機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第65話 魔境最深部 x 巨鳥の巣

再び刀を亜空間に仕舞うとベースキャンプに戻ることにする。

 

人間の肉体に戻ろうかとコンディションを調べるがだいぶ不安になる状態だったのでこのまま魔我土鬼の状態で移動することにした。

 

幸いにしてベースキャンプまでの道のりで他の魔物に出会うことはなかった。キャンプ周辺も魔物の気配は相変わらずしない。

 

探していたときはあれほど魔物と出会わないことに不満があったが今はそれがありがたい。

 

人間の肉体に戻ると疲労感が一気にズシッとのしかかってくる。戦闘体は疲労も苦痛も一切感じないので余計に重く感じた。

 

寝室に行きベッドに横になる。

 

腹が減ったな…

 

すぐにでも寝ようかと思ったが空腹に気がついてしまうと気になって寝られなくなった。

 

かと言って今から調理を行う気にもなれない。

 

しかたないので亜空間の中でパンやハム、チーズ、レタス、トマトを薄切りにしてサンドウィッチを作って食べる。

 

完成まで一瞬で出来てしまう。便利ではあるがこれに慣れてしまうと人間がダメになってしまいそうだな。今回ばかりは例外としよう。

 

空腹がある程度満たされてから横になると、うつらうつら意識が睡眠状態にシフトしていく。眠気に任せて肉体の意識を手放した。

 

まあ、コアは起きているんだけど…

 

魔境の中では意識を切らずに常に警戒に当たっている。寝込みを襲われたことはないがやはり油断は出来ない。

 

だが暇になってしまうのも問題だ。肉体と一緒にしっかり意識を切った方がいいような気もしている。

 

やはりキャンプの周りに警戒網を設置した方がいいかもしれない。今後の課題を検討しつつも暇なので鎧ゴリラグマの状態を確認しよう。

 

まず外観を確認して…えぇっ、なんだと…

 

一番重要そうな大きい外殻に思いきり傷がついている。あの鳥の爪が突き刺さったのだろう、思いきり裂けて穴が空いている部分がある。

 

あのクソ鳥っ、やってくれたなっっ!

 

せっかく綺麗な状態で狩れるように散々(さんざん)調整に調整を重ねてやっとの思いで狩れたのに台無しだ。

 

…はぁ、…まあ、しかたないだろう…やるか

 

亜空間内での修復を試みることにする。本来ならやるべきではないんだろうがこのままではどうしても自分の気が収まらない。

 

修復をしつつ魔石の解析を行ってみる。

 

最大魔力量 73416

 

やはり多いな。自分との大きな差を感じる。これをコアブーストなしで狩れた要因はやはり上質な装備と緻密に組み上げられた魔術、そしてその多彩さにあるだろう。

 

作戦がうまくハマったのもあるか…

 

こいつの使う魔術がもっと違うものだったらどうなっていたかわからないな。予想通りフィジカルを生かした戦闘スタイルだったから、ある意味見た目通りといった感じの魔物だった。

 

自分の魔力を比較に計算してみる。

 

魔石 最大魔力量 32832

コア 最大魔力量 62497

 

急激に成長しているな。成長の要因は相変わらずはっきりしないが、もう伸びる分には構わんだろう。

 

魔術の分析に入るとやはり樹木に干渉する魔術らしい。セルロースなどの木の構造物や維管束の中の水分といったいろいろなものに同時に作用していく複合魔術に分類されるものだろう。

 

解析は難しい部類だがもともと木に魔力を通すことは出来ている。水魔術も使えるのでうまく構築していけばなんとか使えるレベルにはなるだろう。

 

いろいろ考え込んでいるといつの間にか夜が明けていた。熊の体の修復も終わっていたので起きようかと思ったが自然に起きるのを待つことにした。

 

結局昼前まで寝ることになった。回復力は高くても睡眠はやはり重要らしい。

 

昼食には少々早いが朝昼兼用の食事を済ませると地面に大きな布を()き、その上に亜空間から熊を取り出す。

 

こうしてまじまじ見ると相当にデカいな…

 

重さは700~800キロぐらいはありそうだ。このままでは布に収まりそうにないのでロープで手や足を縛っていきコンパクトになるように体勢を取らせていく。

 

最終的に体育座りのような形にしてまとめると布で巻いていき亜空間に入れる。

 

例のごとく運搬道の手前まで来ると亜空間から取り出して背中に背負う。あまりバランスがいいとは言えないが大きすぎて手持ちの道具は役に立ちそうにない。

 

組み立て式の大型の背負子(しょいこ)でも作るか。魔鉄で作れば強度は十分だろう。

 

これからのことを考えながら運んでいると村に到着する。解体場に入り床に降ろすと梱包(こんぽう)をほどいていった。

 

職員も手伝ってくれるが熊の姿が現れてくると驚いたのか手が止まってしまう。

 

まあ、無理もない

 

上級中位ぐらいはあるだろう。滅多にお目にかかれない極上の品というやつだろうか? 出張所(ここ)でなくてもあまり見ることはないだろう。

 

床に広げるとこの解体場では手狭(てぜま)に感じてしまうな。決して狭い場所ではないんだけど。

 

さっさと戻ってあのクソ鳥に一泡(ひとあわ)吹かせてやろうと思ったがこうしてみると詳細に見てみたくなる。直接見るのは亜空間で把握するのとはまた違ったものがある。

 

ふむふむ…

 

手のひらに当たる部分にはパンダの手みたいに丸い(こぶ)のようなな大きな突起が付いている。これで木の枝を掴んだりすることが出来るのだろう。

 

パンダの手を直接見たことはないがな…

 

装甲はあのコウモリよりも堅くてしなやかだ。表面もつるつるしている。魔力の含有量も高い。これはいい防具の素材になるだろう。

 

毛は鋭そうなイメージがあったが思いのほかもふもふしている。繊細な手触りがあるが、それでいて引っ張ってみると恐ろしく丈夫だ。

 

見れば見るほど高値が付く予感がする。ほくほくしているといつの間にやら人が集まってきている。

 

いや、まあ気づいてはいたけどね

 

みなこの鎧ゴリラグマに興味津々といった感じだ。ギルド職員より狩人の方が多いか。そういえば避難させる話だったか?

 

周囲の人々を見回していると大きな魔力がこちらに走ってくるのを感じる。

 

この感じはレドだな…

 

出入り口の方を見ているとやがてレド支部長が勢いよく現れる。

 

「レイン! どうなっ… 」

 

俺を見るなり声を掛けようとするが熊が目に入ったのかそちらに視線がいって言葉が継げなくなる。

 

「こいつが例の魔物か… 」

 

しばらく()めつ(すが)めつ周りを移動していると再びこちらに声がかかる。

 

「ずいぶんと早く片づいたな。二日で倒してくるとは思わなかったぜ 」

 

「こいつの方から野営地に襲いかかってきたからな… 」

 

「なにっ!無事かっ… て無事だよな 」

 

落ち着いて来たようでレドは熊を少し観察すると親指で指しながら言う。

 

「ずいぶんと余裕みたいじゃないか。状態がいい」

 

そんなレドの高評価に若干否定しながら応える。

 

「いや、ずいぶんと苦労した。作戦は練っていたが初めて戦う魔物なんでね。この魔物についてギルドには何か情報はないのか? 」

 

「まだ詳しく調べられていないがおそらく今までにない魔物だろう。上級の魔物は新種であることが珍しくない。学者の視点だとまた違うかも知れんがな… 」

 

そういえば魔物の分類は難しいと聞いたな。機会があれば学びたいものだが専門書で独学していくしかないな。収入はあるから本代は十分以上にある。クソ鳥と決着が付いたらしばらく本漁(ほんあさ)りに没頭(ぼっとう)しようか。

 

「ああ、情報と言えばこの魔物について報告書を書いて提出してくれ。もちろん討伐報酬に上乗せされるから不満はないだろ? 」

 

ああ、そうだった。コウモリのときはオードが一緒にいたから書かなくても良かったが今回は一人でやったから俺が書くしかない。

 

さっさと戻りたいが信頼を得るために詳細な報告書を作成するとしよう。観察していた期間を含めるとかなり膨大な資料になる。コアに記録された情報は正確に掘り起こせるので時間を掛ければいいものが書けるだろう。

 

ヤツに会いに行くのは明日以降にするか。今日は町まで行って報告書を書いて一泊することにしよう。村には泊まるところがないしな。

 

町のギルド支部におもむいて報告書の用紙をもらって書き方を聞きつつ書いていく。

 

書いていくうちになんとなく楽しくなってきた。用紙を追加して絵とかを書き足していく。攻撃パターンや魔術の使用方法、生活様式など根拠も添えた推測も交えて書いていく。

 

結局ホテルに泊まってからも書き続けて翌日に提出してベースキャンプに戻ることになった。

 

ベースキャンプに戻ったのは昼過ぎになった。早速あの鳥を探しに行きたいところだが、いる場所は魔境の最奥だろう。

 

今の俺の実力ではそこまでいくのは危うい。いけたとしてもヤツに見つかれば今度こそ戦闘不能にされるだろう。

 

魔物に見つからないようにして戦闘を避け続けて到達しヤツに見つからないように観察し続ける…

 

難題ではあるがそのための体を製作すれば可能性は開けるだろう。

 

要求される仕様は小さくて静かに機敏に動けること。魔術の運用も攻撃より防御と回避、逃走、隠密に特化したものにしなければならない。

 

とりあえず蜘蛛型の体を作成することにした。腹の部分にコアを納める前提で設計していく。

 

生きている蜘蛛は外骨格のみの構造だが魔力で運用するため内骨格と外骨格の両方を備える構造にしよう。魔石灰で内骨格を作り魔鉄製のワイヤーを編んで外骨格を作り(かぶ)せていく。

 

内骨格と外骨格の間に魔土を充填(じゅうてん)して基本構造は完成する。人工的に作り出した極小の魔石を加工して眼球を作り出し顔に当たる部分を中心に設置する。

 

人工魔石はまだあまり精度良く作成できないが機能制限をすれば十分に使用できる。それぞれに役割を持たせて配置していくと結局体の至るところに設置することになった。

 

蜘蛛の眼球は最大で8個だが倍の16個ある。16個別々に見えるのではなく総合的な視野として認識される。赤外線から電磁波に至るまでの波動や魔力波まで捕らえることが出来る使用だ。

 

実際に動かしてみて具合を確認し細かな修正を加えていく。納得のいく出来になったときにはすでに夜になっていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

翌日からいよいよ新型ボディ、“偵察体・或駆羅(アクラ)”の運用を開始する。

 

換装(チェンジ)

 

偵察体に換装(かんそう)すると、まずはその場で脚を動かしたり視野の確認をした。

 

良い感じだ…これならいける…か?

 

それが終わると本格的な運用に入る。

 

ぴょんと跳んで木の幹に取り付く。高いところまで歩いて登っていくと再び飛び跳ねて別の木に移る。ハエトリグモを模したシルエットで跳躍力はなかなかに高い。

 

次にお腹の先端にある射出口から水を糸状にして射出して魔術で操り、ワイヤーアクションを試みた。

 

ひゃっほうっ!

 

風を切って木々や狭い枝葉の間を高速ですり抜けていくのはスリルがあって楽しい。

 

ぶつかっても痛みを感じないしこの体は重量に比べて強度が高いからたいしたことにはならない。さらに魔力で防御すれば無傷でいられる。

 

アトラクション感覚で次々と木から木へと飛んでワイヤーを飛ばしていった。

 

奥に到達する前に一通り試していき性能の限界を把握しておく。魔力を抑えた行動も試して隠密性能の向上も図りつつ奥へ奥へと進んでいった。

 

深層も残すところあと三分の一ぐらいかというところで森の中の雰囲気はだいぶ変わってくる。

 

木々は徐々に幹が太くなり背が高くなって来ている。様々なものに含まれる魔力も強くなっている。生命の活性がうるさいぐらいに高くなってきているように感じられた。

 

時折現れる小動物も表層なんかと比較すれば魔力がだいぶ高いのだろう。中には魔力変異していると思われる個体もいた。

 

しかし、その割にどこかひっそりとしているような印象も受ける。大型の魔物は相変わらず見ない。見つからないように息を潜めて隠れている。そんな雰囲気だ。

 

何から隠れているのか? …無論あの鳥からだろう

 

隠密性能を他の魔物で試したかったがしかたがない。ぶっつけ本番になるが奥へと進んでいく。

 

さらに進んでいくと山岳地帯に近づいてきたのか傾斜がきつくなってくる。

 

地面は岩がちになってきていて木は逆に細くなってきている。土の量が場所によってばらつきがあるのか木の太さも高さも一定でない。

 

木の種類自体も異なってきているのか? 木に詳しくないからわからないな。地球の木に詳しかったとしてもこちらでは通用しないか?

 

進んでいくとさらに傾斜はきつくなっていく。どんどん岩がちになっていき木もまばらになっていく。

 

まずいな… 隠れるところがなくなっていく…

 

しかたがない。石ころを拾って体に付けていくか。視界が悪くなり機動性も落ちるがカモフラージュを優先する。

 

周囲に注意しながら岩肌を登っていく。だいぶ高いところまでくるとラディフマタル森林を一望できる所まで来る。

 

おお… いい眺めだ…

 

感動してしばらく景色を眺めていたら不意に巨大な魔力を感じた。

 

これは間違いなくあいつだな…

 

急いで岩陰(いわかげ)に隠れる。反応的にはだいぶ遠い位置にあるがやたらに目がいいと考えられるのでとにかく見えない位置に隠れる方が安心だ。

 

魔力の動きからどうやらここから西の方に行った場所に住処(すみか)があるらしい。

 

行ってみようと思うが更に上質なカムフラージュを試みよう。拾った石を亜空間で加工して形を整えて貼り付ける。足を縮めると完璧に一個の石が完成するように体を覆う。

 

これでモードチェンジすればどこからどう見てもただの石にしか見えないはず。魔力の気配を追って西へ西へと移動していく。

 

すると切り立った崖のあるところにぶち当たった。相当に高さがある。下はすぐに森林地帯になっていて下から300メートルぐらい上までほぼ垂直の岩壁になっている。

 

調べてみるか…

 

岩壁に取り付くと()い回っていく。人の身に置き換えたら垂直の岩肌にくっつくのは相当な恐怖だろうがこの体だとそんなに怖くは感じない。

 

八本の足で足先の土を使い粘着していく。垂直の岩肌に慣れると移動も容易にはなってくる。しかし、小さな蜘蛛の体で、ましてや見つからないように慎重に移動すると速度はかなり遅い。

 

広い上に単純な壁ではなく湾曲していてその上、凹凸があるので見える範囲も狭く探索は難航していたが再びヤツの魔力を感じる。

 

すぐさま気配を消しつつ足を縮めて石になりきる。その間、魔力の動きに細心の注意を払う。

 

今度は住処から飛び立つらしく岩壁の中の方から出てきたように感じた。距離はここからそこまで遠くない。飛び去っていくまで身を潜めて安全を確認してから一直線に向かう。

 

すると壁が大きく深く(えぐ)れているところを発見した。ぽっかりと洞窟のようになっている。

 

地面側はくちばしで成形でもしたのか平らになっていてそこに木や木の枝で編んだ巨大な鳥の巣がある。

 

ここか… とうとう発見できたな…

 

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