機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第92話 魔術談義④ x 講師レイン①

「まだ時間はあるね。今度は魔力の性質について話をしようか。レインは純粋魔力って言葉は聞いたことがあるかい? 」

「フラン先生の講義で聞いたことはあるな。純粋魔力とか無属性魔力とかいろいろ呼び方があると言う話だったな 」

「そうだね。ここでは呼び方はどうでも良くて魔力の方向性について話をしよう

 物体に通常含まれる魔力やただ魔力量を増やしただけだとそれは方向性の決まっていない魔力と言われる。魔力を込めて物質の結合を強めるとか反発させるとか力が作用する方向を持つとそれを方向性の定まった魔力と言う

 さらに言うと方向性の決まっていない魔力を静魔力と言う。方向性が与えられた魔力を動魔力と言う。その二つを合わせて純粋魔力と言うことが多い 」

 

やはり場合によって細かく言い方が分かれているようだ。分野ごとに表現が異なると言うことだろうか? ちょっとややこしい。

 

「静魔力は獣人とかが使う闘気術に関わっているとされていてその方向で研究されているね。あまり進んでいるとは言えないけど

 動魔力は生物の代謝とかに深く関わっているとされていて魔生物学の分野では注目されているね。これもあまり成果は(かんば)しくないけれど 」

 

そうなのか… 戦いの参考にはならないようだ。ちょっとした知識として知っているだけでいいだろう。

 

「自分から切り離された魔力についてはどういう風に考えられているんだ? 」

「いろいろな呼び方があるけど自己の魔力を形而下(けいじか)魔力、自分から離れた魔力を形而上(けいじじょう)魔力と呼んだりするのが学問的には主流かな?

 わかりにくければ自己魔力と分離魔力でもいい。完全に分離することは出来ないから間違いを含んだ表現になってしまうけど 」

 

形而下は形を持っていて認識できるもの、形而上は形を持たない観念的なものだ。形而下に形而上、、、哲学的な話になってきた。深いな、、、

 

深いって言っておけばわかっている雰囲気を醸し出すことが出来る。深いなっ。

 

しかし、そうなると妖精さんとして扱う方がより的確かもしれない。おっさん恐るべし。

 

「分離魔力は今レインが修得に励んでいる鉄魔術のように性質を与えることが出来る。いわゆる属性魔力というやつだね

 属性魔力はその物質を操ることができるけどそれ以外の事はできないし、属性魔力から純粋魔力に戻すことは出来ない 」

 

不可逆反応のようなものか。

 

「分離魔力を自己魔力に戻すこともできない。完全に分散する前だったら再び制御下に置くことも出来るけどその状況下での拡散速度によるね

 水中で一部の水を制御下におくとして、それが制御を離れたときは周辺の水に素早く魔力が拡散してしまう。それが気体の場合、拡散は比較的緩やかだ。固体の場合は水よりも拡散が速い。一般的に物質の密度が高いほど拡散は速いと言えるね

 固体に魔力を通して空中に放り投げたときの拡散速度は気体側に依存するようだから空中に鉄球を投げてそれを受け止めたとき、魔力は抜けきらずに再利用できるね。これは純魔力も同じような挙動をする 」

 

魔力は総じて波動のような性質があると。

 

「魔力の拡散についてもう少し話をすると物体が移動する速度に比例すると言われている。物体を速く動かす程、速く拡散していくと言うことだね

 ただし、自分の体に魔力を込めて速く走っても拡散していくことはない。自分と繋がっている場合は拡散は抑えられる。魔力線が通じていても拡散を抑えることができるね

 魔力が集合して魔石になるように魔力には拡散とは逆に集まる性質もあると言える 」

 

拡散もすれば集合もする。良くわからなくなってきたな。条件に()るって事だろうが調べるのは簡単ではなさそう。音響衝撃魔術とか良くわからんものもあるし。

 

「魔力線を伸ばす速度や距離を上げるための学術的な見解はあるのか? 」

 

「狩人としてはそこが気になるよね。でも残念ながら今の魔術学では本人の技量に依存するっていう見解しかないな

 保有魔力量が大きいほど速いっていう考えもあるけど技量の影響の方が大きいから満足な結果は得られていないね。濃度差が大きいほど拡散速度は大きくなるのは自然な考え方でもっともではあると思うけど…

 まあ、高い魔力圧を出せるように訓練するのが近道かな? 」

 

やはりそうか…

 

「それはどう訓練するのが一番効率がいいだろうか? 」

「魔力を通しにくい物体に無理矢理流してみるという方法はあるけど効果はまちまちらしいね。適性が無い物質に魔力を流そうとしても効果は薄いって研究もあるけどどうかな? 」

 

わからないことが多い…

 

「 等級の高い魔鉄なら流しにくいからいけるんじゃないかな。その腰の剣みたいに…

 質より量が重要だって人もいるね。等級は低くても大量の魔鉄を用意して一度に流してみるのも手だと思う。後は魔力崩壊を起こして見るのがいいって言う人もいる

 いろいろ試してみるのがいいと思うよ。個人差が大きい分野ではあるという気はするね 」

 

ふわふわした感じだがヒントにはなっているような気がする。リオンの言うとおりいろいろ試してみることにしよう。

 

「話が少し脱線したね。なんの話だったかな…そうだ、属性魔力の話だったね…

 分離魔力を性質変化させて属性魔力にすると魔力自体がそれぞれの系統の性質を帯びると言われている。細かいところはまだわかっていないけど性質によって有利不利なんかがあるんじゃないかって話もあるね

 石の性質の魔力なら水の性質の魔力に強いとかかな? あまり信憑性はないけど 」

「信憑性がないのに話すのはなぜなんだ? 何かしらの知見はあると言うことか? 」

「うん、そうだね。ちょっと実際にやってみようか 」

 

そういうとリオンは机の上からメモ用紙のような紙片を取り出すとこちらに近づいてくる。

 

「まだ鉄材を持っているよね? かしてもらっていいかな? 」

 

俺が鉄片を渡すと手に持った紙片と鉄片に魔力を流しそれぞれ属性変化をさせる。

 

紙の方が込めている魔力がずっと多いか…

 

それぞれの性質の魔力を交互に視るのは少々面倒ではある。

 

「それじゃあやるよ 」

 

リオンはそんなこちらにお構いなく鉄片を紙片で勢いよく叩く。

 

バシッと小気味のいい音が部屋に鳴る。

 

鉄片も紙片も破損した部分はないが魔力はどちらも同程度に減少している。

 

「こんな風にぶつけ合うと鉄魔力の方が紙魔力に対して消費量がわずかに少ないんだ。このことから鉄魔力は紙魔力に対して有利だと言えないかな? 」

 

う~ん…

 

「それはどうだろう。魔力格が同じでも鉄の方が紙より素材として優秀だからじゃないか? 」

「そうそう、そうだね。素材の性質が違いすぎるから単純に比べることは出来ない。紙と同じ強度の鉄なんて出来ないしそれ以外の条件もそろえないといけない。性質の優劣、相性なんて通常はわかるわけがない 」

 

そこで一旦、言葉を句切る。俺は続きを待って黙っているとすぐに続きを始める。

 

「でもね…魔術を使っている側としては素材の優劣や特性だけじゃない何かを感じはするんだよ。わからないって事だけで切り捨てられない何かをね。同時に複数の魔術を使いそれをぶつけ合わせる人なんて滅多にいないけどね 」

 

なるほどな。研究者の好奇心もあるが魔術の使い手としての自負もあるのかも知れない。自分の魔術感覚が何かを感じ取っている。そう言うことかも知れない。

 

「もう一つ見せておこうかな 」

 

再び両方に魔力を纏わせると今度は鉄片に向かって紙片を刃物のように横薙ぎに振り抜いた。

 

―キンッ

 

甲高い音が鳴ると共に鉄片はあっさりと切断され、切片が床に落ちて転がる。

 

それを拾って切断面を確認するときれいに切れていた。滑らかだ。バターでも切ったかのようだ。

 

「仮に性質の優劣があったとしても使い方によっては対抗できることがある。岩が川の流れを裂くこともあれば水滴が岩を削ることもある。研究するのもなかなか大変だよ。事態は複雑だ 」

 

まあ、確かに、考慮すべき点が多すぎるな。下手に魔術の固定化を進めると状況によっては効果が低減しそうだ。

 

リオンから残りの鉄片を受け取ると魔術でくっつける。

 

細部の結晶に至るまできっちりと接合する。きれいに切断されているから楽だな。何処(どこ)を切られたのかもうわからない。

 

「へぇ、もうそこまで使えるようになったんだ。明日からの授業も大丈夫そうだね」

「もちろんだ。あくまでフラン先生の補助を行うだけだけどな。まあ、結局のところ主役は生徒達ではある。やれることはそう多くはない 」

「そうだね、それでも助かるよ 」

「それじゃあ、また明日な 」

 

リオンの部屋を後にして自宅に戻る。

 

それにしてもやけにフラン先生の授業に入れ込んでるな。彼女のことが好きなんだろうか?

 

~~~~~~~~~~~~~

 

次の日、授業に出ると冒頭にフラン先生から皆に紹介がある。

 

「今日から皆さんの研鑽(けんさん)を見ていただくレイン先生です 」

 

俺は今、教壇側、フラン先生の横に立っている。皆の視線がこちらを向いている状態だ。おじけはしていないが居心地はよくない。

 

「お気づきの方もいると思いますが昨日までこの教室に生徒として参加されていましたが、この度驚異的な速さで修得されましたので先生役に回っていただくことになりました

 実績のある上級狩猟者でもあります。失礼のないようにお願いします。では、レイン先生からもどうぞ 」

 

…先生って。補助員のつもりでいたんだが先生と紹介されてしまった。教員免許とかは別にいいらしい。先生って言葉にそこまで特別な意味合いはないのか?

 

まあ、いい。こうなったら腹をくくるしかない。

 

「ご紹介に上がりました。レイン・シス・ゼフレルドです。皆さんが一刻も早く魔術の修得が出来るように最大限努めて参りますのでよろしくお願いします。狩猟者に良くない印象をお持ちの方もいらっしゃるかも知れませんが気軽に声をかけていただけたらと思います 」

 

ここまで丁寧に言えば少なくとも話の通じる人間だとは思ってくれるだろう。あとは実際の行動だな。

 

授業が始まると俺はフラン先生と同じように見回りながらアドバイスを行ったり実演してみせる。

 

流石に三日目ぐらいでは魔術を披露する事はないようだ。そんなに駆け回るような忙しさはないので隣に座っていた岩人の青年と話をしてみるか。

 

教室内を移動しつつ様子をうかがってみる。

 

どうやら魔力の分離がスムーズに行かないことで躓いているらしい。

 

岩人の中では進みは普通ぐらいか。遅くもないが速くもない、そんなところ。

 

俺の出番かな…

 

ちょっと考えていたことがあるのでちょうどいいから試してみよう。

 

近づいて声をかけてみる。

 

「どうやらなかなかうまくいっていないようだね 」

「レイン先生… 」

 

いきなり話しかけられて戸惑っている感じかな? それともフラン先生が良かったのだろうか…

 

それはそうだな…俺もだよ

 

「名前を覚えてくれていたんだね。君の名前も聞いていいかな? 」

 

相手は俺より年上かも知れないがまあいいだろう。こちらにそういう文化はあまりないみたいだし、今は教師の立場だ。

 

「バックスです 」

 

だいぶ緊張しているみたいだ。相手が上級狩猟者なら当然か。魔力の大きさはもちろんのこと、質が一般人のそれとは違う。

 

「君は狩人だったのかな? 」

「はい、そうですがわかるんですか? 」

「なんとなく魔力の感じでね 」

 

嘘だよ… 前に一度、君たちと戦ったことがあるからねぇ、にやり…

 

なんて言えない。

 

「上級狩猟者ともなればそこまで難しいことじゃない。それより見ていたが少し行き詰まっているようだね。それを持ったままこちらに向けてもらっていいかな? 」

「はっ、はいっ 」

 

まだちょっと堅いな、鉄だけに…

魔術を覚えて柔らかくなればいいんだが

 

 

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