機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第71話 狩りの再開 x 岩を駆けるもの

学会との、リーンとの話が終わったので狩りにいくとしよう。

 

再びラディフマタル森林に向けて出発する。

 

途中でセンタスの街に寄ってギルドに顔を出すとレド支部長に呼ばれた。俺からもいろいろ話すことがある。ちょうどいいタイミングだ。

 

「報告書は読ませてもらったぞ。良く無事でいられたな 」

「なんとかな。しかし、あの魔境の問題は解決できそうにないな。あの魔物に勝つ術はないだろう 」

「まあ、そうだな。おそらく上級の更に上の分類に当たるだろうな…人が勝てる領域ではないかもしれん…

 お前が狩ったあの熊の魔物、ルノリルガ・レガラジズと名付けられたんだが、あれですらおそらく上級中位までだな。上級上位にも届かん 」

 

あれで上級中位か、だいぶ苦労したんだけどな…

まだまだ上がいるってことだな。人も魔物も…

調子に乗らない方がいい

 

「やはりそんなものか。レドならあの熊を狩れたか? 」

「全盛期なら狩れたな…と言っても一人じゃあんな綺麗には狩れなかっただろう。他の魔物もずいぶん綺麗に狩ってくるんでうちの解体師達は腕の振るい甲斐があるってんで大喜びだぜ。今度八ツ星に推薦しておこう 」

 

随分とほめるが今回はズルをした。言えないけど…

 

「それはありがたいな。ところで八ツ星に上がることでどうなるんだ? 特典としてはもうこれ以上はない気がするんだが 」

「そうだな。実利面としては上級狩人である時点で大差はないな。せいぜいギルドから借金できる金額が上がるとか年金額が増えるとかそのくらいか。一番大きいのは名誉的なものだな。まわりの扱いが違ってくるぞ 」

 

そう言うとレドはニヤリと笑う。ちょっとこちらをからかうような、値踏みするように感じる。

 

「? それはどういうことだろうか?」

「モテるって事だ。とっかえひっかえ女と遊ぶこともできるぞ。お前は若いんだから少しは遊んだ方がいい。まだなんだろ? 」

 

ガハハと豪快に笑い出す。こちらの図星を突かれたかたちだ。ズバッと返してやりたいが思いつかない。

 

余計なお世話だよ…

 

しかし、なぜわかった? 単なる鎌掛(かまか)けか? それとも魔力の質が違ってくるのだろうか?

 

「……俺にはやるべき事があるんでね。そうそう遊んでもいられないんだ 」

「そうか? だが俺たちの仕事はなにが起こるかわからん仕事でもある。後悔がないようにいろいろ早めに済ませておいた方がいい 」

 

いつになく真面目な口調で言う。口元は笑っているが目は真剣だ。そういうことか…

 

「……話がそれたな、元に戻そう……

 あいつを狩ることは無理だ。結局、この地域では今まで通りの狩りを続けるしかないようだな 」

「いや、そうでもないさ。いままでのギルドが蓄積してきた情報とお前が調べてくれたことを照らし合わせればやりようは見えてくる。いろいろと試してみるさ 」

 

気楽な感じで言ってるがにじみ出るような圧を感じる。だいぶ前向きな感じだ。いや、前のめりと言った方があってるか?

 

「それはそれで危険なんじゃないのか? 」

「危険性はあるだろうな… だが狩猟とはそもそも危険を承知で行うものだ。必要以上に危険を避け続ければ油断を生む。いつも無難な狩りをしていてはいつか事故を起こすものだ。変化は必要なんだよ

 自分から進んで変化していかなければ同じ事をやっているようでいて衰退していくのさ…

 問題はどこまで変化と危険を許容(きょよう)していくかだがそれは魔境と相談しながらだな 」

 

魔境の中で活きるなら魔境の理屈に自分を合わせなければならない。なかなかにハードなことだがやらなければ恩恵はない。

 

嫌ならやめろって事だろう。やめたところで魔境の方から寄ってくるからやめられないんだろうけど…

 

「とりあえずは環境が落ち着く時節を見極める為に調査を兼ねた狩りを行っていく。そんなところだろうな…

 まっ、お前がもたらしてくれた情報のお陰で光が見えてきた。忙しくなるぞ。狩りはこうでなくちゃな 」

 

レドは外見や年齢に見合わない(うわ)ついた感じというかウキウキした感じを振りまいている。落ち着けと言いたくなる所もあるがなんかいいなと思う自分もいる。なぜだろうな。

 

「それじゃあ俺はそろそろ狩りにいくぞ 」

「ああ、引き留めて悪かった。またな 」

 

ギルド支部を後にして深層に作った拠点に直行する。日が落ちる前に到着できた。

 

それなりに間が空いているので心配だったが痛みは無いようだ。最悪破壊されていることも覚悟していたが無事でいるところを見てほっとした。ここら辺は魔物の縄張りから外れているんだろうか?

 

空気魔術を使用して埃を吹き飛ばして掃除すると簡単な鍋料理を作って夕食として眠りに就く。

 

次の日からいよいよ狩りを始める。

 

もう子育ても終わり雛は独り立ちをしているだろう。魔境の中も落ち着いてきて獲物が探しやすくなってくると思う。

 

この拠点を中心に探していこうか。ヤツの巣から離れている場所の方が早く活動を再開するだろう。中層寄りの比較的浅い場所を探索していった。

 

しかし…

 

……そこまで甘くはないか

 

探索を開始して一週間ほどは手がかりがなかった。その後も空振りが続く。

 

それでも範囲を広げて拠点からかなり離れた場所を探索しているときにようやく手がかりを見つけることが出来た。

 

草が食べられている痕や動物の糞などが見つかる。

 

ウサギなども考えられるが噛み痕の大きさや糞の大きさからもっと大型の草食動物の可能性が高い。

 

ここら辺を中心に探索していくとしよう…

 

地図に発見した痕跡を書き込んでいき行動パターンを予測していく。それに従って新たな痕跡を発見しつつ相手の全体像を把握するために考察をしていく。

 

この魔物は木イチゴみたいな実を好んで食すみたいだな。

 

そのことも踏まえて訪れそうな場所を絞り込んでいく。

 

木イチゴが生えている場所を見つけてそこを張っていると、お目当ての魔物が姿を現した。

 

体高は1.5メートル、体長は3メートルぐらい。四つ足で太くて丈夫そうな足。がっしりした体つき。体毛は長めで全体的に白く、足先や胸などが所々赤い毛で覆われている。頭には短めの鋭い角が二本生えている。

 

……カモシカだな

 

全体的な見た目はカモシカだが頭の角は俺が知っているカモシカより凶悪な感じだ。あれで刺してくるのだろう。

 

毛の色とかは魔力変異だろうな。魔力の大きさも結構なものだ。かなり強力な魔術を使ってくると予想する。

 

しばらく遠くから観察してみるが、魔術を使うとかはしていない。

 

あまり情報が無いうちに正面から戦うのもリスクがあると思う。しかし、このまま観察を続けても有益な情報は得られないような気がする。

 

カモシカはウシ科の動物だから牛と共通部分が多いとは思うがどうなんだろうな?

 

牛と同じなら動くものしか見えないと思うが魔力の使い方次第でそこら辺もカバーできるんだろうか?

 

次に接触できるのはいつになるかわからない。攻めてみるとするか。

 

俺は距離を取りつつ木の上に登り、枝を伝って接近を試みる。

 

かなり接近できたが相変わらずのんびり草とか食ってる。ここまで反応がないと逆に気づいてるんじゃないか疑わしくなってくるな。

 

だがそれを確認する術はない。意を決して刀を抜き、相手に向かって飛び降りた。

 

その瞬間に相手は脱兎のごとく逃げ出していく。

 

ちっ、やはり気づいていたか…

 

地面に着地する前に水糸を放って木の枝にくっ付ける。振り子のように飛び着地に合わせて地面を駆けて後を追う。

 

いきなり逃げ出すとは思っていなかったがどう言うつもりなんだろうな? 臆病な生態をしていると言うことか?

 

そこまで弱い相手だとは思わないが…

 

後を追って全力で駆けていくが距離はじりじりと開いていく。相手の方が速い。

 

こりゃダメだな…

 

追いかけるのを止めて作戦を考えることにした。

 

追いかけっこはむこうに分がある。ここら辺の地形は岩山が近くにあるのか傾斜がちでゴツゴツした地形だ。短めの太い四つ足はこういった地形で威力を発揮するのだろう。まともにやっては勝てない。

 

どうするか?

 

いろいろ考えたが待ち伏せ作戦を取ることにした。相手の移動パターンを予測して大がかりな罠を張って待ち受けるとしよう。

 

レインがカモシカの魔物に逃げられてから数日、件の魔物は餌を求めて移動をしていた。

 

少し森の木々が開けた場所に来ると好物の木イチゴがなる低木が隅の方で瑞々しい赤い実を付けていた。

 

十分な糖分を含み重く垂れ下がっているそれは芳醇(ほうじゅん)な香りを周囲に振りまいている。

 

カモシカは香りに釣られて木イチゴに近づこうと足を進める。

 

しかし、何かに気づいたのか途中で止まり周辺を確認し出す。

 

しばらく静かなときが流れるがやがて安全が確認できたのか再び歩を進めて木イチゴの前に来る。

 

たっぷりと香りを嗅いでから一粒ずつ口でちぎって咀嚼していく。味わうように食べ、飲み込んでは次の果実を口に運んでいく。

 

残り半分になったぐらいだろうか。新たな実を口に運んで奥歯でかみつぶそうとしたとき異変が起こる。

 

突如として周辺の地面が円形に切り取られ沈んでいく。沈む途中で地面は粉々にくだけカモシカは穴の中に落ちていく。

 

その穴の底、土にまみれ腰まで埋もれた人影が(たたず)んていた。

 

土埃は落ち着いてきたが上から降ってきた大量の土にまみれて前が見えない。

 

とりあえず土の上に下半身を抜き出し清発して土を落とす。

 

目の前では同じように土を落としながら立ち上がるカモシカがいる。

 

それほど広くない穴の中だ。相手との距離はかなり近い。

 

相当デカく感じるな…

 

これからこの距離で取っ組み合いをする事を考えると気が滅入る。だが、これなら逃げられずに勝負になるだろう。

 

これまでの苦労が自然と(しの)ばれる。

 

樹木魔術で木イチゴの成る木をなるべく開けた適当な場所に移動させ、土魔術で横から掘り進んで直下に空洞を作り出した。

 

暗闇の中でひたすら待ち続け相手が実を食べて油断したところで地面を崩落させて穴の中に引きずり込む。

 

深さは10メートルを超えている。土魔術の使い手でもそう簡単に抜け出すことはできないだろう。

 

二日ほど待つことになったがうまくいって本当に良かった。人間体だと暗闇の閉鎖空間って落ち着かないんだよな。三日は持たなかったかも知れない。

 

そう考えるとやる気も一入(ひとしお)だ。

 

さあ、始めるとするかね…

 

相手が混乱しているうちに刀を抜いて魔術を構成する。

 

-電熱術式、電華熱閃

 

赤熱した刀身を眉間に向かって突き放つ。

 

一撃で仕留めるつもりで切っ先を進めていくが相手は角で刀身を横から押し当てるように突きの軌道を逸らしてくる。

 

角は青白く光り微かに放電していた。

 

雷術!?

 

そのまま体をひねると直ぐさま後ろ蹴りを放ってくる。

 

蹄は上体を反らして避けようとした俺の右手の中、柄に当たるとそのまま刀は弾き飛ばされた。

 

手の中から弾かれて宙を舞い、離れた地面へと突き刺さる。

 

その間にもカモシカはもう一度後ろ蹴りを放つ。

 

大きく後ろに飛び退いてわずかに距離を取ると今度はいつの間に向き直ったのか突進を仕掛けてきた。

 

角で突き刺してくるつもりなのだろう。こちらを向いた二本の角は先ほどより激しく放電している。

 

―雷電術式、雷撃掌

 

両手の平に雷撃を(まと)わせると両角を(つか)んで受け止める。突進の勢いに押され背中が土壁に押し当てられる。

 

魔術で土を広範囲に固めて押し返そうとするが相手の方が質量、出力共に上だ。じりじりと鋭い角の先端が迫ってくる。

 

チッ…どうするか…

 

相手の角はお互いの雷撃を受け止めて微かに白煙を上げている。

 

こちらは俺の方が上…

 

電流が相手に流れていることに気づくと更に出力を上げていく。電流の痛みで相手の突進力は徐々に落ちていった。

 

首の筋肉に硬直を確認すると角を持つ両腕に力を込めて首をひねる。相手の抗う力を見極めて一気に逆方向にひねるとカモシカの巨体は宙を舞い背中から地面に叩きつけられた。

 

これで一息付ける…

 

俺の腕に掛かっていた物理力と魔力の負荷で力が入りづらくなっている。回復をさせつつ刀を拾って構えるとヤツの方を向く。

 

向こうも体勢を立て直したようだ。再びこちらに角を向けている。

 

膠着状態になりお互い相手の出方をうかがう時間が流れていく。

 

牽制に土魔術でも使ってみるか…

 

―操土術式、縮土(しゅくど)陥凹(かんおう)

 

足の裏から魔力を流して相手の足場を崩そうとした。タイミングは悪くない。直前まで魔力が流れていく。

 

しかし、魔術が展開される瞬間カモシカの脚から魔力が放たれこちらの魔術構成が四散させられる。

 

対抗魔術か…

 

同じ性質の魔力を用いて魔術の発動を妨害することができる。つまり同じ系統の魔術が使えなければならないのだがこいつは雷魔術だけでなく土魔術まで使えるということだ。

 

まだ、隠してるものはあるのか? それともこれだけか?

思いのほか攻めにくい…

 

出血させて弱らせていくしかないか…

 

急所への一撃でサクッと狩りたいところだがそれをさせてくれるほど甘い相手じゃなさそうだ…

 

物理的に攻めると決めて体に流す魔力を増幅させていく。身体能力を最大限引き上げたところで仕掛ける。

 

地面を蹴って飛びあがると穴の壁や底を蹴って変則的に動きながら刀で切りつけていく。

 

カモシカはこちらの動きについてこれないようでいいように斬られている。

 

狭い場所では思うように動けないようだ。防御を固めて耐える事に徹している。

 

ある意味それは正解なんだろう。こちらの斬撃は出血させてはいるものの浅い。相手の硬さに大して深く切り込めていなかった。たいして出血させられていない。

 

速い動きに集中することで踏み込みが甘くなっている。だが動きを緩めると反撃の隙を与えることになるだろう。

 

むっ……なんだ?

 

そう考え次の手を模索する中、ふと体に違和感を感じた。

 

 

 

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