機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第85話 魔術談義② x 魔力水

「それじゃあ最後、実際に魔術を使って実例をお見せして終わりにしようか 」

 

リオンは俺がかけた圧を華麗に躱してきた。

 

やるなっ

 

しかも、リーンが報告書を読み終わるタイミングを見計らっての提案。残りのページと読む速度から計算している。

 

こやつ、出来るっ

 

そんな俺の内心を知ってか知らずか、空気魔術を使って手のひらの上に箱形の空気の固まりを作り出すとこちらによく見えるように差し出してきた。

 

「これがはっきりと見えるみたいだね。やはり空気魔術を使えるのか。流石だね 」

 

その性質の魔術を使えるものはその性質の魔力を視ることができる。

 

バレてしまったようだな…隠しているわけじゃないが…

 

「この空気の固まりは大きさと形、物質量を固定している空気魔術で作り出している。変動要素は硬さだね。今から硬さをいじってみるよ。まずは柔らかくするね 」

 

箱を握りつぶすように指を閉じていくと空気の固まりはグニャリと形をゆがめていって指の間からにゅるっとはみ出てくる。

 

手を広げるとゆっくりと元の形に戻っていく。

 

「今度は堅くしてみるよ 」

 

再び握りこむと今度は形をゆがめて指が少しめり込んでいくが大まかな形は維持されたままだ。

 

パッと指を広げると箱は急速に元に戻ろうとして形を変え、反動でぽんっと上に跳ねていく。その後、手のひらから伸びる魔力線に引かれて手の中に収まっていく。

 

「今度は変化を柔らかい方から堅い方に瞬間的に変えてみるね 」

 

そう言うと箱を握りつぶしていく。箱は最初より更に柔らかく、千切れるんじゃないかと思うぐらい変形していく。

 

そこから弾力性が増すように変化を加えていったのだろう。潰れた空気塊が指を弾くように一気に戻っていき真上に跳ねると天井にぶつかる。跳ね返った箱はリオンの手のひらに収まる。

 

うまいな…

 

弾力を柔らかい方から堅い方に滑らかに性質を変化させる。それを瞬間的に行い箱の動きに合わせて魔力線を伸び縮みさせていた。

 

それを相当な精度で行える…

 

戦っても強いかも知れない。正面から戦うなら今の俺とも良い勝負になりそうだ。

 

「もう知っていると思うけど自由度を持たせるとこういうことも出来るようになったりするんだ

 固定化した要素が多いほど消費魔力は少なくて済むし安定して素早く実行できる。ただ状況に応じて変化させるのはその分難しくなるね

 使い勝手が悪くなる事も考えておかないと魔術の開発はうまくいかないんだ 」

「変化そのものを固定化する方法論もあると思うんだが 」

「へぇ、そこに思い至るんだ。確かにそういうやり方もあるよ。万能というわけではないけれど、下手に変化量を自在にするよりも使いやすくなったりするね 」

 

そう言って別の魔術を実行してきた。

 

腕に空気で出来た丸盾が装着される。それを腕を曲げて腰を落とし、こちらに向かって構えた。

 

相手の意図は魔石がなかったとしても伝わる。俺に殴って見ろと言うことなんだろう。

 

試しに魔力をほとんど込めずに腰の入ってないパンチを放ってみる。

 

―グニィィッ…

 

拳は柔らかいものにめり込んでいくような感触の後に徐々にゴムのような固めの感触になっていく。

 

「もう少し強くやって良いよ 」

 

その言葉に少し腰を落として腕に少々の魔力を込めてパンチを繰り出す。

 

―グニンッ!

 

柔らかいものを貫いた後、徐々に硬度が増していきガッチガチの堅い感触に行き着く。そんな感触が拳に伝わって来た。

 

これを急に出されたら厄介だな…

 

「この魔術はあらかじめ硬さを段階的に変化させている盾を作り出す魔術なんだけど、攻撃が当たった時に任意で発動させて硬さが変化する術式も組み込んである。実戦で完璧に使うには経験が必要だけど発動の瞬間を誤ってもそれなりに働くように出来ている 」

「構築から発動までが速いのが良いな。追加で攻撃を受けた後に固めることで動きを封じることも出来る 」

「そうだね。でもそこまで出来るのは限られた術者だけかな。とっさに構成を変えるのは難易度が高いことだからそうそう気軽にはできないよ 」

 

俺はけっこう気軽にやってしまっていたな。コアで処理できる部分に頼っているからかな? もっと固定する要素を増やして威力と瞬発力を上げてもいいかもしれない。そういう方向性も検討していこう。

 

「自由魔術は自由魔術で良いところも沢山あるんだけどね 」

 

そう言いつつ部屋の中、広範囲に魔力域を広げていく。

 

速いな。濃度も高い。

 

「こんな風に自由自在に動かすことも出来る 」

 

床の上に極小の竜巻がいくつも現れて動いていく。それなのに空気の動きを感じられない。竜巻の余波を打ち消すように周りの空気がそれとは別に動いているのだろう。

 

凄い精度だ…

 

膨大な魔力量があってこそだがそれを操る技量がすごい。いつか直接リオンに魔術を教わってみたいな。

 

何を目的とした魔術なのかと思ったがどうやら部屋の掃除をしているようだ。竜巻の中に埃やゴミが溜まっている。部屋の隅にあるゴミ箱の所まで移動していって中に入ると消滅してゴミが廃棄される。

 

…技術の無駄遣いではあるな

 

ここまでやるなら普通に掃除する方が楽かもしれない。

 

「魔力の消費量はどうしても多くなるし発動までの時間は長くなるけど固定魔術じゃこれほど精密かつ自在には制御できない。自由魔術ならではの面白さがあるね 」

 

楽しそうに語るリオンを見ていると戦闘ばかりに魔術を使っている身としては身につまされる思いになる。

 

使っていないわけではない…しかし、亜空間を使ってしまう事が多いか…

控えたほうがいいな。いつか不自然さに感づかれてしまう。

 

早く鉄魔術を覚えた方がいい。他の魔術も…いや、あらゆる魔術についてだな…

 

今度リオンに相談しよう。

 

「これでおしまいにしようか。そろそろリーンが読み終わる頃だ 」

 

リーンの方を見るとちょうど読み終わったようで報告書から目を離して顔を俺に向けてくる。その表情は真剣なものだった。

 

「これ…ホントなの?ってホントよね。何を聞いているんだろ… 」

 

頭の整理が追いついていないようだ。どう声を掛けたらいいものか…

 

「編集している部分もあるが基本的に見たまま、経験したままを書いている。最後に書いてあることは採ってきた標本と一致するはずだ 」

 

とりあえず事実を端的に言っておこう。これで落ち着いてくれるといいけれど。

 

どうどう…

 

「そうよね……… あぁ、そうだ、例の標本だけど定着したのよ 」

「定着……? 」

 

いきなり落ち着いたと思ったら良くわからないことを言ってきた。まあ、いい。説明を聞こう。

 

「砂の中のアキアトルはやっぱり環境の変化に弱くてこっちが用意した環境に入れてもすぐに死んじゃうのよ。だけど水面に出てきて魔力線を伸ばした状態だと環境が変化してもある程度生存してくれるの 」

「自分から湖底を離れて水面に上がってきている状態だからな。変化に対して何かしらの備えを持っているということか… 」

「その可能性はあるけど研究を進めてみないとなんとも言えないわね…

 一応、魔力線を使って集団で魔力を環境から吸収しているのは確認できたわ。魔力水に入れると状態はより安定するみたい…

 あと集団から切り離すとすぐに死ぬわね 」

 

切り離したのか… ちょっとかわいそう

 

研究にそういうことはつきものか……だが、遠慮していたら何も出来ないか。そういう所は見習っていきたい。

 

「そこで相談なんだけどあれをもっと手に入れられないかしら? 」

「可能ではあるが俺もそろそろ別の仕事をしてみたい。そこでなんだが… 」

 

俺はログハウスの鍵を取り出してリーンに渡す。

 

「これは報告書に書いた拠点の鍵だ。魔境としては湖の深部にちょっかいを掛けなければ魔境としては中層程度でしかない。湖までは桟橋(さんばし)を作ってあるから、いくのはそこまで難しいことでもないだろう。別の人間を雇って採取できるんじゃないか 」

 

もう少し関わってもいいような気はしている。しかし、このままではずるずるとゆるい冒険を続けることになってしまいそうな気がする。

 

セリアからの依頼のこともあるしもっと強くなることを目指して戦っておかないと成長は見込めないだろう。

 

サンショウウオと戦うのは無しの方向ではあるけれど。

 

「……そうね。今回のことで魔力水を安価で安定的に確保できる可能性に王家も注目しているの。騎士団の助力も得られるかも知れないし採取ギルドにも協力を仰ぎやすくなったから目処は立ったといえるわね 」

 

王家!? 話が大きくなったな…

 

ちょっとまずい方向に話が進んでいるんじゃないだろうか? お偉いさんとの繋がりはあった方がいいとは考えていたがいきなり王家ってのは話が進みすぎる。

 

悪いことではないのかも知れないが王家ってレベルになるといろいろ身元の調査とかされそうだな。

 

考えすぎか? しかし、報告書には俺の署名があるし身分?はもう上級狩猟者だ。あちらさんがこっちに注目していないなんてのは楽観が過ぎるだろう。

 

…もっと軽めの所から順番に来てくれないかな?

 

「魔力水はそんなに貴重なものなのか? 」

 

とりあえず軽いところから情報収集しよう。

 

「そうねぇ…どう話したものかしら…前にちょっと話したことがあったと思うけど、どこまで話したんだったかな? 」

「本当に軽く教えてもらったぐらいだな。ほとんど知らないと思ってくれていい 」

「じゃあ、一通り教えるね。魔力水はその名の通り魔力を帯びている水なんだけど人工的には魔石の魔力を利用してただの水に高圧の魔力を掛けて製造しているの。そのときには専用の装置を使うんだけどね…

 強力な術者が水に魔力を込め続ける事でも魔力水を生成できるわ。水魔術の使い手には自分の魔力を込め続けるためにいつも水筒なんかを手元に置いている人が居るわね 」

 

身振り手振りを交えて解説してくれる。しかし、あまりこちらの理解には役立っていないな… 指摘しないけど…

 

「魔石を使用するのか。それならけっこうな値段になるのも納得だ 」

「そうなのよ。人工的に作るのはけっこう大変なの。じゃあ天然物なら安いのかというとそんなことはなくて天然物の方が高いのよ 」

「どうしてだ? 」

「天然の魔力水は基本的に魔境の奥、深層ぐらいにしか存在しないの。たまに中層でも見つかることはあるけど質はあまり高くない。そのぐらいの質なら人工的に作れるから狩人にとっては発見してもうまみはあまりないわね 」

 

そんなにでかい容器を持っていないだろうしな…

 

「深層となると質はかなり良さそうだが手に入れるのは大変だろう。値段は相当なものになりそうだな 」

「そうなのよ。魔境からもたらされる良質な魔力水は高級なお酒にほとんどが使われるわ。私はお酒は飲まないけど 」

「酒の製造… もっと工業とか研究に使われるのかと思ったが 」

「お酒の方が利益になるからしょうがないわ。資本主義ってヤツよ 」

「それは世知辛いな 」

 

何処の世界にものん兵衛はいるもんだ…

 

「そうでもないわよ? お酒の製造も研究みたいなところもあるし。この国は魔力水には恵まれている方だから研究に支障が出るほど逼迫(ひっぱく)しているわけでもないし 」

「そうなのか? 」

「前に話した暴風雨のアキアトル。あれが数年に一度くらいの間隔で王都に来るのよ。そのときに魔力水の雨が降るからそれを大量に集めて使っているの。質は平均すれば中程度といったところだけど…

 他の国に輸出もしているからそこまで余裕があるわけでもないかな? ここ何年かは来てないわね。そのせいで最近は少し価格にも影響しているわ … 」

 

そういえば魔力水は魔石炉にも使われるんだったな。輸出もする重要な資源ということか。

 

「あの湖の湖底の辺りにはかなり良質な魔力水が大量にあるみたいだから資源の確保という面では有力な場所ね… 」

「湖底を刺激するとあの魔物と戦うことになりそうだが 」

「雨が降った後水位が上がるんでしょ? その水位は日を追うごとに低下していく。地下水としてどこからか漏れていると思っているわ。湖から出ていく川は確認されていないのだし

 その水は当然、魔力水である可能性が高い。窪地の周辺を探せば湧き水が見つかるかも知れないわ 」

「そこから水路を引くことも不可能じゃないってわけか。あの周りもせいぜい中層どまりだしな 」

 

国が本腰を入れたら数年ぐらいでものになりそうだ。

 

「そう言うこと。それにあの極小アキアトル、魔力線を伸ばしているやつだけどあれを利用して魔力水を生産できるかもしれないのよね 」

「魔素から魔力に変換してその魔力で雨を呼んでいると俺は推測している。余剰分の魔力で魔力水を生成しているのかもしれないな 」

 

観察して得た知見を話してみる。亜空間での分析結果が裏付けだ。確度はそれなりにある。

 

「レインもそう思うの? やっぱりレインは研究者向きかな。狩猟者を辞めて学院に入ったら? 」

 

おい、辞めるってのはなんだよ。まあ、面白そうではあるのだが。ただ、リーンにいいように使われそうだけどな。

 

「リーン、無茶を言ってはいけないよ。人には人の生きる道があるんだから 」

 

お兄ちゃんは常識的なことを言う。もっと言ってやって。

 

「狩猟者を辞めなくても続けながら学院に所属するっていう方法もあるよ。レインが僕らの研究を手伝ってくれたらうれしいな 」

 

にこにこといい笑顔でいい台詞を言う。しかし、どことなくその笑顔に邪悪なものを感じる。妹の世話を分かち合う仲間が欲しい。そんなところだろう。

 

リオン、お前もか…

 

成果は二倍、苦労は半分。いい商売だな。

 

「まあ、なんにせよ王家が動くなら俺が掛かり切りになる必要はないだろう。後を引き継ぐ人間にはよろしく言っといてくれ。ただ、何かあったときは頼ってくれていい 」

 

とりあえずリオンの方は華麗にスルーだ。

 

「じゃあ、カンヴァル湿原についてはそういうことでいいわね 」

 

リーンはそう締めくくると受け取った鍵と報告書を引き出しにしまう。改めてこちらに向き直るとさっきまでより真剣な面持ちで話を切り出す。

 

なにかね?

 

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