機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第79話 調査からの帰還

クソデカサンショウウオと戦った次の日からもまた森林の調査を行っていく。

 

朝はやはり霧が立ちこめていたが、その環境についても調査する価値があると感じた。視界の効かない霧の中を移動していく。

 

―空間統御術式、霧界

 

霧を魔力域内で掌握(しょうあく)してその範囲内で動くものを探知できる魔術式を構築した。

 

欠点としては他の魔術を同時に使えないことと移動速度に制限が掛かることがある。枝を渡るのも泥を動かすこともできないので足を泥の中に突っ込んでいくしかない。

 

そのために泥の中を移動しやすい胴付き長靴を作成して着込んでいる。

 

最初は整地歩行が難しかったが慣れてくるとスポンスポンと泥にはまった足をリズミカルに抜いていくことが出来るようになってきた。

 

なかなか癖になるような感触だな…ちょっと気持ちいい

 

生き物の動きを感知するとそれぞれに合わせた対応を取る。大きめの生き物でこちらを攻撃してきそうなものは威嚇して追い払い、小さい生き物は捕まえて観察した。

 

小さなエビとかカニが多い。小さな蛙や水生の昆虫、巻き貝なんかも確認できる。

 

ちょっと面白くなってきたな…

 

霧が晴れるまでそんな感じで探索した。

 

霧が晴れてきたら木々を渡り移動速度を上げる。森林地帯の広範囲を探索していく。

 

湖の周辺は今回の調査ではもう探索しないつもりだ。あいつを刺激してまた戦闘になったら次は結構危うい気がする。

 

岸辺を調査するだけなら大丈夫な気がするが慎重にいこう。少なくともあいつの記憶から俺が消えるまでは近づきたくない。

 

サンショウウオの記憶はどのぐらい持つんだ?

わからんな…

 

そんな感じで調査を進めていきとうとう予定の最終日を迎えることとなった。

 

森林地帯の四分の一ぐらいと湖周辺の一部、それに湖内がほんの少し。

 

一週間の調査ではこのぐらいが限界か。

 

調査できた範囲ですらまだ探索は十分でないような気もしている。本格的にやりたければ年単位で時間が掛かるだろうな。拠点の整備や通路の建設なんかも必要だ。

 

依頼を受けて調査しただけ…

そこまでのめり込むこともないか…

 

あまり首を突っ込みすぎるのも良くない気がした。俺の本来の目的を忘れてしまいそうになる。

 

これはこれで楽しいのだけれど…

 

地図にメモッた動植物の生息域に向かいサンプルを採取していく。

 

植物は樹木魔術で根っこをある程度まとめて土魔術で土ごとくりぬいて鉢のような容器に入れていく。

 

エビやカニなどを捕まえると魔力水が入った瓶に入れて蓋をする。魔力水に漬けると小さな生き物は仮死状態になるらしい。リーンはこれで一週間は持つと言っていたな。

 

魔力水は魔鉄と同じように魔力含有量が多くなった水なんだそうだ。魔石炉にも使われるそうで研究だけでなく産業にとっても重要な資源という話。

 

一応、魔石を使って生産する事も出来るようだが作るのは難しいらしく値段はけっこうするらしい。なんでも魔力を留めた状態にする安定化が難しいとか。くれぐれもこぼしたりしないようにとリーンから念を押された。

 

そういえばあれもそうだったな…

 

湖の底から極小アキアトルを採取した時、一緒に回収された底のあたりの水は魔力水だった。結構質がいいやつだ。案外これだけでもたいした発見かも知れない。

 

リーンにも面目が立ちそうだ…

 

時間ギリギリまで採取を続けるとキャンプに戻りテントを片付けて車に戻る。

 

その頃には、あたりはすっかり日が落ちて暗くなっていた。もう一泊車中泊を行い明け方に出発する。

 

こうしてカンヴァル湿原での調査を無事に終えることができた。ちょっと間違えたら無事ではなかったが無事だ。

 

苦労した分それなりの成果になったのではないだろうか?

 

水動車の運転にも磨きがかかって考え事をしながらでもスムーズな加減速が出来ている。

 

王都へ向かう高速道路の上、軽快に飛ばしスピードを楽しむ。

 

普通に旅行するのもありだな…

 

王都に到着すると直接学院に向かった。リーンとの約束の時間もあるしなるべく早く届けてやりたい。

 

裏門から入っていき備えられた道路を行くと広い駐車場にたどり着く。車を使う職員はまだまだ少数のようで止まっている車はまばらだ。

 

トラック用に広めの枠線もあり資材の搬入路も兼ねているのだろう。

 

車を止めるとトランクを開ける。荷物を整理しているフリをして亜空間からサンプルを取り出し箱に詰め込んでいく。

 

結構大きな箱で三箱分ぐらいになった。とりあえず一箱ずつ運んでいくことにする。

 

予定通りリーンは自室で首を長くして待っていることだろう。早めの時間ではあるが待っているはずだ。それなりに律儀な人柄ではある。

 

ドアの前までいくと一応ノックはする。だが、返事を待たない。

 

「お帰り! どんな感じだった? 」

 

中に入るなりすぐさま挨拶と状況確認が飛んでくる。やはり待っていた。

 

「成果は上々といったところだ 」

 

俺はそれに対してにやりと笑って応える。謙遜はしない。事実を端的に伝える。狩人の流儀ってヤツだ。

 

箱を空いている床に置くとリーンはすぐさま蓋を開けて中身の確認を始めた。サンプルをキラキラした目で()めつ(すが)めつ眺める。

 

俺は子供におもちゃを買ってきたお父さんみたいだな…

 

「後二箱あるから取りにいくぞ 」

 

声を掛けるが夢中になりすぎて聞こえていないようだ。返事はない。

 

都合、二往復してすべてのサンプルを運び終えるがその間もリーンはただただ夢中で眺め続けている。

 

少し驚かせてやろうか…

 

そんなリーンの様子を見ていたずら心にも似た感情が沸き上がって来た。どんな反応をするのか好奇心もある。

 

俺は三箱目からとっておきの、極小アキアトル入りの瓶を取り出す。それを室内灯にかざしながら振ったりして見てみる。

 

透明な粘液に見える体をもぞもぞと動かし、ゆっくりとした動きを見せる。

 

おお、良かった。生きてるっ

 

生存を確認すると、未だサンプルに見入っているリーンの目の前に例のものをすっと差し込む。

 

「なによ… 」

 

邪魔されて少しむっときたのかジト目でこちらをみてくる。

 

「見て見ろ、面白いものが見れるぞ 」

 

俺はそれを意に介さず意地悪そうににやりと笑って返す。

 

そんな俺に何かを感じたのか素直に瓶を受け取る。直後、目を見開いてはっとしたような表情になり、俺がやったように光にかざす。すぐさま良質な魔力水に気づいたようだ。

 

流石だな…

 

数秒ほど眺めていると俺が見せたかったもの、極小のアキアトルを目視で確認できたようだ。

 

すでに見開かれていた両目がまだ広がるのかってぐらい開かれる。その目は少し血走っていた。

 

…ちょっとこわいよ

 

………

 

……

 

 

そのままの状態で一分ほど固まっていただろうか?

 

さすがに心配になってきたので声を掛ける。

 

「おい、リーン 」

 

ダメだ、聞こえていない。

 

そこで肩を叩いてみる。

 

トントンッ こちらレイン応答せよ

 

少し間をおいてようやくこちらに帰ってこれたのか俺の顔に焦点があった。

 

おお、良かった。生きてるっ

 

だが、目は血走り見開かれたままだ。コワいよっ

 

「これ! どうしたの! 予定にはなかったよね? 」

 

なんと応えたものか…

 

「気になったんでな…ちょっと無茶をしてみた 」

 

答えを聞いて何を思ったのか俺のつま先からてっぺんまで視線を這わせる。

 

心配してくれてるのかな…

 

目視で確認して満足したのかほっとしたような表情を見せた後再び質問が飛んでくる。

 

「どうやって採取したの? 方法は? 」

 

それを聞いちゃうか…そうだよな…

 

もちろん本当のことは言えない。水中偵察体にチェンジしましたっ…なんてな。

 

ちゃんとした嘘を仕込むためにもここは一旦引くとしよう。

 

「後日、きっちりと報告書に書いて提出するから待っといてくれ 」

 

これで見逃してくれないか?

 

「えぇ~、今言いなさいよ 」

 

待てないのか、ほしがりさんめ…

 

「今日は疲れているんだ。また後でな 」

 

ちょっと突き放すように言う。

 

倦怠期の夫婦みたいだな…

 

「わかったわよ。待ってあげる 」

 

意外と聞き分けが良い。

 

「それより標本を処理しなくて良いのか? まだ生きているんだから早く移さないとダメなんじゃないか? 」

「ああ、そうだった。じゃあ、私は作業に移るわ。報告書楽しみにしてるね 」

 

あっさりと引き下がってくれた。最初からこうすれば良かったか?

 

「ああ、それじゃあ俺は帰る。報告書は完成したら直接持ってくる 」

「うん、それじゃあまたね 」

 

リーンの研究室を出て周辺を警戒しながら車に戻ると帰路につく。

 

一週間ぶりぐらいの我が家だ。賃貸だけど…

 

湿地帯にいたせいか風呂に入りたくなったが生憎と浴槽はない。

 

台所に行き薪でお湯を沸かすとタオルを濡らして絞り、体を拭いていく。

 

ふう…気持ちいいな

 

そういえばこちらにも温泉があるんだったか。あのとき道路にイノシシが現れたせいで入り損ねたがお湯に浸かる文化はあると言うことか。

 

王都でも探せば風呂屋はあるのかも知れない。今度探してみるか。ないなら自分で風呂屋を開くのもありか…いや、ないなら需要はないと言うことか。開いても客は来そうにない。

 

……冷静になれ、俺

 

くだらないことを考えているな。風呂屋を開くなんて普通に考えればなしだろう。地球の文化に郷愁(きょうしゅう)を感じているのだろうか?

 

別に風呂なんて好きというわけではなかったんだがな。清発で簡単にきれいにできることを歓迎していたんだけど贅沢なものだ。

 

体を拭き終わると報告書を書き始める。

 

とりわけ問題なのはどのように湖底の水や土を採取したかだな。

 

水の上を中心に向かって歩いていく。そこから紐を付けた瓶を垂らしていって底を(さら)ったことにするか?

 

方針としてはそれで合っていると思うが本当にそれで可能かどうかは疑問が残る。

 

うまく瓶の中に土をすくうことができるだろうか? すくえたとして引き上げているときに底の水と途中の水が混ざることはないのだろうか?

 

器具を作って機械的操作ですくったことにしようか? 蓋を閉めるような機構も付けて…

 

それではどうして事前にそこまで用意していたのかが引っかかるか。

 

魔術的な制御ですべてを解決するしかないようだが、果たして…

 

水魔術で水を制御して採取することは可能か?

 

100メートル以上魔力線を延ばさないといけなくなるな。普通なら無理だろう。

 

魔鉄のワイヤーを通して魔力を流すか?

 

俺はまだ鉄魔術は使えないからな…100メートルは流石に無理だな。

 

麻の糸を作って樹木魔術で動かすようにするか。糸を巻いた状態から魔術を発動して徐々に伸ばしていく…これなら何とかなりそうではある。

 

蓋も糸で吊って開閉する簡素なものであれば操作できるしその場で作成することも可能だ。

 

これでいこう

 

問題箇所に目処がついたので報告書を作成していく。

 

今回は車で現地へ向かったところから記録した。ふと冒険録風に書いていこうと思ったからだ。

 

書いていくうちに熱中してきた。

 

臨場感もたっぷりに読み物として面白いものに仕上げていく。ただし、脚色はしない。報告書としてあくまで事実を記載して正確な資料にする。

 

…いや、嘘だ…脚色するわ

 

コアを使ったところは改竄(かいざん)しとかないと出せない。すでに書き始める前に方針を決めたばかりだった…

 

まあ、そこには目をつぶることにしよう…

 

ちょっとテンションが下がったが気を取り直して書き始める。

 

書きながら調査の詳細について思い出していくとわくわくがぶり返してくる。再び書くことに熱が入ってくる。

 

これは小説として出版しても面白いんじゃないか?

 

そんな気持ちが起こってくるがあまりおおっぴらにすると面倒なことになりそうだ。

 

いろいろな人にいろいろな角度から見られることになる。その中から自分でも気が付かなかったおかしさに気づく人間がでてこないとも限らない。

 

「お前は嘘をついている。さては人間じゃないな 」

 

なんてことをいきなり言ってくるやつはいないと思う。だが、何かやっているんじゃないか? 何か隠しているんじゃないか? と、探りを入れてくるやつは出てくるだろう。

 

ちょっともどかしいな…

 

まあ、俺という生き物に根付いている事だから受け入れるしかない。悪いことばかりではないしむしろ恵まれていると言って良いだろう。

 

トレーニングとか家事をやりつつ報告書を書いていく。

 

 

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