機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第66話 巨鳥の観察 x 夜の森

巣の中には大きな雛鳥が一匹だけいてその傍らに親鳥、おそらく雌の個体が寄り添っている。雄と比べてしまうとだいぶ小さく見えた。

 

それでもかなり大きいとは思うが…

 

雄に特徴的な頭にあるエメラルドグリーンの飾り羽がなく尾羽も普通の赤銅色をしている。雌の方が地味なのは鳥類ではよくあるような気がする。孔雀が代表的だ。

 

今は雄が捕らえてきたであろう魔物を(ついば)んで引きちぎり、細かくして雛に与えている。もうだいぶ与えてしまったようで残りは少ない。

 

どういった魔物か原型は留めていないが残った骨から蛇の魔物だと推測する。俺が前に倒したイーギス・アーガスより小さそうだが雛に与えるには大きいと思う。

 

そんな獲物がもう終わりに近づいている。まだ小さいのに雛の食欲は留まることを知らないようだ。雄親はまだまだ食べると見て餌を捕まえに行ったらしい。

 

雛は親とは似つかない外観をしているが成長したらどのようになるんだろうな。今は丸っこい形をしていて全身をモフモフした柔らかそうな羽毛で覆っている。

 

可愛いな、親とは大違いだ…特に雄の方とは……

 

親鳥は魔力変異の結果ああいう外観になっていると思うが子供にもそれは受け継がれるんだろうか?

 

……ゆっくり考えている場合じゃなかった

 

親鳥が餌を与えているうちにいい位置に移動しなければならない。

 

天井を進みながら穴の奥に向かうと身を隠せるようなくぼみとか突起とかを探す。

 

なかなかに緻密な工事をしたようで良い場所がなかなか見つからなかったがなんとか見つけ出してそこに(ひそ)む。

 

ようやく落ち着いて観察ができるな…

 

とにかく情報を集める事に決めてじっくり腰を据えての観察が始まった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

観察を開始して1週間ほど経った。

 

親鳥のうちの雄の方、つまりクソ鳥の方だが基本的にそちらが狩りに行くらしい。

 

定期的に狩りに出るのだが一定時間経つと獲物がなくても戻ってくる。周辺の警備も雄の役目らしい。

 

一定時間留守にするとどうやら雌の方が戻ってこいと信号を発するようだ。狩りと周辺警備の両方を(こな)さないとならないなんてパパはつらいよと言ったところか。

 

俺は信号を感じることは出来ないが時折、雌がどこかを向いたまましばらく硬直する事がある。そのときに魔力的な信号を発しているのだろう。

 

そのとき雛もおとなしくなる。ずいぶんと利口な子だ。クソ鳥とは違ってな… この子も成長したらあのようになるのだろうか?

 

子育てのせいで俺は獲物を横取りされそうになり、そのおかげで最後まで戦わずに済んだというわけか…

 

予想をしていなかったわけじゃないがこんな形で知ることになるとはな…

 

雄が持ってくる獲物はそれなりにバリエーションに富んでいる。鹿とかイノシシなどの下級程度の魔物が多いがときどき中級程度の魔物を狩ってくる。まれに上級の魔物と思われるデカい魔物も捕まえてくるようだ。

 

空を高速で飛んで広範囲に獲物を探すからこの魔物が繁殖期に入ると広範囲に渡って生物の移動が起こったりするのだろう。

 

この魔境における異変の原因はやはりこの魔物の影響が大きいのかも知れない。断定するにはまだ早いかも知れないが。

 

あの熊も深層のもっと深い部分で活動していたのがこいつに目を付けられないようにするため息を潜めるようになり、耐えきれなくなってもっと浅い場所に出てきたのだろう。そう考えるとだいぶ羽目を外していたようにも思えてくる。

 

観察を続ける中でいつしか俺の中にあったこいつへの怒りはなくなっていた。

 

自然の(ことわり)の中で生きているというだけで獲物を取り合うのも自然の(ことわり)でしかない。

 

結局は取られる方が悪いのだ。さっさと亜空間に収納しておけば良かった。あるいはもっと周辺を警戒しておくべきだったか。

 

俺が油断をしていただけ……狩人として未熟だったんだ…

 

そう理解できたのは観察を通して魔境の一部になった感覚があったからかな? 魔境の中に入ったなら狩人もまた魔境の一部にならなければならない。

 

そう覚悟しなければならなかった

 

俺が腹いせでこいつに何かしようってのはお門違(かどちが)いだな。繁殖期の魔物には手を出さないのが狩人の生き方でもある。

 

まあ、やり合ったところで狩られるのはこちらだが…

 

哺乳類の場合、雌は妊娠期に魔力が極端に落ちるらしい。魔石の恒常性が胎児を排除しないようにするためという考察がなされている。胎児が成長するにつれて徐々に魔力は回復していくが元に戻るのは出産後になるという。

 

その間、雄の方は魔力が使えない雌を守るために魔力が(いちじる)しく増大して凶暴性が増していくそうだ。ギルドはそういう個体に手を出さないように注意している。危険だから手を出すなと言うことなんだろう。

 

人間の男の場合はそこまで顕著(けんちょ)に変化がないそうだが… 社会性が影響しているのかな?

 

爬虫類や鳥類などの卵生(らんせい)のものは雌の魔力が極端に落ちることはないみたいだ。卵が(かえ)るまでや雛が成長するまではむしろ魔力が上がることが多く、雄が子育てに協力する生態だと雄の方も魔力は上昇するらしい。

 

この場合は今、雄と雌の両方とも魔力が上昇した状態なのだろう。遠距離の魔力通信が出来たりするのもその影響かも知れない。

 

上昇することで戦力が上がると言うより子育てに有用な機能が増えると言ったことの方に意味がありそうだ。もともとが強すぎてほとんど脅威になるようなものがないだろうし。

 

いろいろ学ぶことが出来たし実利面でも収穫はあった。

 

夜になると必ず親子そろって就寝するのだがその間に巣に落ちている抜け落ちた親鳥の羽根や雛の羽毛を回収することができた。

 

雄の飾り羽根や尾羽は落ちていなかったので残念ながら手に入れることは出来ていない。

 

しかし、なかなかいいデータを集めることが出来たのではなかろうか。

 

……もう少し観察しながら粘ってみるか

 

あと二週間は観察を続けることにしよう。

 

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さらに二週間が経過した。

 

雛はみるみるうちに成長してシルエットがしっかりとした鳥の形に近づいてきている。

 

羽毛はほとんど抜け落ちて羽根に生え替わってきている。雛のときは当然だが成鳥になっても親鳥には似ないのだろうか? 羽根は赤銅色ではなく灰色がかった青色だ。

 

成長してこれから変わるのか魔力変異をしなければ親のようにはならないのか? 考えてみると結構謎だな。

 

魔物の生態をしっかり調べようと思ったら相当な時間がかかりそうだ。深層で何ヶ月、下手したら何年も観察を続けるのはちょっと無理だろう。

 

生態と言えば母鳥の面白い行動を観察できた。崖を登ってくる魔物に対して追い払うように空気魔術を使用して強烈な吹き下ろしを放つ瞬間があった。

 

どのような魔物だったか俺のいる位置からじゃ見えないからわからなかったが母鳥がはっきりと魔術を使うのはこれが初めてだった。

 

多分本気ではなかったと思うがずいぶんと精密な制御だったと思う。雌は出力より精密さが優先されて身につくのだろうか?

 

結局、観測中に雌鳥が魔術を使うのはこれ一回だけだった。

 

肝心の雄の飾り羽根と尾羽だが手に入れることは出来ていない。しかし、残念だがいつまでもここにいるわけにはいかない。

 

雛鳥の巣立ちを最後まで見ていたい気持ちもあるのだが……まあ、いいか

 

夜になって鳥たちが寝静まると巣穴の縁までいく。

 

ラディフマタル森林が一望できる位置である。月明かりの下で上から見る夜の森は黒々として漆黒の海のよう。夜空には無数の星々が瞬いて幻想的な景色を作り出している。

 

いい景色だ。ずっと見ていたくなる…

 

名残惜しくもあるが長々と魔境に居すぎた。そろそろ人間の世界に戻った方がいいだろう。

 

気を取り直すと崖の下にぴょんと飛び出す。

 

八本の足を胴体側に(ちぢ)めて空気抵抗を軽減させて落下していく。

 

加速が最高に達したところでカモフラージュのために付けていた石を亜空間にしまいこみ足をめいいっぱい広げてその間に水の幕を魔術で作り出す。

 

―或駆羅グライダーッ!

 

空気抵抗を受けて浮遊し、重力に逆らいながら滑空していく。

 

これで何処まで進んでいくことが出来るか…

 

眼下に広がる漆黒の樹海は飲み込まれれば生きては上がってこれないような雰囲気を(かも)し出している。

 

流石に気づかれることはないと思うが夜行性の魔物は巨鳥を気にせずに活動できるはず。

 

下からの攻撃に注意しながら足を操って空気を掴み空中を移動していく。

 

慣れてくると心に余裕が出てくる。風を切って飛んでいくのはなかなかに面白い。

 

なるべく長く飛ぼうと風を読んで上昇を試みる。だが都合のいい風はなかなか吹いてくれない。

 

徐々に高度が下がっていき木のてっぺんに着陸する。木がしなり枝葉が微かにがさがさと音を立てる。

 

このまま樹冠の上を渡っていき地上の魔物を()けるか?

 

だが微かな木のしなりとかを的確に拾ってきそうではある。まだ深層の三分の一と言ったところだ。上級の魔物をこの程度でかわしきれるとは思わない。

 

視界の効かない下からの攻撃に対応するのは難しいことを考えると行きの時にしたように枝を渡っていく方が無難か。

 

樹冠から下へ慎重に降りていくと夜の森は昼間とは違った独特の濃密な気配に支配されている。

 

あちこちからうっすらと変な圧がかかってくるような気持ちの悪い感じがあるった。

 

これは… 近くに何か居るのかもな…

 

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