4時間ほど走っただろうか。街道から森林の中の道を経て山道に入りしばらく進むと森の中に大きな石造りの建物が見えてくる。中に入ると太い丸太の柱など
「ここは狩猟ギルドが管理する狩猟支援施設だ。主に解体場として機能する。緊急の避難場所になったり、調査員が宿泊したりといろいろだな 」
軽く説明するとどこかに行ってしまう。ロビーで待つように言われ設置された椅子に座って待つ。
なんか妙なにおいがするな、、、
少し待っているとオードさんは二人の人物を連れて戻ってくる。
「レイン。紹介しよう。こっちが施設長だ 」
「当施設の責任者をしているベルダンといいます。よろしくお願いします 」
背が高めの温和そうなナイスミドルと言った風貌だ。
「レインです。こちらこそよろしくお願いします 」
ふつうに丁寧な感じで返すがとくに突っ込まれない。相手が
「こっちは解体責任者だ 」
「あたしは解体師のメルヴェだ。ここで解体責任者をやっている。よろしくな 」
こちらは背は低くて快活そうな女性だ。全体的に筋肉がついていて小柄だががっしりとした体型をしている。
「レインです。よろしくお願いします 」
挨拶が終わるとオードさんから調査任務についての話がある。
「今から行う調査はここいらに変則的に出現した魔物の調査だ。昨日の朝、一人の狩人がここに助けを求めに来た。熟練の狩人なんだがおとといの夜、眠りに入るところを襲われたらしい。かなり深い傷を負って出血もだいぶあったみたいだが
「臭い玉ってのはこのにおいのことか?」
「わかるか? まあにおうよな。これでも相当薄まっていると思うんだが、、、 」
相当薄まってこれか。原液だったらどれほどのものだろう?
「その狩人は今は入院しているんだが解析した傷跡の情報、それに証言から得られた襲われたときの状況なんかを加味するとコウモリ系の魔物である可能性が高いとギルドは判断した。明るいうちはねぐらで休息しているからその間に正確な生態を調査して、それから討伐隊を編成して対処に当たる 」
そういう理由での調査か。
「そういうことなんで早速調査に行くぞ。調査しながら狩人の
「ああ、よろしく頼む 」
俺たちは荷物を置くと危険な魔物がいるフィールドへと踏み出した。
調査開始からしばらく立つと当初会った緊張は薄れていく。むしろ緊張が無くなりすぎて困るぐらいだ。ここは本当に魔境なんだろうか。
位置的には中層にあたるそうだが魔境にあるようなプレッシャーのようなものがあまり感じられないように思える。オードさんもそれは感じているようだ。
「妙だな。やけに森が静かだ。これだけ動き回っているのにウサギにすら遭遇しないなんてな 」
「こういうことはあるのか? 」
「縄張り争いに負けるとか環境の変化で本来の生息域から外れて行動して別の区域に入り込んでくることはそう珍しいことじゃあない。今回もそういうことを想定していたが思いのほか厄介かもしれん。まあ、それも含めて調査するんだがな。
だが痕跡が見つからなさすぎる。ねぐらを見つけたいところだが場所を特定する手がかりがない。かなり広い範囲を探すことになりそうだ。長くなるかもな、こりゃ 」
「そうなのか。だがやるしかないな 」
長くなりそうなのか。それは残念だな。期待せずに地道にやっていくのがいいか。
その後も森の中を探索していくが何かを発見するなんてことはなくその日の探索は日が暮れる前に終了となった。
拠点に戻るとそれぞれの部屋を与えられそこに荷物を置きに行く。その後、食堂に行き夕食を食べることとなった。
夕食はベルダンさんとメルヴェさんにもう一人見たことがない人とテーブルを囲む。オードさんからまた紹介があった。
「こいつはこの施設で調理を担当している 」
「料理長のドルンだ。よろしくな 」
精悍な顔つきで筋肉のある体つきをしたおっさんだ。魔力もそこそこあり圧も結構ある。元狩人なのかもしれない。
「レインです。よろしくお願いします 」
「オードよ。なかなかに素直な少年だな。狩人候補には見えんな 」
「こいつはわけありでな。詳しくは言えんが 」
「そうか、そいつはすまねぇな。ところで今日の料理なんだが今起こっている騒動で助手を返しちまっていてな。解体部も管理部も人を減らしているんでいつもより簡単なものになっちまってるんだがそこは了承してくれ 」
「食べられるだけでも十分です 」
そこに嘘はない。それどころか目の前にある皿の見た目と香りだけでもう満足しそうなぐらいだ。目の前にはカレーとおぼしきものが
まだ食べないのかな?
この世界には「いただきます」とか「ごちそうさま」とか食事の
そのときは唐突にやってくる。
「それじゃあ食べるとしよう 」
ドルンさんの一声で食事が開始される。この場合作った人が音頭をとるのかね。良くわからんが食べることにする。
大ぶりの木さじで具を避けてスープのみをすくって口に運ぶ。酸味とコクとワインのような風味が口の中に広がり飲み込むとスパイスの刺激とうまみを
思っていたのと少し違うがうまい
ビーフシチューとカレーを合わせたようなそういう料理だ。スパイスの印象が強いので実質カレーかな。具の方をすくって食べてみる。大きめに切られたいろいろな種類の野菜が入っていてどれも柔らかく煮込まれている。
大きめの角切りの肉が入っていて柔らかく煮込まれている。なんの肉だろうな。噛むとスープと肉のうまみがあふれてくる。
付け合わせのパンは平たい形をしていてやわらかい。ナンとかピタパンのような感じだ。ちぎってスープに付けて食べやすいように作っているようだ。
「パンもフーリプレルもまだまだあるぜ。もっと食うか 」
この煮込みはフーリプレルというのか。食べ終わるとドルンさんがおかわりを聞いてくれる。
「お願いします 」
空になった皿をトレーごと差し出す。おかわりは最初より大盛りで注がれていた。パンも一つ多い。
魔力で胃を動かして中のものを更に細かく砕き、胃酸の働きを強化して分解を進める。これでまだまだ食えるだろう。俺が二回目をすべて平らげるのにそう時間はかからなかった。
三回目を進められたが断り、二回目で終わりとした。さすがに食べ過ぎになるだろう。魔力を使えばまだ食べれるがそうするのはもったいないような気がした。今は満ち足りた状態だ。
「ごちそうさま 」
思わず声に出して言ってしまった。しかもしっかりと両手を胸の前で合わせてしまっている。何か言われるかと思ったがとくに問われることはなかった。
何か根回しがあったのかそれとも他人のことは気にしないのか? 共通の慣習みたいなものは無いようなのでそれが原因だろうか? この世界の宗教観念についていつか調べてみるのもいいかもしれない。
夕食が終わり部屋に戻ろうとするとオードさんから声がかかる。
「基本的にこの施設は日が暮れる前に外に面している窓やドアは雨戸を閉めて施錠するんだ。外には出られないし窓も開けるなよ 」
「魔物がこの施設を襲うことがあるのか? 」
「俺が知る限りじゃ襲われたことはないな。施設の周辺には沢山の人間の
「なるほど。それでも警戒するに越したことはないということか 」
「そうだな。これからも襲ってこないとは言えないな。しっかり閉じていれば少なくとも先手を取られることはないだろう。一応警戒はしておいてくれ 」
「ああ。わかった 」
オードさんと別れ、今度こそ部屋に戻る。日課のトレーニングをして寝ようかと言うときにふと別れ際の言葉が気に掛かる。
警戒しておいてくれか。相手の気配を
そもそも気配ってのはなんだろうか? 前世のことなら音とか地面から伝わる振動。音にならないような空気の振動。空気中の電荷の変化。臭い。空気の流れ。、、、そんなところか。
この世界なら魔力がある。実際人間同士なら魔力の波動を感じ取ってちょっとした意思の疎通なら可能だ。隠すこともできるが。
他の生き物は他の生き物で通じ合ってるようだが人間にはわからない。周波数的なものが違うのだろう。魔術を使うとか大きな変化があればそれを感じ取ることもできるが、
なんとかしなければ
とりあえず純粋に魔力を感知する能力を伸ばしてみよう。
窓の前に立つと手で触れる。ガラス製の窓なんだよな。セリアの話だと王都では一般的と言っていたがこんなところにまで普及しているとは、、、
自分自身の魔力を極限まで抑えて感覚を研ぎ澄ます。心臓の動きも抑えて余計な音や揺れを軽減する。
変わらないな、、、
特に何かを感じ取れるような気配は起きない。どうするか。自分の魔力を抑えるだけでは駄目か。
、、、ならば他から魔力を吸収できないだろうか? 臭いを感じ取るように空間にある魔力を吸引して分析する。やってみる価値はあるように思える。
窓に付けた手のひらから外の魔力を取り込もうと集中する。魔力を視ることはできるのだから何かしらを感じ取ることはできると思う。
、、、う~ん、ダメか
しばらくやってみるが
ん?、、、これは、、、視線か?
外から何かに見られているような感覚が
なんだったんだろうな。今の感覚は、、、
その後その感覚は感じられなかったので、俺は切り上げて寝ることにした。