「待つんだ! レイン! 」
オードさんは制止するがもう遅い。気配を追って森の中に入っていく。あの怪我ではそこまで遠くにはいけないだろう。どこかで回復に努めるはず。その前に倒したい。
数分間追いかけていると気配が消える。どうやら追っ手を
俺は亜空間で修復した刀を取り出してかまえ、精神を集中させる。
あのときに刀を捨ててとどめを刺すことに専念していたら仕留められただろうか?
頭によぎるもしもの話を追いやって魔力の感知に集中していく。
、、、おかしい、、、なぜ回復しない、、、
なかなか回復の魔力を感じない。ひょっとしてこのまま身を隠してこちらが諦めるのを待つつもりなのか? 傷も時間を掛ければ自然回復するだろう。痛みも痛覚を抑制すれば何とかなりそうか。
ここを逃せばすぐさま討伐隊が編成され俺は王都で待機になるかもしれない。ここまでやって獲物を仕留められないでは
金が入らないのも困るな…
まあ、つまるところこれは俺の戦いってことだ。他の人間には渡さん。いろいろ理由を考えたがそういうことだ。
決意を固めてこちらから相手を探しに行こうとした瞬間だった。ゾクッと背筋に冷たいものが走りその場を飛び退いた。
背中を浅く切られたようだ。暖かいものが流れ落ちる感覚がある。すぐに魔力で塞いでおく。
ーぐっ…!
すると今度は音波攻撃も襲ってくる。直撃はしたが防御用の魔力は高めている。それほどのダメージはない。相手も牽制のつもりなのか全力ではないようだ。
どうやら敵は最初から逃げる気なんてなかったらしい。あれはブラフか。こちらを自分に有利な場所に誘い込んだってところか。
いいね、そうこなくちゃな…
光学迷彩で完全に姿や気配を消しながらの攻撃。できるなら最初からやっていただろう。追い詰められて習得したってことか。戦いながら成長する。この世界の生き物らしいな。
すでにガソリン臭はしていない。飛びながら清発でにおいを消したのか? 傷もある程度回復されているかもしれない。
シュッ!
考えながら周辺の空間のゆらぎや音を探っていると空気を裂くような音が微かに聞こえた。はじかれたように地面を転がると地面が爆ぜて土が舞い散る。
攻撃中もほとんど見えないのか。モノクロの視界なのもいただけない。オードさんが使ってた光る筒が欲しいな。今度買っておこう。
腕を少し切られている。流れる血の暖かさと傷口の熱を感じる。回復術で
戦闘体に
あれならコアで直接いろいろな情報を感じ取れる。視界も形状をいじれば360度見ていられる。だがオードさんにコアの波動を
考えていると戦闘体を使っていたときのことを思い出す。雷魔法を習得したとき電磁波を感じ取っていたな。人間の肉体でも多少は感じているだろうがそれを強化できないだろうか?
コアから魔力を全身の皮膚に伸ばしてそこから細かく雷魔法を放射する。反射されて返ってくる電磁波を捕捉できないか調整していく。そこまで労せずに感じ取れるようになる。
昔取った杵柄ってやつか
戦闘体と人間の肉体との差を考慮するだけである程度使い物になる。範囲は広くないが今はこれで十分。じっとして相手の接近を待つと範囲内に電波をわずかだが反射する物体が現れる。
この野郎はもう勝った気でいるのか散歩でもするような軽い足取りで接近してくる。心を落ち着かせて間合いの
近づいてこい、、、
、、、
、、、!
相手がこちらを狙う気配を感じた。
瞬間、攻撃用に魔力をすべて振り分けて最速の一撃を放つ。
―雷光斬
相手の首があると思われる位置を横薙ぎの一閃が通り過ぎる。ほとんど抵抗らしい抵抗は感じなかった。そのまま空を切るように刃は振り抜かれるが俺は勝利を確信する。
わずかに遅れて魔術が解除され視認できるようになるとコウモリは後ろにゆっくりと倒れていく。地面に倒れ込むと首を両断されていた頭が転がっていく。
ふと、刀の状態が気になったので手元に目をやった。
すると最初に雷光斬を使ったときより上がっている白煙の量が少ない。魔力の出力を下げつつ切れ味を増すように魔術回路を調整した成果がでたようだ。
これなら冷却期間は必要だが戦いながら使用することができる。
だが、十分に威力を発揮するには今の武器では無理のようだ。改良が必要だ。やはり鉄か。質のいい魔鉄が要る。
それはそうとしてオードさんが近くに来ていないか確認する。
よし、近くにはいないようだ
俺はコウモリに近づくと遺体を亜空間にしまう。転がった首も回収して分析に掛ける。情報をすべて解析し終わると亜空間から取り出して地面に横たえる。
すべてが終わると、一応、遺体に向かって手を合わせておく。
まだ狩猟免許はない俺だが狩人として自分の
さて、運ぶとしようか
一通り終わったので拠点に遺体を運ぼうとする。しかし、これがなかなかに大変だ。
重さは魔力で強化すれば問題ないが首を持ってさらに体を運ぼうとするとバランスが取れない。翼が開いてしまって木に引っかかってしまう。運ぶ用の道具も必要か。
今回は首だけ先に運んでおくか。拠点に行けばなにか運ぶためのロープとか布とか有るだろう。
そう思っていたらオードさんが近づいてくるのを魔力の波動で認識する。どうやら俺がこいつを仕留めたことも伝わっているようだ。特に気配を消すでもなく接近してくる。
「レイン! 無事か? 」
「大丈夫だ。たいした傷はない 」
「…仕留めたようだな 」
コウモリを
「まさかほとんど一人で狩っちまうとはな。たいしたもんだ 」
「いや、一人では危なかった。助かった 」
亜空間とか何でもありなら一人でももっと楽に勝てたと思うが人間として戦うなら実際一人では危なかっただろう。決してお世辞ってわけじゃない。
「とりあえずこいつを拠点まで運ぼう 」
「ああ、そうだな 」
「首を持ってくれ。俺が体を運ぼう 」
オードさんに首を持ってもらって、俺は翼をたたんで手でまとめながら背負う。そうして拠点の解体場に運ぶ。そのあとは壊された扉の応急処置を行ってとりあえず就寝と
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翌朝はいつも通りに起床する。少し寝足りない気がするが気になることもあるので朝は通常通りだ。清発や着替えを行い解体室に向かう。
まだコウモリは解体されずに置いたままになっている。薄暗い解体室の中だが目の
戦闘中はこいつの能力もあってはっきりと姿は見えなかった。亜空間の中で調べたので姿も色も詳細にわかっているがやはり直接目で確認したい。
顔は豚のような平たい鼻をして鋭い牙がある。なかなかに凶悪な顔つきをしている。コウモリらしく耳は大きい。これで超音波を感じとるのか。全長は俺と同じぐらいで170センチメートルぐらい、翼長は3メートルぐらいか。
全身を鎧のような硬い組織で覆われている。毛が変化したもので出来ているようだ。蛇腹状になるように短く分割されたものが端々で重なりその間を普通の毛が埋めるような構造をしている。堅さと通気性を両立させるためだろう。
色は黒だが光を反射しないようなマットな質感だ。暗闇で相手に発見されないような工夫が見られる。
雷鹿でも見られたが魔力変異とはこれほどのものか。環境に適応しつつ戦闘に特化した形に変化しているように思える。魔術をより
耳のあたりが怪しいがどうなんだろうな?
遺体を更に細かく見ていると誰かが近づいてくる気配を感じる。この気配はメルヴェさんだな。解体室に入ってくると向こうも誰がいるかわかっているのか声を掛けられる。
「レインがこいつを仕留めたんだってね。やるもんだね 」
「これぐらいの魔物はここら辺じゃ珍しいのか?」
「珍しいね。ここいらは中層ぐらいまでの魔物しかいないからね。こいつは明らかに深層の魔物だね。何かあって移動してきたんだろうね。翼で長距離を飛べるからこんなところまで来たんだろうね 」
「そうか。、、、深層にはこんな魔物が山ほどいるってことか 」
「そうだろうね。といっても魔境の分類ははっきりしたものじゃないんだけどね。なんせ魔境の八割は深層と言っても過言じゃないからね。深層の大部分は人間が
「名前はなんて言うんだろうな、、、 」
「こいつの名前かい? たぶんウルギレス・サリュフェルムになるだろうね 」
「ふ~ん。こいつはメルヴェが解体するのか?」
「珍しい魔物だろうからね。ギルド本部から学者かなんかが派遣されてくることになるだろうね。その到着を待ってから一緒に解体する流れかな。今すぐあたし一人で解体してやりたいんだけどね 」
「そうか、、、 」
「レイン。ありがとう。レインがいなかったらあたしも含めて全員死んでいたさね。レインがいてくれて良かったよ 」
「見習いだが狩人なんでね。頼まれなくても魔物は狩るさ 」
実態としては報酬を目的に狩っただけだしな。しかも途中から戦闘に熱くなっていった。最終的に戦闘を楽しんでいたように思う。
礼を言われるのは筋違いにも感じるが客観的に見れば確かに俺がいなかったら危なかったな。オードさんに奥の手があったかもしれないがこいつにはもう臭い玉とやらも効かなかったような気がする。
礼は素直に受け止めるべきだったかもしれないがそれだと狩人っぽくないような気もする。コミュニケーションは難しいな。
「そうだね。狩人ならそうでなくちゃね 」
ふふっと笑いながら応える。どういう笑みだろうか。だが嫌な感じはしない。あながち間違いではなかったかな。
「そろそろ朝食だろうね。食堂に行こうか 」
二人して食堂に行くとそろそろ準備が完了するといったタイミングで全員そろったようだ。
食べながら今後の対応について話があった。もう通常通りに施設職員や狩人達を戻して営業を再開するようだ。すでに電話で連絡は取れているらしい。
ギルドから別の調査員が派遣されて今日中にこちらに到着する予定だ。俺とオードさんはそれと入れ替わりで戻ることになった。
朝食を取ってからやることもないので自室でトレーニングをした後、コウモリの魔石の情報を解析してみる。
「なんだこりゃ、、、」
思わず声が出てしまった。解析してみると魔力回路が独特すぎて参考になる部分があまりない。
おそらく魔力変異により変化した肉体に最適化された魔力回路になっているからだろう。人間の肉体はおろかコア単体で魔術を行使しても発動しない可能性が高い。
何一つ役に立たないのだろうかと必死に詳細の解析を行うとすでに知っている魔力回路と共通する部分を見つける。オオカミからコピーした音響魔法だ。
いろいろな魔術回路のパターンを解析して詳細がわかってくれば魔術の開発が容易になるかもしれない。
空気を操る魔術を習得したかったがちょっと複雑すぎて現状では難しいようだ。メタン魔術は比較的簡単な方だったか。まあ、いずれ可能になるだろう。
考察はそのぐらいで切り上げて再びトレーニングを行うと昼食の時間となる。受け入れ準備で忙しいらしくサンドウィッチなどの簡単なものであったがオーロラソースにピリッとしたスパイスを加えたようなソースがかかっていてうまかった。忙しくてもひと味加えてくれるのはありがたい。
昼食後に部屋でトレーニングや休憩を繰り返しているとギルドからの調査員や施設の職員、それに待機していた狩人達がここに到着したようだ。なかなかに早いな。
玄関ホールに行くと知らない人間が何人もいる。大半は施設の人間だろう。ドルンさんやメルヴェさんと話をしている。
ギルドの調査員はオードさんとなにやら話し込んでいる。狩人とおぼしき人は一人だけしかいなかった。すでに自分の狩り場に向かっているのかもしれない。
その一人の狩人が俺を見ると近づいてくる。
「あんたがヤツを倒してくれたんだってな 」
どうやら襲われたジスタという狩人だろう。入院していたという話だがそれを感じさせることはない。やはりこちらの生き物は回復力が高いな。
「そうだな。オードと二人で討伐したがとどめを刺したのは俺だな 」
自分が倒すはずだったのにとか思っているのだろうか。やられっぱなしは良くないし気持ちはわかるがそれは不可抗力というものだ。恨みっこなしでたのみたい。
「そうか… 俺は狩人名をジスタという。ヤツに襲われた狩人だ。ありがとう 」
「、、、」
あっさりと礼を言われたのでちょっと拍子抜けをしてしまう。反応に困っていた俺の態度をどう受け取ったか知らないが更に続ける。
「こんなに早く狩りに戻れるなんて思ってなかったよ。あんたがさっさとヤツを倒してくれたお陰だ。感謝する 」
こちらに伝わらなかったと考えたのか詳しく説明してくれる。
そういうことではなかったんだが、、、
少し申し訳なくなるが狩人の基本的な考え方に触れることが出来て良かったとも思う。
「そうか。なによりだ 」
俺がそう答えるとニッと笑って拳を握り軽くこちらに突き出してくる。
狩人流の挨拶ってやつだな、、、
良くはわからないが俺も同じ動作を帰す。
これであってるか?
ジスタさんは満足したのかきびすを返すと玄関から出て行った。あってたようだ。
自分の狩り場を再建しに行ったんだろう。ここに寄らずに直接行けば早かっただろうにわざわざ礼を言いに来るなんて
オードさんと俺はこの後王都に向けて帰途につく。行きと違って下りの道が続くので行きよりもだいぶ早く帰ることが出来た。時刻は夕方には少し早いぐらいだ。
「俺はこれから報告書やらを書かなきゃならん。狩猟免許の交付や会員登録の手続きなんかはそれから行うから三日後いつもの時間に受付に来てくれ 」
「と言うことは合格でいいのか? 」
「そうだな。あれだけのことをやってのけたんだ。不合格ってわけにはいかんだろう。危うい部分もあるがな 」
危うい部分とはなんだろう。制止を振り切って追跡に入ったことか。
「コウモリを討伐した報酬はでるんだろうか? 」
「それは心配しなくていい。それも
「そうか。面倒を掛けるな 」
「いや、ギルドとしては今までにないぐらい迅速に解決できている。面倒はむしろ減っているな 」
「なら報酬も期待できるな 」
「ああ、期待してくれていい 」
俺は
「それでは三日後にな 」
「ああ、気をつけて帰れよ 」