周囲に溶け込んだ色に変化しているのかだいぶ見えづらいが蛙がいた。
いつぞやの街でみたヤツよりだいぶ小さいがそれでも体長は20センチぐらいはある。茂みの中に隠れ潜んでいるようだ。
よくよく見てみると魔力変異なのか背中に二本の棘がついている。後ろから飲み込むとかえしになるように配置されているのだろう。
捕食者から身を隠しているところなのか…? となるとそいつがこれから登場するかも知れないな…
そう考えていると湖の中から大きめの魔力が接近してきた。それは水から這い上がると岸をしばらくのっしのっしと歩き回り良い場所を見つけたのか丸まって眠りに就いた。
大きなサンショウウオのような魔物だ。体長は尻尾まで入れて2メートルぐらいか。
ひなたぼっこのつもりなのかもしれないな…
どういう効果があるのかはわからないが変温動物だし暖かいのは気持ちが良いのかも知れない。乾燥や紫外線は魔力でどうにでもなりそうだしな。
それ以上の興味を失うと普通にその場を離れようとする。探索の続きをしよう。
しかし、俺の気配に気づいたのかサンショウウオは起き上がるとこちらに近づいてくる。
敵意みたいのはあまり感じないな。興味を引いてしまっただけか。もっと離れるまで気配を消しておけば良かった。
そう思っている内にも、のっしのっしと近づいてくる。
どうするか?
俺は雷魔術で手のひらに雷撃を発生させる。
バチッ、バチッと周囲にリズミカルに破裂音を響かせると
あんなに早く動けるとは…
意外な機敏性を見せた相手に少々面食らう。
悪いことをしたな…
それと同時にちょっとした罪悪感もある。
まあ、魔境とはそういうものか。俺の方が強いから
二時間ほど湖沿いに移動しているが特に発見できたものは無い。
しかし、広い湖だ…
地球の頃と違ってこの体は歩く速度は速いのだが湖をグルッと回るのは一日では無理だな。何日かかることか…
途中で引き返してキャンプ地に戻ることにする。
森林地帯を抜けるのが面倒なんだよな…
迷わないように出てきたところに戻ってきたのだが、いざ入ろうとすると
とりあえず木の上に乗ってみて気配を探ってみる。
あのウナギのような魔物はいなさそうだが…
また襲われては堪ったものじゃない。樹木魔術で駆け抜けると窪地の縁に戻ってくる。
テントまで戻り調査内容をまとめて夕食を取る。その後、すぐに眠りについた。
肉体が寝ている間に湖の中を探索する方法を開発していこう。つまりは水中用偵察体の作成なのだが開発の方向性はどうしようか。
水中と言えば魚型が思い浮かぶが亜空間の中を探っていくと死蔵しているステルスバイパーの亡骸が目?に付いた。
これの骨格をベースにして開発していこう。蛇の骨格を生かした魚型の偵察体。これを目指すところとしてスタートする。
蛇の頭骨は紡錘形に近くそこまで水の抵抗を生まないだろう。しかし、さらに水中での速度を増すために流線型をした剣のような形状に成形していく。
次は頭部に搭載するセンサー類についてだ。
湖の深さがどれぐらいのものかわからないがおそらく底の方はほとんど光が差さないだろう。それに合わせて暗くても探索できるようにしなければならない。
調査のことを考えるとライトで照らしてはっきりと確認することが望ましいが魔物に見つかることを考えると容易にその手段は取れないな。
エコーロケーションで周辺を探りつつ何かを発見したら発光させて可視光で捉えるようにするか。
超音波の発生は魔術で骨を振動させれば可能だ。返ってきた超音波を人工魔石で検知するようにしよう。同じ人工魔石で可視光の検知もしたいところだが無理そうだったので目を増やすことにする。
頭骨を成形して魔石を配置するくぼみを左右二つずつ作りはめ込んでいく。これで頭部は完成した。
次にコアの波動を
後は尻尾側のデザインだな…
背骨の形状は横に伸びている所を削って縦に棘を伸ばして魚の形状に近づける。
これで骨格は出来上がった。
肉の部分は水を魔術で操って筋肉の代わりに動かすとする。
わざわざ水と骨だけの存在を襲う魔物がいるとは思わないが縄張りに入ってきたものをとにかく攻撃するというパターンもある。万全であるとは言えないがこれでやっていくしかない。
問題が出ればその
ちょっとわくわくしながら夜が明けるのを待つ。
…まだ明るくならないな
いつもより明るくなるまでが長い。
テントに何かが当たってくる音が響き始めた。
雨だな… マジか…
雨が降っている間は調査も出来ない。早めにやんでくれれば良いが最悪何日か降り続けるかも知れない。
テンションが下がるな…
テントの中で雨がやむのを待つが雨音は激しさを増していく。
ちょっと強すぎないか?
慌てて肉体を起こして土魔術と水魔術を駆使する。テント場の崩壊を防ぎに取り掛かった。
水魔術で水の侵入を防いで土魔術で土壌を固めていく。
予期せぬ危機に逆にテンションが上がってくる。それならばとテントの中で座禅を組んで目を閉じて精神を集中させる。
一時間ほど経つと雨脚は衰えてきて危険性をあまり感じなくなった。
……朝食にするか
相変わらず携帯食料とスープ、干し肉なんかを食べるとすぐに食事が終わってしまう。
テントの外を確認するとだいぶ雨は弱くなってきている。空をみるとところどころ光が雲の間からうっすら見えている。
あと一時間もすればやむだろう。そう目星を付ける。
待っていると予想通りに雨はやんだ。昨日霧が晴れてきた時間と同じような時間にやんだと思うが偶然だろうか?
ともあれ晴れてくれたので調査を再開することにしよう。
魔術を使って森林地帯の枝の上を渡っていく。泥地は水位が上昇して濁った水で一面が覆われている。
ウナギのような魔物が活性化しそうだな…
なるべく早く抜けようと速度を上げていく。森林地帯が終わるところに近づいてくると速度を落としてちょうど切れたところで止まった。
おお……これはこれで絶景と言えば絶景だな
見渡す限り一面に水が張られている。水位の上昇は窪地全体に及んでいると言うことか。窪地を埋め尽くすほど水が溜まっていないと言うことはどこかから水が漏れているのかもしれない。
地下水として流れ出ているのか、川のような排水ルートがあるのか?
まあ、それは今はいい…
周辺に人がいないことを確認すると、俺は枝をしならせて反動を付けて飛び出した。水泳の飛び込みのように両手をそろえる。指の先が水面につく手前で偵察体に換わる。
「
剣のような頭の先から水面に入っていく。入りながら魔術で水を纏っていくとチャプンッと静かに水中に躍り出る。
さて、水中散歩といきますかね…
体をゆったりとくねらせて静かに進んでいく。濁りは思ったよりない。眼下には分解されずに折り重なった枯れ草が見える。
枯れ草の隙間に小魚とか小さなエビとかが確認できた。昨日の蛙はこう言うのを食べているんだろうか?
中心に向かっていくと進むにつれて水深は深くなっていく。
それに従って深度を下げていくと急に深くなっていく所に来た。
光はそこから差すのをやめたかのようにほの暗い水底が見えるばかり。
……ちょっと怖いな
少しばかり躊躇したが超音波探知も併用しながら壁沿いに潜っていく。
枯れ草が積み上がった壁にはところどころ穴が開いていて生き物の存在を臭わせる。
ある程度深くなると光が感じられなくなり闇の中を進むことになった。
エコーロケーションで壁側を探知しながら進む。時々壁に大きめの穴が開いていてそこから今にもなにかが飛び出てきそうでちょっとドキドキする。心臓はないけど。
エコーでは前方を円錐状にしか探知できないので後ろから襲われる危険がつきまとうが現状では気配を探るぐらいしか手がない。
水の流れぐらいなら感じることは出来ている。だが、後方にもセンサー類を配置すべきだったか?
今後の課題だな…
何かを考えることで不安を押しやって深度を下げていく。
やがて湖の底と思わしき場所にたどり着いた。
偵察体の下部が底に突き当たったのだがその感触は砂に当たったような泥に当たったようななんとも言えない感触だった。
壁側と逆を向いて湖の中心に向かってさらに進んでいく。
潜っている途中から深層に入った実感はあるのだが、中心に進めば進むほどさらに空間の圧は増す。圧し潰されそうなほどだ。
……こいつは気を引き締めないとマズいな
湖底すれすれを進んでいくと深度はゆっくりとだが増していく。
静かだ…
音はカプセルを通してコアで拾うことが出来た。そのため当初の想定よりも聞こえていたはずだったのだが、今は何も聞こえない。
生き物の気配のようなものもしない。実際にいないのか、それとも湖底の泥砂の中に潜んでいるのだろうか?
警戒しながら進んでいくと傾斜がなくなり平坦な場所が続くところにでる。
しばらく進んでいくがこれ以上深くなったりはしない。
……ここが底に当たる部分なのだろうか?
頭の中にある地図と航路を当てはめて考えてみるが中心部まではまだ先がある。
中心までいく必要はない。だが、せっかく来たのでそこまで行ってみたい気持ちと、この先は危険だと訴えかけてくる本能が対立する。結果…
……もう少し先に行ってみるか
好奇心には勝てないな
警戒を強めながらゆっくりと前進していく。
あまり変化はないが着実に嫌な感じは強くなっている。しかし、同時にどこか知っているような魔力を感じていることに気づく。
思い返せば水に入ったときにはすでに感じていたのかも知れない。
この魔力をどこで感じたのだったか……
……あぁ、そうだ!
水のアキアトルの魔力だ。知っているも何も人間体の魔石にしている。未だに名残のように魔力の面影が残っていた。
どこから感じるのか注意深く探ってみると、どうやら湖底の泥砂の中からのようだ。
体の下面を底に付けると頭のうえから水触手を一本伸ばし、その先端を雷魔術を使って発光させる。
チョウチンアンコウみたいだな…
その光を使って湖底を照らしてみると泥砂の中にキラキラと光を反射するものがあった。
水を操って人間の手のようなマニピュレーターを作りすくい上げてみる。可視光センサーに近づけてよく見てみると砂の中をもぞもぞと何かが動く。
なんだ?
虫のような小さな生き物でもいるのかと思った。光を良く当てて観察する。
するとちっちゃなアメーバ状のものが何十匹も、すくい上げた砂の上に出てきて
気持ちわるっ!
思わず手を払ってしまった。砂と一緒に何かが散っていく。
だが、気になる存在であるのは間違いない。調査の必要性は感じていた。少し時間をおいた後、気を取り直してもう一度すくい上げてみる。
蠢くアメーバの中心で極小の結晶が光を反射している。結晶は砂粒をいくつかまとめて固めたような大きさで米粒よりも小さい。
まさかこんなに小さな魔石があるとはな…
このアメーバはどうやらすべて極小サイズの水のアキアトルらしい。
ちっさいな…
あれと比べるとなんとも儚げに感じる。脅威は感じなかった。おそらく無害な存在なんだろう。ある種、分解者のような役割なんだろうか?
ここの環境を形成する一因になっていそうだ。きちんと研究しなければわからないことだろうが…
まあ、それは俺の仕事ではないけれど。
頭にリーンの姿を思い浮かべ持ち帰ってみることにした。亜空間から採取用の瓶を取り出し湖底の泥砂と水をすくい上げる。それからすぐに亜空間にしまいこんだ。
念のためにもう二本同じように採取する。
これだけでも十分な成果にはなりそうだ。リーンのやつに面目は立つだろう。
亜空間に生物は入れられないと思っていたが魔力を浸透させて支配下に置けば何とかなるようだ。仮死状態になって保存されるような感じで取り出せば何事もなかったかのようにまた動き出すだろう。
亜空間に入れなくてもちょっとやそっとでは死なないと思うのだが持ち運びが楽なのは良い。問題は取り出すところを誰かにみられないようにすることだが見られなければ問題はない。
調査に関してはリスクと
そうでもしなければ不可能なことだからな…どうしようもない
そんなことを考えていた。ふと、提灯に照らされた光の範囲内に大きな物体が入り込んでいることに気づく。位置は左…
明かりで照らしてよく見みると生き物のようだ。
………
……
…
はぁ~、でかいな~