機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第54話 遺書 x 新居

受付に封筒を提出すると手続きが始まる。必要な書類に言われるまま記入していった。あらかた記入が終わると受付から声がかけられる。

 

「狩猟ギルド組合員の登録を終えるには遺書を提出する必要があります。記入は自宅に持ち帰ってからでも可能ですが今記入されるのでしたらあちらに個室がありますので、そちらで記入することが可能です。どうなさいますか? 」

 

遺書か、、、

 

持ち帰ってからだったら明日再びここに来て手続きをする必要があるか? ここで書いてしまおう。

 

「こちらで記入します 」

 

用紙と封筒、ペンとインク壺を受け取り小部屋に移動する。明かりを付けて頑丈(がんじょう)な扉を閉める。

 

部屋の中を見回すと防音がしっかりしてそうな頑丈な作りになっている。書くものが書くものだけにプライバシーを保てるようになっていると言うことか。

 

設置されている机の上にセッティングをして椅子に腰掛ける。うっすらと掛け線が印刷された用紙を前にして俺は考えを巡らせる。

 

何を書けばいいんだろうな、、、

 

最初は白紙の紙をそのまま折りたたんで封筒にしまって出すつもりだった。白紙で出したことがわからないように適当に時間を潰すつもりだったが、いざ机に付いてみると嫌でも白い紙面が目に付く。いつの間にか真剣に何を書くか悩んでいる自分がいた。

 

遺書。死んだ後に誰かに何かを伝えるために生前に残すものだ。ギルドに託して、死んだときに中を確認されて誰かに伝えられる。

 

俺は誰に何を伝えるべきなんだろうな、、、

 

この世界で深く関係をもった者はいない。強いて上げるとすればセリアか? なんかピンとこないな。セリア宛てにするとして何を伝えたいのだろう。

 

そもそも俺は死ぬのだろうか? 作成したこの人間の肉体は死ぬのかもしれないが。この世界で人間として死ぬときは俺の正体がバレて関係性が切れるときなのかもしれない。

 

何かを残すべきでは無いか、、、すっぱりと断ち切るべきなんだろうか?

 

そう考えるとこの世界に遺言として残すべき言葉は無いように思える。

 

自然と前の世界のことが頭に浮かんでしまう。そんなことは考えるべきではない。そう思っても勝手に止めどなく考えがあふれてきてしまう。

 

目の前の白い紙がにじんで見えてくる。それはいつしか見た白い空間のようだ。自身の一度目の死が思い起こされて胸が締め付けられるような感覚が走る。呼吸が乱れてじっとりした汗が浮き上がってくる。

 

あの男は言っていた、魂など存在しないと、、、

 

死ねば無に還る。そんな当たり前のことが恐ろしいことのように思えてしまう。意識を失って横たわる俺を囲む父と母と妹の映像が脳裏に現れる。

 

もう二度と会うことはない

 

そう思うと死んだことが惜しくなる。もう二度と会うことが無い。ならばいずれ俺は思い出すことが無くなるのかもしれない。彼らもまた俺を思い出すことが無くなり俺という存在はあの世界から完全に消えるのだろう。

 

それでいいと思う反面、忘れたくない、忘れられたくないと言う思いもどこかにある。俺は後悔しているんだろうか?

 

父さん、、、母さん、、、梓、、、

 

もう会うことの無い家族の記憶が走馬灯のように流れていく。飼っていた猫、次にジャックス部のメンバー達。名前も忘れてしまった過去の友人や知り合い達。これまでに対戦してきた相手。様々な記憶の奔流(ほんりゅう)とともに()る思いが湧き上がってくる。

 

そんなことは思うべきじゃない、、、

 

そう思うがはっきりと自覚してしまう。

 

他の人間なんてほっといて逃げていれば良かった

 

あの男も言っていたじゃないか

 

俺も勝美も死ぬことはなかったって、、、

 

そうすれば俺は、、、

 

後悔するだけで済んだ

 

気がつけば俺はとめどなく涙を流していた。流れ落ちた涙の雫が真っ白な紙に水あとをつけている。それを眺めていると少し冷静になれた。

 

亜空間からタオルを取り出すと涙を拭いてまた亜空間にしまう。赤くなっているだろう目を回復術で治して状態を落ち着かせる。目を閉じて深呼吸して雑念を払う。

 

気分を一新させたところで再び遺書に向き合う。迷いはなくなっていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

受付に遺言状の入った封筒を提出する。適当に時間を潰してから提出するつもりがだいぶ時間がかかってしまった。そのことに何か言われるかとも思ったが淡々とした対応だ。時間がかかる場合も多いのだろう。

 

受け取った封筒に目の前で(ろう)を溶かして封をしてくれる。これをしかるべき場所でしかるべき時が来るまで眠らせておくのだろう。

 

なるほど、、、これが(みそぎ)か、、、

 

これを簡単に終わらせる人間も少なくはないのだろう。俺の場合は簡単にはいかなかったが。(いず)れにしてもそれぞれにそれぞれの思いがあると言うことか。

 

必要なことだな。命をかける仕事なら当然か

 

これを機会にもう一つ決意というか事実確認をしておくか。

 

あちらの世界、地球では俺は死んだことになっている。だが、俺はここで生きている。まだ死んでいない。

 

生きる場所と生き方が変わっただけだ。

 

死んでいないのだから前世というのはおかしい。別の言い方をすることにしよう。

 

遺書の受領が終わると免許の交付とかに移る。

 

「こちらが狩猟免許証です。組合員証と同じになっています。この紋章が組合員であることの証明となります 」

 

狩猟免許証はカード型で魔鉄で出来ている。かなり等級の高い魔鉄だな。これなら自分が死んだあとも残り続けるだろう。偽造もされにくいだろうし。

 

書かれている文字は打刻されたものだな。軍隊とかのIDタグに似ている。狩猟ギルドの紋章が右下に刻印されていてギルドの組合員番号がその横に書かれている。

 

「上級狩猟者は特別な素材でできた免許証になります。くれぐれも紛失(ふんしつ)なきようにお願いします。組合を脱退するときは一度返却していただき通常の免許証に発行し直します。その際は組合員に与えられる権利は消失しますのでご了承(りょうしょう)願います。詳しくはこちらの冊子をご確認ください 」

 

厚みが結構ある小冊子を手渡される。会員規約とかがつらつらと書いてあるんだろうな。あとで亜空間を利用して読もう。

 

「次は討伐報酬の支払いに移りたいのですが、その前に銀行口座の開設はいかがでしょうか。提携(ていけい)する銀行であればどこでも引き出しは可能ですし、今後報酬を受け取る際に口座振り込みですとギルドに(おもむ)くことなく受け取ることが出来て面倒がありません。振り込みまでの期日も現金受取より速くなります 」

 

「口座の管理はこの免許証兼組合員証で行うんですか? 」

 

「はい、そうなります。銀行窓口かギルドの窓口に提示すれば口座に取り次ぐことができます。入金も出金もできますし長く預けておけば預金金利も受け取ることが出来ます 」

 

「金利はどのぐらいですか?」

 

「今は2.6%ですね 」

 

2.6%、、、今はそこそこ景気がいいってぐらいか? 現金で持っているよりもだいぶいいな。

 

「ギルドで住居を斡旋してもらえると聞いたんですが口座からの引き落としは出来ますか? 」

 

狩りで何日も家を空けることがあるだろうから直接払いだと滞納する可能性がある。

 

「はい、可能です。水道料金など各種公共料金の支払いも口座からの引き落としで可能です 」

 

なるほどな。狩猟者のためにいろいろ気を回してくれているんだな。ギルドで銀行業務もある程度代行しているのだろう。住居の斡旋(あっせん)もやっているし、狩猟道具の店とか武器をオーダーで作ってくれるところとかそういう情報も聞けば教えてくれそうだな。ここでいろいろ相談してみるのもいいかもしれない。

 

「では口座を作ります 」

 

(うけたまわ)ります。こちらの書類に記入をお願いします 」

 

記入が終わってしばらく待っていると口座の登録が終了する。

 

「では口座に今回の討伐報酬を振り込ませていただきます。金額の詳細はこちらに記載されています 」

 

金額の詳細には討伐料や追加報奨金、魔石や素材の買い取り料などのこちらの収益の他に、解体手数料などの各種手数料、税金、組合費などこちらが納めるものが並ぶ。最終収益は700万エスクか。

 

やはり討伐依頼は儲かるな

 

贅沢(ぜいたく)さえしなければ1年ぐらいは余裕で暮らせる収入になるか。鉄を買うには十分な蓄えに満足する。

 

だが問題は鉄をどうやって大量に仕入れるかだな。1トンの鉄を持ち運ぶ人間なんて怪しすぎる。100キロでも多いな。こまめに買って運ぶのも怪しい行動に見えるだろうか?

 

危ない気がするな。となると、、、

 

「家を借りたいのですが今日中に借りることは可能ですか? 」

 

「はい。希望の条件を伝えていただければこちらでいくつか物件を選び出してその中から選んでいただければと思います。内見も可能ですがいかがでしょうか 」

 

「ではお願いします。物件の条件はとりあえず工業地帯に近いところで工房が開けそうな作業場のある一軒家、家賃は月15万エスクぐらいで探していただけますか? 」

 

「承知いたしました。少々お待ちください 」

 

条件の工房はすんなり受け入れられたようだ。怪訝(けげん)な様子はなかった。やはり狩人の中には自分で狩猟道具をカスタマイズする人が一定数いるようだ。

 

ジスタさんが使っていた鳴子なんかは独特のものを感じたがお手製のものだったかもしれない。

 

そんなことを考えているとピックアップが終わったようだ。3枚ほど紙が並べられ王都の地図も広げられる。こちらから見て左端の1枚をさして説明を開始する。

 

「こちらは工業地帯から少々遠いのですが王都中心部へ通いやすく利便性が高いです。一階が工房で二階が住居になっています。三軒とも構造は同じですね。工房が少し狭いのと家賃が17万と高めになります 」

 

亜空間があるから工房スペースは狭くても実利面では問題ないのだが家賃と工業地帯への距離が遠いのがネックか。2枚目をさして説明が続く。

 

「こちらですと工業地区から近い位置にあり工房も十分な広さがあります。ただ各種公共交通機関からは遠いので利便性はあまり良くありません。近くに商店もありませんので。その分家賃は控えめで13万となります 」

 

家賃が低いのはいいな。走れば交通機関は要らないし商店とかが周辺になくて人通りが少なそうなのもいい。工房は広い方が怪しまれにくいかな? そこまで気にするほどじゃないか。考えていると3枚目の説明をはじめる。

 

「最後のこちらは工業地区の中にある物件です。広さはそこそこですが工業地区でも住居密集地に隣接しており、地下軌道の駅が近く商店も近くにあります。利便性がいいので家賃がその分高くなりますが月15万で予算内には収まります 」

 

工業地区が近いのはいいが他の住宅が近いと近所づきあいとかが必要になるか。家の工房で何をしているのか気にされるかもしれない。そこら辺は重大なデメリットになりうる。

 

考えた結果二番目に紹介してもらった物件にすることにした。内見をしてからにしようと思ったが手間になるしどのみちこれ以上の物件は出てこないように思える。ほかに不動産屋を当たってもこの条件なら同じ物件が出てきそうな気がする。つてがあるわけじゃないしな。

 

書類に記入して契約を完了すると書類が入った封筒と地図、それに家の鍵をもらう。水道や電気の契約もギルドで行った。あとは家具なんかをそろえれば住むことができそうだ。家具を売っているお店を聞いて戻ることにする。

 

セリアの家に戻りジョエルさんに狩猟免許を取得したことを伝えるとおめでとうございますと感慨深げに言われた。セリアが狩人になったときのことでも思い出したのかもしれない。あるいはこの人も免許を持っているのか…

 

家を借りたこととちかぢかこの家を出て行くことを伝えると少し残念がっていた。セリアが家を空けているので今は張り合いがないのかもしれない。

 

一応、おすすめの家具店でも聞こうかと思ったが高級店を教えられそうなのでやめておいた。

 

この日の夕食はいつもより豪華なものになったが、ジョエルさんとニーナさん、ユミーさんもセリアがいないことを残念がっていた。俺もどこかしら残念な気持ちはある。

 

三人に見守られながら一人で食事を取るのは日本人にはきつい…

 

 

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