身体に違和感を感じる。少し重い感じだ。だが、それでもかまわずに攻撃を続ける。中断はしづらい。
しかし、数呼吸ほど切りつけているとさらに嫌な予感がしてくる。気味の悪さを感じ、攻撃を止めて距離を取った。
なにかがある… あるとしたら空気だ
魔力視で空気魔術を可視化するとヤツの口からこちらに伸びて体に巻き付いている魔力線がうっすらと確認できた。
空気魔術を使って対抗しようとするが不発に終わる。
別の魔術かよ…
魔力視の波長を切り替えようとするがその間に相手の魔術が発動する。体の周囲で爆発が起こり炎が巻き起こった。
直前に防御が間に合いたいしたダメージにはならなかったが違和感がある。
威力が低い?
そう思ったのも束の間、呼吸が苦しい、体の動きが鈍い。
そこを狙って再び電撃を放出しながら角による突進を繰り出してきた。
迫り来る突進を見ながら空気魔術を使い酸素を確保すると刀を横に構えて角を受け止める。
そのまま突進の勢いにより壁際に押し切られた。足を壁に支えさせて持ちこたえる。そのまま、つばぜり合いが始まった。
このまま角を切り飛ばしてやる…
一気に魔術を練り上げて発動させようとするとヤツはバックステップで距離を取りこちらの意図をすかす。
なかなか駆け引きがうまい…
雷魔術に土魔術、メタン魔術まで多彩に使ってくる。燃焼による酸欠まで狙ってくるトリッキーな相手だ。見た目は完全にパワーファイターだが変則的な攻撃も可能らしい。
だが、流石にもう使える魔術は全部出尽くしただろう。相手が使えない魔術で効きそうな物を試していくか…
だが、ある程度溜めが必要になる。どうやって隙を作り出すかな…
考えているうちにあちらから動きがあった。
口からメタンガスを吐き出すとこちら側の空間を満たすように広げてくる。
窒息をさせる気か、だが…
こちらも同じ性質の魔力で領域を広げて拡散させ対抗する。
驚いたろ?
まさかこちらもメタンが使えると思っていなかったのだろう。カモシカに驚きが見られる。一瞬だが体が硬直した。
そこに追い打ちを掛けておこう。
俺はガススプレッダーからメタンを散布してヤツが振りまいたものと合わせてお返しする。
逆に窒息させられる事を危惧したのかこちらに対抗してメタンを上に吹き飛ばすように操作してきた。
メタンは空気より軽いからもともと上昇しやすい。その場に留めようとしても押し負けて吹き飛ばされてしまう。
だが、それが狙いだ
魔力線を強化してガス玉を作り出すと穴の上部、壁側で爆発させる。
爆風は土壁を崩してこいつの上に土砂をまき散らす。
視界が閉じる。
―複合術式
その隙に魔術を構成する。
―操水衝波術式、
背中の水槽から水をすべてくみ出して右手に巻き付かせた。
その間に、相手は体の上に乗った土を身震いして落としている。土煙が収まる頃にはもう術式は完成した。
右手を振るい水の固まりを横からあばらの付近に叩きつけてやる。
―衝打《しょうだ》水厳槌《すいごんつい》
体内を衝撃が打ち抜く。衝撃は肺に伝わったようでカモシカは口から血を吐き出した。だが、まだ倒れない。
素早く右手に引き戻すと魔力を再充填する。十分に魔力を浸透させ、腕を振りかぶってから前に向かって腕を振り抜く。
その動作に遅れて水の固まりが相手の背中、腰の部分に落下して打ち
耐えかねたのかカモシカの後ろ足は折れ、地面に膝をついた。
もらった!
魔術を解除して水塊を切り捨てると弾かれたように前に出て
―電熱術式、電華熱閃
腕を突き出して刺す、そう動こうとしたときだ。ヤツの二本の角が放電を開始し、その間に電子の固まりが出現する。
―カウンター⁉
体が自然と回避行動をとる。
放たれた電子の槍は恐ろしい速度で迫ってくる。体を
体勢を崩しながらも切っ先を変えて胸の中心に向かって突き入れる。分厚い胸骨を貫き、心臓の前にある魔石を押しのけて心臓に刺した。
熱と電流により心臓の細胞は破壊される。荒れ狂う魔力は魔石と肉体の繋がりを断ち切った。
刃を抜くと夥しい血液が
確実に死んだことを確認すると刀を鞘にしまい獲物を亜空間にいれた。狩りは完了した。
手強い相手だった…
自然とそんな感想が浮かぶ。あの熊より苦労したかも知れない。あの時は相手から向かってきたから戦うだけで良かった。
今回は逃げる相手を逃がさないようする必要があった。事前の準備を含めて苦労が多い。
最終的に金網デスマッチのような格好になったが至近距離で戦うのはこちらにとっては不利な条件だった。魔力量も体重も相手が上だと力押しで崩される危険性が高い。
そして、穴に入ってからは作戦も何もあったものじゃない。その場その場で対応を考えていったがあまり綺麗に狩る余裕はなかった。
獲物を確認してみる。
皮は傷が塞がっているが毛は切られたままだ。切ったのは俺だが…
角の表面にもうっすらと刀傷がついている。内蔵も傷みがあるな。肉の価値は下がってしまうか…
まあ、それも仕方ない。逃げる相手がこれほど
魔石の状態も確認してみる。
最大魔力量 52211
5万超えか。最後は刀で突いたが表面に傷などは入っていない。恐ろしく丈夫だな。
魔術回路についてはなかなかわかりやすいシンプルな構造をしているな。これはこれでいいサンプルになる。
結果としてはそれなりに満足した狩りだった。
穴から土魔術を使って出ると、穴を塞いでベースキャンプに帰る。
そこで一晩過ごした後、カモシカを
さて、もう一度狩りに出るか? それとも王都に帰るか?
迷ったが、それなりにハードな狩りだったので狩りへの欲求は今はあまり感じない。
一度王都に戻るか…
今回の狩りは二週間ほど掛かっている。家に帰るにはいい頃合いのような気がする。
俺は王都への帰路についた。
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自宅に戻るとまず郵便受けを確認する。するとまたギルドからの手紙がきていた。
中身を確認したら丁寧な文面でまた折を見てギルドに来て欲しいという内容だった。
どうするか…
俺の昇格についての話もあるようだが他にも用件はあるらしい。若干きな臭い部分もあるな。はっきりと書いていないところが特に…
大きなことが起きるかもしれない。そんな予感がした。
先に自分のやりたいことを済ませてからにするか…
後回しにすることに決めてその日はゆっくりと休む。
翌日、俺は念願の自動車について調べてみることにした。
念願のと言う割にはついぞ忘れていたのだが他にやることがあったのでしょうがない。
王都をいろいろ見て回っているうちに発見した自動車屋に行ってみる。
値段の相場がわからないから怖くてなかなか入ることが出来なかった。見ていたら買わされそうだし…
だが今の俺には少なくない貯金がある。買える値段だと思えば遠慮なく見ることもできるというものだ。
地球では免許が取れる年齢ではないがこちらはそこら辺が緩そうだから大丈夫だろう。狩猟免許も取れたし。
大通りに面した自動車屋に行き建物の中に入る。
中にはゆったりとした空間に十分に間隔を開けて実車が展示されていた。
一応、店員に声を掛けてから見ることにする。
「見せてもらっていいですか? 」
「はい。どうぞ扉を開けて乗って見てください。よろしければあちらに机がありますので調査用紙に記入をお願いします 」
「では、遠慮なく 」
一番近くにあった車を見てみる。
形は地球の自動車とあまり変わらないが若干フロントの部分が詰まっているか。全体的に丸っこいフォルムをしている。
フロントドアを開けて座席に座ってみると中はゆったりとしたスペースが確保されている。居住性を優先した設計になっているのかも知れない。
シートやハンドルは革張り、メーター周りは木材をメインに金属があしらわれ高級感がある。
ハンドルの周囲にライトやウィンカーのスイッチと思われるレバーがあった。いじってみるとほとんど地球と変わらない様式で配置されている。
エアコンはついてないようだな。こちらの人間は暑さ寒さに強いだろうから必要はないか。
シフトレバーはマニュアル式なんだろう。木製のノブの
地球ではほぼ見かけなくなったがおそらくマニュアル車だ。図鑑とかでは見たことがある。
座席から出て再び外側を確認する。ボディは主に鉄で出来ていて塗装がされている。ライトやウィンカーは透明なプラスチックのような素材で覆われている。
プラスチック…だろうな… こちらにもあるんだな
ワイパーとかもついているな。雨も降るから当然か。窓ガラスは普通のガラスっぽいな。
タイヤは黒いゴムで出来ている。軽く叩くと柔軟性と硬さを手に返してくる。地球と同じように中に細いワイヤーが入ってて補強されているのだろう。
ホイールは魔鉄製だな。等級はそれほど高くないが錆びにくいし丈夫だ。長く持つだろう。
値段を見てみると700万エスクはする。まだまだ高い買い物のようだ。説明書きを読んでみると魔力式水動車とある。同じ形状の別の展示車両を見るとこちらは魔力式気動車と書いてあった。
他にないかと見てみると単に可燃ガス式と書いてあるものもある。こちらの方が高いな。
いったん置いといてアンケートでも書こうか…
アンケート用紙には名前、年齢、職業などの他に使える魔術なんかも書く欄がある。書きながら考えを巡らせる。
魔力式は魔術によって動かすタイプなんだろうな。
水動車が水魔術で水を動かしてその動力を回転に変えて動かすと言う方式。タービンを回してその回転をギアで受けてタイヤの軸を回す構造になっていると思われる。気動車は水を気体に置き換えたものだろうな。
魔術の上手下手で性能に差が出てしまうのがネックになりそうだが燃料費が掛からないのはいい。
可燃ガス式は魔術が使えない人でも動かすことはできるが燃料費は掛かり車体価格は若干高くなる。
今後の普及次第で様々なバリエーションが生まれてきそうだ。雷魔術が使える身としては電動車が一番使いやすいんだがあまり使い手がいないんだろう。
アンケート用紙を出すついでにディーラーにいろいろ聞いてみた。魔術が使えてもあまり得意ではない人は魔石炉を使用することで性能を上げることができるということだ。
魔石炉によって魔石を燃料のように使えるらしい。狩人が魔石を一定以上の値段で売れるのはこれが原因か。石油採掘業のような仕事でもあるのか。
魔石炉を付けるのも金が掛かるのでそういう人は可燃ガス式を購入するほうが無難と言う話だ。
ガスの製造にもおそらく魔石を使用していると思われるのでガスを買う方が割高にはなりそうだがどうだろうな?
運転するに当たって免許の取得とかは必要なのか聞いてみたが今はそこまでしっかりした制度は出来ていないそうだ。まだ、車を持っている人が少ないのもあるのだろう。
普及が進んでいけば信号とかのインフラもできて制度化していくのかね?
ただ、一応交通局で車両管理番号を取得するときに交通ルールの講習は受けないといけないらしい。メーカーが提供する運転教習もあって運転の仕方は教えてくれるという話だ。望めば魔術講習もやってくれるという。
国としてもメーカーとしてももっと売れるようにしたいのかもしれない。
道路もかなり力を入れて整備しているしな…
話の途中で俺の職業についてディーラーから話を振られた。どうやら狩人が車に興味を持つのは珍しいらしい。下級の狩人なら買う金がないし中級以上なら車並みの速度で走れるからだそうだ。
上級だと伝えると結構驚かれた。魔力の大きさから予想はつくと思うんだけどな。無意識に抑えてしまってるのだろうか、俺は…
魔境の中ではいつも気配を消している。癖になってきてるのかもな…
話を終えるとまた展示車両を見てみる。
ディーラーから見えない位置で床に
フレームの間、車体の下をグルッと太めの管が通っている。どうやらエンジンルームに当たるところで繋がっているようだ。
ここを水がぐるぐると回りタービンが回転する。そういう感じだろう。
一通り見終わったが、はっきり言って欲しい。
車があればもっと自由にジャックスが出来たのにと常々思っていた。
手頃な運賃の自動運転タクシーはあったが未成年だけでは利用できなかった。いざというときの緊急ブレーキを自分の責任で掛けなければならないと言う理由からだ。他にも理由はあったのだろうけどとにかく使えなかった。
自分でも思った以上に車に憧れがあったことに今更ながらに気づく。
こちらには年齢制限は今のところ無いらしい。買えるだけの貯蓄もある。購入する腹は決めた。
ただ駐車場の問題はある。いざ購入するとなると現実問題をどうにかしないといけないな。
俺が住んでいる地域では駐車場は見たことがない。新たに借りることは難しそうだ。
離れた場所に借りてそこまで走って行って車に乗って自宅に行き荷物を積んで出発… うん、不便だ。なにより格好良くない。
トレーニング機材は片付けてスペースを確保して車庫として使えるようにするか。一部の機材は可変式に改造して廊下とかに置いて使えばいいか。横幅は大丈夫だと思うから十分いけるだろう。
車庫証明などの制度について聞くと交通局で手続きをする必要があるそうだ。やはりあるよな。
車のサイズを覚えていったん家に戻ると工房スペースに入るか計算する。
それなりに余裕はあるな
トレーニング機材を亜空間にしまっていき余裕で駐車できるスペースを確保していく。
機材の位置を交換して省スペース化しやすい懸垂マシンなどを亜空間にしまうと、改造して廊下などに設置していく。
リビングにバーベルなんかが置かれるようになってしまった。
最初は一人暮らしにしては広い家だと思っていたがこうしてみると案外狭いものだ。
俺が物を持ちすぎているのかも知れないが…
とりあえず車を購入する準備は整った。だが先にギルドにいくとしようか。
身分証を提出するときに七ツ星より八ツ星の方が
我ながら小さいことにこだわるなとも思うが意外にこういう細かいことが効いてくる。そんなことがこの先ないとも限らない。アピールは必要なんだろう。