機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第78話 X 湖底に潜むもの

……マズい、現実逃避をしている場合じゃない

 

光を消して様子をうかがってみる。

 

極力気配を消してみるが相手の注意は一向にこちらに向いたままだ。

 

困ったね… どうするか?

 

じりじりと時間が流れていく。

 

このままどっか行ってくれと願う。だが、無駄のようだ。

 

魔力の波を感じた。何か仕掛けてくる…そう悟ると瞬発的に動いて泥砂の中に潜り込む。

 

魔術で砂をかき分けつつ湖底の下を進む。水術と衝撃術を併用して体を地中に打ち込んでいった。

 

なにやら相手は水を吸い込むような技を掛けたようだ。間一髪躱すことができた。吸い込まれたらどうなっていただろう?

 

だが、まだ終わりじゃない。地中に逃れた俺を探す術ぐらいはありそうだ。この場からすぐにでも離れたい。

 

体をくねらせつつかき分けて進んでいきヤツから距離を取ると湖底から抜け出す。

 

その瞬間、体を真っ直ぐに伸ばして水の抵抗を減らすと水魔術で水を後ろに押し出して推進力を得る。

 

水面に向かってぐんぐんと加速していき相手を引き離していった。あまり動きの速い相手ではないようだ。

 

だが油断はできない。魔境深層、それも最奥(さいおう)にいる魔物だ。水中では勝ち目がない。

 

追いかけてこないで欲しいがどうだろうな?

 

それを期待して相手をぶっちぎれるようにスピードを上げていく。

 

水で構成された流線型の体に魔術を利用した水動力式エンジン。水の抵抗をほとんど生じさせずに加速していく。

 

水面が近づいてくると入射角を小さくして湖の岸へと向かう。

 

水面から出る瞬間に人間体に『 換装(チェンジ) 』して水中から勢いよく飛び出した…

 

…全裸の俺が

 

腕と足を前後に伸ばした格好で飛び出した俺は放物線を描いてから着水すると水切りの要領で水面を跳ねていく。

 

胸と腹で水面を打って跳ねる。魔術も使用して一跳ね一跳ねの距離を稼ぎ、陸を目指した。

 

股の間にあれを挟んでおいて正解だった。あれを打つ心配がないのは動作に安定感を生む。

 

浅い場所にたどり着いたときには若干速度も落ちている。足をついて止まると周辺に人がいないか確認を行った。

 

人目を気にして全裸になるってどういうことだろうな?

 

―ドバンッ‼

 

そんなことを感じていたら背後で水面が爆発したような音が響いた。飛び散った水滴がこちらにも飛んでくる。

 

爆発音は結構近かった。思ったより動きは速いようだ。追跡力もなかなかに高い。完全に相手の興味を引いてしまったらしい。

 

相当な速度だったんだけどな…

 

ヤツに向かって振り返りつつ服と鎧を身につけた。100メートルぐらい離れた位置、水面に浮かぶ黒い塊が目に映る。

 

……クソデカいサンショウウオだ

 

大きな丸い頭に太い胴、短い手足に太くて長めの尻尾。体色は黒っぽくて目の位置がわからない。体表は光を反射してすべすべぬらぬらしているように見える。

 

大きさはわかりにくいが体長は20メートルぐらいあるかもしれない。頭の幅は5メートルぐらいか。昨日遭遇したサンショウウオは少しシュッとした感じだったがこいつはずんぐりむっくりした体型だ。

 

水魔術で浮いているのだろう重そうな体だが水面からかなりの部分が出ている。

 

浅瀬には上がりたくないようで接近してくる様子はない。

 

このまま帰ってくれねぇかな?

 

そう思ったのが良くなかったのだろうか? 相手の魔力が膨らみ攻撃を確信する。

 

水魔術… どんな形式だ…

 

ヤツが口をわずかに開ける。瞬間、水流が高速で伸びてきた。

 

―…ドンッ!

 

横に大きく飛び退くと元いた場所を風切り音と共に水流が通り抜ける。後方で爆発が起きた。

 

遠距離でもかなりの威力だ。魔力線を高速で伸ばす術式…速度と威力に割り振っている感じだな。

 

だが射線がわかってしまえば避けられる。

 

当たらなければっ…て、おいっ

ーシュッ…シュッ…シュッ………

 

ほとんどタイムラグなく連続でレーザービームが飛ぶ。

 

流石にきつい…なっ、…と

 

右に左に何とか躱しているが狙いが正確な上にこう連続で来られると息をつく暇がない。

 

足下もふくらはぎの下あたりまで水につかっていて足場が悪い。魔術でなんとか動きやすくしているがじり貧だ。

 

打って出るか? そう考え始めたとき攻撃がやむ。

 

向こうも疲れてきたか?

 

とりあえず息がつける。だが、俺が見ている前でサンショウウオの方は水を大量に飲み込みだした。明らかに攻撃の準備。それも…

 

……大技が来そうだな

 

次に来る攻撃の苛烈さを予感して戦慄が走る。

 

何をしてくる?

 

魔力視も最大限使用して相手の挙動を見逃さないように凝視して構える。間もなく給水が終わると魔力に変化があった。

 

……来るっ!

 

放たれたのは最初と同じような水のレーザーだ。

 

またこれか…

 

すこし拍子抜けしつつ初撃は躱した。だが避けた瞬間、レーザーが俺を追ってくる。

 

くそっ!

 

身をひねりながら空中に飛んで躱すが、さらに軌道を修正して追尾して来る。

 

空術で宙に足場を作るとそれを蹴って急転換、水面に着地する。

 

予想外の動きにすかされたのか軌道は一旦大きく()れた。だが、すぐに修正されて俺を追跡してくる。

 

そう来るよなっ!

 

水術で水面の弾性を上げて跳ねたり水糸を使って軌道を変える。空術で足場を作って多段ジャンプを行う。使える魔術はすべて使って避けていく。

 

踊らされてる気分だ…

いつまでっ… 続くっ!

 

躱し続けていくと唐突に攻撃がやんだ。

 

終わりか?

 

そう思い気が緩みそうになった。そこを突くようにノーモーションで再び攻撃が放たれる。完全に意表を突かれた形だ。

 

フェイント!?

 

躱せない…そう判断して迎撃するために魔術を速攻で練り上げる。

 

―雷刃術式、雷光斬

 

“雷豪丸”を正眼に構えてウォーターカッターを正面から迎え撃った。

 

水流は刃の高圧電流により左右に分かれて後方に流れていく。

 

重てぇな…

 

高出力を維持していないと押し切られそうになる。腕に力を込め足を踏ん張り、体勢を維持して魔力を絞り出していく。

 

幸いにしてこちらの魔術が続いている間に敵の攻撃は勢いを低下させていき、やがて止まる。

 

今度こそ止まったか?

 

構えを解かずに相手の行動を注意深くうかがっていると、相手は再び大量の水を飲み込み始める。

 

またあれが来るのか…

 

魔力の感じからどうやらまた同じ魔術を放ってくるようだ。それでこちらを仕留められると思っているらしい。悔しいがそれで大体あってる。

 

同じ事をしていては押し負けてしまう。

 

どうするか?

 

俺はウナギが俺の水魔術を容易(たやす)く躱して見せたことを思い出した。

 

水には水か…

 

すでに作ってある魔術を改修して対抗策を作り上げていく。

 

―操水形成術式、

 

足下の水がせり上がってきて形を作る。

 

滑性(かっせい)堅水鎧(けんすいがい)船殻(せんかく)

 

船のような形をした水の鎧を作り上げた。

 

水流を切れるように船形は前方が鋭く後ろに向かって滑らかに広がった後すぼまっていく形になっている。

 

相手はこちらの魔術をみても攻撃方法を変更するつもりはないらしい。そのまま水を吸い上げて術式の準備を整えると発動させてくる。

 

さあ、来やがれ

 

放たれた高圧水流は船首に当たると二つに分かれながら船底に潜り込むような軌道を取り船体を上に持ち上げていく。

 

水流を受け流しながら船形を細かくいじっていき水流が渦を描きながら後方に流れていくように調整する。

 

水流の上に乗った船体は発生した渦により徐々に前進する。水流の発生源たるサンショウウオに向かって遡上(そじょう)していった。

 

それに焦ったのか水流に変化を加えてくるがそれに合わせてこちらも船体を変化させて水流を乗りこなす。

 

船はサンショウウオまであと30メートルまで迫る。

 

…そろそろ仕掛けるか

 

船を変形させると水流に弾かれて上に飛び上がっていく。

 

飛んでいる間にも纏っている水を変形させて両手の平の上に球状にまとめる。

 

―熱変換・複合魔術

 

魔術を変更して別の術式を起動していく。

 

―水空複合、温度上昇

 

水の温度が急激に上昇して水球が膨張する。

 

蒸炎(じょうえん)術式、

 

サンショウウオの頭上に躍り出ると術式を発動させる。

 

両生類にはこれが効くだろ…

 

熱波蒸爛(ねっぱじょうらん)

 

両手から目に見えない水蒸気の巨大な固まりがヤツに向かって高速で迫っていく。

 

―ドンッ!

 

超高熱の蒸気は湖面を一瞬で沸騰(ふっとう)させると大爆発を起こして俺を吹き飛ばす。

 

青空がいっぱいだな…

 

空中を盛大に飛ばされながら視界いっぱいの空をなんとなく眺めていると森林地帯まで飛ばされたようで木の枝葉に背中を受け止められた。

 

そのまま気配を消して様子をうかがう。

 

………

 

……

 

 

どうやらヤツはそのまま湖底に引き返していったようだ。思いのほかあっさりしてる。

 

やはり蒸気による攻撃を嫌がったようだな。鱗のないヌメヌメした肌なら親和性が高くてなおかつ性質の異なる攻撃なら十分に通ると考えたが正解だった。

 

と言ってもまあ、当たる直前に水中に逃げられていたのだが…

 

思ったより行動が素早い。当てていたらどうなっていた? まだ戦闘は続いていたかな? 当てなくて良かったかも知れない。

 

引いて行ったのは余裕で圧倒できると思っていたのが思わぬ反撃を受けて気勢(きせい)がそがれたといった所だろうか?

 

単なる興味本位でちょっかい掛けていたのかもな…

 

始めから本気でやるつもりだったらあの程度では逃げなかっただろう。遊び程度であれだけの威力の魔術を放ってくるとは…

 

本気だったら最初の魔術でも危うかったか…

 

あの鳥より魔力は低かったと思う。だが、あいつも上級上位の更に上に属する魔物なんだろう。水中で戦うならあれよりも難しい相手だな。そんなことは絶対にしないけど…

 

魔力の回復を待ってしばらく息をひそめる。少し経ってある程度回復したのでキャンプ地に帰ると決めた。

 

よっ!

 

息まいて立ち上がり方角を確認する。

 

こっちか…

 

樹木魔術を使用し細枝を蹴って跳ぶ。樹冠を渡って進んでいった。

 

樹木魔術もだいぶうまくなってきたな。細い枝でも十分な強度にして足場にすることが出来るようになった。

 

他の魔物から攻撃を受けることなく無事に帰る。ここには樹上を気にするような魔物はあまりいないのかも知れない。

 

いや、水位が上がっているときはおとなしくなるとも考えられる… それともあのクソデカサンショウウオが暴れたことが原因なのか?

 

後者なら俺のせいだな…怪我の功名とも言えるが…

 

テントに入り遅い昼食を取るとその日はもう調査はしないと決めた。調査したことを報告書にまとめつつ体を休めてのんびりと過ごす。

 

その間、調査について考えていく。

 

水が引くまでは調査を控えるか?

 

いや、水に浸かっているときの植物の様子とかも重要か。多少無理をしてでも調査を進めるべきかもしれない。

 

調査用に魔術をブラッシュアップしておこうか…新たに開発もしてみよう。

 

対策を考えながらその日一日を費やした。

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