機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第67話 X 忍び寄るもの x 最奥からの帰還

夜の魔境の中を恐る恐る進んでいく。この目は赤外線も含めていろいろ捉えられるので人間には全く見えないような暗闇でも問題なく見えるがそれでも不気味な雰囲気に飲まれそうになる。

 

朝になるまで地中で過ごした方が無難ではあるがこの偵察体の性能を確かめておきたい気持ちもある。拠点を目指して行動すると決めた。

 

だいぶ遅いペースだが着実に進んでいく。特に発見されたような感じはない。こちらも相手を発見していないのでなんとも言えないが…

 

しかし、あるときを(さかい)(まと)わり付くような気配を感じ始めていた。時折立ち止まって周囲を確認してみるが特に何も発見できない。

 

なにも怪しいところはない… だが確実に何かがいる

 

困ったな… このまま進んでいけばいつか隙をさらして先手を取られるだろう。襲われなくてもベースキャンプまで付いてこられるかも知れない。

 

しかたない、仕掛けてみるか…

 

蛍火土粒(けいかどりゅう)

 

メタンガスを含んだ土の粒に火を付けて木の枝や幹にいくつも貼り付けていく。

 

荒く固めた表面からゆっくりとメタンがしみ出すと引火していき(ほの)かに周囲が明るくなる。

 

それほど光度は強くないが沢山あれば視認に十分な明るさを得られる。

 

暗闇では赤外線や紫外線、電磁波で視認しているがそれで発見できないのであれば可視光でなら確認できるかも知れない。

 

それに賭けて周辺を確認しやすい枝の先に移動する。

 

さて、これで相手はどうでてくるかな…

 

じりじりと時間が過ぎていく。蛍火土粒の火はもって数分と言ったところ。消える前に動きがなければ別の方法を考えなければならない。

 

動きがあったとして果たしてそれを俺が捉えきれるか…

 

正体不明の魔物を相手にすると情報がなさ過ぎてプレッシャーがきついな。嫌な汗が流れる、いや、流れない。

 

もう来ないか。そう考え始めたとき視界の端に何かが動くのを捉えた。

 

草が動いている…?

 

地面に生えた草が音もなく倒れたり揺れたりしている。明らかに風によるものではない。透明で細長いものが地面を()っている。

 

赤外線ヴィジョンや紫外線ヴィジョンなども併用(へいよう)して画像処理を加えて見てみると真っ黒な蛇がこちらの真下に移動しているのが見えた。

 

蛇か… アイツを思い出すな…

 

前に倒した大蛇より大きさはだいぶ小さい。しかしおそらく魔力はだいぶ大きい。魔術が得意なタイプだろう。

 

あのコウモリのように空気か何かを操って見えなくしているようだ。真っ黒に見えるのは電磁波などを吸収しているのかもしれない。さしずめステルスバイパーと言ったところか。こちらの言葉だとアキュラ・ファゼルかな。

 

相手はまだこちらが気付いていることを悟っていないようだ。ゆっくりと鎌首をもたげると空中を浮遊してこちらに接近してくる。

 

相当に緻密(ちみつ)な魔術だ。風や音もなく飛ぶことが出来るなんてな。やはり魔術特化型か。使う魔術の(しつ)から考えるとベースキャンプに連れて行くのは御免(ごめん)(こうむ)りたい。

 

なんとか()けるなら撒いてダメそうなら倒すしかないか…

 

方針を決めるととりあえず気付いていないふりをして相手の出方を(うかが)っていく。

 

枝の上にいる俺のそばまで浮遊して来ると大きく口を開けて噛みつこうとしてきた。

 

噛みつかれる直前で跳躍して回避すると蛇は木の枝に鼻先をぶつける。その隙を狙って俺は魔術を打ち出す。

 

―流水撃

 

射出口から高圧の水流を噴射して蛇の細長い胴体の中心をめがけて叩きつけてやる。

 

水流に押された蛇は為す術なく吹き飛んでいき木の幹に勢いよく叩きつけられていった。

 

空中に浮かんでいたから良く飛んでいったな。だが、風穴を開けるつもりで絞り込んで打ち出したのだが手応えはない。

 

どうやら見た目に反してかなり堅い相手らしい。さすがは深層の魔物と言ったところか。

 

この隙にとんずらここうと水糸アクションを駆使して高速で木々の間を飛び回っていく。

 

ときどき大きく進む方向を変える。それから糸の反動を利用した大ジャンプをして追跡を困難にしていく。

 

それなりに距離は稼いでいると思っていた。だが、怒気をはらんだ大きな魔力が急速に、真っ直ぐにこちらに向かってくるのを感じた。

 

迷わずこちらに向かってくる気配に疑問がわいてくる。

 

大ジャンプ中はほぼ完全に魔力を絶っているはずなんだがどうやってこちらを感知しているんだろうな?

 

明らかに早すぎる気がする。これだったら真っ直ぐ距離だけ稼いでいれば良かった。

 

相手はもう姿を隠すのは無意味と思ったのか速度優先でこちらに向かって来ている。

 

追いつかれないように木々の間を飛び回って逃げるが相手の方がだいぶ速い。視認できる距離まで追いつかれた。

 

後ろから真っ白な蛇が体をくねらせながら木の枝をくぐり抜けるように空中を飛んで迫ってくる。白い体は月明かりを反射して暗闇に浮かび上がるように見える。

 

元の色は白だったのか…

 

飛びながら体を平べったく伸ばしている。空気魔術の効率を上げているのだろう。おそらくあばら骨を開いて変形している。確か地球にもいたよな、そういうの。

 

音もなく空中を飛んで迫ってくる様は幽霊のようにも見える。不気味なものに追われるのはホラー映画のようだ。ステルスゴーストバイパーに襲われる映画… B級映画だな。

 

だが事態はB級映画より深刻だ。あと20メートルの位置にまで追いつかれている。

 

どうするか?

 

中途半端な攻撃は意味をなさないだろう。ここは偵察体用に構築した魔術の性能試験と行こうか。これで相手の感知能力について情報を得ることが出来るはず。

 

逃げるための魔術を選択して練り上げると即座に実行…

 

幻霧迷界(げんむめいかい)冷悴獄(れいすいごく)

 

体から水を霧状にして噴出させる。大量の霧を散布しながら円を描くように移動して霧に包まれた領域を作り出していく。

 

今回は初めて熱変換を組み込んで魔術を構築してみた。相手が変温動物なら低温で多少は動きを鈍らせることが出来ると考えたがどうなるかな?

 

霧の領域の中心部に移動して相手の出方をうかがってみる。

 

これは水と空気の混成魔術でこの領域は魔術によって維持されている。この中の敵の動きは詳細に把握できるのだが魔力消費量は相応に大きい。

 

なるべく早く情報を引き出したいな…

 

そう思っていたら敵は真っ直ぐこちらに向かってくる。

 

なぜだ?

 

この霧の中では視界は効かない。魔力も隠蔽されるし、電磁波も出していないし吸収される。においも阻害できるはず。体温は元々ない。

 

感知できる要素は何もないように思えるのだが迷うことなくこちらに来ている。

 

敵はこちらに狙いを定めると空気の球を放ってきた。大きく避けると空気弾は元いた場所に着弾して周囲に暴風を巻き起こす。

 

想定より威力があったため少々吹き飛ばされるが問題ない程度。問題なのは霧が吹き飛ばされることだな。修復に魔力が持って行かれてしまう。

 

どうするか… 情報が欲しいな

 

観察すると低温による攻めは蛇の周りを取り巻いている空気の壁によって防がれていた。

 

あれ? これって領域を維持する意味がないな…

 

さっさと解除しようと思うがちょっともったいない。なので攻撃に転用してみる。

 

霜氷包殺(むひょうほうさつ)

 

霧になった水分と冷気を蛇に向かって一気に集約して凍り付かせる。空気の壁に大部分は阻まれたが一部が壁の内部で凍り付き本体に霜が(まと)わり付いていく。

 

少しは通ったか?

 

様子を確認すると多少動きが鈍くなったようだ。それを確認しながら再び逃げていく。

 

しかし、多少動きが鈍くなったとしても向こうの方が速度は上だ。時間が経てば徐々に動きを取り戻していくだろう。

 

こちらの速度を上げるか向こうの速度を下げるしかない。

 

とりあえず魔力線でつないだ水弾を放ってみる。有線誘導しつつぶつけてみるがやはり空気の壁に阻まれていた。大して効いていないようだ。

 

しかし、多少は速度を落とすことに成功している。魔力消費もそこまでないから大量に撒いて時間を稼ぐことにしよう。

 

出来るだけ多くの水弾を作り出してばら撒きつつ逃げていく。

 

大量の水弾を蹴散らしながら俺を追いかけている蛇は俺との距離を詰め切れずにいた。なんとか同じ速度ぐらいに押しとどめられている。

 

俺はそのまま追いかけっこをすると同時に相手の感知能力についての考察を続けていた。しかし…

 

良くわからんね…

 

何とか原因を看破(かんぱ)してこいつを引き()がさなければならないが、なかなか突き止めきれずに時間だけが過ぎていく。

 

打開策がないままだらだらと逃げ回っているとヤツはそれに(ごう)を煮やしたのか動きがあった。蛇の魔力が急激に上昇していく。

 

魔力のフィールドが広範囲に広がっていくのが視認できる。

 

相当な大技が来そうな予感がする。ひょっとするとあまり深層から離れたくないのかも知れない。ここで仕留めようという腹づもりか。

 

どうやって防ぐか考えてみるが魔力の波動から空気魔術が来ることしかわからない。

 

魔術を警戒しながらなるべく距離を取ろうと必死に逃げる。しかし、相手は魔術を練りながらも速度を落とさずに追跡してくる。

 

距離を取れないままいると、ついに相手の大規模魔術が発動してしまった。

 

急激に気圧が低下して俺の体が蛇側に引き寄せられる。突如として蛇を中心に竜巻が発生したのだ。

 

木の幹に水糸を巻き付かせて飛ばされないように体を固定する。だが、吸引されて体が強力に引っ張られる。糸が伸びて少しずつヤツへと引き寄せられていく。

 

このままだと吸い込まれるな…

 

水糸を太くして魔力出力を上げてもさらに吸い込みが強くなってくる。それだけでなく折れた枝や石などが飛んできて俺に当たってくる。

 

仕方ないな…

 

森の中では危険かも知れないがメタン魔術を大きめで打ってみるか。深層の樹木は燃えにくいはずだ……多分…

 

そう決めると亜空間からメタンガスを取り出して空気と混ぜて細長くして送り出していく。

 

それが竜巻に絡みついていくが散り散りに引き裂かれて霧散していく。

 

それにかまわずどんどん送り出していくと竜巻の外周に溜まっていきひとまとまりのガスとなった。

 

魔力で出来た竜巻では性質の異なる魔力とは反発しあう。取り込まれずに外側に巻き付いた形になっていた。

 

繋がったな…

 

魔力線から魔力を流して強化していく。準備は整った。

 

…点火!

 

強烈な光が周囲を照らし爆炎が上がるとそれに一瞬遅れて轟音と共に爆風が周囲に吹き荒れる。

 

吹き飛ばされないように木にしがみつき竜巻の消滅を確認する。

 

竜巻は確かに消滅した……が、やつはどこにもいない。

 

炎が消えて暗闇となった周囲をあわてて確認していくが視認できない。

 

またステルスモードか…

 

こちらも再び蛍火土粒を使うかと考えるがその時間は与えてくれなかった。

 

―ビシャッ

 

突然どこからか音もなく液体が飛んでくると体中にかかる。

 

なんだ⁉

 

すかさずその場から移動する。追撃が来るかもしれない。それを恐れて再び逃げの一手を講じていく。

 

ん? なんだ?

 

ふと、身体に違和感を覚えた。移動している間に、液体がかかっている場所が少しずつ溶けてきている事に気付いく。

 

強酸性の液体か…胃液とかだったらなんかばっちいな…

 

そんなことを考えつつも体はどんどん溶けていく。魔力を込めてレジストしようとするが進行が遅くなるだけで溶解し続けた。

 

これも魔毒ってヤツか…

 

表面を溶かすことで皮膚からでも浸透しやすくする効果があるのか。境界が曖昧になると清発でも飛ばしにくくなるだろう。良く出来ている。流石は深層の魔物だ。

 

しかし、この体は代謝を行わないから基本的に毒は効かない。表面を少し溶かしただけだ。

 

毒に魔力を通して亜空間に引き込むと解けている土を廃棄して新たな土を供給して修復する。

 

しかし、毒攻撃か…前に回収した蛇魔毒も解析はしたが結局使わずじまいだ。毒を使って狩りをすれば当然肉は捨てるしかないしな。大丈夫かも知れないが気分的によろしくない。

 

逃走しながらいろいろ考えているとふと相手は自分をどのように()()()()()のかが気になってきた。

 

あの蛇にとって俺という獲物はどう見えているのだろう? ちっぽけな蜘蛛の魔物か? だとすると食べたところで腹の足しになるわけでもないだろう。

 

獲物の魔力が多ければ魔力の向上に有利なのか? だが今の俺から大きな魔力は感じないはずだ。小さな人工魔石しかない。魔術を使用したときは魔力反応は大きくなるはずだがこの体では出力に限界がある。

 

…狙いはコアか?

 

索敵能力の高い相手だ。他の魔物には感じられない微かなコアの波動をしっかりと感じているのかも知れない。

 

だとすると空を滑空している時から捕捉されていて後を付けられていた可能性もあるな。

 

のんきに空中散歩をしている間に広範囲にアピールしてたってわけか。我ながら間抜けだな。

 

まさかこんな奴がいるとはね…

 

結構長くストーキングされていたのかもしれない。ストーキングステルスゴーストバイパーか。特徴を足していくと名前が長いな。

 

気がつくといつの間にか移動速度が落ちていた。しかし、後ろからの圧力が遠のいている。

 

諦めた…とは思わない。諦めるならもっと早くに諦めているはず。おそらく毒の効果を期待してのことだろう。

 

途中で死ぬから急いで追いかけなくても大丈夫と考えているのかも知れない。

 

距離が空いても見失うことがないと言うこともあるのだろう。飛んで追いかけてこないことからもその可能性が高い。

 

なら死んだふり作戦にしよう…

 

亜空間でヤツの魔毒の酸性を中和すると体にかけておく。

 

足を縮めて木の枝の上から転げ落ちると地面をバウンドして転がりちょうど仰向けで止まった。

 

そういえば虫って死ぬと仰向けにひっくり返っているよな…なんでだ?

 

まあ、そんなことはどうでもいいか。コアの活動も徐々に低下させていき死んだふり作戦の準備が整う。

 

十分ぐらい待っているとじわじわした纏わり付くような圧力を感じる。

 

近くにきたな…

 

方向は感じないが距離はなんとなくわかる。徐々に近づいてくるとかなり近い距離で立ち止まる。

 

こちらが本当に死んだか確認しているのだろう。

 

数分は経っただろうか? 納得したのか警戒を解いてステルスモードを解除したようだ。位置がはっきりとわかるようになる。

 

ゆっくりと間近まで近づいてきて俺を丸呑みにしようと口を開けて噛みつこうとしたそのとき―

 

換装(チェンジ)

 

両手で素早く心臓の上と下の部分を掴む。

 

、、、やあ♡

 

にっこりと微笑む。魔我土鬼の鬼面に表情はないけど…

 

相手はこちらを絞め殺そうと巻き付いてくるが俺のターンだ。

 

双雷撃掌(そうらいげきしょう)円環獄(えんかんごく)

 

右手から出る雷撃が相手の心臓を通り左手に流れて俺の体を通り再び右手から放たれて増幅されていく。

 

一瞬で心臓を停止させて破壊すると蛇は動かなくなりだらんと垂れ下がる。

 

相手の死を確認すると亜空間にしまい、再び或駆羅(アクラ)に換装してベースキャンプに戻る。

 

戻ったとき、空は白み始めていた。

 

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