次の日は夜が明けてすぐに調査を開始した。朝食は食べずに昼用の弁当をもって森の中を進んでいく。
「今日は狩人が襲われた場所まで行ってみることにする 」
犯人は現場に戻るって言うやつかな。
「その近くにいるってことはないだろうが
別に戻らないらしい。
「現場まで結構あるからちょっと飛ばしていくぞ 」
オードさんはそう言うと森の中を駆け抜けていく。俺はその後を追っていく。結構早い。迷わずにルートを選択している感じだ。この森のことに詳しいらしい。
もと狩人って言っていたからこの森で狩りをしていたのだろうか。それかギルドの仕事で良く来ているとか。まあ、他人のことは詮索しない。狩人の流儀ってやつだ。
2時間ほど進むとその現場にたどり着いた。まだ例の青臭いにおいがする。地上より木の上の方が痕跡がある可能性が高いと言う理由から太めの枝を伝って確認しながら移動していく。
すぐに枝にぶら下がったテントを発見する。その上に板を張ってちょっとした床にしたものが見える。周りに
ここが最初に襲われた場所らしい。テントの中に居たところを外から刺されたと聞いた。
ロープを引っ張ってテントを回収し精査してみる。元々あった場所に立てると外側から
反対側に回ると側面の中心あたりに鋭いものが刺さったような穴がありそこから上に向かって無理矢理引き裂いたように荒い裂け目が走っている。
こちら側から来たってことか
さらに外観を細かく確認すると短い黒い毛のようなものが何本かついている。オードさんに聞いてみるとやはりコウモリ系の魔物である可能性が高いようだ。
攻撃が来たと思われる方向を観察してみると鳴子を付けたロープが2本ほど切れて垂れ下がっている。コウモリだとするとこのロープの間をすり抜けつつ飛翔して、
かなりでっかいコウモリだな。
再度テントに目をやる。魔物が付けた穴を爪に因るものだとするとかなり大きな爪だ。総合して考えると翼を除いた本体は狼ぐらいあるのではないだろうか。
そんな大きな生き物が飛べるのだろうか?
ドラゴンがいたか。でもあれは特別だろう。よくわからんファンタジー生物だし。コウモリは通常の生物の範囲内、、、だと思う。大きさはともかくな。
魔力で何かしら補助を行っているのかもしれない。調べた情報をオードさんと擦り合わせると大体同じような意見となった。
地上も捜索して散らばっている道具なんかを見つける。たいした情報は得られなかったがまとめて拾い上げて元に戻しておいた。なんとなく整理しておかないと落ち着かない。
予想の確度が上がったのはいいが一番欲しいのは相手の行動パターンと住処の情報だ。更に探索を続けていく。
しばらく進んでいくと木の幹に赤いインクで何かのマークが書かれているのが見えた。オードさんにあれは何かを尋ねる。
「あれは狩人が他の狩人に注意をうながすための目印だ。このあたりを狩り場にしているとか、地形をいじっている場所があるとか、寝床があるとか、危険を知らせる場合もあるな。ちょうどいい機会だから手信号についても教えておくか 」
「こういったやつか?」
俺は人差し指と親指で丸を作ってOKサインを作ってみせる。
「、、、ああ、そういうやつだ。多分意味は異なると思うがな 」
一瞬言葉に
「目印も手信号もこれと言って規則が決まっているわけじゃない。狩り場で
そう言うと握りこぶしをつくり親指を立てる。
「これは注意を向けろって合図だ。親指の指す先が注意を向けて欲しい方向だ 」
親指で横の方向を指す。その先を見ると別の目印がある。前の世界とそう変わらないやり方だ。
次は中指と薬指を曲げて親指と合わせて残りの指をピンと立てる。
「これは危険があるって合図だ。立てた指の方向が危険の有る場所を指す 」
その次は指をそろえて手を開き、手のひらをこちらに向けて立てる。
「これは止まれの合図だ。この後に手を水平に寝かせて左右に振るとその場で待機って意味になる。手のひらを返して前後に振るとこっちに来いって意味になる 」
そんなに難しいサインはなさそうだ。当然か。わざわざわかりにくくする必要は無い。野球のサインじゃないんだからな。読まれて困る相手はいない。その後もいくつか教えてもらったがみな理解しやすいものだった。
「いくつか教えたが一部ではある。すべてを覚えなくても問題は無い。狩人は単独行動が多いからあまり使うことはないが、他人との関わりが全くないわけじゃない。調査が終わったら隊を組んで
「討伐隊はどういう
話は脱線するが興味を引かれたので聞いてみた。
「この場合はここら辺を狩り場にしている狩人を総動員して、さらに対象の魔物を狩ることに長けた狩人を合流させて討伐することになるな。特別に有効な装備を持ち出す場合もある 」
「ここら辺の狩人ってことは襲われた狩人も参加するのか? 」
「明日には退院するからな。今頃はやり返したくてうずうずしているんじゃないか?」
落とし前は付けさせてもらうってことか。ヤクザ映画みたいだな。専門の狩人を外部から呼ぶって用心棒かな。先生、やってください。みたいな。生活がかかっているから必死なんだな。
「話はそれたが、お前の場合は他人と一緒に狩りをすることはあまりなさそうだが続けていれば
「それはわかった。ところで、今回の討伐に俺も参加することはできるのか? 」
「それは無理だな。まだ狩猟免許を取れていないんでな。俺も参加するわけじゃない。俺たちはあくまで調査するだけだ。悪く思わんでくれ 」
無理だったか。報酬は良さそうなんだが。セリアが特殊すぎるんだろう。前回が特別か。
「手信号と似ているんだが狩人同士は基本的に言葉で挨拶を交わすことはない。その代わりに手で挨拶を交わすんだがこれは免許を取ってから教えることにしよう。けじめみたいなもんだな 」
免許もなく組合員じゃない。挨拶を交わす仲間ではないと言うことか。一歩間違えれば死ぬ厳しい世界でもある。当然と言えば当然か。
適当なところで昼食を取る。弁当は例のごとくサンドウィッチだった。ギルドが用意する携帯食はサンドウィッチが定番なのか? まだ二例目か。これだけじゃわからんな。
具はチーズとハムと野菜か。オーソドックスな組み合わせだ。マズいわけがない。食べているとふと気づく。これマヨネーズだよな? パンに塗られている白っぽい粘性のあるソース。酸味とコクがある食べ慣れた調味料だ。こちらにあっても不思議ではないがやはり感動はするものだ。醤油とかも探せばあるのか?
今日も時間いっぱいまで探索を続けるがねぐらの特定に
「やっかいだな。飛行能力があるから行動範囲が広いのかもしれない。森の更に奥の方にいるなら探索しにくい。狩り場にするなら獲物を運搬する関係上、拠点から離れすぎるわけにはいかない。魔境の最奥は地形の
終わるまで帰れないとなると先は相当長そうだな。俺一人ならネズミかウサギに
「追跡の専門家とかはいないのか? 動物を使った捜索とか 」
「魔物使いギルドか。狼系の魔物を使った追跡ができる術者はいるにいるがなかなか都合がつかないんだよな。料金もかなりかかるしな 」
「そうか 」
地道に探すしかないか。あまり気は進まないがしょうがない。
拠点に戻ると程なくして夕食の時間となる。今日はドルンさんからメニューの説明があった。
「今日のメインはウサギ肉のパン粉揚げだ。メルヴェがウサギを捕まえてくれてな。自分で解体して提供してくれたってわけだ 」
「解体しない日が続くとなまっちまうからね。狩りは久しぶりだったけどなんとかなるもんだ 」
「久しぶりなんてモンじゃないんじゃないか? 初級狩人の頃からだと50年ぶりぐらいだろう? 」
メルヴェさんの言葉を受けてオードさんはからかうように言う。70歳ぐらいになるのか。20代にしか見えないから思わずギョッとしてその顔を見入ってしまった。
慌てて表情を取り
会話もそこそこに食事を開始する。ウサギ肉のパン粉揚げと言っていたが見た目は完全にカツだな。別容器でトマトソースが添えられている。衣のサクサク感を損なわないようにと言う配慮だろう。ありがたい。
フォークで刺し、ソースをたっぷりと付けてかぶりつく。あっさり目のウサギ肉の味を損なわないあっさりした味付けのソースと相まってうまさが鼻に抜けていく。歯ごたえが少々物足りないウサギ肉にサクサクの衣の食感がいいアクセントになる。
カラッと揚がった衣の香ばしさと油のコクが味を加える。ソースの酸味が油っぽさを中和していくらでも食べられそうだ。
すぐに食べ終わってしまうと空のお皿をドルンさんがさっと回収して何も言わずにおかわりを持ってくる。
そんなにがっついていたのか? 俺は、、、
少し気恥ずかしくなってくるが食欲には勝てない。ありがたく
夕食が終わると部屋に戻ってトレーニングを行う。魔力順化はだいぶ進んできたかな。魔力圧を維持するときの苦痛が当初よりおとなしい。もっと圧を上げるべきか?
筋肉もまあまあ付いてきてる、、、と思いたい。少し腕が太くなったかな? 腹筋もほんのりとだが割れてきている。前世の肉体より筋肉が付くのが速いかも。
、、、比較はできないか。まともにトレーニングをしたことがない。
少しずつ変えながら続けていくか。やることが増えたしな。
今度は窓ガラスに手を付けて索敵のトレーニングだ。あまり
、、、やはり難しいか
ガラス越しだからダメなのかと思って部屋に向かってやってみるがうまくはいかない。
なんとなく方向性は合っている気はするんだけどな。何かしらのきっかけというかブレイクスルーが必要なのかもしれない。
今日はもう切り上げるか。だいぶ遅くなってしまった。睡眠時間は前世よりもずっと少なくて済むがやはり十分に寝ないとなんとなく体の調子に響いてしまうような気がする。
筋トレが終わった後、一度清発はしたがもう一度行う。加熱した頭をさっぱりとさせたかった。清発を行うと余計なものが一緒に吹き飛んでいくような爽快感がある。
いよいよ寝ようと布団をめくり上げようと手を掛けたとき何かを感じて手を止める。
、、、なんだ?
視線のようなものを感じる。昨日も感じたものだがどうやら気のせいではなかったようだ。昨日よりはっきりと感じる。なんとなく
俺はすぐに服を着て武装を整える。部屋の外に出てオードさんと合流しよう。
部屋から出ると廊下の先にオードさんが見える。完全に武装をしているようだ。俺だけが感じているわけではないようだ。