機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第5話 X 雷を使う獣

魔力は最大まで回復したが夜が明けるのを待ってから行動することにした。なにかに襲われたときは暗視より通常視界の方が戦いやすいと判断したためだ。

 

土から()い出した俺は新たに作り出した体を亜空間から取り出して顔面中央に収まる。設計通り消費魔力は少ない。魔力出力の調整も以前よりしやすくなった。意気揚々(いきようよう)と山に向けて歩き出す。

 

途中で方向を確認しようと首を伸ばそうとした、が伸びない。

 

、、、前の土だけの体の感覚が抜けてないな。今度の体は骨格があるから首を伸ばすことができない。

 

どうするか少し考え、コアの周りの土を頭蓋骨の中から抜き出すように伸ばしていく。端から見れば目だけが飛び出て伸びていくように見えるだろう。首を伸ばすのも大概だがより不気味になっているな。

 

方角を確認しつつ進んでいくと山の麓に着いた。ゴツゴツした岩が多く背の高い木は生えていない。そこかしこに草が生えている。高さは(ふもと)から500~600メートルくらいか。あまり高い山ではない。コアの機能を使って三角測量してみれば正確にわかるかもしれないがそこまでする必要もないだろう。

 

岩に魔力を流してみる。なかなか浸透していかなかった。出力を上げてみると表面にある程度魔力が浸透したので亜空間に引き込んでみる。

 

分析してみると多少鉄を含んでいるようだが少なすぎる。外れかとも思ったが山を探索してみることにした。山の上から周辺の地形を確認してみたい。

 

岩から岩へ飛び移るように移動する。傾斜はなだらかだが不規則に岩が乱立して歩きにくい。この体は疲れを感じることはないがいつの間にか魔力が減少しているかもしれない。魔力残量を確認しつつ進む。

 

ところどころ岩のくぼみに土が溜まって狭い平地になっていて草が一面に茂っている。ときどきそういった場所で魔力を回復させて900台を保ちつつ進む。

 

周囲を警戒していると草が噛みちぎられているような痕跡(こんせき)を発見した。草食動物がいるのか。そう思い地面を探るとフンを発見した。まるくてころころしているヤツ。草食動物だろうがウサギの例もあるので草食だからと油断できない。

 

岩陰に隠れながら進む。山の中腹まで来るとある程度遠くまで見渡せるようになった。遠くには高く連なる山脈が見える。反対側をみるとそう遠くない位置に海が見えた。海の近くには平地が広がっているようだ。

 

人が住んでいるならそちら側か。人になりすます方法を身につければいってみたい。まだ見ぬ希望に胸を(おど)らせながら進むとそいつはいた。

 

岩の間、一際大きな円形に近い草の平地。中央にたたずむように鹿がいた。ニホンジカより毛が長めで灰色がかった青色をしている。体高はこちらと同じぐらいの170センチメートル。かなりでかい印象だ。

 

もふもふしている外見は一見かわいらしいが頭部に凶悪なものがついている。両手を広げた幅ぐらいまで広がる複雑に枝分かれした角は金属のような光沢を放っている。

 

なによりこちらを見る目には隠しようもない敵意がみなぎっていて、魔力視で見る魔力は威圧するように揺らめいている。どうやらこちらを待ち構えていたらしい。

 

この世界の流儀に慣れつつある俺はやってやるよとばかりにヤツの目の前に岩の上から飛び降りる。

 

全身に軽く魔力をまとわせて威嚇(いかく)する。

 

しばらくにらみ合った後、俺は一気に正面から接近して爪を出して首を狙う。それをのけぞって躱した鹿は前足でけりを放ってくる。

 

身をかがめながら前進して(かわ)すと地面に手を突き、回転し腹部をめがけて蹴りを放つ。当たる瞬間に魔力を込めることを忘れない。

 

当たる瞬間に全魔力の10パーセントほどを込めた蹴りは相手の体をフィールドの縁にある岩まで吹き飛ばす。岩に衝突した鹿はよろめきながらもすぐに立ち上がりこちらに向き直る。

 

気分が高揚して試合の感覚を思い出してきたな。

 

クラスD高位ランカーを舐めるなっ!

 

立ち上がった鹿は腹部に魔力を込めて回復しようとするがその隙を逃す手はない。再び接近して拳を繰り出す。

 

すると突然腹部に集まっていた魔力が移動して首や角に浸透する。前進しながら首を振ってこちらにカウンターを合わせようとする。

 

それを読んでいた俺はバックステップで躱して角を(つか)むと背中に飛び乗って馬乗りになる。鹿は首を振り、体を振って引き()がそうとしてくるが両手で角を掴み足で背中を(はさ)んでロデオを続行する。

 

鹿はしばらく首を左右上下に振ったり体を左右に振ったり飛び跳ねたりと俺を必死に排除しようとする。俺は魔力を制御して体の表面の土を柔らかくして接着と衝撃吸収を行う。

 

容易に振り落とせないとみるや周囲を囲む岩壁に走り出して体の側面を岩肌にぶつけるように体当たりをする。上に乗っている俺は岩に激突するが全身に魔力を込めて衝撃に対抗する。さらに再び走り出してこちらを岩にぶち当てようとしてくるが角を持って鹿の首を(ねじ)じ折ろうとする。

 

真っ直ぐに走れまい!

 

首を捻られた鹿はこちらの思惑通り走るのをやめて首を折られまいと抵抗してくる。

 

このまま首をへし折ってやる

 

そう思い、腕と足に込める魔力を上げようとすると鹿に異変が起こった。全身が青白く淡く光り始めた。ふさふさの毛が逆立ち、角がまばゆく光り始める。角を握っていた指の腹が焦げ始める。

 

まずいっ!

 

とっさに角を離し背中を蹴って空中に逃れる。

 

その瞬間、枝分かれした角の先端から稲妻がほとばしる。空中で身をひねって距離を稼ぎそのまま地面を転がる。稲妻は鹿の周辺一帯に落ち、地面が爆ぜる。

 

俺はその光景を見て驚愕と感動を覚えた。

 

魔力でこんなことができるのかっ!

 

その美しい光景に一瞬目を奪われたのが大きな隙になった。光をまとったまま突進してきた鹿への反応が遅れた。

 

速いっ!

 

いままでにない魔力量での突進の速さに横に転がることしかできなかった。鹿は突進して交差する瞬間、周囲に稲妻を放出していた。躱しきれずに足や腕に電撃を食らう。

 

直撃部は表面がはじけ電流が全身を駆け巡る。こちらが込めている魔力を押しのけるように相手の魔力が体内を伝ってくる。コアにまで電流が襲いかかる。この世界に来てはじめてコアにダメージを食らった。

 

痛みや衝撃はないが魔力がごっそり削られた感覚がある。残量を確認したいが追撃が来ることを警戒して大きく横っ飛びに転がり相手に向き直る。

 

三度目の突進はなかなか来なかった。様子をうかがうと相手は息を切らしている様子だ。こちらの破損箇所は表面だけ。すぐさま亜空間から土を取り出して修復しながら魔力残量を確認する。残量は400程度。俺は次で決めるつもりで策を考える。

 

亜空間からボーラを取り出す。あまっているウサギの皮をなんとか使えないかと思って作ったものだ。皮を紐状にして、よった縄を同じ長さの三つ叉状に編んでその先端に同じ重さの石をくくりつけたものだ。

 

中心部分を持って頭上に上げて振り回す。鹿は突然、妙な行動をとりはじめたこちらを警戒しているのか突進の機会をうかがっている。じりじりと時間が流れる。数十秒程度の時間が永遠のように感じられる。

 

息が整ったのか焦れたのか、相手の方から突進を仕掛けてくる。俺はスピードが乗り切る瞬間を狙ってボーラを投げる。

 

等間隔に開いて回転しながら飛んでいき2本の前足を(から)め取る。鹿は一瞬前につんのめりそうになるが雷を前足に流すとウサギ革に火がつき力任せに脚を進めてくる。

 

その一瞬で十分。すでに走り出していた俺は間合いに入ると亜空間から刀を呼び出す。

 

身を低くした体勢から地面すれすれに刀身を滑らせてからすくい上げるように振り抜く。当たる瞬間を狙って刀身に込めれるだけ魔力を込める。首を切り落とすための完璧な軌道を描く。

 

交差する瞬間、けたたましい金属音が響き鹿の片角が宙を舞った。

 

刀を切り上げる瞬間、鹿は前進をやめて前脚でブレーキをかけていた。そしてやつは首を振り下ろして角で刀身を迎え撃った。

 

競り合いには勝ったが仕留め損なった。硬質の角を何とか切断できたが恐ろしくかたい手ごたえに刀が心配になる。確認するがエナメル質の刀身にダメージはないようだ。

 

すかさず相手を確認すると相手もこちらに向き直っていた。刀を構えたままお互いに出方をうかがう。

 

俺と鹿の間、切られた角が近くにあったのですり足で近づく。足で角に触れると亜空間に回収して場を整える。

 

注意深く観察するが鹿の目からは諦めを感じなかった。お互いに動かないまま時間が過ぎていく。すると突然やつはありったけの魔力を角の切断面に集中させる。

 

なにをするつもりだ?

 

俺は警戒して身構える。すると切断面から徐々に角が伸びていく。

 

な、、、なんだと

 

20秒足らずで角はもとに戻ってしまった。折られる前となんら変わらないように見える。

 

警戒を強めるがふと気がついた。鹿の魔力はもう枯渇(こかつ)寸前だ。魔力の圧を感じない。雷を打つどころか自己強化すらおぼつかないだろう。

 

俺は勝ちを確信したが、同時にこの鹿に感銘(かんめい)を受けていた。ここまで戦いに賭け生き抜こうとする姿はいっそ清々(すがすが)しささえ感じる。

 

俺はとどめを刺すために刀を構えゆっくりと近づいていく。

 

まだ何かあるんじゃないか? そんな思いがあり注意深く観察しながら近づく。あと3メートル。

 

そんなときだった。鹿の後ろの方に魔力反応を感じた。

 

とっさにバックステップで距離をとる。それはかなりの速度でフィールドに降り立つと鹿と俺の間に割り込んできた。

 

外見はいままで戦ってきた鹿とそっくりだ。若干細めの体格をしている。大きく異なるのは角だ。大きく枝分かれして広がる角に対し、今度のは枝がまとまって円筒を作るように湾曲している。最後部の枝が一対、円筒の中心を通るように前に突きでいる。

 

雌かな? 雌にも角があるのか?

 

地球で知っている生き物とはだいぶ生態が違うような気がする。雷なんて出さないしな。

 

現実逃避をしたくなるのをこらえて状況分析を行う。魔力残量は300を切るぐらい。強さはおそらくさっきまで戦っていたヤツと同じぐらいだろう。

 

だいぶきつい。無理そう。

 

俺は悪態をつきたくなる気持ちを抑えてせめてどんな特性があるのか一目でも見てやろうと出方をうかがう。

 

さっきからガンガンに威圧的な魔力を放っていてかなりご機嫌斜めらしい。(つがい)を殺されそうになっているなら当然だが。

 

牝鹿? は角に魔力を集中させる。筒の内側に電撃が走り中心の一対の突起に集まっていく。

 

2本の突起の間に光の槍のようなものが生じるとなんの前触れもなくそれが飛んできた。長さは短い。しかし、恐ろしく速い。正確に俺のコアめがけて飛んでくる。

 

このままでは直撃だ。残りの魔力全部をつぎ込む勢いで首を横に曲げる。

 

直撃は避けられたがほおの部分を中心に顔半分のほとんどを吹き飛ばされた。魔力を込めすぎたせいで首の骨はくだけ表面は裂けている。後方に飛んでいった光の短槍は空中で分解されたらしい。痕跡(こんせき)を残さず消えている。

 

次弾が来ないうちに回れ右して撤退する。狙いをつけられないようにジグザグにステップを踏みながら逃げ出した。

 

牡鹿があのタイミングで角を回復させたのは女鹿に角が折れた姿を見せたくなかったからかもしれない。男のプライドというやつか。

 

あのタイミングで残りの魔力をすべて使うのは変だと思っていたが女鹿が来ることが分かっていたなら納得できる。俺にはわからない方法でお互いを確認する(すべ)があるのかもしれないな。

 

 

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