機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

61 / 114
第61話 森の住処 x 深層の探索

今回は途中の街を素通りして村の出張所にいくと軽く声を掛けてからすぐに森へと入っていく。

 

今回目指すのは深層でも浅い部分に当たる。経験上、魔物にすぐに襲われることはないと思い、できるだけ速く移動を心がける。

 

なるべく深層に近い場所で今日は泊まることにして、翌日に深層へ入ってしっかりしたベースキャンプの構築を開始する予定だ。

 

おそらく深層の魔物を探し出すのは中層より時間がかかると思う。探し出すのに一月、仕留めるのに一週間程度と見積(みつ)もっている。

 

ジスタが作っていたような安全で快適な生活空間を作り出し狩猟ライフを充実させていくという試みを行っていこうと思う。

 

予定通り深層手前で一度キャンプを張り一晩明かす。翌日は夜明け前に起き出してささっと朝食を済ませてテントをたたむ。

 

夜が明けないうちにめぼしい場所を見つけてベースキャンプの構築に取りかかりたい。いそいで移動していると奥に進むにつれ肌に感じる圧のようなものが高まっていく。気がつくと深層に入ったと実感するようになる。

 

中層と深層の間で明確な境界は存在しない。植生が変わるとか土の色が変化するとか具体的な変化は見られないのだが確かに何かが変化していると本能的にわかると言った具合だ。

 

魔力視で確認してみると確かに植物や土に含まれる魔力は多くなっている。よくよく見ると木々も大きく太くなっているようだ。だがそれだけでは説明がつかない何かを感じる。

 

表層、中層、深層で分けていると聞いているが深層に入るまでそのことをいまいち理解できていなかった。境界を越えてみればわかるというのはこのことか。表層と中層の間では俺は違いがわからなかったが初級狩猟者とかだったらわかるのだろう。

 

圧に抵抗するように突き進んでいくと川を発見する。王都の東側を流れているシルムス川に流れ込む支流の一つだろう。

 

水場が見つかったのでこの周辺でキャンプ場所を探す。幹が直径2メートルはあろうかという背が高く枝の太い木を見つけるとここに決める。

 

前々からツリーハウスを作ってみたいと思っていた。この太い枝の上に家を作っていこう。

 

もうすっかり日は昇ってしまっている。とにかく行動していくしかない。

 

周辺の木から適度な太さの枝を切っていき大量に集めてくる。それを長さをそろえて切断する。

 

あまりの部分を縦に裂いて紐を何本も作り、その紐を使って切りそろえた木材を組んでいく。箱形に組み上がると出入り口の部分を切り取って縁を補強する。上面にロープを通すための輪っかを紐を使っていくつも設置していく。

 

さて、これをどうやって上まであげるか、、、

 

少し考えて水魔術を使うことにした。まず上の枝に何本もロープを通して垂らしておく。水魔術で水の触手を作り出して木組みの箱を持ち上げて吊り下げておく。そうしながらロープを結んで吊り上げる。

 

箱の下面に紐で輪っかを作りロープを通して下の太い枝に結びつけ、ぶらついている箱を固定する。

 

その下面を固定しているロープを基軸にして枝の上に木材を固定していき足場を作る。

 

何とか形にはなったな

 

もう日はだいぶ傾いている。今日はこれを利用するとして明日以降改善を続けていこう。

 

中に入ると思ったより狭いと感じてしまう。ほぼ正方形で1.5メートル×1.5メートルていどの広さだ。寝るときは対角線上に寝ることになる。

 

もっと広く作るべきだったか。それはそれで木材の確保が大変か。とりあえずはこれでいこう。

 

床はちょっとしなるぐらいだ。寝る分にはいいけど作業はしづらいな。しっかりした床を作るべきか。今後の課題だな。

 

外はまだ少し明るいぐらいだが家の中はかなり暗い。ガスランタンを使い明るくして料理を始める。

 

鶏肉や野菜を切って水を張った鍋に入れて加熱する。加熱しながら使い終わった調理器具を水魔術で洗い排水を亜空間に回収する。

 

煮立ってきたら市販のカレールウのような茶色い固形物を投入してかき混ぜる。焦げ付かないように時折かき混ぜてカレーっぽい料理の完成だ。こちらの名前はあるけどもうカレーでいいだろう。

 

食器によそおい、亜空間からパンを取り出して夕食を開始する。

 

いわゆる家庭的なカレーとだいぶ異なった様子でスープはさらさらしている。口に運んで舌の上で転がしてから飲みこむとうま味と塩味を感じた後に、コクとスパイスの風味を感じた。

 

前に食べたものとも若干異なるな…

 

地球にもいろんなカレーがあるからこれもカレーと呼んでいいだろう。再度自分自身に確認をする。

 

食べ終わったら食器を水魔術で洗浄する。カレーの残りを鍋ごと亜空間にしまい、携帯ガスコンロを片付けると野菜くずなどの残渣(ざんさ)の処分を考える。

 

亜空間を使って素材に分解してしまうのが一番速くて楽ではあるが他の狩人と同じように行動するべきとも考えている。

 

本当なら食材の保管も亜空間を使用するべきではないのだがそればかりは無理か。絶対に食材を無駄にしてしまうな。干し肉だけとか耐えられないし。

 

今日の所はいいとしてゴミ捨て場とかを作っておく必要があるな。狩りの合間にでもやっておくか。土魔術ですぐに出来るしな。

 

翌日はまた家づくりに精を出していく。

 

雨が降ったときに(そな)えて屋根を新たに作ろうと思う。上に木の枝や木の葉が重なっているからそこまで雨粒がかかることはないかもしれないが風が吹いて斜めから入ってくるかもしれない。

 

できるだけ長い枝を切り取って集めて、箱の上に漢字の八の字を書くように交差させて組んでいく。可能な限り(のき)を長くして作っていく。

 

途中で張ってあるロープが邪魔になったので張り直して屋根の頂点、骨材が交差する部分を通るようにする。

 

骨材を張り終わると太めの枝を薄く切って長い帯状に加工する。それを骨材の上に()いていく。

 

最初は刀を使ったがやりにくかったのでナイフを作り削っていった。だが、5分もするとこのスピードでは日が暮れると思い、大きな(かんな)のような加工機を作り出して作業するようになった。

 

1時間もするとだいぶたまってきたので屋根葺きを開始していく。

 

最初は数枚を紐で縛り付けていったが時間がかかりすぎるので方法を変えることにした。考えた末に、枝を加工した棒を使い、葺いて行った帯をまとめて上から押さえつけることにした。

 

この部分に水が溜まりそうだがしかたがない。問題が出たら改善することにしよう。

 

骨材の上にとにかく加工した帯を並べていって、その上に直行するように棒を置いて両端を紐で縛る。何カ所か同じようにとめて風でめくれないようにして屋根が完成した。

 

その後、余った材料でドアを作ったり、足場を補強したりして1日が過ぎていった。

 

拠点がそれなりに形になり、次の日からようやく魔境の探索が始まる。

 

ベースキャンプの周辺から徐々に範囲を広げていくがなかなか痕跡(こんせき)が見つからない。1週間ぐらい空振りに終わるがそのぐらいで様子がおかしい事に気づく。

 

おかしいぐらいに静かなんだよな…

 

意図的に活動をしていないようなそんな雰囲気を感じる。そうかと思うと小動物系の魔物は表層や中層よりも見かける気がする。俺の気のせいだろうか?

 

さらに1週間ほど探索をするが全く成果は上げられていない。一月ほどは覚悟をしていたがここまで見つからないとは思わなかった。

 

深層はどんな魔物がいるかギルドには情報がなく完全に手探りな状態だ。地図に調べた地形を書き込んではいるが魔物がいそうな場所に当たりを付けることも出来ないでいる。

 

とりあえず水場になりそうな場所を定期的に張ってみるか…

 

いたずらに探索範囲を広げずに待つ方向に(かじ)を切ってしばらく様子を見ることにする。

 

川沿いに探索して河原(かわら)があるところに当たりを付けて時間を変えて見に来ることに決める。ベースキャンプからそう離れていないところであったのでキャンプの開発を同時に進めていく。

 

早朝や深夜などに見回ったりもするが更に二週間経っても魔物の影を見つけることは出来なかった。その間にツリーハウスが新たに二棟(にとう)完成してしまった。

 

ひとつは長方形に設計してベッドを作成して置いている。寝る場所として建築した。

 

もう一つにはトイレを設置した。部屋の真ん中に穴を開けてその上に便座を作成して設置してみた。ここで用を足すと下に落ちて地面の土魔術で開けた穴に入るという仕組みだ。

 

定期的に土を混ぜ込んでやればやがて自然に(かえ)るだろう。食材くずなんかもこの穴に捨てる。

 

最初に作った一棟(いっとう)はダイニングキッチンにした。調理台とテーブルに椅子を設置してそれらしくする。ランタンを吊り下げるフックを部屋の中心、天井に取り付けたりもした。

 

狩りは進展しないが狩猟ライフは着々と充実してきている。正直、家づくりの方が楽しくなってきている。

 

釣れない釣りは釣りじゃねぇ。狩れない狩りは狩りじゃねぇ。そんな感じか、、、

 

あまりにも狩りが進まないため途中で町に戻って食材やロープなどの資材を買い足したりもした。町から帰還したところで深層のさらに奥を目指してみることにした。

 

日帰りのつもりで装備を最低限に抑えておく。

 

水槽を背負うと、その左側にガススプレッダーを取り付ける。ゼンマイ巻き取り式のワイヤーをカラビナで取り付け磁石で固定されるようにしている。

 

ほかに装備するのは武器ぐらいで戦闘を想定した格好だ。探索済みの区域は注意をしつつも足早に通り過ぎていく。特に気配も感じないし何事もなく移動することが出来た。

 

未知の領域に入る前に手前から様子を見てみるが特に変わった様子はない。相変わらず魔物の気配は薄い。警戒しつつも足取りは雑になってしまう。

 

地図に書き込みつつどんどん進んでいく。時折、道を逸れるようにして周辺の探索もしながら情報を集めていく。

 

日が暮れる前に帰れるように引き返して一日を過ごす。そんな風に何日か掛け、それなりに奥まで進んできたと思えたのだが魔境は広い。北側に山があるはずだが地上からは全く見えない。

 

木の上に登ってみても枝の上からじゃ他の木に邪魔されて見えない。枝から垂直に飛び上がり樹上にでてようやく山脈を確認出来たのだが遙《はる》か遠くに見える。

 

まだまだ遠いようだ。最奥まではあと三分の二ほど残っているのではないだろうか。奥までいくつもりは今のところ無いが…

 

そろそろなにか発見できてもいいと思うのだがそう簡単にはいかないか… どうなっているんだろうな、この森は…

 

少しいらだちながらそんなことを考えていたときだった。(かす)かに気配のようなものを感じる。そこまで気配を消そうとしていない感じが気に掛かる。

 

普通ならもっと隠そうとするはずだ。隠すだけの余裕がないのか? あるいは隠す必要が無いのか?

 

気配の方向に慎重に近づいていく。近づくにつれ気配が濃厚になっていく。獣臭(けものくさ)いにおいが鼻についてくる。どうやら後者の方だったようだ。相当に強い圧を感じる。

 

いきなり難易度が上がりすぎな感じがある。こんな所にいていい相手ではないような気がしている。

 

あんまり勝てる気がしないな、、、

 

だがとりあえずどんな魔物か確認しておこう。更に気を引き締めて接近していく。

 

50メートルぐらいの距離まで近づいただろうか。木々の間から相手の姿を確認することが出来た。

 

、、、熊かよ

 

そこには真っ黒な熊がお尻を地面に付けて座っていた。どうやら休憩しているようだ。木の実かなんかを噛み砕いて食べている。あまり熊にはいい思い出がない。ほっといて置きたい。

 

しかし、周辺に獲物が姿を現さないのはこいつの存在が関わっているようにも思う。現状手がかりがこいつしかない。状況を把握(はあく)するためにもこの熊の生態をある程度は知っておきたい。

 

やるしかないか、、、

 

俺は覚悟を決めるとこいつの観察を開始した。

 

十分な距離を取りつつその行動を追っていく。周辺に敵がいないせいか痕跡(こんせき)はけっこう残しながら行動している。そのお陰で見つけるのは容易(たやす)い。

 

ベースキャンプを行き来しながら観察を続けていくとそれなりに情報は集まる。

 

この熊の外見的な特徴まずは全身が黒く体の至る所が蛇腹状の甲殻のようなもので覆われていることが上げられる。あのコウモリの魔物を彷彿とさせる特徴だ。

 

そして次に前足?いや、両腕が異様に長いと言うことが上げられる。熊というよりかゴリラみたいな体のバランスをしている。歩き方もどことなくゴリラだ。

 

ギルドの資料にはなかったので名前はわからないが名付けるとしたら鎧ゴリラグマと言ったところか。体長は4メートルぐらいあるかもしれない。かなりデカい。

 

食性は凶暴な見た目に反して木の実とかキノコとか山菜とかをメインに食べている。たまに蜂の巣を襲って蜂蜜を食べるなどしている。意外とウサギや鹿などを襲って食べることはあまりしないようだ。

 

もっとも1週間も観察していないのでわからない部分も多いが…

 

これだけの情報だったら魔物が見つからない今の状況の原因としてこの熊は除外できそうだがよくわからんね。ベッドの上で地図を眺めながら考える。

 

他の魔物と戦闘でもしてくれれば使う魔術とかその能力、周辺への影響力とかわかりそうな気がするが他に魔物がいないんじゃしょうがない。

 

とりわけ今問題なのは熊の進路だ。蛇行を繰り返していて何処に向かっているのか最初はわからなかったが、地図に順を追って書き起こしてみるとはっきりしてくる。

 

ゆっくりとだが確実に中層に向かっている。途中でこのベースキャンプにぶち当たる確率はかなり高いんじゃなかろうか。

 

やるしかないか…

 

正直気は進まないがそうも言ってられない。ベースキャンプは亜空間に仕舞えば何とか回避できるが中層に接近していけば中層の魔物が表層に移動するかもしれない。

 

そうなれば表層で狩りをする初級狩人達が危険だ。異変の兆候(ちょうこう)を感じる、あるいは俺が知らせに行き事前に避難できたとしてもこの魔境での狩りは数ヶ月は出来なくなるかもしれない。

 

一応先にレアンドル支部長殿に知らせておくか。そう決めると俺は町に向けて出発した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。