機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第49話 Ⅹ舞い踊る影①

「嫌な気配を感じる。お前も感じているようだな 」

 

「ああ、視線のようなものを感じる。近くに何かいるようだ 」

 

「魔物のようだな、、、ぬっ! 」

 

視線のような気配から今度ははっきりとした敵意に変化する。これは間違いなく敵襲と考えていいだろう。

 

魔物にとってこんな石造りの大きな建物は警戒すべき場所だと思うがずいぶんと大胆なことだな。オードさんは敵意の波動を受けて腰のポーチからなにかを取り出して口に当てる。どうやら笛のようだ。息を吹き込んで鳴らす。

 

鳴らすと言っても音は出ない。音はないが魔力の波動が出ているのは感じる。二度鳴らしたが一度目は寝ている相手を起こすためのもの、二度目は危険の到来を伝えるためのものだろう。

 

なんとなく伝わるのは俺の魔石に刻まれた人間の情報に()るものだろう。人間にしかわからない波動を物体をすり抜けて拡散させる装置か。ずいぶんと特殊な魔術に思える。これで残りの三人に避難をうながすのだろう。

 

欲しいな。いくらだろう?

 

そんなことをのんきに考えていると更に敵意が強くなる。

 

「これで後の三人は避難部屋に向かったはずだ。もうそろそろ何かを仕掛けてくるかもしれねぇな。玄関に行くぞ 」

 

ホールに向かうとホールの扉の向こうから大きい魔力を感じる。玄関を破壊して入ってくるつもりか。他の窓や扉は小さめに作ってある。一番入りやすいのはここからだろう。どうやら敵はこの施設の構造をある程度、把握(はあく)しているようだ。

 

頭いいな。昨日感じた視線のようなものは偵察(ていさつ)のためのアプローチだったか。ちょっと不気味だな。やっかいそうな事態に感じる。オードさんも似たような感想を持っているのかかなり緊張をしているようだ。

 

「例のやつだろうか? 」

 

「わからん。わからんがもしそうならマズい状況だろう 」

 

人が大勢いるような場所をわざわざ襲うような魔物は魔境中層ではあまりいない。相手の戦力がわからないうちに仕掛けても勝ち目は薄いと考えるからだ。これは慎重になれるだけの知性を持っていることにほかならない。

 

もし襲ってくるとすればその存在は相手の戦力を把握した上で勝てると踏んでいるか無理を押してでも得たいものがあるか、あるいはその両方か。オードはそのことを踏まえた上で思考を巡らせる。

 

(ふつうは向こうからは来るはずがない。コウモリ系の魔物なら視覚では判断しない。超音波探索では建物はでかい岩にしか見えないはずだ。だとすると臭い玉の臭いを追ってきたってことか? 一度逃がした獲物に対する執着(しゅうちゃく)が強いのか?

 

建物の構造を理解している節がある。観察力に理解力も備わっている。向こう見ずな性格ってわけでもないだろう。執念(しゅうねん)深くて狡猾(こうかつ)な捕食者。魔力の大きさから言って魔力変異も大きいだろう。やっかいな相手だな)

 

レインをちらっと見ると罪悪感にとらわれる。

 

(調査だけで済むと思ったがとんだ見込み違いだ。こんな危ない任務に巻き込んじまうなんてよ。普通の研修生と違うとはいえ迂闊(うかつ)だった。無事に返してやりたいところだが危ういかもしれねぇ )

 

扉の外では気配の圧が徐々に近づいてきている。オードは謝罪をしようと思って振り返る。口を開こうとするがその前にレインから声がかかる。

 

じりじりと近づいてくる魔力の大きさから言ってベテランの狩人に傷を負わせた例のやつである可能性が高いだろう。こちらがヤツのねぐらにカチコミを掛けるつもりが逆にカチコミを掛けられた状況か。気に入らないな。

 

魔力も圧もオードさんの2倍は優に超えているな。俺の魔石より結構多いかもしれない。だが俺にはコアがある。というかコアが俺か、、、。コアブーストを使えばなんとかなるか。討伐対象なら倒せば報酬が期待できる。

 

ヤツを探すのにもっとかかる見積もりが逆に向こうからやってきてくれたのは考え方によっては僥倖(ぎょうこう)か。倒せるなら討伐報酬、倒せなくても追い払えば何かしらの報酬は出るだろう。

 

これはチャンスだ

 

そう思うと俄然(がぜん)やる気がわいてくる。負ければこの肉体を失い四人は死ぬだろうがそういうネガティブは頭から追いやって考えない。戦いはそういうものだ。

 

「オード。ヤツを倒そう 」

 

ちょうどこちらに振り向いたオードさんに声を掛ける。なんかちょっと驚いた顔をしている。俺の魔力の高まりにびっくりしたのかな? 感情の高ぶりに押さえが効かなかったか。

 

声を掛けようと振り返ったオードだが逆に声を掛けられて驚く。正確には発言に対して驚いたのではない。研ぎ澄まされた戦いの意思を含んだ魔力。その圧力に一瞬気圧された。

 

(歴戦の獣人の戦士がこんな気配を(まと)っていたな。確か闘気と言うんだったか、、、 )

 

レインの(たたか)う意思と自信に当てられてオードも闘う意思を決める。自分一人では勝算はなかったがレインと一緒ならなんとかなるかもしれない。そう考えを改め勝つための算段を巡らせる。

 

(最初に出会ったときは魔力の大きさに比べておとなしいヤツだと思っていたが一気に空気が変わりやがった。実戦で初めて本気になれる性格か? 手紙にそれらしいことは書いてあったがまさか本当とはな、、、 )

 

(せま)りくる魔力は扉の前で止まる。もう戦闘開始まで時間はない。自分がやるべきことは相手の情報を分析して戦闘の補助を行うことと定めて立ち回りを考えていく。

 

ヤツは扉の前で停止している。中の様子をうかがっているのか? コウモリだからエコーロケーションで把握するものだろうが流石に建物の中はわからないだろう。においでも()いでいるのか?

 

この(すき)に内側から攻撃を仕掛けてやろうとも思うが相手の情報がなさ過ぎて手を出しづらい。ここは様子見をするか。と思っていたら外で魔力の高まりを感じる。焦れて攻撃を仕掛けてくるつもりか。

 

少し扉に近づいて身構える。すると扉に堅いものが打ち付けられる大きな音が響き、扉が割れて内側にへこむ。かろうじて崩れずに蝶番(ちょうばん)に支えられていたが次の一撃であっさりと四散して内側に破片が飛んでくる。

 

等級はそこまで高くないとはいえ魔鉄で補強された扉を実質一撃か。てっ、んん?

 

暗視は効いている。本来なら相手の姿がモノクロでもはっきりと見えるはずだがぼやけていて良くわからない。魔物以外は普通に見えている。

 

魔術か、、、

 

魔術を用いて空を飛んでいると推測していたことを思い出す。空気を操って飛び、視界をゆがめることができるらしい。

 

あれ? 相手の魔力を感じない

 

違和感に気づきそう思ったとき、いきなり相手の魔力が瞬間的に膨張し強力な魔力が飛んでくる。キィィィィと耳鳴りのような音がして頭が割れるような頭痛が襲ってくる。

 

部屋の中を音が反響して痛みが鋭さを増していく。目まいがする。体がふらつくがそれならばと全身に魔力を込めて抵抗しようとする。しかし、うまく魔力を練ることができない。

 

しょうがねぇ

 

コアから魔力を全身に供給して対抗する。拮抗して頭痛と目まいは収まるが体に力が入りにくいな。しばらく耐えていると音波は弱まっていき動けるようになってくる。

 

それを機にすかさず反撃に転じる。一足(いっそく)飛びにバックステップで壁際にいき、壁を蹴って高速で相手に迫る。

 

それに気づいた相手はすばやく上に跳ぼうとする。

 

二式(にしき)雷迅角(らいじんかく)

 

そうはさせまいと雷魔術を飛ばすが雷弾は相手の皮膜をかすめる程度で交わされてしまう。

 

牽制(けんせい)ぐらいにはなったか。雷弾を警戒して躊躇(ちゅうちょ)してくれればいいが。この間に立て直そう。

 

落ち着くと耳の中を暖かい液体が流れるのを感じる。どうやら耳から血が出ていたらしい。気づけば目からも血が流れている。傷は塞がっているがちょっと気持ち悪い。

 

しかし、いきなりコアブーストを使わされるとは。幸先が悪いな。

 

「レイン。大丈夫か? 」

 

オードさんが声を掛けてくる。オードさんも耳から血を流しているが後ろ側にいた分俺より軽傷のようだ。

 

「問題ない。血を飛ばすから離れてくれ 」

 

清発で飛ばして視界や耳の通りを良くする。オードさんも同じようにしている。

 

さて、ここからどうするか。ここにいてもまた超音波攻撃が来るだろう。室内は反響して不利になる。外に出て戦いたいが迂闊(うかつ)に外に出ればそこを狙われる。

 

相手の能力についても考察していく。超音波攻撃を放つ瞬間とその後は相手の姿がはっきりと見えるようになった。それと同時に相手の魔力の大きさも。

 

おそらく空気を操作して魔力を隠蔽(いんぺい)しているのだろう。音響攻撃のときは解除せざるを得ないのだろうが相手に悟られずに魔力の溜めを作れるのはかなりのアドバンテージになる。食らってみると有効性が良くわかるな。

 

相手は今どこにいるだろう? こちらが出入り口から出るところを狙うなら正面の森の中か? 建物の別の場所から出ることを想定するなら屋根の上か? ここの屋根は平らな構造になっているようだが。

 

、、、、、、俺なら屋根の上に陣取(じんど)るな

 

外に出るところを狙って攻撃。そこで仕留められなくても屋内に引っ込むなら中に閉じ込めて音響攻撃でじわじわと弱らせてから接近戦で仕留める。扉を破壊した威力から言って接近戦もできるのだろう。森に逃げるなら夜の森はやつにとっていつもの狩り場だ。追いかけながら弱らせて仕留める。そんなところか。

 

意表を突くなら中から屋根を突き破って屋上にでることか? 今の俺ならできるだろうが十分に魔力を込めれば相手にそれを悟られてしまう。屋根を破壊したら討伐報酬から引かれるかな? 少なくともプラスにはなるまい。そうなると、、、

 

俺はプランを練ってオードさんにそれを伝える。

 

「、、、わかった。それでやってみよう 」

 

プランの修正があるかと思ったがすんなりと受け入れられた。それじゃあ始めますかね。

 

所定の位置に付くと水筒から水を取り出して細く伸ばしていく。

 

操水糸(そうすいし)

 

何本もの細く伸ばした水の触手を作りだす。そして、二階にあるすべての窓に水糸を取り付かせる。水糸を操りガラス戸の鍵を解除して開け、雨戸を開放する。

 

すべて同時に行うのは流石に骨が折れるがこれでいつでも仕掛けられる通路が全方向に開通した。いきなり同時に開いたらどこから出てくるかわからないだろう。これで多少はプレッシャーを与えられるはず。

 

俺とオードさんは同時に狭い窓からくぐり抜けるように飛び出し、窓枠を蹴って屋上まで上がる。それに気づいたヤツはどちらかを攻撃するはず。

 

屋上に上がる俺たちを待ち受けていたヤツは再び超音波攻撃を放ってくる。狙いは当然のごとく俺だ。俺は飛び上がりながら雷魔術を練っていた。注意は当然こちらに向く。

 

空気を伝って迫り来る振動波に対して練り上げた魔術を解放する。

 

雷掌壁(らいしょうへき)

 

手のひらから雷撃を放射状に細かく放ち壁のように広げる。魔力を帯びたオゾンなどの電離ガスが穴を埋めて障壁として完成していく。

 

魔術同士がぶつかると込められた魔力同士が相殺されて散り散りになっていく。相殺しきれずにこちらに向かってくる敵意が脳幹(のうかん)()さぶって気分が悪いが先ほど食らった一撃程じゃない。

 

俺が攻撃を受けている間オードさんは自由に動ける。腰のポーチからガラス瓶に入った燃えやすい油に火を付けて相手めがけてぶん投げる。

 

火を上げるガラス瓶はほとんど一直線に飛んでいきヤツの顔面に当たるとカシャッと微かな音を立てて砕け散った。

 

油が周囲に広がり火が燃え広がっていく。コウモリの上半身はほとんど炎に包まれ周囲が明るくなった。

 

この炎には魔力がこもっていない。見た目の派手さほどダメージはないと思うがそれでも顔面を炎で包まれ視覚、聴覚、嗅覚に制限を受けるとパニックを起こしそうになるだろう。

 

炎が酸素を消費して呼吸も阻害される。それも合わされば冷静な判断はできないはず。

 

果たして相手は(たま)らず空中へと逃げ去る。空中で清発(せいはつ)を行って油と炎を散らすと空気を魔術でゆがませて虚空に溶けていった。追撃を恐れていったん仕切り直したと言ったところか。

 

今は相手の魔力を感じない。だがヤツが去り(ぎわ)に火を払ったとき、その魔力の中に絶対に殺すという後ろ暗い覚悟のようなものを感じた。必ず何か仕掛けてくるはずだ。

 

ここからが本番…

 

炎の明かりの中でちらっと見えたヤツの姿は鎧のようなものを(まと)っていた。魔力変異がかなり起こっている個体だ。そこまで生き抜いてきたプライドがあると言うことなんだろう。

 

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