機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第7話 人々の動き x 憑依

(別視点)

 

森の中を三人の男が歩いている。

 

「材木は問題なく確保できそうだ 」

 

「ああ。材木にできるいい木が十分すぎるほどあるな。手つかずの魔境って言ってもやはり表層にはたいした魔物がいないしな。切り出しも運び出しも開拓団だけで済みそうだ 」

 

「そうだね。水は地形的に地下水が豊富そうだから井戸を掘れば十分。あとは川なんかが近くにあるといいんだけど 」

 

森を探索しながら地図を作成し情報を書き込んでいく。この三人は開拓ギルドから派遣された開拓団員である。測量や地形調査、資源探索などを専門に行う人員である。

 

かなり離れた位置にある小規模な町からほかの開拓地を経由してこの森を調査しに来ている。

 

全員、腰に剣を()いているが護身用で刀身は短い。大きな背嚢(はいのう)を背負っていてすでに二日ほどこの森を探索している。予定ではあと二日ほど滞在して途中の開拓地により、再び調査を行う手はずであった。

 

「ここら辺で休憩しようか 」

 

一番背の高いリーダー格のタルバがそう決定する。三人とも背嚢を下ろし休憩の準備をする。携帯食を食べ水筒から水を飲む。人心地(ひとここち)つけ、雑談を交わしながら仕事の進捗(しんちょく)について話し合う。

 

「今どれぐらい地図は完成しているんだ? 」

 

タルバが地図担当のラズリに問いかける。ラズリはこの中では背が低く若干太めの体型をしている。

 

「表層だけといっても魔境は広いからね。まだ予定の2割もいってないんじゃない?」

 

「まだそんなもんか。先は長いな。いつ街に帰れることやら 」

 

二番目に背の高いセインがぼやく。

 

「まあそういうな。いつものことだ。近くの開拓村が機能しだしたら探索も進むだろう 」

 

この三人は同じ村の出身で小さい頃からともに行動していた。農業を継げなかったので連れ立って村を出て街に行き開拓ギルドの募集に応じた。それ以来そろって様々な現場に派遣されている。

 

「、、、ん? 」

 

「どうした? セイン? 」

 

魔物探索役のセインが何かを感じたらしい。探索隊に緊張が走る。

 

三人はそれぞれ役割が異なり一人で何役かこなすが戦闘に特化しているものはいない。予想外の脅威が襲ってくるかもしれないと不安になる。

 

「、、、いや。魔物じゃないのか? 妙な気配を感じる。でも魔物もいる? そう遠くはない? 」

 

「何かわかりそうか? 」

 

セインの反応を見て区切りがついたところで声をかける。

 

「直接行って確かめないとわからないけど強い魔物とかではなさそうだ。俺一人で行って確かめてくるよ 」

 

タルバはセインからの提案に少し思案してから応えた。

 

「全員でいこう。強い魔物じゃないならみんなの方が安全に対処できるだろう。不測の事態が起こっても三人なら誰か一人が生還して事態を伝えればいい 」

 

タルバはセインとラズリに目配せして確認をうながすと二人ともうなずいて同意した。

 

セインを先頭に気配のする方向に向かっていく。近づいていくとタルバとラズリにも気配が感じられた。口には出さなかったがいままで感じたことがない気配とその近くに弱い魔物の気配を感じる。

 

音が聞こえる距離に来ると身を低くして木の陰を移動する。水をまくような音が一定間隔で聞こえてくる。

 

(戦闘しているのか? )

 

同じ疑問が頭に浮かぶ。

 

灌木(かんぼく)に身を(ひそ)め陰に隠れながら近づいていく。15メートルほどの距離だろうか。はっきりと確認できる位置までくると灌木から目だけを出すようにのぞき込む。

 

(大ミミズが二匹と、、、あれは人間か? )

 

そこには全身を焦げ茶色の土で覆ったような人型の物体があった。ぱっと見で人のように見えるが明らかに異質なものを感じる。顔に当たる部分の中央に深紅の結晶が埋め込まれ光沢を放っている。その部分から今までに感じたことがない波長を感じる。

 

その化け物はなにやら手のひらから触手のようなものを出して(うごめ)かせている。その触手を一度、手のひらに戻すと唐突に手を振りかぶって振り下ろす。すると手のひらから一直線に棘が伸びて大ミミズを刺し貫いた。

 

それを引き戻して直ぐにもう一匹を同じ方法で刺し貫いて殺害する。2匹を始末するとしばらく(たたず)んでいたが突然こちらに振り向いた。

 

(気付かれていた!? )

 

三人は蛇ににらまれた蛙のように動けなくなっていた。化け物の方もなぜかこちらを注視しつつも動かないでいる。

 

耐えきれなくなり化け物に目を合わせつつじりじりと後退する。すると突然化け物は手のひらをこちらに向けてきた。

 

(攻撃が来る! )

 

タルバは逃げるぞと仲間に波動を送り、三人そろってとりあえず休憩地点まで後退する。拠点にたどり着くと設営されたテントの中に今背負っている小さめの背嚢や身に着けている道具をしまい込む。

 

ラズリは持っていた書きかけの地図をセインに渡す。セインが一番生還する可能性が高いと踏んだためだ。一番近くで建設中の開拓村で落ち合うことを手短に決めると別々のルートで逃げていった。

 

日が落ちる頃最寄りの開拓村に一人ずつ到着する。一番速かったのがセインで最後がラズリだった。セインは村に着くと直ぐに村の代表にことのあらましを告げ町に連絡をとるように願い出た。

 

しかし、通信の魔導具が村になかったためどう対処するかを村の上役を集めて協議するが結論はなかなか出なかった。そうこうするうちにタルバが村に帰還する。

 

タルバは夜が明けたら自分たちで町の開拓ギルド支部に直接行って掛け合ってくると村の代表に伝える。

 

代表たちもそれならばと村の防衛についての協議に移る。先に村に帰還した二人はラズリのことを心配していたが無事に戻るとお互いの生還を喜び合った。ラズリに子細を伝えて町まで戻ることを伝えると安堵の表情を見せた。

 

三人ともあの得体の知れない化け物がいる森から直ぐにでも遠くに行きたいという思いを共感しあっていた。

 

一番足の速いセインだけが町に伝令に走った方が速く済む。だが全員で行った方がことの信憑性が伝わる、道中の安全性が高まるなどのいいわけを誰に伝えるわけでもなく頭の中で自分に言い聞かせる。

 

村の連中には悪いとも思うがそれだけ恐怖と不安があった。いつもより少しだけ警備が強化された村には三人ほどの緊迫感が感じられなかった。

 

開拓村を出発した三人が町にたどり着いたのは二日後のことだった。行きは三日かかったが少し無理をして二日に(ちぢ)めた。置いていった開拓村の人々に申し訳ないという気持ちからだ。

 

いそいで開拓ギルド支部に向かうと幸いなことに支部長のザルマンが支部内に勤務していた。ことのあらましを伝えるとザルマンは最初は信じられないという態度であったが、魔物探索担当のセインが紙に絵を描くと絵がうまいラズリが細かな修正を加えてかなり精細な絵が完成する。

 

(まさか純魔(アキア)か? しかも人型の? そんなばかなことが、、、。まさか特殊な変異体か、、、 )

 

三人の説得に次第に真剣に受け止めるようになったザルマンだが今度は不安になってきたらしく深刻な様子で押し黙って考え事を始める。

 

狩猟ギルドに依頼して討伐隊を結成しようにもろくに環境の整っていない開拓村まで派遣するには金銭がかかるし何より人が集まるかもわからない。

 

しかし、このまま何もせずに開拓村に何かあっては計画に大きな遅れが生じる可能性もある。悩んだあげくにザルマンは結論を出した。

 

「お前たちの言うとおり狩猟ギルドに討伐依頼をだすことにする 」

 

三人はその言葉を聞いて内心これで開拓村の人間に義理が立ったとほっと胸をなで下ろした。

 

「討伐隊が結成され次第お前は隊に同行して現場まで案内して欲しい。それまでこの町で待機だ 」

 

またあの森に行くことが確定すると、その覚悟は当然していたつもりであったがどうしようもなく絶望感が襲ってくる。顔には出さなかったが心の中では勘弁してくれと思う三人であった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

初めての人間との接触から次の日、俺は土の採取もそこそこにどうすれば人間とうまくコミュニケーションをとれるようになるのかを考えていた。

 

どうやら今の俺はこの世界の人間にとって恐ろしい存在に見えるらしい。

 

、、、当然か

 

偶発的な接触で準備がまだできていなかった。しかし、人間がいることがわかっただけでもよしとしよう。人間がいるなら社会があり国があるだろう。市場取引があり金銭を払えばいろいろな素材が手に入るだろう。可能性が広がるな。

 

本格的に人間に化ける方法を模索しよう。

 

方向性としては2タイプが考えられる。シリコーンゴムなどの柔軟な無機素材を加工して人間にそっくりなガワを骨格にかぶせるヒューマノイドタイプ。もう一つは完全な人体を作成する合成人間タイプだ。

 

前者は正直ばれてとんでもないことになりそうだ。俺のコアの力なら不気味の谷を越えることは可能かもしれない。しかし、呼吸をしない、食べ物を食べない、排泄しない、汗をかかない、眼球運動がない、体臭がない、痛覚がない。短期的には技術や演技でごまかすことができるかもしれないが長期的には絶対ぼろが出る。

 

ということで後者を選択。ウサギや狼の肉体はあるのでそれをもとに人体を作成できないだろうか。コアには俺の全情報がある。そこには肉体データやら遺伝子データなども存在しているはずだ。情報量は十分なはず。実際、土の肉体も人型がしっくりくるのは人間データの影響だと思う。

 

ということでコアの機能をフル活用してシミュレーションしてみる。結果は無理。

 

なぜだろう?

 

どのみち以前の肉体のまま再現できたとしてもこの世界の人間として通用するかわからないな。この世界は前の世界と生態系が似ている。しかし大きな違いがある。

 

それは魔石の存在だ。いろいろな生物が魔石を持ち魔力を扱う。人間も同じかもしれない。いやその可能性が高い。人間も体内に魔石を持っていると思われる。魔石の部分を何とかしなければならない。

 

、、、人間の死体が欲しいな

 

とりあえず肉の体を動かすにはその経験が必要だろうと考える。ストレージから損傷の少ないウサギの死体を取り出す。

 

俺は顔を近づけるようにウサギにコアを近づける。コアから魔力の糸を伸ばし筋肉を動かそうとする。

 

筋肉は動いたが肉体を動かすのは筋肉収縮の連携をさせなければならない。今はただウサギの死体がピクピクしているだけだ。

 

しばらく練習しているとようやっとそれらしく動かすことができるようになった。ただやはり動きはぎこちない。操られた操り人形のような動き。どこか違和感がある。おまけに最初に動かしたときより魔力消費量が上昇している。それなりの幅でだ。

 

いろいろ視覚を赤外線とかに切り替えたりして見ているとなんとなくわかった。死体が腐敗してきている。常に魔力で満たしていれば腐敗も防げるかもしれないがその状態で動かし続けるのは難しい。

 

ただ動かしているだけでは駄目で呼吸や物質合成、血液循環まで行わなければならないようだ。そうなるとこの方法ではだめだということがわかった。

 

さらにいろいろ考えた末、筋肉を魔力で外側から動かすのではなく脳と魔石を仲介して生命反応と魔力操作を自然な形で行うのがいいのではないかと思った。そうすると手持ちの死体では損傷部分が気になる。

 

そこであらたな死体を手に入れるためにウサギを探すことにした。しばらく探し回っていると向こうから襲いかかってきた。相変わらず好戦的だな。

 

飛びかかってきたウサギの(のど)を空中でつかむ。そのまま握りしめて窒息させる。ウサギが息絶えるまでその状態を維持したがその間ウサギは魔力をめいいっぱい使い暴れていた。

 

ウサギが動かなくなるとすぐに魔石と脳に魔力の糸を侵入させ徐々に自分の魔力を浸透させる。脳機能に従って代謝を行わせる。魔石から魔力を体中に行き渡らせる。

 

程なくしてウサギの肉体をかなりの確度で掌握(しょうあく)することができた。ウサギの視界を脳から魔石、魔石からコアに伝えて認識できる。前から後ろの方までかなり広い範囲で見える。ただものの形ははっきりと見えないし色はわからない。かなりぼやけている。ほかにも息を吸う感覚、空気の温度、匂いなんかも伝わってくる。

 

、、、獣くさい、ような気がする

 

痛覚もある。首を()められたような痛みも伝わってくる。

 

誰だよ、俺の首絞めたヤツ、、、俺だ

 

痛覚は遮断(しゃだん)しようかとも思ったが首を治すことはできないかと考えた。魔石に魔力を流し首のあたりに集中させる。痛みは思いのほか簡単に引いていった。

 

そこである懸念(けねん)が生まれた。肉体を完全に修復したらこのウサギは生き返るのではないか? と。それは人体を精製して使用した場合、突然自我が目覚めて勝手な行動を取り出す可能性も示唆(しさ)しているのではないか。

 

試さないわけにはいかない。俺は込めれるだけ魔力を込めてウサギの肉体を修復する。なんとなくの手応えを感じる。

 

これで多分ウサギの死体は死ぬ前と変わらない状態になったはずだ。魔力による回復はどうやら魔石に刻み込まれた肉体の記憶を再現することで行われるらしい。

 

理論上は頭を失っても再現できるように思えるがウサギが生き返らないところを思うと再現性に限界があるということか。

 

生命とは? 死とは? 生とは?

 

哲学的な疑問がわいてくるがどうせ答えは出ないのでやめた。ウサギの体を自在に動かせるようになろうと動かす練習をする。

 

しかし、なかなかうまく動かせない。魔石の固有特性、魔力経路の固有特性、肉体の固有特性。それらすべてを把握しなければ自在に動かすのは無理そうだ。

 

当面の目標をウサギを自在に動かすことと土を必要量集めることか。自在に肉の体を動かすことを憑依(ひょうい)と名付けよう。

 

目標が決まれば後はやるだけだ。俺は土の採取の合間に憑依の練習を行うことにした。

 

 

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