差し出された鉄片を親指と人差し指でつまむとバックスに声をかける。
「ゆっくりと魔力を流してみてくれるか? 」
そう言われて指示通りに魔力を流し出すとこちらも魔力を流していく。ぶつかり合ったところでこちらの魔力を相手の魔力と絡ませる。
―闘気術、釣り流し
闘気術の応用で相手の魔力をこっちの魔力で引っ張って分離状態を強制的に作り出す。
普段と異なった感覚で分離を行う経験をすればより深い理解に繋がるはずだ。自分で思ってるよりゾーンは広いんだよ。
自分の意思を越えて魔力が独立していった。妖精さんの誕生だ。
バックスの表情を見ると少し呆気にとられたような感じだな。新感覚ってやつか。
「もう一回やってみようか 」
俺が声をかけると我に返ったようで慌てて返事をする。
「はっ、はい。お願いします 」
この後、何回か繰り返してみるとコツを掴んだようだ。だいぶスムーズに分離を繰り返せるようになっていた。
この方法は使えるな
バックスについてはもう一人でも大丈夫だろう。とりあえずこれ以上絡むのは止めて他の生徒の間を回り教えていく。
授業時間が終わるまで釣り流しを行っていった。
授業が終わるとフラン先生と今日の反省会のようなものでもしようかと声をかける。
「フラン先生。どうでしたかね? 仕事になっていたでしょうか? 」
「はいっ、問題ないどころか教えるのがお上手なんですね。なにかやってらしたんですか? ずいぶん慣れているように感じたのですが 」
「いえ、特には経験と言えるものはないんですが… 」
強いて上げるなら地球での学校生活だがそれは言えない。
「本当ですか? ずいぶんと慣れているご様子でしたが 」
「見よう見まねですよ。フラン先生の教え方が良かったからだと思います 」
ごまかさないとな… ヨイショしておこう、ヨイショッ!
「ふふふっ、そんなことないですよ 」
うれしそうな、照れたような表情で答えてくれる。
ヨイショ成功だ。これは決まったか?
「ところでレイン先生。分離を教えるときに独特の技術を使っていたようですがあれはどういったものでしょうか? 」
ん? ちょっと言いにくそうな感じで聞いてくる。
「ダメだったでしょうか? 」
学習指導要領に引っかかるとかあるんだろうか?
「いえいえっ! 全くそんなことはないです。参考までにうかがってみたいと思いまして。秘密にされている技術でしたら言わなくても大丈夫なんですが… 」
ああ、そう言うことか。
「秘密とかはないので遠慮なく聞いていただいて大丈夫です。あれは闘気術と呼ばれる技を独自に応用してみたものです。ご存じですか? 獣人達がよく使う技術だそうですが… 」
「闘気術!? スゴいですっ! そんなことまでおできになるんですね 」
ヨイショ返しだとっ! できるっ!
女性にキラキラした目でスゴいって言われると心の奥底がぞわぞわするな、平静でいられない…何故だっ⁉
男としての器が小さいからさ…
……そうだよな、こういうのを余裕で受け止められる人間になりたい。
「…でも、それでは私が修得するのは難しそうですね。教えるのが上手くなるいい機会だと思ったんですが…残念です… 」
図らずも落ち込ませてしまったようだ。どうするべきか?
俺が覚えられたのは一度食らってみたからだが、まさかフラン先生に食らわせるわけにも行かない。耐える準備がなければ手加減しても死ぬかも知れない。
釣り流しを覚えるぐらいならそこまでする必要はないか。体に直接やる方が効果的だと思うが変態的だな。確証もないし。
「フラン先生も体験してみますか? ひょっとしたら何かつかめるかも知れませんよ? 」
鉄片を先生の前に差し出して触るように促してみる。
「魔力を流してみてください 」
先生は躊躇なくつまむと魔力を流してくる。
俺はそれを魔力で掴むと釣り上げて分離させる。
「ふぁっ! 」
一瞬ビクッと体を震わせて手を離してしまう。苦手な感覚だったかな? 人によっては過剰な刺激を受けるのだろうか?
「ごめんなさい、こんなの初めてでびっくりしちゃって… 」
『こんなの初めて』…やめてくれ、その言葉は俺に効く。
「もう一度お願いします 」
フラン先生は真剣な顔で鉄片を触り再度の挑戦を試みる。その真剣な表情を見ると罪悪感に襲われる。
変なことを考えて済みません。真面目にやります
俺は心の中で謝罪をすると気を引き締めて魔力に集中する。
「では、いきますよ 」
今度はもっとソフトに釣り上げよう…優しくだ…
優しく優しく魔力を引き込んでいく。
「あぁんっ、んっ、くっっ… 」
俺は血流を制御した。
~~~~~~~~~~~~~~
いつもより遅い時間にリオンの部屋に訪れる。
「今日は少し遅い時間だね。何かあったのかな? 」
「フラン先生と授業について話し合っていたんだ 」
本当はいろいろあったが別にすべてを話す必要はない。面倒だから手短に話す。
「ちゃんと教えてくれているんだね。良かったよ 」
「約束だからな。きっちりとやるさ。
「約束って言うほどきっちりしたものだったかな? でもレインのそう言う律儀なところは好感が持てるよ。とても助かっている 」
「感謝してくれよ 」
そうとも、恩に着てくれ。それが俺の生命線になり得る。
「もちろん感謝しているよ。感謝の印にレインに有益になる話でもしよう。魔力の性質の話はしたから今度は魔術についての話にしようか 」
自分から申し出てくるのはこちらに気を使っての事だろう。単に妹の借金?云々の話ではないようだ。良い関係を築けている実感がわく。
「それなんだが魔力と物質の関係についての話がしたい。魔力を通しやすい物質ってあるのか? 」
「魔力物質学とか魔力材質学の話だね。結論から言うと金、銀、銅の順で最も魔力の通りがいいとされている 」
電気みたいな性質があるのか?
「昨日も言ったように固体の方が魔力の拡散速度は速い。ただ、それは制御を失った魔力についてだ。制御された魔力についても確かに固体の方が通る速度は若干速いそうだけどあまり違いはない 」
「制御された魔力はむしろ術者がもつ素養に依存して速度が決定されると言うことだな 」
「そうだね。この分野も術者の力量で変わってくるし複数の系統の魔術を同じ技量で扱える術者がいないから研究しにくい分野ではある。それでもさっき上げた金、銀、銅は魔力が通しやすいことで有名だね 」
「それに魔力を通したこのある人間なら誰もが通しやすいと実感すると言うことか」
「魔力線を通していくときの抵抗が少ないという感じかな。魔力の消耗が少なくて済むからいろいろな道具に利用されたりするね。そうそう、魔力抵抗値という数字で表そうって研究している人もいるね 」
ますます電気っぽくなってきた。決めつけるのは危険か?
「それぞれに魔力格の高い魔金とか魔銀とかはあるのか? 」
「魔金についてはあるとされているけど存在は確認されていないね。それに対して魔銀や魔銅はそれなりに確認されている。人工的に作り出すことも一応は可能だ 」
「作るのは難しいって事か 」
「そうだね。魔鉄と同じ方法をとるんだけど魔鉄よりも生成されにくい。存在する量もそこまで多くないから値段は相応に高くなるよ 」
「そうなのか… 」
亜空間でなら何とかなりそうだがどうだろうな? 今度試してみるか。
「こういうことを聞くのはその腰に差している剣、たしかカタナって言ったかな? それが関係しているのかい? 」
リオンが腰に付けてある刀を指して言う。
「そうだ。良くわかったな 」
「見たところすべて等級の高い魔鉄で作ってあるね。それだと威力の調整が難しいんじゃないかな? 」
「そこまでわかるのか。こいつに魔力を通すとき相当な圧力をかけないと通っていかなくてな…
それを押して魔力を纏わせたときかなりの威力を発揮してくれるし、魔力を纏わせなくても十分に優秀だ。しかし、素の状態だと上級の魔物には通じない
低速域からいきなり高速域に上昇する感じかな? 中速域がないんだよ。滑らかに変化していかない。それを考慮して振らないと攻撃のタイミングが一歩ズレてしまう 」
「魔鉄は等級が高いほど素材自体の魔力圧のせいで魔力が通しにくいからね。通すことが出来ればそれだけ強力になるけど使い手にそれに応じた技量が求められる。技量があっても使いにくいことには変わらないか 」
「そうなんだよ。なんとかしようと思っていてな 」
「そうだなぁ。芯材に銅を使うのは良くある事らしいけどそれだけ等級の高い魔鉄なら魔銅を使いたい所だね。お金が許すなら金を使うのもいいね
金だと重くなるけど身体強化が十分に出来るなら重くした方が威力も出るし攻撃を受け止めやすくなるとも聞くね 」
でもお高いんでしょう?
「魔銅と金ってどっちが高いんだ? 」
「金の方がずっと高いね。魔銅の方が希少性はあるけど使い道が限られるんだ。魔銅を使うなら普通の銅でいいって言う場合がほとんどだね
そこら辺は鍛冶をする工房で聞いた方がいいかもしれないね。その剣はどこで作ってもらったんだい? 」
「……それは秘密だ。ちょっと無理を言って作ってもらっているからな 」
亜空間工房の存在は秘密だ。知れば存在を消されかねない… 俺が
「魔銅は銅よりも魔力が通しにくかったりするのか? 」
さらなる追求が来る前に話を進めよう。
「それが不思議と魔銅と魔銀については魔力格が高くてもそうならないんだよ。魔金に関してもおそらくそう言う性質を持つだろうと推測されている。魔力の拡散能力が高い事と関係していると言われているね 」
自由電子とかが関係しているんだろうか? まあ、わかるものじゃないな。
「補助的にもう一つ武器を持つのもどうかな? もう少し等級の低い魔鉄で扱いやすいものを一つ作って使い分けるというのも一つの手段だと思う
いくつもの武器を使い分ける狩人もいるという話を聞いたことがあるけどレインはどう思う? 」
「そうだな。何種類か武器を持ってみるのもいいかもしれないな。これは斬ることに特化しているから刺突するのはやりにくかったりするしな 」
脇差しを作って二本差しにするのもいい。ちゃんとした侍になった気分にもなれるだろう。
鉄魔術の向上に目処が立ったなら開発していくか。
「もうすぐ昼時だな。そろそろおいとまするとしよう。為になる話が聞けて良かったよ。ありがとう。また明日な 」
「それなんだけど明日からちょっと用事があってしばらく留守にすることになるんだ。返ってくるのはレインが授業を終える後になるね 」
「そうか。ならしかたがないな。授業が終わったらそのまま帰ることにしようか 」
「すまないね 」
リオンはすまなそうな顔をしていうが俺の方は特に急いではいない。末長い関係でありたいね。
「別にかまわないさ。自分の仕事を優先してくれていい。無理に借りを返す必要はないよ 」
「フラニス教授の授業のこと頼んだよ 」
ずいぶん念を押すな。やっぱり好きなんじゃないか?
「わかっているよ。それじゃあまたな 」