとくに変化を示さない。

 

これでいい

 

魔力に方向性を与えなければ水は反応を示さない。温度が上がることも水が動くこともない。そこから魔力を抜かずに魔力を抜くことを意識して魔力操作を行っていく。

 

少し冷たくなったか?

 

変化はわずかなものだが多少の手応えを感じる。

 

少し変えてみるか。水から魔力に向けて熱を引き込むように操作したり、魔力が熱を消費するように操作してみる。効率が上がったか? 温度が下がっていくように感じる。

 

少し立つと確実に温度が低下したと感じられるまで温度が低下する。

 

「、、、ひょっとして成功したのか? 」

 

俺の表情の変化を見て取ったのかオードさんが成否を聞いてくる。

 

「どうやらできたらしい 」

 

俺の答えを聞いて水に指を入れてみる。

 

「、、、確かにできているな 」

 

できているが温度を上げるにせよ下げるにせよ現状では魔力消費が大きすぎる上に温度変化の幅が小さく瞬発力もない。だいぶ練習しなければ使い道がないな。

 

「普通は温度を上げることが出来るやつは下げることが難しいらしい。まさかとは思ったが本当に出来るとはな。しかもこんな短時間で。賢者に匹敵する逸材(いつざい)かもしれん 」

 

出来ると思ってなかったのか。まあ、いいが。と言うか賢者って、、、

 

「賢者ってのはなんだ? 」

 

「知らないのか? 、、、って、お前はこの国の出じゃなかったな。王立魔術学院の学院長で魔術の達人だ。多彩な魔術を操ることから賢者って呼ばれている。この国じゃかなりの有名人だな 」

 

「そうか 」

 

聞いといてなんだがあまり興味がないな。いや、むしろ会いたくない人間として覚えておくべきか。賢者って呼ばれるぐらい優秀なら俺の正体がばれてしまうかもしれない。魔術を教えてもらいたい気持ちもなくはないが。

 

「話が脱線したな。新人はこんな感じにいろいろな物体に魔力を通して自分の適性を探っていくんだ。ここに来る前に適性がわかっているやつもいるがそういうやつは大抵人より才能があるやつだな。適性がある魔術系統がわかったら結構な期間をかけて物体に魔力を流し続けて基本的な魔術を覚えていくものだ 」

 

そういう常識的なことを説明してくれるのはありがたい。辞典とかには()ってないんだよな。この世界の基本的な人間の生き方とか成長過程とかな。人間じゃないやつが人間の中で生きて行くには大事なことだと思う。

 

「それを踏まえて他のものに一通り魔力を流してみてくれ 」

 

結構水に時間をかけてしまったがまだまだ魔力を通すものがたくさん有る。さっさと魔力を通して他に適性がないか探っていこう。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

すべて試し終わった。土や砂は問題なかった。魔術レベルまで使える。それ以外だと木片や金属、ゴム、ガスの入ったボンベなどは魔術とはいかないが魔力を通すことぐらいはできた。石やガラスは魔力を通すことも困難だった。なぜだろうな?

 

種族特性なんてものがあるなら肉体、ひいては遺伝子的な問題か? それとも魔石に原因があるのだろうか?

 

手がかりがあまりないな。まあ、すべての魔術を使えるようにする必要はないけれど。必要になったときに考えるべきことか。そう考えている俺にオードさんは講義をはじめる。

 

「そこまで多種多様な魔術を使えるようにする必要はない。普通は一つの系統をきっちりと伸ばしていって使える水準まで持って行くもんだ。さっきも言ったがいろいろ手を広げると器用貧乏になっちまう。それでも使いたい魔術が有るってんなら魔術を誰かに習うって方法もある。とりあえず得意の水魔術を極めてみるのがいいだろう 」

 

「そうだな。」

 

現状の主力は水と雷だな。だが、雷は改善しなければいけない部分があるように思える。水は熱変換を習得して雷は根本から構成を見直していく。こういう方針でいいだろう。コアの能力のおかげで魔術の根源である魔術回路を直接理解できるからな。自在に操るのは難しいがいつか何とかなるだろう。

 

「最後に魔力展開について触れておくか 」

 

そう言うと水の入った桶に手を入れて水の触手を作り出す。水魔術の使い手だったか。

 

「こんな感じに魔力を線状に伸ばしていくのを魔力線を飛ばすとか言ったりする。」

 

今度はそれを霧状に広げていく。かなり水魔術は得意な方らしい。

 

「こんな風に空間に広げることを魔力域を広げるとか一般的には表現する。それなりに難しいことだけどな。この二つを合わせて魔力展開としてまとめることが多い 」

 

霧状になった水をひとまとめにすると桶に戻す。

 

「今日はこれで終わりにしよう 」

 

少し早いように思えるが、、、

 

「明日からは実際に狩りの中で他の狩人との連携の仕方を学んでもらいたいところだがこの時期は他の研修生がいない。そこで俺と一緒に適当な任務に同行してもらう 」

 

「任務ってのはどういうものだ? 」

 

「俺のような元狩人のギルド職員は魔境の監視や調査、魔境内勤務のギルド職員の補助なんかが任務に当たる。そのうちの調査に同行してもらうのが理想的なんだがどんな任務になるのかは調整が必要でな。具体的な内容はまだ未定だ。

 

調整はこちらでやるがとりあえず明日は同じ時間にここに来てくれればいい。なにもなければその場合はそのまま帰ってもらうことになるかもしれんが悪く思わんでくれ。同行できる任務があったらおそらく泊まり込みになる。着替えと武器を持ってきてくれ 」

 

「わかった。どちらにせよ心の準備はしておこう 」

 

「任務自体はなるべく安全なものを選ぶつもりだ。気楽にかまえてくれていい 」

 

そうしてこの日の訓練は終了した。俺は昼食を取った後、王都を夕方まで散策してから帰路についた。

 

 

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