機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第50話 Ⅹ舞い踊る影②

俺たちは敵が体勢を整えているうちに迎撃準備を完了させようと動き出す。と言っても俺は特に有用(ゆうよう)な道具は持っていないので準備をするのは(もっぱ)らオードさんだ。俺は周囲の警戒に当たる。

 

オードは腰に付けた道具入れから発光筒(はっこうづつ)を取りだし火を付けて屋上に手際よく()いていく。10秒足らずで撒き終えると周辺は色を感じ取るには十分な光量を得る。

 

(これで戦いやすくなるはずだ。ヤツが空気をゆがませてもゆがみをとらえれば位置を特定しやすくなる )

 

他に出来ることはないかと考えを巡らせる。

 

(ジスタのやつは鳴子(なるこ)を使って命拾いをしたようだが今使うのは無理がある。簡易的に音を鳴らせるものがあればいいが、、、 )

 

音での感知は早々に諦めつつ他の手段を考える。周辺の警戒をしながらも思考は続いているが残りの時間はあまりないようだ。感じている嫌な圧力はその強さを増していく。

 

オードさんのお陰で周辺はだいぶ明るくなった。これで相手に魔術を()かせることが出来ればその姿をはっきりと(おがむ)むことが出来るようになるだろう。

 

だがこの状況で使える魔術はそう多くない。下は石だし亜空間は使えない。水はさっき使い切った。回収の手間と時間が惜しかったんだが少しは回収しとけば良かったか。まあ、いまさらしょうがない。

 

雷魔術だけでもなんとかなるか、、、切り札も一応ある

 

なんて考えていたらいきなり目の前に空間のゆらぎが現れる。床に倒れるように身を低くして横っ飛びに転がってなんとか回避する。

 

ぎりぎり視認が間に合ったからなんとか(かわ)すことができた。魔力も音も感じない上にスピードが速いと()けるだけで精一杯だ。視線や敵意は感じるがそれだと方向までは正確にはわからない。

 

実戦で試してみるか

 

昨日から始めてみた索敵の訓練を実戦でやろうと思う。魔力を肉体から極限まで消す。雑音を消して些細(ささい)な反応をわかりやすくする。目を閉じてみる。空間の中の魔力を全身の皮膚から吸収することをイメージする。

 

静寂の中でなんとなく敵意が移動しているような感覚がわかる。なんか近づいて来ているような気がする。目を閉じたままゆっくりとその方向に体を寄せていく。

 

「おい! レイン! 」

 

オードさんに声を掛けられてハッとして集中の中から我に返り、即座に魔力を込めて居合い切りの要領(ようりょう)で刀を振り抜く。

 

ガキィィッ!

 

刃は敵の胸甲にはじかれて堅い音が周囲に鳴り響く。敵はそのまま反対側に抜けて再度闇の中に消えていく。直前で軌道を変えて回避と防御に集中したわけか。切り替えが早いな。

 

索敵についてはなんとなくコツのようなものをつかめた気がする。だが集中しすぎて反応が遅れてしまった。実戦が一番成長をうながすようだが危険すぎるな。もっと簡単な相手でやるべきだろうがちょうどいい相手が見つかるかな?

 

なんにせよ今回はもうやめるべきだな。

 

「オード。すまない。助かった 」

 

「お、おお、、、」

 

気のない返事が返ってくる。引かれてしまったか。ふつうはやらんか、こんなこと。

 

(いきなり魔力を消したときはなにを始めるのかと思ったが、、、)

 

防御のための魔力まですべて消失したときは一瞬敵の攻撃かとも思ったが、自分から行っていることがわかると正気を疑ってしまった。魔力を消した状態で攻撃を受ければ最悪即死もあり得る。

 

どんな意味があるのかと見ていたらどうやら敵の位置を探っているらしいということはわかった。だが流石に危険すぎると思い声を掛けたときにたまたま敵の攻撃と時が重なった。実際は声を掛けなくても何とかなったのかもしれないが。

 

(それでも放っておくわけにはおけないな。教官としてはな、、、)

 

手紙には(あや)うさを危惧(きぐ)する記述もあったがこれまでは心配するようなところはなかった。戦闘中に実験のように妙なことを始めるまでは。

 

(歳にあわない実力を持っていると思ったが、年相応の部分もあるじゃねえか。しっかり支えておかねぇとな )

 

索敵から攻撃に切り替えるときに魔力がうまく乗せられないのが問題だな。性懲(しょうこ)りもなく考えてしまう。切り替えていこう。

 

先の攻撃からしばらく向こうからの攻撃はない。こちらをうかがって入るようだが何を考えている? と、思ってたら攻撃が来た。

 

今度は魔力を隠蔽(いんぺい)せず遠くから音波攻撃を放ってくる。あまり魔力を込めていない遠距離からの攻撃だ。そこまでダメージはないが場所を変えながら連続で放ってきて地味に痛い。

 

こちらが屋上から動かないと見ていたぶるつもりか? さっきので接近戦を嫌がったのかもしれない。

 

()けようとしても音速で飛んでくる攻撃は()けづらい。おまけに溜めなしで放たれるので発射場所が特定しにくい。魔力視で視認した瞬間にはもう回避不能になっている。防御を固めて耐えるしかないか。

 

二人して何度も襲ってくる攻撃を耐えつつ反撃の糸口を探るがなかなか見つからない。

 

イライラしてきたな、、、

 

なんども音波攻撃を受けていると回復しても頭痛が(にぶ)く残ってくる。あちらさんもこれを続けたところで決め手に欠けると思うがいつまで続けるつもりだ?

 

その後もしばらく攻撃がつづいたが急に攻撃が止み魔力が感じられなくなる。

 

疲れて息を整えるつもりか?

 

こちらも回復に専念するかと思った瞬間、攻撃的な魔力の膨らみを感じる。

 

上⁉

 

「レイン! 」

 

攻撃を食らう覚悟を決めようとした俺にオードさんから声がかかる。背負っている背嚢(はいのう)が水のタンクになっていたらしい。水が背中からこちらに伸びてきている。それに手を触れて魔力を足して水のドームを作り出して防御する。

 

相手の渾身(こんしん)の超音波攻撃と水の障壁(しょうへき)がぶつかり表面に霧状の水しぶきが発生する。破られまいと二人がかりで魔力を込め対抗していく。

 

ヤツはこれで決めるつもりなのか長々と攻撃を放ってくる。俺は魔石をフルに使って障壁を維持しつつコアの方は別の処理をする。

 

水の一部を細長く伸ばしてヤツの足に巻き付けた。それを思い切り引っ張り相手を屋上の床に叩きつけてやった。

 

激突の直前に羽ばたいて勢いを殺したか。たいしたダメージにはなってない。すぐに魔力を練って超音波を水が巻き付いた足に向けて放ち、水のひもを分解してしまう。

 

ちっ、、、逃げられるか、、、

 

そう思ったらオードさんが何かをコウモリに向かって投げつける。胸にある鎧の部分に当たり砕けると中から液体が飛び散る。先に使った火炎瓶のようにも見えるが火は付けていない。付け忘れたのか?

 

「レインっ、 においを追えっ 」

 

オードさんから声がかかる。なるほど。わざと火を付けなかったと言うことか。

 

ヤツは再び飛び立つと森の中に消えていく。逃げたわけではないだろう。こちらは(いま)だに有効打を与えていない。依然(いぜん)として戦いの主導権はヤツに握られたままだ。プレッシャーを感じる。

 

どこから来る…

 

周辺を警戒しているとふいにガソリンとか灯油のような臭いを感じる。あたりを見回すが視界に映るものは無い。

 

魔力で嗅覚を強化してみる。多少感覚が鋭くなる程度だが臭いの方向ぐらいははっきりとしてくる。臭いは徐々に近づいてくる。

 

いるな、、、

 

すがたは見えないが屋上の床の上に乗っているようだ。

 

光学迷彩…

 

今度の奴は完全に見えなくなる魔術か。切り札とか奥の手と言ったところだろう。飛んでいるときは使わなかった。これを使っている間はゆっくりとしか動けないようだ。

 

じりじりと接近してくるにおいに集中して正確に相手との距離を測る。こちらが察知していることを悟られないようにゆっくりと全身の魔力を高めつつ隠蔽(いんぺい)を行いある程度で止める。周囲を見回すフリをしてわざと背中を向けて油断を誘う。

 

そのままこい、、、

 

時間の流れが緩慢に感じるが焦らずに待つ。やがて十分に接近してくると一気に魔力を攻撃に向ける。

 

はじかれるように急激に接近して下段から袈裟懸けにすくい上げる。

 

切りつける瞬間、刃に全身の魔力を集中させて振り抜く。抵抗を押し切って刀が抜けていく感触を手に感じ取る。

 

胸甲を深く切り裂いたようだ。血が吹き出る音とにおいを感じる。

 

魔術が解けてヤツが姿を現す。返す刀でさらに上段から斬りかかるが親指の爪に阻まれる。ならばとさらに斬りかかるが逆側の爪で反撃してくる。

 

連続して繰り出される左右の爪を(かわ)したり刀でいなしたりしつつこちらも切りつけていくが爪ではじかれたり折りたたんだ翼で受けてくる。

 

こいつの中指に当たる部分、翼の縁に当たるところは厚い装甲で覆われている。それが鋭く前方に伸びていて湾曲した刃になっている。

 

そのブレードを広げてなぎ払い、斬撃を放ってきた。刀で受け止めると今度は逆側の爪が襲いかかる。

 

近距離での剣戟が続く。

 

接近戦も得意なのかよ、、、

 

出血を伴う一撃は与えたがまだまだ不十分のようで動きにまだまだキレがある。

 

正面から斬り合えるようになったのは前進と言っていいが想定よりも近接戦闘に長けているようでここから有効打をもぎ取るのはなかなか大変そうだ。

 

ーガキィィッ!

 

切りあっていたらコイツの後ろから硬い音が鳴り響く。

 

俺が正面を持っている隙に後ろからオードさんが斬りかかったが相手の装甲に阻まれたようだった。

 

背中も硬いのか…

 

しかし、牽制(けんせい)にはなっているようでオードさんが後ろから好き勝手に攻撃するとそれが気になるのか相手の手数は落ちてきている。

 

やはりまともにやりあえるなら数的(すうてき)有利が効いてくるな

 

斬り合っていると相手の動きに慣れてきた。オードさんの牽制のおかげで相手の動きを見る余裕が生まれてきている。

 

これならあれが使えるか…

 

俺は相手の攻撃を(さば)きながら魔力を練りつつ、オードさんとコウモリの動きを注視してタイミングをはかる。十分に魔力を高めてそのときを待っていると程なくしてそれは(おとず)れる。

 

オードさんの放った突きが偶然装甲の隙間に入ることが出来たのか敵は予期せぬダメージに一瞬体を硬直させる。

 

チャンス!

 

俺は高めた魔力を雷の魔力に変換して刀に流し込み大量の電子を支配下に置いていく。刀が青白い電光を放つ。

 

雷光斬(らいこうざん)

 

電光を(まと)った斬撃は抵抗らしい抵抗もなくコウモリの腕を付け根近くで切り裂いていく。切断面は焼かれているせいか出血はあまりない。

 

これが今の肉体(からだ)に最適化した魔術だ…

 

コウモリは叫び声を上げて前のめりに倒れ込むとそれに巻き込まれないように後ろに下がる。

 

とどめを刺そうと再び刀に魔力を込めようとしたが違和感に気づく。刀から白い煙が上がっていた。

 

物質の結合力が弱くなっているようだ。手に伝わる感触が心許ない。

 

マズいな…

 

何とか崩壊しないようにすこしづつ魔力を流して形を維持しようとする。そこにオードさんから声がかかる。

 

「レイン! 気をつけろ! 」

 

そこではたと気づかされた。

 

まだ戦闘中だったな…

 

刀から視線を上げるとコウモリは傷口から血を出して切断された部分をつないでいた。骨や神経も(じき)に繋がるだろう。結構な回復力だ。

 

完全に再生される前にとどめを、、、

 

と思ったがコイツは傷の回復を待たずに魔力で無理矢理翼を動かして飛び立っていった。逃げる気だ。

 

させねぇっ…

 

…とも思うが手に握った刀が気になって行動が遅れてしまう。ヤツは森に向かって一直線に飛んでいく。

 

仕切り直しのつもりか…

 

魔力の雰囲気からそう判断すると俺は刀を鞘にしまって屋上から飛び降りて後を追いかけた。

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