完全に徹夜をすることになったがそれほど眠気は感じない。
あの光景を見てまだ興奮が残っているのだろうか?
拠点に戻るとログハウスの中でベッドを見てやはり少し眠ることにしようかと思い仮眠を取った。
昼を少し過ぎたところで起き、鍵を閉めて車に向かう。
車に到着すると状態を確認して破損がないかチェックする。無事だったのでそのまま車の中で一晩過ごして翌朝に王都へ向けて出発する。
予定より早く終わったのでリーンは学院にいないかも知れない。
なので事前に連絡しておく。
一番近くの街のギルドにいって学院に電話を掛ける。職員に用件を伝えてこちらの到着予測がリーンに伝わるようにしておく。
問題なく伝わっていると良いんだがな…
伝わらない可能性もあるし、伝わっていても予定が合わない場合もある。
まあ、なるようにしかならないので兎に角学院に向かうとしよう。
高速を飛ばして王都市街に入り学院に着くとサンプルを亜空間から箱に並べてリーンの部屋まで運んでいく。
途中の廊下でリーンがこちらに歩いてくるのが見えた。こちらの魔力を感受したらしい。
見るからにご機嫌な足取りだ。
部屋で待つように言ったんだけどな…
駐車場に来られていたら亜空間を使っているところを見られた可能性がある。待ちきれなくてこちらに来たんだろうけど、その何気ない行動が俺にとっては大迷惑なことだ。
いや、俺が
リーンと目先の距離で対峙する。
「待たせたか? 」
「おそいわよ、もうっ♡ 」
リーンはしなを作って艶っぽく言ってくる。本人は大人なやりとりをしているつもりなのだろうか?
見た目が完全に中学生なので冗談にしか見えないのだが指摘するのは野暮というものだろう。
「聞いていると思うがうまくいった。後で報告書に書くが面白い現象を目撃したぞ」
華麗にスルーだ。リーンの部屋に向かいながら話をする。
「面白い現象って? 」
それを聞くと途端に研究者の顔になる。切り替えが早い。
「それは後にしよう。今は標本をどうするかだな? 」
扉の前に来るとリーンが先行して開けてくれる。
部屋に入って床に箱を置くとドアを閉めたリーンはすでにこちらに駆け寄ってきていて直ぐさま箱を開ける。
黙りこくって真剣な表情で蓋と側面にラベルがついたガラス瓶をひとつひとつ確認していく。
やがて最後に何も書かれていない瓶を手に取ってまじまじと確認する。ぱっと見では水しか入ってないように見えたことだろう。
その特殊性に気づいたようだな。目が見開かれる。
「これは……なに? 」
瓶に入ったアキアトル達はお互いに魔力線をつなげたままにしていた。連携して周囲から魔力を吸収しているようにも見える。ちっちゃなアキアトルがまとまった感じが面白い。
「さっき言った面白い現象だ。詳細は報告書に書いておく。待っといてくれ 」
俺は採取場所をメモした湖の見取り図を渡す。
それを受け取ると言わんとすることは伝わったようだ。サンプルを箱に戻して中に見取り図を入れると蓋をして梱包し出す。送り状のようなものを上に貼り付けて発送準備は整ったようだ。
「それじゃあ俺はいくな。報告書はあさっての午前にでも持ってくる 」
「うん。ありがとう。それじゃあね 」
自宅に帰ると早速報告書の作成に取りかかる。
もうだいぶ慣れたものだ。コアに記録された映像を再生して詳細に仕上げていく。
次の日の夕方には完成した。予定通り明日の午前中に持って行くとしよう。
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(別視点)
「あいているわよ~ 」
自室の扉の前に兄がやってくるのを感じるとノックをするより早く許可を伝える。
それを聞いて
(ご機嫌だね… )
機嫌が良いのは珍しくはないがここ最近は特にそういう様子を見せることが多い。
(レインのお陰かな )
あの風変わりな狩人が執筆した報告書は自分も読んだことがある。狩人が書いたと言うより研究者が書いたような詳細なものだった。
魔物や魔境を研究する妹にとってまたとない人材。今も彼からもたらされる情報に好奇心が刺激されっぱなしなのだろう。
危険を
学術的な調査が出来るならなおのことだ。
(ちょっとうらやましいな。僕も何か依頼してみるかな… )
だがこちらが依頼を出せばその間、妹の依頼は受けられない。いい顔はしないだろう。
わざわざ不機嫌にさせる必要はない。
雑談を交わしながらそれぞれの研究について情報を交換していると前に妹に依頼したある地域における古い資料の掘り起こしについての話になる。
「そうそう、あれなんだけれどレインに依頼してみようと思うのよ。直接今の状況を調べてみないと結局何もわからないわ 」
「……それは危険だから止めた方がいいと思うけど。いくらレインでも一人じゃ危険だよ 」
「一人じゃないわ。私もついていくもの 」
一瞬聞き違いかと思い言葉がでなくなる。しかし、前にそのように言っていたことを思い出すと止めなければと思う。
「ダメだよ、絶対にダメだ! 足手まといになるだけだよ。レイン一人だけの方がまだ安全だ… 」
「さっき一人じゃ危険だって言ってたでしょ。戦う練習はしているから支援ぐらいは出来るわ。足手まといにはならない 」
「……… 」
こうなると妹はきかない。経験上わかっている。それに自分も研究者だ。危険とわかっていても踏み込んで見たいという気持ちはわかる。
自分がレインに依頼を出したいという気持ちを妹が察してのこと、そういう可能性もあり得る。
説得が難しい状況なのは間違いない。
「……まあ、僕が止めるのはお門違いか。お互いに成人している大人だしね 」
レインが断ってくれることに期待を掛けてもいい。凄腕の狩人だ。自分たちより慎重に動けるはず。そういう思いからとりあえず静観することに決める。
「そうそう。自分のことは自分で決める。責任は自分でとるわ 」
それ以上は踏み込まずに別の話題に移っていく。
しばらくすると大きな魔力が接近してくるのを感じる。
(レインか… )
妹の方も気づいているようだ。
扉が叩かれると返事を返す。
すると扉が開き予想通りの人物が入ってきた。
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予定通り書き上げた報告書を持って学院を訪れる。
人があまり居ない時間は把握済みだ。人気のない廊下を進んでリーンの部屋にいく。
リオンも居るようだな
扉をノックして返事があってから中に入ると二人は机を挟んで立ち話をしているようだった。
座って話せば良いのに。そんなに込み入った話ではないのかな。
リーンに報告書を提出すると彼女はそれを真剣な眼差しで読み始めた。
その間、リオンと話をすることにする。
今日はちょっと読み終わったあとのリーンと話をするつもりなので待たなければならない。
リオンが居てくれて良かった。
「リオン。時間があるならまた魔術について教えてもらって良いか? 」
「少しだけならかまわないよ。何から話そうかなぁ… 」
話す内容をちょっと考えると続ける。
「前回は魔力の大本についてだったね。今回は魔術についてあまり一般的じゃない話をしようか。レインは固定魔術と自由魔術って言葉を聞いたことはあるかい? 」
「いや… ないな。なんだろうか? 」
「僕らは魔石に刻まれた魔術を頭の中で魔術式として理解しているわけだけれど魔術式はひとまとまりのものではなくて、いくつかの小さな式が集まったものと考えられている 」
ちょっと驚いた。コアで直接分析できる俺と違ってもっと感覚的に理解していると思っていたのだがそこまで細かく研究できているなんてな。
「その場でその小さな式、つまり要素を組み合わせて魔術を構成して使用するのは恐ろしく難しい。出来たとしてもうまく動作させるのは困難だし、動作したとしても魔力の消費量は莫大なものになる
魔術は経験の蓄積によって無駄が省かれて魔術として機能する、といったところかな 」
「……… 」
こちらも魔術に関しては一家言持っている。意見を言いたくなるが
……ヤバいぞ、これは
自重しないと…
「要素を構成していく上で目的の現象を引き起こすために必要な要素もあれば不要な要素もある。別の要素で補うことが出来る場合もある。要素自体に変化性のある要素もある。要素を並べる順番を変えることが出来る場合もあれば変えられない場合もある
魔術式には組み合わせる自由度があるけれど何でもいいわけじゃない。ある程度は固定化されてくるんだ 」
「固定の度合いが強ければ固定魔術、弱ければ自由魔術といったところか 」
「そうだね。完全な固定魔術も完全な自由魔術も存在しない。すべての魔術はその間に存在しているんだ。固定か自由かを分ける定義は今のところ存在しない
より一般的には名前が付けられて今に伝わっている魔術が固定魔術と呼ばれるね 」
「その固定魔術を教わることはできるのか? 」
ほとんど独学しかしたことがない。ここらで人から習ってみるのもいいんじゃないだろうか…
「可能だよ。学院でも魔術教室はあるからね。でも学院で教えているのは研究に役立つ魔術が主体だよ。狩りに役立つものはあまりないんじゃないかな? 」
「問題ないさ。とにかく自分の知らない魔術を身につけてみたいんだ。今度授業を受けさせてくれないか? 」
いいよなっ、なっ、なっ?
「いいけど……やっぱり変わっているね、レインは 」
よし! 言質は取った。
断るなよ?っていう魔力を送って良かった。
「魔術を身につけるには市井の魔術教室に通う方法もあるね。習えるのは簡単な固定魔術だけなんだけれど。そこで習うことが出来る魔術は完全な固定魔術に近いものなんだよ 」
「そうなのか? 」
「構成を極限まで単純化して誰でも扱えるような魔術を目指しているものばかりでね。簡単に理解できて魔力の消費も少ない。適性が無い系統でも修得することが出来ることが多い 」
「適性が無くてもか。ちょっと興味があるな 」
「でも、レインは行かない方がいいかもね 」
行かない方がいい? なんか引っかかるな…
「どうしてだ? 」
「あまり固定化が進んだ魔術に慣れすぎると応用が利かなくなるんだ。魔術を習いたての人がそういう魔術ばかり使うと成長できなくなるという話があるんだ
レインは相当いろいろな魔術が使えるみたいだから面倒でも自分で工夫が出来る魔術を使った方がいい。自分の流儀に合わせて自分で固定化していくのが狩人としては
もちろん自分で魔術を鍛えた上で生活に便利な魔術を修得するのは良いと思うけど 」
とにかく自力で模索していった方が上手くなると…
そういった魔術は参考程度ってことか…
「なるほどな。俺も自分で鍛え上げていく方が好きではある。そういった魔術教室は俺には向いていないだろうな 」
「そうだろうね。学院で学んだ方がいいよ。希望の授業を言ってくれれば受けられるように調整しておくよ 」
おお、願ったり叶ったりな発言。乗るしかないな、徹底的に…
「ありがとう。くれぐれもよろしく頼む 」
頭を下げて頼み込む。絶対だぞ、絶対。
「……失言だったかな? 」
リオンはこちらの本気にちょっと怖じ気づいたようだ。だが逃がさんよ。妹が負った魔石の代金、耳をそろえて返してもらおうか?
にっこりと微笑んでみせた。