機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第63話 木々を跳ねるもの Ⅹ 決着

腕は衝撃によって二本とも折れている。内臓にも響いているが破裂とかはしていないようだ。これなら回復にそう時間はかからない。

 

衝突の直前に空気魔術でエアバッグを作り出しおいて正解だった。それがなければこの程度じゃ済まなかっただろう。ヤツにとっても意外な結果かも知れない。攻撃を当てた瞬間は仕留めたと思っていたんじゃないだろうか。

 

回復しながら森の中を移動していく。俺を逃がす気は無いだろうからついてくるだろう。この次に備えて良い位置で戦えるようにしたい。

 

後ろから気配がついてくるから大丈夫か。ヤツは思いのほかしぶといこちらを警戒しているのかもしれない。ある程度距離を取っている。

 

ここらでいいか…

 

回復も終わっているしそろそろ始めるとしよう。俺は少し開けた場所で待ち構えることにした。

 

少し待っていると正面から悠然(ゆうぜん)と巨体を()らして歩いてくる。何かの作戦か、それともこちらを十分に倒せる相手と思い直したのか…

 

少しにらみ合っていると向こうから仕掛けてきた。

 

再び木々の間を飛び回り加速していく。前回と代わり映えしない攻撃だ。どうやら後者だったらしい。

 

果たして同じようにいくかな?

 

俺は相手が仕掛けてくるタイミングで魔術式を展開する。

 

錬土(れんど)術式、土甲(どこう)柔鎧(じゅうがい)

 

俺の周囲の土が盛り上がり手や足に巻き付いて形を作り出していく。大きな土製の手甲と脚甲を作り出してかまえる。

 

高速で飛来してくる熊の方向にあわせて立つと腰を落として両手を盾のように突き出して体勢を整え真正面からぶち当たる。

 

衝突する瞬間に後ろに()()りながら腕を前に突き出し熊の軌道を押し上げる。手甲にした土のかなりの部分は衝撃で飛び散るがその分威力を殺すことが出来る。

 

威力を受け流してダメージを減らしつつ相手の飛行軌道をずらす。リズムを崩されたことが影響したのかヤツは数回、木々の間を勢いを殺しながら跳ねて動きを止めるとこちらを確認するかのように振り返る。枝に掴まりながらじっとこちらを見ている。

 

あれっ? ていう顔をしているな。思いのほか表情が豊かだ

 

5,6秒ぐらい考えるような間を開けたのち、再び木々の間を飛び回り加速しだした。

 

同じ攻撃を繰り返してくるのか何か変化を加えてくるのか、、、

 

加速が十分につくと熊はこちらへの最後の跳躍(ちょうやく)の前に手を広げ体をひねってから幹に着地すると足場になった木は大きくしなる。

 

勢いよく弾かれて弾丸のように飛ぶと同時に熊は腕を広げてレシプロ戦闘機のプロペラのように回転しながら推進してきた。途中で爪を前に突き出してドリルのようになると回転数がグンと跳ね上がる。

 

貫通力を上げてきたか…

 

込められている魔力も相当なものだ。最強クラスの攻撃だろう。

 

俺は術式に変更を加えて表面の水分量を上げて泥のように変化させた。

 

接触の瞬間に先端の爪を避けてドリルに面で接触するように上体を反らしていく。その際に両足を地面に埋めて体勢を低くする。

 

泥で回転を滑らせながら軌道を上に押し上げていく。高速で回転する体が通り過ぎる瞬間、ヤツの足に思いきり横から叩きつけるようにラリアットをかます。

 

回転軸をずらされた相手は高速回転しながらヘンテコな軌道を(えが)いて木にぶつかっていくと何本もの木をへし折りながら時折地面をえぐるようにバウンドしあちこちに飛んでいった。

 

最終的に長い両手を地面に突き立てるようにして止まると頭にきたのか鋭い咆哮を上げてこちらにバタバタと迫ってくる。

 

身体的なダメージは少なそうだな。魔力はそれなりに消費していると思うがまだまだ元気な様子…

 

…長くなりそうだな。気を引き締めていこうか

 

その場に陣取って動かない俺の前まで走り寄ってくると至近距離からの打ち合いが始まる。打ち合いといってもリーチは向こうが(はる)かに長い。一方的に攻撃をされる。

 

突きやひっかき、手刀など多彩な攻撃が様々な方向から繰り出される。それを土の装甲で受け止め、いなしたりする。

 

体重も腕力も圧倒的に熊の方が上であるがこちらは地中に深く魔力線を張り(めぐ)らせ柔軟性と総合質量でもって受け止めていく。

 

土の手甲で相手の振り降ろしを受け止めると衝撃を足から地面、地面から魔力線を通して土に流して拡散させる。

 

そっちが樹木を(あやつ)るならこちらは大地そのものになってそれに対抗する。そんな対比が頭に浮かぶ。

 

魔力量もスタミナも相手が勝っているだろうがこちらは魔術回路のバリエーションと緻密(ちみつ)さで(まさ)っている。効率はこちらの方が上だ。十分に(くつがえ)せる。

 

ひたすら相手の攻撃を(さば)いていると対応が慣れてくる。そろそろこちらも攻撃を開始するか。

 

雷電(らいでん)術式、纏雷(てんらい)

 

土製の手甲に電撃を(まと)わせて攻撃を受け止める。それと同時に腕から(しび)れるような感触が駆け上がってきたのだろう。熊は弾かれたように腕を引き戻す。

 

不意の電流に一瞬動きが止まった熊だが込める魔力を引き上げて再び攻撃を開始してくる。

 

まだ上がるのか、、、ならばこちらも

 

相手が魔力を上げたせいで電流は流しにくくなるが、それに合わせてこちらも魔術の出力を上げて対抗していく。雷魔術は燃費はいい方ではないが痺れが魔力を乱して繰り返すほどに効果が上がっていく。

 

先に折れたのは熊の方だった。耐えかねて距離を取ると咆吼(ほうこう)波を放ってくる。それをガードするとガードを下げた先で更に距離を取った相手が見える。

 

これ以上は無駄と考えてスイッチを切り替えてきた感じか、、、なかなか冷静だな。

 

どんな攻撃が来るのか…

 

腕の痺れが取れたのか攻撃を開始してくるようだ。

 

樹木に手を添えると木の根が勝手に動き出して動物のように地面から抜け出す。途中で力任せに木を引き抜いて頭上に持ち上げると振りかぶってこちらにぶん投げてきた。

 

飛んでくる木を手刀で真っ二つにへし折ると左右に分かれて後ろに飛んでいく。次々飛んでくる木を殴ってそらしたり受け止めたりしていくと周りに木が積み上がっていく。

 

木がまるごと飛んでくるのは迫力があるが相手の魔力は乗っていないのでそこまでの脅威じゃない。

 

何が狙いだ?

 

これを次の攻撃への布石だと考える。

 

…となると周りに積み上がった樹木を利用して押し潰しに掛かる気か? 大量に木があればそれだけ高威力の樹木魔術になるだろう。

 

食らうのはマズい…

 

ここから抜け出さなければならない。地面とのリンクを切断すると積み上がる木の上に足を掛けて飛び上がった。

 

そのタイミングを見計らったかのようにヤツの投げた木が飛んでくる。咄嗟に、上に跳びあがり飛んで来た木に手をついて体の下を(くぐ)らせて避けた。

 

しまった、、、

 

相手はそれを狙っていた。

 

いつの間にか接近されている。木を投げると同時に前に出ていたらしい。

 

空中にいて避けられない俺に魔力を存分に(ふく)んだ樹木による()ぎ払いが襲いかかってきている。熊が野球のスイングのように抱えた木を振り抜く。

 

ぐぅっ、、

 

咄嗟に右腕でガードしたがそれを(つらぬ)いてガードごと側面を打ち抜かれる。

 

俺はボールのように飛ばされて宙を舞うと木や地面の間をバウンドしながら転げ回ることになった。

 

回転が止まるとすぐに起き上がって体の状態を確認する。

 

土甲柔鎧は解けていた。一瞬、意識を持っていかれたから当然か…

 

腕の骨やあばらにヒビが入っているな。ズキズキと痛みが襲ってくる。

 

普通なら悶絶(もんぜつ)して動けないと思うのだがこの体は丈夫だね。ガードが間に合ったおかげでこの程度で済ませることが出来たのもあるか…

 

回復させると案外すぐに直った。

 

追撃がすぐにやってこなかったところを見るに、それなりに手ごたえがあった攻撃なのかもしれない。こちらのしぶとさに驚いてくれているといいんだが…

 

さておき、もう攻撃のネタは尽きたかな?

 

そろそろ仕留めにかかりたいところだ。

 

こちらに巨体を揺らしながらゴリラのように走ってくる熊を俺は算段を立てながら見つめる。

 

息はだいぶ上がっている感じはするな。こちらも同様ではあるけど

 

もう一息か…

 

俺は仕掛けていく決心をするとこちらに迫りくるゴリラ、いや、熊に向かって魔術を放っていく。

 

操土(そうど)術式、縮土(しゅくど)陥凹(かんおう)

 

ヤツの足下の土が円形にくぼんで落とし穴が出来る。しかし、そのときにはすでに熊は別の場所に跳んでいる。

 

発動する前に避けられている…

 

土術は既に見せていた。中級上位の魔物でも魔力を感じて避けるぐらいは普通にやってくる。土魔術が使えるなら発動前にキャンセルして無効化できたりもする。

 

それより格上のこいつなら当然…

 

だが、かまわず同じ魔術を繰り返していく。すべて発動前に躱されるがそれでいい。狙いは相手の動きをコントロールすることだ。

 

タイミングと距離を測りつつ刀を抜いて構える。自分の狙い通りの場所に着地して攻撃を仕掛けてくる熊に向けて魔力を乗せた斬撃を放つ。

 

振り下ろされる腕をかいくぐって装甲のない肩関節に食い込んだ刃は筋肉や腱まで切り裂いて通り抜けると血液が吹き出した。

 

それなりの手ごたえを感じたが相手はわずかに後退(あとずさ)るもすぐに傷を(ふさ)いで再生させていく。回復させながら鋭い爪を袈裟懸(けさが)けに振り下ろしてきた。

 

それを正面から刀で受け止めると魔術なしの接近戦が始まっていく。

 

俺は必死に攻撃をいなしつつ装甲のない箇所を狙って切りつける。浅く切りつけるだけに留まるがそれでも確実に出血をさせ体力を奪っていく。

 

本来なら魔術なしにまともに斬り合える相手ではないが、質の高い魔鉄製の武器なら同程度以上に魔力圧を高められる。あらかじめ弱らせておけば筋力と体重の差は技術で(おぎな)える。

 

徐々に俺の方が優勢になってきていた。

 

そろそろ一つ手札を切るか…

 

俺は攻撃を(さば)きながら魔術式を展開していく。

 

―電熱術式、

 

攻撃を弾いて相手がのけぞった瞬間、発動させる。

 

電華(でんか)熱閃(ねっせん)

 

電子の撹乱(かくらん)により赤熱した“雷豪丸”が熊の頸動脈(けいどうみゃく)を掠めて過ぎると血が吹き上がる。返す刀で鼠径部(そけいぶ)を切りつけ追加で出血させる。

 

魔力防御の上からでも切り裂くことが出来る魔術だ。魔力消費はそれなりに大きいが成果は十分。出血は案外すぐに止まるがトータルでそれなりの量になっただろう。

 

刀を仕舞うと距離を取って熊が回復するまで待つことにする。俺はかなり疲れているがむこうはどうなんだろうな? 表情を見てもいまいちわからない。息は荒くなっているが最初から興奮で荒かったようにも思えてくる。

 

考えると不安がよぎるが作戦を実行していくしかない。

 

熊は回復が終わると追撃を仕掛けてこないこちらを不思議そうに見ている。かなり警戒しているようで伝わる魔力からは緊張が感じ取れる。疑問よりは警戒の方が強いな。

 

そんな相手に向けて俺は仰向けに地面に倒れる。それを見るなり熊の警戒は一段と強まる。

 

あからさまに隙をさらしている俺を警戒するのは当然…

 

だが…

 

攻めてこないのは困る…

 

俺は挑発的な魔力を飛ばす。さらに、効果があるかわからないが手招きをしてかかってこいのジェスチャー。

 

どうだ?

 

ヤツはそれを見て激高したのか両腕で地面を叩いて咆哮を上げるとこちらに走り寄ってくる。

 

効果ありか…

 

間合いに入ってくると思いきり魔力を込めた振り降ろしを叩きつけてきた。轟音とともに地面が爆発するが俺は土魔術を駆使して仰向けの姿勢のまま熊の真下に滑り込んでいる。

 

両足の裏を装甲で覆われた下腹部に押し当てると弾かれたように押し出しながら魔術を起動する。

 

―気爆術式、膨爆(ぼうばく)退撃(たいげき)

 

耳をつんざくような爆音が森に響き渡る。極限まで圧縮された混合可燃ガスが方向性を持って引火していき熊の体を小石のように空中に吹き飛ばしていく。

 

寝ている間にガススプレッダーから大量にメタンを噴射していた。それを足下にまとめて展開していた。

 

すぐに起き上がると熊を飛ばした方向に全力で走り出して最終決戦場に向かう。

 

森の途切れる場所に出てヤツの姿を確認する。

 

おお、いたいた

 

狙い通りに川の中程に落ちている。相手が川から上がってこないうちにこちらも川に飛び込んでいき相対(あいたい)する。

 

もう少し川上寄りの方が理想的だったがそこまでは贅沢(ぜいたく)

 

相手は腕を広げて威嚇(いかく)の咆哮を上げると爪を突き立てようと腕を振り回してくる。最初よりだいぶ精彩(せいさい)に欠ける動きだが直撃すれば十分に脅威になる。

 

手甲で受け止めたりいなしたりしながら時間を稼いでいく。交わせそうな攻撃はぎりぎりで()けるが時折爪が(かす)めて血が流れる。

 

血が流れるに任せて回復せずにとにかく攻撃を躱すことに集中する。

 

攻防の合間に間を読み合う瞬間がある。そこで見つめ合っているとある種の信頼に似た感情がわき上がるような気がするが気のせいだろうか?

 

そんな時間ももうすぐ終わりを告げる。

 

魔力の注入は完了した。

 

魔術の構築は完成した。

 

俺はエンターキーを押すように魔術式を起動させる。

 

熊の後ろの水が音もなくせり上がっていく。巨体を誇る熊の数倍にもなる巨大な水柱(みずばしら)が誕生する。

 

異変を感じて後ろを振り返るがもう遅い。水柱は倒れ込むように熊を飲み込むとその中に閉じ込める。

 

―大規模操水術式、水獄楼(すいごくろう)

 

水の中から解放されようと魔力を込めて暴れるが動きに合わせて水を動かし力を吸収する。足まで水に浮かんだ状態ではそもそも力を有効に使えまい。

 

こうやって閉じ込めるために今の今まで水魔術は使わないでおいた。俺が水魔術を使えるって今初めて知っただろ? 残念だがもう遅い。

 

このまま窒息させてやろうかとも思うが多分無理だ。短く見積もってもあと十分ぐらいはかかるだろう。

 

大量の物質に魔力を通せば出力を上げることが出来るがその分消費量が多くなる。そう長くは持たない。

 

圧殺することも考えたがこの強さの相手にそこまでの圧力を出すにはさらに大量の水が必要になるだろう。そこまでの出力はだせない。

 

必然的に留目(とどめ)は別の方法になる。

 

なるべく傷まない方法でなければこれまで苦労した甲斐がない。あの技を使うか。

 

俺は右手に魔力を込めていく。目を閉じ、深呼吸をして力を抜いていく。純粋な魔力だけが集まるように今起動している術式と()り分けて高めていく。

 

十分に溜まったとき目を見開いて熊を正視する。

 

ヤツは魔術が解けるのを待つことにしたのか今はおとなしくしているが俺の行動を見て警戒を強めたようだ。緊張が伝わってくる。

 

その腹部をめがけて拳を突き出す。

 

込められた魔力量に危機を感じたのか腹部に魔力を集中させてガードしてくる。

 

拳が水の壁をへこませて熊に届く寸前にピタリと止まる。

 

熊が(きょ)()かれて力が抜けた瞬間に魔力を注ぎ込む。水の膜や装甲をすり抜けて全身に魔力が行き渡っていく。

 

―ガウ流闘気術

 

魔力に攻撃の意思を伝えた瞬間、熊の内部を破壊の奔流(ほんりゅう)が駆け巡《めぐ》る。

 

攻撃と同時に術式は解けて力をなくした熊と一緒に水柱は崩れ落ちて川の流れに溶け込んでいく。

 

川の中に力なく仰向けに倒れている熊を残してあたりは静寂に包まれる。

 

聞こえるのはさらさらと川の流れる音だけだった。

 

戦闘が終わるとどっと疲れが襲いかかってくる。深く息をつくと全身のあちこちに付けられた切り傷が今更のようにじくじくと熱を持った。

 

なんとか勝てたか…

 

 

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