車屋に行った翌日、ギルドを訪れるといつものようにキリアムが対応してくれる。
件の手紙を渡すと自動的に手続きが始まった。
「今回の昇級の件ですが
星が一つ増えた会員証を受け取る。星の打刻が一つ増えている。まだまだスペースに余裕があるのだが九つより上があるのだろうか?
まあ、あの鳥は星で言うなら十二ぐらいにはなるかな? 魔境の探索が進みより強力な狩人が誕生して情報が集まっていけば星の上限も増えていくのかも知れないな。
「ここまで早く昇級するのは異例中の異例ですよ。今回は学会からの
「なるほど、そういうことか 」
だいぶ力を入れて書いているからな。当然の結果と言えば当然だが評価されるのはうれしいものがある。
「それでですね。その学会からレインさんに指名依頼が来ているのですがどうなさいますか? 話だけでも聞いてみてはいかかでしょう 」
……なるほど、そういうことか
「学会というかシャーリーンからではないのか? 」
心当たりは一人しかいない。どうなんだね?
「……良くおわかりで、その彼女からの依頼です。魔境の調査に関する依頼のようですね。詳細は直接会ってから詰めていく流れになります。受けるならまたこちらで会談の日時を調整いたしますが… 」
どうするかな。なんとなくハメられているような気もしなくはないが不快と言うほどではない。
しかし、リーンのヤツ、思いのほか偉い立場なんじゃないか?
学会の上層部に顔が利くのかも知れない。これは是非とも関係性を深めておいた方がいいな。
「とにかく話を聞いてみることにする。調整をお願いしよう 」
「そうですか。ありがとうございます 」
キリアムはほっとしたように礼を言ってくる。学会との関係を維持していくのも大変なんだろうか?
気の毒に思うべきなのか、労をねぎらうべきなのか。同情するのは変かな。良い顔で礼は言われているし余裕はありそうだ。苦労と言うほどでもないだろう。
どちらかといえば俺がこれからする苦労の方が問題だよな。魔境の調査なんて大変に決まっているよな…
人のことを考えている場合ではなかった!
「それでは決まったら連絡をくれ 」
「手紙でお知らせいたします。二、三日は王都にいてください 」
「了解した 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日後、郵便受けにギルドからの手紙が来ていた。
二日後の午前に王都魔術学院で話し合いと言うことになったらしい。受付に言えば案内してくれる手はずになっているそうだ。
それまで何するか…
車を買いたいところだが運転の講習を受けたり交通局に行ったりとやることが多そうなのでもう少しまとまった時間が欲しいな。
結局、いつも通りトレーニングしたり本を読んだりして過ごした。
そうこうしているうちに会談を行う日が来た。
正直、学院にはあまり行きたくないがこの際だ、仕方がない。とりあえずベッドから起きて、身支度をすると走って学院まで行く。
人が多い…
正門から入るが周辺の道や広場になっているところには沢山の人が歩いている。朝早い時間帯はやはり人が多い。ここで学ぶ生徒達や職員、教授なんかも家からやってくるのだろう。
結構お年を召した人が多いな…
学び舎というと若者をイメージしがちなのだが学校と言うより研究機関という側面が強いのかも知れない。
しかし、誰も彼もが賢者に見えてくる…
賢者というと白髪白髭を長く伸ばしたおじいさんというイメージがある。そこら辺にいる何でもなさそうなお年寄りも怪しく見えてきた。
ひょっとすると一般人に紛れて人を観察しているかもしれない…
いや、考えすぎか?
慎重に、しかし、挙動不審にならないよう周りを確認すると、おやと思う人物がいて目を奪われる。
長いさらさらした金髪を流して歩いていた。金髪から覗く耳の先は尖っていて、瞳の色は透き通るような緑色をしている。性別はおそらく女性だと思う。
あれが森人という種族か…
そこではたと気づいた。
賢者は
考えても仕方がないので受付を目指す。場所はいまいちわからなかったが割とすぐに発見できた。
案内してもらい会談場所という部屋の前につく。なんでも、リーンに割り当てられた部屋だと言う。
なかなか重厚な扉だ。いい木材を使用しているんだろうな。木材に詳しくはないが見ただけでわかる。
リーン… 結構偉いんだな…
わかりやすい尺度が目の前にあるとわかりやすい。当たり前だが。
案内の人がドアを開けて中に入った。かなり広い部屋だ。
部屋の主はこれまた重厚で豪奢な木製の机の奥に座っている。背中を預ける椅子は革張りで社長の椅子って感じだ。
そこに中学生ぐらいの女の子が座っているのは違和感しかない。
「お招きいただきありがとう 」
「似合ってないわよ、そういうの 」
「……そうか? それは悪かったな 」
こちらでの割と正式な返しだったんだけどな。変人の類いには通じないのか?
そういうものとして
投げやりになったとも言えるが…
お互い談話スペースらしきローテーブルとソファがある場所に移動する。座って向かい合うと早速話が始まる。
「あなたに依頼したい魔境の調査なんだけど… 」
いきなり本題か…
だが、向こうから持ちかけている話だから別にかまわないしその方がありがたい。話が早くて助かる。こちらは基本的に聞き役に徹しよう。
「王都からちょっと遠い場所なんだけどここから西に300メルセウスぐらい行ったところにカンヴァル湿原って魔境があってね。そこの調査をお願いしたいの…
めぼしい魔物がいないし地形的に狩りに適していないから狩猟者は入らない。もちろんギルドの施設もないところでね… 」
1セウスは大体1メートルぐらいだ。もともと人が横に二人並んだぐらいの長さを基準にしているらしい。メルは1000倍を表す。300キロ位なら距離は問題ない。
しかし、それはそれとしてかなりキツイんじゃないかな? 全く道がないのは困る。現地にたどり着くだけでも時間が掛かりそうだ。
「一応ある程度、途中まで道は整備されているんだけど問題はそこからね。足場が悪いから木の上を渡っていく事になるけど魔物からは目立つことになるのよ。魔物の目を欺く方法が必要になるし雨が降ることが多いからその対策も必要ね 」
「途中まで道が整備されているってことは近くに人里があったりするのか? 」
「いいえ、人里は無いわ。だからこそ調査が進んでないとも言えるわね。その道を使うのは採取ギルドの人たちなのよ 」
採取ギルド? 初めて聞く…
「採取ギルドってのはなんなんだ? 」
「知らないの? 上級狩猟者なのに… 」
「ギルドには登録したばかりなんでな 」
まだ半年も経ってないよな? まだ四ヶ月ぐらいか…
「そういえばそうだったわね… 」
リーンは俺の言葉に納得するとすぐに説明を始める。切り替えが早いのも助かる。
「採取ギルドというのは狩猟ギルドの内部組織なんだけど魔物を狩るよりも珍しい植物を採取したり魔物と言えないような小動物や虫を捕獲することに特化した組織ね。戦闘技術より強い魔物を避ける技術を修得して魔境の中を探索するのが仕事よ
植生とか環境、魔物の生態に詳しいことが求められるから所属するのは結構難しいの。レインは向いていると思うんだけど興味はない?」
「あまり植物には興味ないんで難しいだろうな 」
「そう… 残念ね 」
まあまあ、残念そうな感じだ。それなりに本気だったかも知れない。
すまんね…
「この依頼も本来なら採取ギルドに依頼することなんじゃないか? 」
「…チッ、勘がいいわね 」
チッてなんだよ。
「一回、依頼出したんだけど誰も引き受けなかったのよ。採取ギルドも人員不足だし戦闘はそこまで得意じゃないから無理をさせられないし 」
「俺なら無理をさせても大丈夫だと… 」
ちょっとジト目でにらんでみる。
「あはは… 」
笑ってごまかすなよ。
「でも実際大丈夫でしょ。強力な熊の魔物を綺麗に狩り取って魔境の最奥にまで調査に行ってる 」
当然知られているよな。根拠がないわけでもないか。
「まあ、行って帰ってくることなら可能だろう。でも俺は植物の採取とかは自信が無いぞ。やったことがない 」
「そこは大丈夫! なんたってこの私が教えるからね。あの水準の報告書が書けるならそんなに難しくはないわ。絵もうまいし 」
絵がうまいのは七割方コアの機能のお陰だ。ちょっとやり過ぎたか?
だが、いまさら仕方がないし関係の構築には今のところ役に立っている。あとはそのさじ加減か… コントロールできるのか、この俺に。
「現地に行く前にしばらくここに来てもらうわ。明日から一週間ぐらい今日と同じ時間にここに来てちょうだい 」
「……?」
あれ? 受けるって言ったかな、俺。
返事に詰まると追求が来た。
「まさか断るの? 悪い話ではないと思うけど 」
意外そうな顔でこちらを見てくる。リーンの中では確定事項なんだろう。話し合いの余地はないのか?
だが、確かに興味が無くはない。しかし、安請け合いしていいんだろうか? なし崩し的に無理難題が飛んできそうな気がする。
断りづらいんだよな。リーンを見ていると妹の影がちらつく。もうすでにコントロールできていない。
「受けるつもりではいる。ただいつ魔境に入るかはこちらで決める 」
「そうそう、そうこなくちゃ 」
なんか調子いいな。とても上級研究者だとは思えない。外見からすでにそうではあるが。
一応、なし崩し的だが引き受けることになった。やる以上は真面目にやるつもりだ。詳細を詰めるためにしっかりと話を聞いていく。
その最中に接近してくる大きな魔力を感じた。
かなり大きな魔力だ。扉の外までやってくるとそこで止まる。静かな部屋にノックの音が響いた。
リーンに似ている魔力だな…
「入っていいわよ~」
すでに誰かわかっているのだろう。軽い調子で声が掛かると訪問者は扉を開けて入ってきた。
年の頃はリーンと同じぐらいだろう。中学生ぐらいに見える。始めに目に付くのは鮮やかで深い緑色をした髪の色だ。短めにして降ろしている。目の色も深い緑色をしている。魔力変異だろう。
背丈はリーンよりやや高いぐらいか。整った顔立ちは幼さを残し男女の区別はわからない。なんとなくリーンと血縁、いや双子の関係であると感じる。
「おや、お客さんだね。あなたがレインさんか… 」
こちらを知っているようだ。リーンの兄なら当然か…
俺たちがいるところに近づく。その間に自己紹介がはじまった。
「初めまして。レムリオン・シス・プラムゼフゼリアです。リオンと呼んでください。リーンの双子の兄です 」
男なのか…
声質はリーンよりハスキーな感じだがそれだけではわからなかった。言われて初めてわかった。
目の前までくると握手を求めてきた。椅子から立ち上がり握手をしながらこちらも返答する。一応、初対面らしく丁寧な感じだ。
「初めまして。レイン・シス・プラムゼフレルドです。よろしくお願いします 」
「こちらこそ、よろしくお願いします 」
挨拶が終わると兄は妹の隣に座り話しに加わってくる。妹に用事があるんじゃなかったのかな? 急ぎではないのか…
調査計画について進めていくと途中で話がそれて雑談になったりもする。
そのときに俺が所有する魔石の話になった。
「レインは今どんな魔石を所有しているの? 上級狩人なんだし貯金代わりにいくつか持ってたりしないの? 」
「リーン、失礼だよ。あまり人にそういうことを聞くものじゃない… すまないねレイン。妹は魔石の
兄が妹をたしなめる。リーンがこんなだと苦労してそうだな。
「別にかまわないがギルドにほとんど卸しているからめぼしいものはないと思うぞ 」
「そういえばそうだったわね。まるごとギルドが引き取っているって報告書にあったわ。なんでそうしているの? もっと高値で引き取るところもあるでしょ? 」
そんなことまで知られているのか… 油断ならないな…
「こちらに来たばかりでほかに引き取り手を知らないしな。ギルドとの関係も良好にしておきたい 」
「ふ~ん、じゃあいいわ 」
向こうから聞いといて興味なさそうに返された。なんとなく腹が立ったので何かないかと記憶を探っていく。
そういえばあれがあった
「こんなものがあるんだが… それなら別に興味はないか… 」
財布にしている腰の巾着袋から小さな魔石を取り出すと天井に掲げて光にかざす。
出したのは大ムカデから得た紫色の魔石だ。あんなサイズの虫はあれ以来見たことがなかったので珍しいものかも知れない。
横目で見るとリーンの目が大きく見開かれ雰囲気が変わる。関心が無い態度から一変して真剣なものになった。
効果は抜群だ。