機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第87話 X ファジル・ガルゼファ

より詳細に見える距離まで接近してくるとレガル・ゼファとはちょっと異なる部分があることに気づく。

 

二匹とも胸の辺りの毛の色に違いがある。十字型に赤い毛が生えていた。十字の上の部分が短くなっている。

 

レガル・ゼファと違うのか? 毛も全体的にもさもさしているな。

 

前に調べたことがあったような…

 

記録を探ろうとしたときにはすでに戦闘距離まで接近していた。中断して、とりあえず木の上に位置取り出方をうかがう。

 

木の上に飛び移ると二匹を見下ろす形で対峙する。

 

オオカミの方はこちらを見上げて威圧して来た。牙をむきだしにして(うな)り声を上げ、時折威嚇するように短く吠える。

 

相当ぶち切れているな…

 

こちらが仕掛けてこないと見るや二匹は動き出してこちらを頂点とするVの字に位置取った。

 

なにか仕掛けてくる…

 

魔力の高まりを感じて警戒していると二匹はぴったり同じタイミングで魔術を放つ。

 

音響魔術っ!

 

魔術の性質、規模を見抜くとタイミングを見て枝の上から飛びのいた。

 

二匹から放たれた魔術は俺がいた位置で重なるとその瞬間に背後にあった木を爆発させる。

 

周辺に飛び散った木の破片も連鎖的に爆発してその範囲を広げていく。その余波を食らって俺は地上に投げ出された。

 

完全に()けて別の木に移るつもりだったが狂わされた。波の重ね合わせで衝撃波の威力を跳ね上げたのだろう。

 

息がぴったりじゃないか、うらやましくなるね…

 

そんなことを考えている場合じゃなかった。二匹はお互いが重なるような軌道でこちらの眼前まで迫りつつある。

 

体の(しび)れを回復させて水魔術を発動させると背中のタンクから水を両拳に纏わせる。

 

―弾性操水術式、弾水拳

 

前にいるオオカミの噛みつきに合わせて口の中に右拳を突き入れてかませると水を固定する。

 

すると後ろにいた個体が手の塞がった右側から襲いかかってくる。

 

腕をクロスさせて左を突き出し同じように牙を固定してやる。

 

攻撃は防げたが体勢はあまりよくない。

 

拳から衝撃魔術を放とうとするとあちらも同じ考えだったのか魔術は相殺されて魔力が霧散していった。

 

魔術は相殺されると見た相手は首をひねりながら互いに離れるように動いていく。俺の手が左右に強く引っ張られる。

 

引きちぎる気か…

 

身体に魔力を込めて対抗していく。体格では向こうが有利だが魔力では俺が上。体は(きし)んでいるがほぼ拮抗(きっこう)していた。持久戦の様相を見せる。

 

(らち)が明かないな

 

今度はこちらから仕掛けることにした。瞬発力を重視して水魔術の解除と同時に別の魔術を簡易的に発動する。

 

―雷撃掌

 

バチッとした電流の感触に不意を突かれ、狼が一瞬体を硬直させて仰け反る。その隙に俺は距離を取ろうとして後ろに飛ぶために膝をかがめた。

 

だが、俺が何かをすることは読んでいたのだろう。二匹はすぐに立て直して魔術の構築を完了させる。衝撃術式…

 

あれかっ!?

 

相手が魔術を放つ前に身体を前に倒して地面を蹴った。逆に前に出る。

 

―衝撃術式、衝波壁(しょうはへき)

 

両手の平から別々に障壁を発生させると二匹の眼前に突きつけてそれぞれで受け止めて相殺させる。重ねさせると厄介だ。そうなる前に潰す。

 

こちらの魔術は即席だったが狼たちも十分な溜がない。押されてはいるが邪魔は出来ている。

 

やがて互いの衝撃波がやんだ。

 

俺の腕に軽く痺れが残るが、相手は魔術の発動後にわずかだが隙を見せた。

 

その間にあらためて距離を取って腕を回復させる。そうして出方をうかがいつつ考えを巡らせていく。

 

もふもふの毛皮をあまり傷つけたくはないな。額から脳に一撃を通す、それが現実的か… 首を切るでも十分価値は保てそうだが、首回りもふさふさしている感じがするからやりたくない。

 

理想を言えば口の中から脳に通すことだが噛みつきか衝撃魔術を放つ瞬間を狙って刀をねじ込む必要があるな…

 

数瞬のにらみ合いののち、オオカミは二手に分かれて移動した。

 

俺を中心に反対の位置を取るとその周りをぐるぐると同じ方向に回転しだした。同じ速度を維持して常に俺を中心に置くようにしている。攻撃の方針を決めたようで動きに迷いがない。

 

これは必殺の戦法か…

 

しかし、何をしてくるつもりだ? というか魔力での遣り取りだけでよくこんなに連携できるな。仲がいいことで… ぼっちにはきつい…

 

回転速度が上がってくると攻撃が飛んでくる。

 

空術か…

 

性質を見抜くと魔力視の波長を合わせ、はっきり視認して迎撃する。

 

刀を抜いて切り払うと魔術構成を失って霧散する。返す刀で反対側からきた攻撃も消滅させる。

 

薄い空気の刃で切りつけてきている。かまいたちとか真空波とか言った例えが浮かぶが直線的な攻撃ではない。

 

鞭のように伸びてきて様々な角度から襲いかかってきた。

 

俺は踊るように動きながら刀を振るい間髪入れずに襲いかかってくる空気の刃をたたき落としていく。

 

面倒な攻撃だな

 

威力はさほど強くはないと思うが防御の隙を突かれるとそれなりのダメージにはなる。そんな絶妙な威力の攻撃。

 

こっちが疲れるのを待っているのか?

 

何かを狙っているような気がするが狙いが良くわからない。こちらから仕掛けてみるかと考え始めたときふと気がついた。

 

魔力域が展開されている?

 

うっすらと大気中に別の性質の魔力が感じられる。

 

…来るっ!

 

とっさに魔術を発動させた瞬間、周囲一帯を炎が埋め尽した。

 

かろうじて体の周りを土の壁で覆うことができたが、即席の土壁では熱を完全に遮断(しゃだん)することは出来ないでいる。

 

高温に熱せられた気体の粒子が土の中を通って内部に侵入してくる。魔力を高めて防御するが熱波が肌をじりじりと焼いていく。

 

おそらく空気とメタンの大規模複合魔術。俺の周りを回転し空気の刃を放ちながら周囲のメタン濃度を高めていたのだろう。

 

燃えさかる炎にさらに空気を送り込んで燃焼を高めていく。魔力で制御された熱風は俺を中心に渦を巻いて巨大な(かま)に閉じ込められたかのよう。

 

土壁は熱風に(あお)られて外側からボロボロと崩れていく。内部は酸欠と高温で魔力で防御しても生存できる環境ではない。

 

内部にいればひとたまりもなかっただろう。内部にいれば…

 

―操土術式、土竜坑(どりゅうこう)

 

俺は土の中から飛び出すとオオカミの背後に降り立つ。

 

この魔術の欠点は全身が土で汚れることだが今はいい。

 

大規模魔術で消耗したタイミングだ。突然、背後に立たれパニックを起こしたのだろう。連携も忘れて一匹で飛びかかってきた。

 

それは悪手だ…

 

俺は喉元に食らいつこうとして開かれた口めがけて刺突を放つ。

 

―操空術式、空隙刃(くうげきじん)

 

うっすらと空気の層を纏った刃はオオカミの口腔、口蓋の奥を突き破り小脳に達する。

 

炎は魔術制御を失い霧散していった。

 

そこからさらに空気圧を掛けて組織を破壊するとすかさず引き抜いてもう一匹に向き直る。力を失った狼の体が地面に横たわる。

 

俺は刀を片手で握り、突きの構えを取った。

 

空気を纏わせると傷口が広がって抜きやすくなるな…

 

魔術の効果を実感しつつ新たな魔術の構築をはじめる。

 

―操空旋回術式、

 

残り香のような熱を挟んで向かい合う。もう相手に勝ち目はないはずだが逃げようとはしない。仲間の仇でも取ろうというのか?

 

当然のように向こうから仕掛けてくる。残りの魔力を極限まで高めながら一直線に接近してきた。

 

至近距離での衝撃波…捨て身の攻撃だろう。

 

俺はそれに応えるように魔術を発動する。

 

―風神撃

 

全身を旋回する空気が覆っていくと地面から浮くように足が離れる。そして地上を滑るようにそのままの構えで一直線に向かっていく。

 

お互いが同一線上で迫る。

 

衝突する直前、オオカミの口から渾身の魔術が放たれた。

 

強烈な衝撃波は旋風の壁と衝突するとそれを貫いて圧力を伝えてくる。全身が揺さぶられ軋みを上げるが出力を上げて押し通しそのまま突きを放つ。

 

刃は解き放たれた矢のように開かれた口の中に吸い込まれていった。

 

……俺の勝ちだ

 

全身のやけどを治癒しつつ二匹の遺体を亜空間にしまうとその場を後にして拠点へと引き返した。

 

清発して土を落とした後、ベッドの上で休憩を取りながら今回の戦闘について考える。

 

火炎を使ったことからファジル・ガルゼファという魔物だったと思い出す。レガル・ゼファからさらに変異した魔物だそうだ。

 

体内にメタンを溜めておく器官がある。液化メタンを溜めるガスボンベみたいな器官だ。けっこう堅い。これにも値段がつくのだろうか?

 

魔石を分析してみる。

 

魔力量は二匹とも35000ぐらいだ。個々の能力で言えば上級下位と言ったところだが、二匹合わせると上級中位、上位にはわずかに及ばないぐらいかな?

 

ここら辺で遭遇する魔物としては強力すぎる気もしないではないがきっちり決まった範囲を行動するタイプの魔物らしく中層に出て行くことはほとんどないと言うことだ。

 

とくに異変の兆候と言うことはないようだ。よかった。

 

魔術についてはやはり複合魔術が目を引くな。魔物で複合魔術を使ったのはこいつが初ではなかっただろうか。二体で協力して放つ独特な構成になっているな。これは参考になる。

 

空気魔術のエアブレードみたいなヤツもけっこう独特な構成しているな。今度使ってみよう…

 

めぼしいものはそれぐらいか…

 

分析もそこそこに夕食の準備へと移った。

 

今日はカニ鍋にしよう。

 

カンヴァル湿原で仕留めた泥蟹(どろがに)を調理してみることにする。

 

泥の中で生息していた事から多分泥抜きをしなければ食えたものじゃない。しかし、もうすでに死んでいるからきれいな水槽にいれて泥を吐かせることは出来ない。

 

まあ、生きていたとしても魔物がおとなしく水槽の中にいるなんてことはないだろう。

 

解体士は水魔術を応用して血抜きをしたりするそうだが俺がそこまでうまく扱えるわけではない。解体の経験がないからな。

 

解体に有効な魔術を総じて解体魔術と言ったりする。多くは比較的誰でも修得できるようにした高度固定魔術だそうだが俺がそれを習うのは本筋から外れるような気がする。あくまで俺は狩人だ。参考に出来る部分はあるだろうが。

 

なので亜空間を使う。亜空間で泥臭さの成分を分析して抜いていく。

 

足を切り離して足は塩茹でにする。

 

胴体の部分は鍋に入れて出汁を取ろう。

 

一番大きな鍋を二つ用意してそれぞれ茹でようとするが大きすぎて入りきらない。

 

足は数本にして、胴体は四つに切り分けてその一つを入れる。

 

容量が多いとなかなか沸騰しにくいので指を入れて熱変換を用いて急速に沸騰させる。

 

やってから思ったが水からゆっくりと煮立てた方が良かったのだろうか? 鶏肉は確かその方が良かったんだったか?

 

まあ、良くわからんな。カニだし。食べてみてうまければいいか…

 

カニ鍋の方はブイヤベースのようなイメージで味付けしてみる。食べてみて物足りなかったらカレーの素をいれてカレースープにしよう。困ったときのカレーだ。

 

先に茹で上がった足を食べてみる。最初に食べるのは前腕、爪の部分だ。手に魔力を込めて熱々の分厚い殻を砕いて剥いていく。

 

殻が厚すぎて身があるのか心配になるほどだがそんなことはなく身の方もたっぷりと詰まっている。さすが魔物と言ったところ。魔力で生命を維持できる分栄養が詰まっている。

 

身は思いのほか柔らかく噛みしめると繊維がほろほろとほぐれつつプツプツと切れて口いっぱいにカニのうまみと風味が広がっていく。

 

ポン酢とかが欲しくなるな。でも、塩だけでも十分うまい。

 

ブイヤベースのスープを飲んでみる。

 

ちゃんとカニから出汁が出ていて十分にうまい。塩気もちょうどいいな。バゲットと合わせるのにいい塩梅だ。身をほじりミソをすすっていく。

 

食べ進めていくがやはり一人では食べきれないな。一緒に食べる人間が欲しくなった。

 

残りは亜空間に入れて後日食べるとしよう。

 

翌朝、狼二体を梱包して解体場に持って行き、そのまま車に乗って王都に戻ってくる。

 

郵便受けを確認するが特に何もなかったのでリオンから手紙が来るまでは普通に過ごすことにした。

 

一度、鉄の体の進捗状況を確認しますかね…

 

余ったリソースで実行しているので進みは遅かったが骨格はなんとか完成していた。この骨格に金属繊維の筋肉を付けていく。

 

緻密に人体データを模して繊維を張っていくと、やはりリソースを食ってしまった。進みは遅い。

 

あとあと手直しをすることを考えると完成まで相当時間がかかりそうだ。

 

あと半年、いや、遅くとも四ヶ月以内には形にしておきたい。

 

そうなるとあまり狩りとかに出かけない方が進行が速くなるのか。でも、コアの性能が上がればその分速度を上げられる。何もしない方がかえって遅くなるか?

 

コアの性能が上がる条件が不明確な以上はなんとも言えないか。

 

悩ましい限りだ…

 

 

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